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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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プロローグ-3



 眼が眩み、脳が震え、四肢が千切れ飛んだと錯覚するほどの超大爆発。爆発により生じた煙が晴れると、その中空には唯一生き残った男が佇んでいた。

 無残な姿となった端正な顔と漆黒の衣装が、爆発が壮絶であったこと、彼が辛うじて生き残れたことを伺わせる。

 しかし男の笑みは……より一層、時間とともにその邪悪さを増し続けた。


「フフ……。 アハハ……アハハハハハハハハハハ!!」


 全てが男の狙い通りだった。

 勇者が大魔法 或いは 神器による何らかの攻撃を行使するだろうと予測はしていたが、まさか自爆を選ぶとは想定すら出来なかった。だが自分は生き残り、女は死んだ。結果だけを見れば最良の状況なのだ。

 全ての配下を居城に残して来たのは正に正解であり、もし配下を連れて来ていたならば、今の攻撃で大半が斃されていただろう。耐えられるとすればイリア・ガラシャ、彼一人だけか。

 男にとって配下などただの肉壁だ。だがその考えは無駄な浪費を肯定するものではない。適切な盤面で有効活用してこその配下なのだから。


 但し保険は必要である。万一を考えアスラ(譲渡)、レストエス(大治癒)、バディス(デバフ解除)だけを近くに配置し、イリア・ガラシャには居城で心臓を守らせている。だがそれら全ては杞憂に終わったようだ。

 

「さて、神を屠れる武器とはどんなものか……楽しみだ」


 男には野望があった。

 魔族の長として君臨する男は”魔王”と呼ばれてはいるが、この世界の頂点に立つ存在ではない。

 男の野望、それは”魔神”になること。魔神とは、魔王の上に君臨する魔の絶対的存在だ。

 しかし魔王では魔神の座を奪うことは出来ない。何故なら、例え男の命令であっても魔族が魔神に弓を引くことは絶対(・・)にないからだ。


「先ずは蘇生だな……」


 魔神の座を奪うには、魔神を殺しうる武器が必要だった。

 男は太陽神、ラーの言っていたことを思い出し心の中で反芻する。


『異世界には、太陽を人工的に作った世界がある』


 そして作ったのは人族だそうだ。

 たとえ魔神と言えども、太陽に投げ込まれればその身は消滅する。男は人類が持つその凶悪な危険性を魔神に対して必死に伝えたが、結局最後まで彼の主張が聞き入れられることは無かった。

 男が主張する”人類滅亡による安寧の創造”を、確たる理由もないまま却下し続ける魔神。男は魔神の理解力の低さ、危機感の薄さに辟易し、遂には自分が魔神になることを計画する。


 しかし魔王では魔神の座を奪えない。なぜなら魔王が持つ力だけでは魔神に致命的なダメージを与えることができないのだ。


 そこで男は考えた。魔神を屠れる武器の知識を、異世界者から得れば良いのだと。

 武器だけを得るのが一番簡単で手っ取り早いのだが、未知の武器を使い熟せる自信が男にはない。また原理を知らなければ活用することなど到底不可能だ。

 だからこそ、異世界の知識を持つ者が必要だったのだ。


 そしてそれは男が持つ神器、闇の神器であるルキフェルの璧、魔の神器であるゾロアストの理があれば実現可能だった。


 男は魔神アンラ・マンユの言っていたことを思い出す。


『異世界の人間を本体ごと召喚するのは不可能だ。但し、魂だけであればその限りではない』


 ここからは男の推測になるが、異世界から人間を召喚すると、おそらく次元の狭間で肉体 或いは 精神が耐え切れずに崩壊するのだろう。

 であれば、こちらの世界で器を用意し、魂だけ召喚すれば良いのだ。


 偉大な英知を収めるには世界最高の、それも同族である人間の器を用意する必要があった。吸収力に優れた知性に、頑強な病魔耐性は勿論、長い研究に耐えうる若さも必須だ。

 そしてその適合者こそ男が先ほど斃した勇者、ケルビムであったのだ。

 彼女は釣り目がちの碧眼に金髪のロングヘアーを揺らす、見るもの全てが見惚れるほどの美しい顔立ちをしていたが、その肌は病的なまでに透き通った白色だった。


 彼女は物心つく前に何処からか連れてこられた、クライネスランドに存在する唯一の人間だった。

 連れてきたのはこの男。彼が何を思って連れて来たか誰にもわからないが、その結果クライネスランドには総勢五百名のメイド隊が生まれた。

 その後も男は暇を潰すように少女を育て続ける。一般教養を与え、剣技を叩き込み、魔法を教え、そして……彼女は人間としては類を見ない突出した才能を開花させる。


 男は神器、ルキフェルの璧に意識を向けた。


永久(とこしえ)の闇に眠りし偉大なるヒエロニムスよ 汝に求める我が親愛にして愚劣なる下僕に 永遠の生命(けんり)忠誠(ぎむ)を与えんことを――<従属蘇生(リバイブ)>!」


 全ての配下を居城に残して来たのは本当に正解だった。

 傍でこの勇者の蘇生を見たならば、彼らが疑問に思うのは必至。理由如何によっては蘇生を邪魔する可能性もあったはず。


 彼女の美しさが絶頂に達した時、彼女は何も告げずクライネスランドから姿を消した。何れそうなるであろうことを察していた男は、周囲の者に探さぬよう厳命した。

 ――運命は必ず二人を引き寄せる。

 そう男は確信していた。彼が持たぬアイテムや知識、或いは”敵意”を持って必ず自分の前に現れることを信じて疑わなかった。

 そして彼女は現れた。男が最も必要としていた時に必要な敵意を持ち、男に対して一片の情すら持ち合わせぬ勇者となって立ち塞がった。


 詠唱の終わりと共に、男の両手が光り始める。輝きは次第に強くなり、光が目の眩む量に達すると、可憐な少女が一糸纏わぬ姿で男の両手に顕現した。さきほど男が斃したケルビムだ。

 彼女は仮死状態で静かに瞳を閉じる。辛うじて生きている、正にそんな状態である。


「次は召喚か……」


 男が次の行動に移るべく一人呟く。

 彼女は男が持つ闇の神器、ルキフェルの璧で蘇生された。それは男を絶対に裏切らない下僕(にんぎょう)の創造を意味している。

 引き続き男は異世界の魂を召喚するべく行動に移す。

 だがおそらく”神を屠れる武器”の知識を持つ魂の召喚は、直ぐには成功しないだろう。

 だから男は考えている。知識を持つ魂が現れるまで、何度でも召喚と滅殺を繰り返せば良いのだと。


 武器さえ手中にすれば魔神を斃せる。そして自分が魔神となった暁には、四大神、太陽神を弑し、そして絶対神にさえ……。


 男は神器、ゾロアストの理を掲げた。


 召喚すべきものの空間座標は、既にバアル・ゼブルに調べさせてある。

 当初、情報漏洩を危惧し彼一人での調査を命じたが、優秀な彼にでさえ雲を掴むような話であり、状況はまったく好転しなかった。

 仕方なくアスタロトにも漠然とした内容を伝え、配下と共にバアル・ゼブルへ協力するよう命じたのだが、遂にその結果が出たのは……つい先日だったのだ。

 それが勇者から宣戦布告を受けた日と同じなのは、運命の悪戯だろうか? あまりにも都合の良い状況を顧み、男の端正な顔に苦笑が浮かぶ。


「混沌の移譲を貪りし偉大なるアンラ・マンユよ 汝に求める我が欲する異界の魂を この世、その身に与えんことを――<創造(クリエーションミス)>!」

 

 詠唱の終わりと共に、男の頭上に巨大な、とても巨大な魔法陣が出現する。その魔法陣は紫に光る中心の巨大な円を回転軸に、同じく紫に光る三層の外円が左右交互に一定の速度で回転していた。

 暫くして魔法陣の浮かぶ空間が歪み始める。彼が持つ違和感が次第に強くなり、歪みが七色に輝き始めるころ、男は自分の決定的かつ絶望的な間違いを悟る。

 魂を召喚するだけの儀式に、これほど巨大な時空の歪みなど必要ないのだ。魂だけなら辺りが強く光る程度、その程度の歪みで十分なはずだった。


「な……何が!?」


 男は絶句する。自分が想像していた現象、そして未来との違いに。

 呆然と眺めていた空間の歪みが収まると、漆黒になった魔法陣跡からそれら(・・・)が姿を現した。


「な、なんだソレは!!?」


 漆黒の空間から具現化したのは男が知らない、見たこともない、円錐と円柱。

 円錐は小さな火を噴きながら姿勢制御に努めており、円柱は巨大な炎を噴きながら音速を超えて男に迫る。

 その数は、数えるのも馬鹿馬鹿しいほど。優に千を超えている、間違いなく数千はあるだろう。


 これが”神を屠れる武器”なのだろうか? そうだ、そうに違いない……そうに決まっている!!

 愕然とする男が思考を加速させた。

 もしそうであるなら……どのような結果が齎されるのか? 大陸が……滅ぶ!?

 男は即座に確信する。


「謀ったな……アンラ・マンユ!! ――ラー、貴様もか!!」


 男は大陸崩壊を防ぐべく、即座にスキルを発動する。

 この大陸が無くなれば、魔王の座も、魔神打倒も全て意味が無いのだ。君臨すべき大陸、国民があって初めて意味を成すのだから。


「<空間(ディメンジョン)>!!!」


 しかし男が放ったスキルは、男の身を守ることはない。

 男は自分と未知の武器を全て取り囲む、半径四百kmにも及ぶ灰色と濃紺が混じった半透明のドームを形成した。男が持つ神器の、二つの力を全て合わせて。この大陸を――自分が君臨すべき世界を守るために。


 そして男の知らない武器が、一切の情けも容赦もなく無慈悲にも起動する。

 天体の爆発現象にも似た、この世のものとは思えない超大爆発が、無遠慮に、連鎖的に、隔絶した破壊の暴威を生み出していく。


 男は知らなかった。いや、教えられなかった。

 異世界から魂を召喚するにはいくつか条件があることを。

 同日、同時刻、寸分違わぬタイミングで、同じ原因で死亡した魂だけが召喚に応じられるのだ。


 男は知らなかった。いや、想像も出来なかった。

 ”神を屠れる武器”が一発でも飛べば、異世界中に散らばっている”神を屠れる武器”も一斉に飛び立つことを。


 そう、器は勇者ではなく、男であったのだ。


 男は肉体が崩壊する中、薄れゆく意識で思考する。何故神々はこのような手段で世界を滅ぼそうとしたのか? この威力があれば間違いなく世界は滅んだはず。

 男の意識の傍らで、彼の持つ神器《ゾロアストの理》が男が崩れるより早く、光の粒子となって崩れさった。

 神器は破壊不可能なアイテム。本物であれば男より先に崩壊するなどあり得ない。崩壊したのであれば、それは……。


 やがて男は気付く。あやつらは確信していたのだ。この状況になれば男が必ず世界を守ると。


 男は消滅する寸前で正鵠を射る。魔王としての、ルシファーとしての人生の終焉と共に。



 ―――奇しくも異世界で起きた人的超大爆発と時を同じくして……。







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