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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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会話



「空間スキルでアイテムを収納している……とは、インベントリのことか?」


 保有アイテムの保管場所を聞くと、アスラが空間スキルについて説明してくれた。どうやら私には空間スキルがあるらしい。<ディメンジョン>というスキルで、空間に干渉することが可能……らしい。

 (女性の気持ちにすら干渉し得ないのに、なんと空間への干渉が可能になったとは……私も成長したな)

 説明を聞いてもまったく意味がわからないので、とりあえず尊大に頷きお茶を濁した。


「無知で申し訳ありません。一体”いんべんとり”とは、どういうものでしょうか?」


 聞きなれない言葉だったのかアスラが聞き返してきた。人種が違えば言葉も違うのだろう。(そういえば元の世界でも居たな……。まったく違う職業に転職した結果、専門用語の違いに悩む中途採用のおじさん)


「あぁ、そうか。――言い換えよう。『無限収納』と言えば分かるか?」


 お互いに聞き返しあうことで話は遅々として進まない。しかしアスラはまったく気にしていないようだ。寧ろ会話が増えることを楽しんでいるようにさえ見える。


「無限収納……そうですね。アイテムに言い換えれば魔法の袋(マジアコモ)です」


 アスラは可愛らしい微笑みで一つ頷き、解釈が正しいことを優しく伝えた。


「マジあこも?」


「少々イントネーションが違う気がしますが……。マジックアコモデーションバッグ、略してマジアコモですね」


「略し方が私の感性と多少違うが……。まぁ理解した」


 (朱に染まれば赤くなれ……だったか? 私が部外者なのだから、私がこの世界に合わせるしかないな)


 アスラから聞いたインベントリだが使用方法がわからない。だが、こういうのは大抵イメージで何とかなるだろう。

 とりあえず「インベントリオープン!」と叫んでみたが、当然の如く何も起こらない。嘲笑が起こらなかったのは唯一の心の救いだろう。

 詠唱ではなく想像なのだろうか? 今度は目を瞑り虚空に向かって開いた右手を突き出してみる。何かを掴むイメージで手を閉じてみると次の瞬間、柔らかい何かの感触が手に残った。


「あ……ん」


 (何か聞こえた気がするが……今はそれどころではない!)

 掴んだイメージを忘れぬよう、目を瞑ったまま何度も手を動かす。掴んだ何かは空間に固定されているのか、簡単には取り出せない。多少強引に引き寄せると、微かな「ハァハァ」という熱い呼吸音と、「フンフン」という荒い鼻息が聞こえてきた。(……とりあえず、軽く殴っておこう)




「ち、違うんです!」


 眦に涙を湛え両手で額を押さえるアスラが、必死に言い訳をする。


「何が違うんだ?」


 現行犯で捕まえた犯人が先ず言い訳を始めたが、そこは我慢して事情を聞くことにする。言い訳の多い子は先生嫌いです。


「そ……それは、そう! 引力です」


 何を閃いたのか大体わかった気がするが、言い訳のレベルが非常に低くて残念だ。

 だが惜しい、もう少しだ。もう少し頑張れば人に近づけるくらいのゴリラ脳だろう。彼女の今後の努力に期待したいと思う。


「はぁ……。で? 引力とは?」


「ルシファー様の神々しいお体からは、私達下僕を引き寄せる強いお力が出ているのです!」


 (へぇー)


「そしてルシファー様の御前で従順な子羊である私は、その偉大なお力に逆らうことが出来ないのです!」


 (ふぅーん)


「ですから、これは不可抗力なのです! そう、すべてはルシファー様の所為なのです! おわかり頂けましたか?」


 (よし!)


「なるほど。アスラ、お前の言いたいことは十分にわかった」


 その一言に安堵したアスラを生暖かい目で見つめると、溜息とともに最後の審判を下す。


「目を瞑って歯を食いしばれ。話はそれからだ」


 ルシファーは中指を親指の腹にセットし、親指の先をアスラへ向ける。


「ヒッ!」


 直後、本日二度目の激痛がアスラのおでこを直撃した。




「よし!!」


 何度目かの挑戦でインベントリからローブを取り出すことに、無事(・・)成功した。柔らかい感触の正体と下らない犯人の行動から会心の精神的ダメージを受けたが、今は一応”無事”と言っておく。

 犯人は未だ眦に涙を湛え両手で額を押さえているが、躾はとても大事なのだ。ルシファーはそう割り切る。

 インベントリは脳裏で収納空間を選択し、イメージでアイテムを取り出す仕様のようだ。このイメージの作り方が少々面倒なのだが。


 取り出した真っ白なローブを羽織り人心地つく。凌辱的な継続ダメージから解放され安堵感が押し寄せるが、先ずは忘れないうちに聞いておこう。


「言い忘れたが、ここに運んでくれたのはアスラか?」


「はい……勝手な判断をして申し訳ありません。先ずは傷ついたお体を回復して頂こうと、北へ向かう準備しておりました」


 叱られると思ったのか、アスラは俯き謝罪を口にする。(このルシファーは非常に怒りっぽい性格だったのか? それとも『絶対者』という存在だったのだろうか? それとも……デコピンのせいか?)

 考えても仕方ないと思考を放棄しアスラを見ながら、まだ緊張を漂わせる彼女に、諭すように優しく言葉をかけた。


「いや、ありがとう。助かった」


 慣れない笑顔にぎこちなさを滲ませつつ、優しくアスラを抱擁する。


 (それにしてもコイツでかいな。私より十cmは高いんじゃないか? 百九十cmくらいか?)


 そんな失礼な目で見られているとは知らないアスラだが、取った行動が肯定されたことに、そして優しく抱擁されたことに、目の滲みと頬の紅潮で感激を表している。


 (今なら多少のセクハラも許容するつもりだったが……。しおらしい時は何もしないのだな)


「ところで、ここはどこだ? 確か北へ向かうと言っていたな?」


「はい北へ向かおうと考えております。この場所は、先ほど出来たクレーターの外縁部、その中心から見て真北の位置です」


「アスラ、お前……百km以上ある距離を、私を抱えて移動したのか!?」


「ひゃくきろ……ですか? ”きろ”が何か存じませんが、正確な距離は百里です。ルシファー様に目を奪われながらの移動でしたので多少時間は掛かりましたが……移動に費やした時間は一日ほどです」


 アスラは更に頬を染め、照れ隠しのように深く俯く。どう見ても挙動不審であり、不審者そのものである。訝し気にアスラを見つめるルシファーだったが、遅まきながらもその理由に気付いた。


 (裸体か? 私の裸体だな! ……いやん。――それにしても”里”か。もし元の世界と同じなら一里が四km……四百km!?)


 ルシファーは驚愕と消えない羞恥心に蓋をして北を目指すことにする。何れにせよ何も無いこの巨大クレーターから離れ、何処か落ち着ける場所へ辿り着く必要があるのだから。






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