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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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拷問

残酷な描写が苦手な方はスルーして下さい。

読まなくても特に支障はありません。



 国外れにある名も無い寒村の、永遠に主人を失ってしまった民家の一室で、一人の妖艶な美女と一人の若き老女が足元に寝転がる汚物を見下ろしていた。


「さて、何処から始めよっか?」


「先ずは手足を固定して、腹に開いた穴を塞がれては如何ですかな?」


「う、うぅ……」


 だらしなく寝転がっていた男が、呻き声とともに意識を取り戻す。

 しかし男の意識は戻って来たばかりであり、何故自分が此処に居るのか、そして何故自身の腹に斧が刺さっているのか、彼は全く理解が出来ない。

 そんな男を他所に彼を見下していた女性達は、手近な椅子を叩き壊して剥き出しとなった脚を抜き取り始めた。


「な……なんで?」


「あ、意識が戻ったんだ。良かったじゃん」


 意識の喪失と前後の不覚により一言も語らなかった男が、素朴な疑問を独り言のように口にする。

 そんな彼へと振り返りながら優しく微笑むのは、脚を抜き取って満足気な表情を浮かべる美女。

 その絶対的な美貌は、確かに何処かで見たはず。彼はそう明確に回顧する。だが靄に包まれたままの彼の頭脳は、その問いに直ぐには答えてはくれなかった。


「ちょっと大人しくしててねー」


 女の甘く優しい声が、まだ意識がハッキリしない彼の耳を優しく撫でる。

 男の意識が朧げな理由。それはほんの少し前まで状態異常に陥っていた為であり、未だ一時的な自我喪失が彼を襲っている所為だ。だが、先ほどの死亡で彼のデバフは既に解除されている。

 そんな混乱を必死に整理しようとする男を余所に、この美しくも妖艶な世界屈指の笑みを湛えた美女は、優しい微笑みを貼り付けたまま男の二の腕を自慢のヒールで強く踏み付けた。


 その直後、男の腕から脳へと激痛が走る。

 だが男は腕に走る激痛を気にすることなく、丸見えとなった美女の下着を凝視している。

 俄かに興奮を覚える男の視界に映るのは、儚く脆い泡沫の夢。この後に待っている男の行く末は、彼の甘く切ない未来予想を大きく裏切ることになる。


「フンッ!」


 "ドン!"という衝突音と共に、男の右腕は椅子の一部だった物で床に打ち付けられた。

 自分の身体に確かな衝撃を感じながらも、未だに何が起きたのか把握し得ない男は、美女の下着から恐る恐る自身の右腕へと視線を移した。

 そして、自分の身に何が起きたのかを理解してしまう。


「ガァ!!」


 思考したくないことを理解する、見たくない光景を視認する。そんな到底受け入れられない状況を直視した男は、今の率直な想いを苦痛という名の叫びでしか表現できなかった。


「これくらいで何? あんた男でしょ?」


 ドン!


「ガァ!! ア、ァ……」


 小馬鹿にするように男を見下した美女が、息つく暇さえ与えずに彼の左腕の付け根を床に打ち付ける。

 もう彼の指令に応じることのない両腕は椅子の脚で、既に消化機能が失われた腹は斧によって固定され、彼の身動きは理想的な三点止めにより封じられていた。

 そもそも腹に大きな穴を開けられたまま元気に動き回れるものなど、下等な人間の中になど居る筈もないのだが。


「ラウフェイ、止血するから直ぐに足を固定して」


 美女に目を奪われていた男は気付けなかったが、彼女の右側、つまり彼の足の方には二本の棒を手にした老女が無言で待機していたようだ。

 その老女は無言のまま徐に歩きだすと、男のだらしない両腿を足で払いのける。

 そして老女は感情を読み取らせない厳しい眼差しのまま両腕を大きく振り上げると、大の字になった男の腿を、何の躊躇も見せずに両手に持った木の棒で突き刺した。


「ア゛アァ!! い、痛い! 痛いぃ!!」


「お、やっと痛覚が戻ったね! それじゃ、斧を抜いて癒しますねー」


 床に縫い付けられた斧の柄を掴むと、美女は厭らしい笑みを浮かべながら箸でも持ち上げるかのように軽々と引き抜く。

 斧が抜けたことで男のピンクの内臓は露わとなるが、その異様を見ても彼女の美貌は一切の陰りを見せない。そもそも興味がない、或いは既に見慣れている、まるでそんな雰囲気だった。


「――<治癒(ヒール)>」


 続けて詠唱された美女の回復魔法により、男の腹の傷は瞬く間に塞がり、続いて両腕、両足の傷も椅子の脚を取り込んだまま塞がり始める。

 あまりに酷い傷が一瞬で治ったことで彼は一瞬だけ安堵の表情を浮かべるが、その安らかな表情が長く続くことは無かった。

 異物を取り込んだままの治癒。それは剥き出しの神経に、想像を絶する負担を掛け続けることなのだ。


「ガア! アァ……」


「情けないわねー。漏らして気絶しちゃったよ、コイツ」


「水を持って来た方が良さそうじゃの」


 全ての神経が一瞬にして再接続されたことで、男をこの世のものとは思えない激痛が襲う。

 そんな地獄に落とされた男は、一瞬にして再び意識を手放す。

 意識を手放すことが幸運なのか、意識を回復するのが義務なのかは判らない。だが彼の意識は、炊事場から戻ったラウフェイによって強制的に戻される。


 バシャ!


「ラウフェイ、元の姿に戻って良いよ」


「そうですな……その方が効果的じゃろう」


 衣服を全て脱ぎ去り老女が裸になると、次第に全身が淡い光に包まれだす。そして暫くすると、美女の眼前には伝説の魔獣と謳われるフェンリルが現れる。

 服を着たまま元の姿に戻ると服が破ける、それが彼女の服を脱ぐ理由なのだが、それにしても何とも幻想さに欠ける現実的な変身手順だ。

 そんな魔獣を横目に、美女は何の躊躇いも見せずに男の顔を蹴り上げる。


「う、うぅ……」


「気が付いた? じゃあラウフェイ、その汚い服を破いちゃって」


 老女だったものが、その鋭い爪を男に突き立てた。

 そしてどういう原理かはわからないが、男の着ていた服は一瞬にして無数の布切れに変わっている。


「う、うわあぁあぁぁ!!」


 突然の魔獣の出現に、全裸の男が目を見開いて絶叫する。

 そして彼は長い悲鳴の後でまたもや意識を手放した。


「うわ! コイツ、大きいのまで漏らしてるよ! 臭ーい、最悪!」


「板ごと踏み抜かれるのが良いじゃろう」


「そっか! ラウフェイ、冴えてるー」


 魔獣の提案を頷いて受け入れた美女が、糞に塗れた男の下腹部をその下にある板ごと踏み抜いた。

 衝撃とともに床と汚物と男の一部だったものが床下へと落下する。

 その直上では、有り得ない形状に抉れた男の股下がその惨めな姿を晒していた。


「よし! 奇麗になった。 ――<治癒(ヒール)>」


 男の無残な姿に満足した美女は、彼が死なぬよう、彼の下腹部を素早く治癒する。

 そして美女は、まだ半分残っている桶の水でヒールに付着した汚れを取り除くと、汚水となった桶の水を男の顔面にぶちまけた。


「ラウフェイ、おかわり。あ、気が付いた?」


「う、うぅ……」


 激痛に歪む男の顔に美女がほくそ笑む。

 今はその表情でなければならない。その表情が消えてしまっては、主君の(めい)を違えることになるからだ。


「良い表情ね。じゃあ、お姉さんが良いことをしてあげる」


 魅惑的な笑みを浮かべた美女が、大の字となった男の下腹部をヒールで優しく踏み付ける。


「あんたさぁ……結局何がしたかったの?」


 だが男は何も答えない。いや、答えられない。彼女からの接触も、彼女の問いも、激痛に呻く彼には一切届かないからだ。

 だから美女は彼の魂へ届くようにと、乗せた足に更なる力を込めて怒りを表す。


「ウッ、ガアァ!」


「人間如きが? あたしを!?」


 激痛に呻く男に、美女の声は届かない。


「や、止め……止めて! 助けて!!」


「止めて欲しいの? どうしようかなー?」


 迷う素振りを見せる美女。だがその言葉とは裏腹に、美女のヒールは男の下腹部に風穴を開けていた。


「ヒダイ! イ゛ダイ゛ィーー!!」


 男は首から先、肘から先、膝から先を力任せに振り回そうとするが、神経と腱が切断され根本を固定された四肢は彼の言うことを聞かない。

 そして想像を絶する激痛に襲われ男は、白目を剥きながら口から泡を吹いて三度(みたび)意識を手放した。


「アハハ! ラウフェイ、見て。何コレ? 笑えるー」


 ギャハハと笑い出した美女が腹を抱えて爆笑する。

 ラウフェイには何がそんなに可笑しいのかわからない。だが男の無残な姿は、彼女の笑いのツボに嵌ってしまったようだ。

 ひとしきり笑って満足した美女は、再三の治癒魔法を男に施した後、魔獣が咥えてきた桶の水で、再び男の覚醒を強要する。


「おはよー。じゃあ続けるねー」


「た、助け……お願い、たしゅけて!!」


 涙と涎に塗れた男が、汚い顔で激痛からの解放を懇願する。


「だめー。じゃ今度は後ろかな?」


「おね、お願いします……」


 嗚咽混じりの男の泣き声を無視して、美女が男の股の間に陣取る。男の全身は過度な緊張により一瞬にして強張るが、治癒により全回復された彼の全身は未だに弛緩を許さない。

 笑顔で男の尻を蹴り上げた美女は、その中心へと向かって小さな風の刃を発現させる。

 風の刃により噴火口を連想させる〇〇が切り取られると、男の直腸が腹圧によって彼の股から一気に押し出された。


「今、飛び出した腸を踏んでるんだけど痛い?」


「ひぎぃ!!」


「その痛さって別のところから来てない? それって関連痛っていうんだって」


 腸を踏み潰した美女が、満面の笑みで講釈を垂れる。だが男の耳にはそんな情報など一切入らない。聞いてる心の余裕がまったくないのだ。


「じゃあ、お姉さんが全部出してあげよう!」


「もう……」


 大の大人が子供のように泣きじゃくっているのに、美女の表情には一切の悲哀も憐憫も現れない。それどころか喜悦にさえ歪んでいる。

 男の懇願を無視して「いぇーい!」と叫んだ美女は、はみ出した内臓を豪快に引っ張り出した。

 そして存外長かった腸は、美女の懸命の作業により体内から全て排出されている。


「ラウフェイ、その凹んだお腹を開けてみて」


 美女に促された魔獣が、男の窪んだ腹に爪を立てる。

 魔獣の繊細な手捌きにより曝け出された男の腹部には、只々虚無の空間が広がっていた。


「アァ……」


「――<治癒(ヒール)>」


 美女の詠唱により男の腹部は閉じたが、窪んだお腹とはみ出した腸はそのままだ。

 例え体外に排出されていても、まだ体の一部であると脳が認識しているのだろう。伸びきった腸は消えることなく、長い長い尻尾のように男の体から生えている。


「し、尻尾! 長ーい! アハハッ」


 淑女の片鱗を微塵も感じさせない下品な形相で、男から伸びる尻尾を指差しながら美女は腹を抱えて笑った。

 魔獣が男を見つめる目は厳しいままだが、その口の端は吊り上がって喜悦を感じさせている。


「ねぇ、これって痛いの? 痛いの?」


 風の刃を発動させた美女が、飛び出した男の長い尻尾を寸刻みで切断し始めた。


「……アッ、……ア」


「なんか反応がいまいちね。痛みが足りないのかな?」


 そう呟いた美女が、眼下で大の字に寝転がる男の膝と肘を、脚線美が艶めかしい足で四つとも踏み砕く。


「……」


「なんか、もう元気がないね」


「もう気力が残ってないんじゃろう」


「心が壊れた可能性は?」


「斬り飛ばして確かめてみようかのぉ。<風の刃(ウィンドカッター)>」


 魔獣の詠唱した風の刃が、だらしなく伸びた長い尻尾を根本から斬り飛ばした。

 だが残虐の象徴と人間の尊厳を斬り飛ばされた男からは、激痛による呻きも助命への懇願も返って来ない。

 男は今まで培ってきた人格も、それを役立てるはずの未来さえも、既に手の届かない遠くへと手放したのだろう。


「根性がないなー。ハァ、もう終わりで良い?」


「そうですな。では最後に――<風の刃(ウィンドカッター)>」


 魔獣の再詠唱した風の刃が、既に知的生物としての自我を失った男の手足を根本から斬り飛ばした。

 その姿は首以外に胴体から何も生えていない、世に言うダルマの状態である。


「じゃあ、コレを村の入口に晒して来て」


「お任せ下され」


 魔獣が元の老女の姿に戻り身支度を整える。

 老女は男だったものの髪を掴んで引き摺ると、家の外へ向かって歩き出した。


「さて、後片付けか……まぁ、斬り刻めば良いか」


 美女は少しだけ思案に暮れるが、直ぐに諦めて右手を持ち上げた。

 彼女は深く考えるのが不得意なのだろう。直ぐに思考を停止させると、傍らに転がる白髪の老人だったものに向けて魔法を詠唱する。


「<旋風嵐(ウィンドストーム)>」


 美女の手の平から放たれた旋風嵐が球形に螺旋を描くと、老人だったものを万遍無く包み込みその全てを塵へと変えていく。


「よし! 後はラウフェイと手分けして、さっさと片付けよう!」


 鼻歌混じりで無人の家を後にする美女が老女を追って玄関を潜ると、外へ出て直ぐに左手の丘の上を何気なく見上げた。

 その丘の上では、叡智溢れる玉顔の前で白磁の両手を合わせた主君が、ビーフブラッドに輝く瞳を瞼で隠しながら神妙な面持ちで静かに佇む光景があった。


 その崇高なお姿に、鼻歌を止めた美女は一心不乱で見惚れる。

 しかし敬愛して止まない主君が何をやっているのか、美女には全くわからない。

 だが美女にとって大事なのは、主君の行動の意味ではない。主君のお姿を眺めること、ただそれだけが何よりも重要だった。






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