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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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邂逅



「!! ……お気付きですか?」


 目の前にとてつもない美人がいる。

 (……え? なん……で?)

 そう美人だ。美人なのだが……そのニヤけた顔に涎が滴っているのは何故だかわからない。


 まだハッキリしない頭で目の前の女性を観察する。先ずは敵か味方か見極めなければならないのだ。

 彼女の流麗な瞳は鮮やかな翡翠色に輝き、側頭に垂れる髪が女性的な魅力をより一層増している。

(夜会巻き……だったか?)

 うなじが見える暗い茶色の髪型は、何故か夜の帳を感じさせた。


「まだダメージが残っているのですね。でもご安心下さい。私が傍におります」


 何も言葉を返さないことに不安を覚えたのか、目の前の美人が一人で勝手に納得しつつ、傍仕えを勝手に宣誓する。

 確かにその微笑みは安心感を与えるが、滴る涎が不安感を底上げしているのは気のせいだろうか?


「君は……誰?」


 状況が飲み込めず、思わず率直に聞いてしまった。問われた女性は目を見開き、その驚愕ぶりを全顔で表している。


「……え? 私です! あなた様のアスラです!」


 (……は? 誰様が誰のアスラ?)


「そ、そうか……。うむ、まぁ、私のアスラなのだな。ところで一つ、いや……二つか。聞いても良いか?」


 想像の遥か斜め上をいく女性の答えに、調子と口調が崩れてしまった。相手が部下のように接してくれば、尊大な口調になってしまうのも仕方ないだろう。


「は! 何なりとお尋ねください」


 今度は満面の笑みで返すアスラ。何が彼女の琴線に触れたのだろう……。辛うじて聞こえる程度の小声で「私のアスラ、私のアスラ……」と呟いているが、頭は大丈夫なのだろうか? とえあえずスルーしておこう。

 なんか――疲れる。


「何故、私はお前に抱っこされている?」


 私は幼児プレイに全く興味はないはずだ。だがしかし、今まさに座った女性から横抱きにされている。顔から火が吹き出るほどの羞恥心に耐え兼ね、すかさずもう一つの質問を重ねる。


「そして……何故お前は裸なんだ?」


 そう、裸の私が裸のアスラに、その豊満な胸で抱っこされているのだ。安心感が一気に霧散すると同時に、不安しか感じさせないのは気のせいだろうか?


「抱っこは土に付けることなく清潔さを保つため。裸なのはルシファー様のお体を温めるためにございます! 決して私の趣味趣向でルシファー様のお体をただ、ただ眺めていただけなんてことはありません!そうすべては大切な御身を包んで差し上げるためにございます!!」


「あ……ハイ。――ん?」


 キリッとドヤ顔したアスラの答えにドン引きしつつも、聞き捨てならない一言を思い出し言葉にする。


「るしふぁ……あ?」


「はい。私の、いえ、私たちの主。至高の御身で在らせられる、あなた様の尊きお名前です」




 彼女の言葉を素直に飲み込めない。何故、知らない名前で呼ばれているのだろう。

 (――俺は、誰かと体が入れ替わったのか?)

 もちろん俺はルシファーという名前ではないし、目の前の女性に心当たりなどまったく無い。しかし彼女は俺のことをルシファーだと確信し断言している。相当に危ない人なのだろうか? だとするなら適切な距離感での浅いお付き合いを所望したいのだが……。


 あり得ない状況に困惑を隠しきれない。でも、そうとしか考えられないのだ。もし自分と彼女が逆の立場であれば、相手がふざけているのだと自分は思うだろう。心が入れ替わるなど、通常は有り得ないのだから。

 であれば尚更、その入れ替わった《ルシファー》の心は一体どこへいったのか?

 俺の体は数万度の熱で、一瞬にして消滅したはずだ。だから、もう二度と元の体に、元の世界に戻ることはない。何故なら心の帰るべき場所がもう何処にも無いのだから。






 とりあえず入れ替わりのことは念頭から除外しつつ、幼児プレイの恥辱的な拘束から逃れた。このままだと心のモヤモヤが体のムラムラに昇格しそうで怖い。


 (ルシファー……か)

 真っ裸のまま腕組しつつ、その思いっきり心当たりのある名前を反芻する。


「アスラ。ルシファーとは熾天使のことか? それともサタンか?」


 既に紅いチャイナドレスを纏い、両手を下腹部の前で交差し静かに佇むアスラへ目を移す。

(こう普通にしている分にはとても魅力的なんだが……)


「誠に申し訳ございません。仰ることがわかりかねます……」


 申し訳なさそうに俯くアスラに質問の仕方が悪かったと罪悪感を覚えつつも、まだ続くだろう彼女の言葉を待つ。


「しかしながら、ルシファー様はルシファー様です。それ以外の何者でもございません」


 晴れやかな顔で言い切るアスラに「そうか」と頷きで返し、これ以上の質問を控えることにした。

 もし逆の立場なら自分も返答に困るに違いない。アスラから「アスラとは何?」と聞かれても、自分だって答えることなど出来ないのだから。


「ところで何か着るものはないか? 流石にこのままではちょっと……アレだな」


 話題を変えようと思い立ち、ふと大事なことを思い出す。生まれたままの姿を晒し続けることは公序良俗に反するのだ。

 質問の意味はわかっているはずだが何が腑に落ちないのか、アスラはその美しい顔に困惑の色を浮かべる。そして適正解を導き出すように小首を傾げ、少しの間を置いてから答えた。


「ルシファー様、もしかして……ご記憶がないのでしょうか? 私の名前だけならまだしも、ご自身のお名前、ご自身が保有されているアイテムもお忘れとは……」


 同情にも似た視線から逸れるように、細めた目で中空を見つつ何と返せば良いか考えるが、まったくもって何も思い浮かばない。


「先ほどルシファー様に倒された勇者が、もしや呪いのようなものでも掛けたのでしょうか……?」


 俺の記憶が一向に戻らないことに不安が募ったのか、アスラが小声で呟く。


 (……ん? 勇者を倒した? 誰が? ――俺が!?)


 衝撃的事実に直面し、持っていた剣を落としてしまう。――死の淵から転生還した先が魔王風悪役的何かの体なのだろうか?

 アスラが落ちた剣を拾いあげ、笑顔と共に差し出す。差し出された剣を受け取るも、頭が真っ白でアスラの笑顔を上手く受け取れない。

 機転の利ない馬鹿正直者は女性にモテないというが、正にこういうところが当て嵌まるのだろう。


 今までのモテなかった半生を顧みつつ、これまで改善に向けた努力を何らしてこなかった人生を省みる。

 (はぁ……正直に話すしかないか)

 なけなしの覚悟を決め目線を合わせるが、そこからの一歩が踏み出せない。


 もう一度気持ちを落ち着かせるように周りを見渡す。

 正面にはなだらかに下がる丘陵。後ろには不自然に盛り上がった小高い山が、巨大な弧を描いている。

 (ホント、ここは何処なんだろう?)

 もし彼女に別人だとバレれば、この何もない山の中に放置されるかもしれない。こんな何も無いところに放置されても困るし、嘘で怒らせるのはもっと怖い。

 隠しきれない諦め顔をもう一度彼女に向け、記憶がないことだけ明かすことにした。もちろん勇者を倒した(らしい)人物とは別人なのを伏せた上で……だ。






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