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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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妖精



 カミュはラウフェイに向きを変えるよう指示を出すと、ドワーフを直視して観察する。


 (へんな生き物だなー……)


 理想的なおっさん体形に、愛らしい狸の頭が乗っているのだ。元居た世界には絶対に存在しなかった、そのコミカルな体形に思いっきり興味が惹かれる。

 マスコットキャラには可愛さが足りず、ご当地キャラとしては特色が足りない。そんな微妙過ぎるアンバランスさがカミュには好みだった。


「お……お主は一体なんなんじゃ!?」


 騎竜から転げ落ちたドワーフが、驚愕と緊張に包まれた面持ちで誰何する。


「……お主?」


 ラウフェイから飛び降りたレストエスがドワーフに一歩近づくと、視線だけで相手を殺せるほどの殺気を放つ。ラウフェイもそれに続いて唸りを上げた。

 おそらくだが二人はドワーフの言葉遣いに腹を立てたのだろう。だが折角友好的に接触しようとする矢先に威嚇をされては堪ったものではない。カミュは偉そうに振舞う気も自分の身元を公にする気も今はなく、正直に言って有難迷惑なのだ。

 自分のことを棚に上げて狸……いやドワーフからだけ情報を引き出したい。それがカミュの本音だった。


「よせ、お前達」


 カミュが手で制すると、二人が無言で一礼する。

 カミュもレストエスに続いて颯爽とラウフェイから降りたいのだが、とある事情で今は不可能だった。


「すまんがレストエス……抱っこしてくれ」


「……え!? よ、よろしいのですか?」


 レストエスの顔にあった怒りの残滓が一瞬にして消える。

 カミュからの突然の抱擁要求にレストエスは戸惑いを見せるが、嫌な気はしていないようだ。いや、寧ろ嬉しさが込み上げているようにさえ見える。


「うむ、ちょっと回復をして貰いたくてな。抱っこしないと出来ないのだろう?」


 回復に何故抱擁が必要なのか、理解し得ないラウフェイが首を傾げて口を挟む。


「カミュ様、回復するのに――」


 ラウフェイを一瞥したレストエスが、視線だけで相手を殺せるほどの殺気を放つ。ラウフェイもそれに続いて小さな悲鳴を上げた。


「カミュ様、その通りです! より効果の高い回復には、非常に気持ち……いえ、非常に重要なのです!」


「そ、そうか。レストエスの回復は凄いからな」


「はい! カミュ様を回復させて頂くと、私(の心)も回復するので!」


 語尾にハートマークが付きそうなほどの勢いを乗せ満面の笑みで語るレストエスに、アスラの影を幻視するカミュ。

 術者まで治癒させる回復魔法など聞いたことは無かったが、レストエスの治癒が魔法ではなくスキルだったことを思い出し、そういう効果もあるのだろうと勘違いを加速させる。

 腕をV字に開いて迎えるレストエスの笑顔にドキッとしながらも、素直なレストエスと情熱的なアスラが何故重なったのか不思議に思うカミュだったが、続くレストエスの言葉で思考を中断した。


「ところで、何故回復が必要なのですか? 差支え無ければ教えて頂きたいのですが……」


 レストエスは何時いかなる時でも、どんな格好で誰の視線があろうとも、主君からの抱擁要請には迅速かつ長時間に渡って喜んで応えるつもりだ。

 可能ならば抱擁係で永久就職を希望したいくらいだが、死に物狂いで邪魔をしてくるゴリラの姿が脳裏に浮かぶ。

 だがそんなレストエスの心を知らずに、無傷のはずの主君がご褒美をくれると言う。まさか抱擁を求めて言い訳をしているのだろうか? そんなあり得ない想像を心の中で失笑し、レストエスは身勝手な推測を否定した。


「ん? あぁ、それはな――」


 さて、どう説明したものかと悩むが、恰好の良い話が思い浮かばない。悩んだところで大した案は思い付かないだろうと諦め、素直に話すことで投げやりに事態の好転を図る。


「――先ほど空間スキルで飛んだ時なんだが……」


「はい?」


 先ほどの飛翔高度は本当に凄かったと思い出すレストエスが、それと回復に何の関係があるのかわからず首を捻る。


「……射出の威力が凄過ぎたせいか、どうも下半身が動かないのだ」


「……はい?」


「おそらくだが大腿骨から下が全て砕けたのだろう。下半身が全く動かないのだ。まぁ、簡単に言ってしまえば粉砕骨折だな」


 カミュは「アハハ」と笑いながら、実験による副次的効果を照れ隠す。

 簡潔に言ってしまえば自爆なのだが、「自爆したので治して下さい、テヘペロ」とはなかなか言い辛い。おじさんのテヘペロは万死に値する重罪なのだ。罪名を付けるのなら「重キモイ罪」が適当だろう。

 そんな下らないことばかり考えていたカミュの前で、信じられない光景が広がっていたのは直後のことだった。


「……カミュ様、今後は射出をお控えください。――いえ、もう金輪際お止めください!」


 唖然とされるのを覚悟していたのだが、予想とは裏腹にレストエスの漆黒の瞳から涙が溢れている。

 ――その涙は本物だった。カミュがこれまでに見たことのない、俗な言い方だがキレイとしか言い表せない純粋な想いの一滴だった。それだけにその想いの丈が強く伝わって来る。

 女性の涙に驚きラウフェイに跨ったまま何も言えず佇むカミュを、レストエスが「失礼します」と強引に引きずり降ろし優しく抱き締めた。

 

「<大治癒(レスタレイション)>!!」


 豊満な胸にカミュの顔面を押しつけるレストエスが詠唱終了後も暫く、我が子を慈しむように抱き締め続ける。

 (悪い気はしないが……人目が気になるな)

 白昼堂々獣と獣っぽいおっさんの前で美女と抱き合うなど、一般社会人だったカミュには耐え切れない羞恥プレイだ。

 しかもロックオン場所が理想的な膨らみを見せる幻の双丘であり、ピンクの登山家であれば一度は制覇すべき夢の頂なのだ。


「レ、レストエス。そろそろ離すのだ」


「……あ! し、失礼しました」


 モゴモゴと聞き取り辛い主君の声を聞き、レストエスは真っ赤になって我に返る。


「いや、ありがとう。助かった」


 夜であればもう少々時間を置いても良かったのだが、目を見開いて此方を凝視するドワーフの視線がカミュには痛かったのだ。

 カミュはレストエスの腰に手を当て言葉とともに感謝を伝える。腰からの感動に一瞬だけ目を見開いたレストエスが、まだ涙を湛える眦を下げ優しくそっと微笑んだ。


「と、取り込み中に済まぬが……お主の乗っていたそれはフェンリルか!?」


「ん? フェンリル?」


 ドワーフの視線の先にあるラウフェイに振り向き、何を驚いているのかカミュは不思議に思う。

 まぁパッと見はデカくて怖いが、そんなに珍しい生き物なのかカミュにはわからない。


「あぁ、確かフェンリルだったな。それがどうしたのだ?」


 ドワーフが何故驚いているのか理解が及ばないカミュは、率直な意見をドワーフにぶつける。レストエスもフェンリル如きで驚くドワーフを怪訝な表情で見つめている。


「伝説の魔獣を乗りこなすとは、お主は一体……?」


 (伝説の魔獣……? 誰が? これが!?)アスラに叩かれレストエスに蹴り上げられた可愛そうな狼ぐらいにしか思っていないカミュは、自分とドワーフが持つ認識の大きな違いに戸惑う。

 カミュがラウフェイの自慢気な顔を覗き込み不思議そうな顔で観察していると、後ろから先ほどの濡れるような声とは全く違った、別人と錯覚するほどの怒声が響いた。


「先ほどから聞いていれば……そこのドワーフ! 口の聞き方に気を付けなさい!!」


 ドワーフのフランクな口調にレストエスが怒りを露わにする。カミュは正直まったく気にしていないのだが、配下からすれば許せない気安さなのだろう。

 さて、どうしたものか。(ワシャそんなに偉くはないぞ……)と思うが、率直に言ってしまえばレストエスの顔を潰してしまう。だがこのままだとドワーフとの話が進展しないどころか、相手を怒らせてしまう可能性が高い。

 レストエスの顔を立てつつ、相手と同等に話すには……。カミュは頭を捻るが、思い付くのは捻りのない答えばかり。

 まぁ、適当に誤魔化して話を進めるのが最善だろうと割り切り、思考の継続を諦める。


「レストエス、お前の気持ちは嬉しいが、今は良いのだ。ありがとう。そしてそこのドワーフ、済まなかったな。悪気はないのだ、気を悪くしないで欲しい」


「いえ! カ――」


 カミュの気遣いに驚いたレストエスがすぐさま口を挟もうとするが、狙いから外れることを恐れたカミュが素早く手でレストエスを制する。


「ところで、そこのドワーフ。先ずは名前を教えてくれるか?」


 カミュはドワーフを威嚇しないよう笑顔で優しく問い掛けるが、そもそも言葉遣いが高圧的なことに残念ながら気付いていない。


「わ、儂か? 儂の名前は……サーシャじゃ。で、お主は何という名前じゃ? フェンリルに乗るほどじゃ。さぞ高名なのじゃろう?」


「私か? 私の名前は”ご隠居”、フェンリルの方が”格之進”。そしてこちらの女性が”助平”だ」


 カミュの狙いは単純明快、偽名を名乗り難を逃れるという余りにも古典的な手だ。

 助平の名前がオリジナルと若干違っている気もするが、どうせこの世界に元ネタがわかる者など皆無だ。カミュは栓無きことと斬り捨てる。


「ゴインキョ……か。珍しい名前じゃな。それにカクノシン。だが先ほどそちらの女性を”レストエス”と呼んで居なかったか?」


「(ま、まずい)いや、気のせいだ」


「そ、そうか? 気のせいではないと思うんじゃが……」


 サーシャが困ったように呻くと、視線をカミュの後ろ、レストエスの方へ移す。サーシャの顔色が若干変わった気がするが気のせいだろうか?


「いや、気のせいだ」


「そ、そうじゃな……スケベイじゃったな。それにしても姿と名前が合っている気がする。良い名前じゃ」

 

 カミュは自分の完璧な作戦に満足しつつ笑顔でサーシャに頷く。しかしサーシャが自分の意見を引っ込めた理由が、レストエス、ラウフェイの射殺すような視線のせいとは露ほども気付けていない。世に言う鈍感力、気付かないことは幸せなことなのだ。

 偽名を良い名前だと褒められたレストエスは、先ほどまでサーシャに向けていた死線を緩めると同時に、自分の頬も緩める。

 丁度カミュが振り返ったのはその時、笑顔を向けるカミュにつられてレストエスが満面の笑顔を見せた。

 (よし! 上手く宥められたな)自分の作戦が成功したことに内心ガッツポーズを決めるカミュが問題解決で冷静さを取り戻すと、散乱しているのがモンスターの残骸であったことを改めて思い出す。


「レストエス、そこかしこに散らばっている死体だが魔石は残っているのか?」


「はい。ゴミレベルですが残っています」


 笑顔で毒舌を吐くレストエスを見つつ、ゴミを回収するか放置するかカミュは悩む。元居た世界ではゴミの放置は島国特有の人種的な倫理観が許してくれなかった。そんな国民性で育ったカミュの心にゴミの放置が小さな棘となり残る。

 (世界は違うんだがな……)苦笑しつつ元コボルトを見回したカミュが、溜息を一つ溢すとレストエスに向き直った。


「レストエス、ラウフェイ。大変だろうが魔石を全て集めてくれ。死体はそのまま大地の肥やしにして構わん」


 動物だろうと人間だろうと、死ねばただの糞袋だ。死体に価値があれば回収するが、<光の矢(マジックアロー)>一発で死ぬような雑魚モンスターにその価値は見い出せない。


「お任せ下さい。ら……カクノシン、行くわよ! 付いて来なさい!」


 ゴミ集めにも不満を見せないレストエスが即座に一礼し、ラウフェイに一声掛けて後ろを振り向く。


「スケベイ様、承りました!」


 ババアから助平と呼ばれた美女が嬉しそうに駆け出す。見た目が二十歳くらいの魅惑的な女性が、助平と呼ばれて満面の笑みを浮かべているのだ。カミュは胸に込み上げるシュール過ぎる何かを必死に堪えながら生暖かい目で二人を見送ると、失笑のままサーシャへと振り返った。


「ん゛……待たせたな。ところでサーシャは何故コボルト達に追われていたのだ?」


「あぁ、儂はな……。いや、儂達は三日前に起きたあの大爆発の原因調査に向かっていたんじゃが、運悪くコボルトの大軍団に遭遇してな……」


「三日前……? 大軍団……?」


 三日前と言えば自分がこの世界で覚醒した日だが、それと何か関係があるのだろうか? まぁアスラすら現場を見ていないのだから、実際に何があったのかもう誰にもわからないのだろう。

 それより大軍団だ。確かに数は多かったが冷静に考えると軍団として何か違う気がする。前世で軍隊経験の無いカミュには断言が難しいのだが、軍とは組織的な作戦遂行を可能とする規律ある団体のはずだ。

 だが先ほどのコボルト達にはそれが見られなかった。漠然とした違和感を残したまま、カミュは悶々としつつ先を続ける。


「まぁ、あれらに追われれば多少は焦るな」


 汚い獣の大軍団に追われたのだ。さぞ気持ち悪かっただろう。


「多少……? まぁお主なら多少じゃろうな」


 サーシャが苦笑いで相槌を打つ。戦闘力は低いがサーシャは甲級に属する実力者だ。その自分が必死に逃げ惑うほどの相手を「多少」だの「ゴミ」などと呼ばれては、怒りを通り越して呆れしか出ない。本音を言えば堪ったものではないのだが、何も言わないことが幸運だったことをサーシャは知る由もなかった。


「ところで、集めた魔石はどうするんじゃ?」


「ん? 特に何もしないぞ。鞄の肥やしだな」


「ほぉ……それなら儂に全部売ってくれんか? 売値で買い取るぞ?」


 レストエスがゴミと言っていた魔石を全部買いたいとは、随分と奇特な狸……いや、おっさんだとカミュは思う。まぁ邪魔にはならないが自分が持っていても役には立たないだろう。正直に言って使い方がわからないのだ。


「あぁ、構わない。二千個でいくらになるんだ?」


「魔石一つで金貨五枚。全部で一万枚じゃ」


 そういえばこの世界の貨幣価値をまったく知らないことにカミュは今更ながら気付く。「へぇ~」と言いながら元の世界の価値で換算しようとするが、そもそも共通認識が無いのだからわかる筈もない。

 (まぁ、金貨一枚が一万円として……一億か。凄いな!)思わぬ収入に喜ぶカミュだが、そもそも単価が違っていることには気付けない。正解は金貨一枚が十万円で計十億だ。

 ちなみにコボルト殲滅に費やした時間が半刻、つまり時給が十億。凄まじいほどの超荒稼ぎだ。


「ちなみに、私の身長くらいの魔石だといくらになるかわかるか?」


「お主の身長くらいの魔石!? 持っておるのか?」


 サーシャが目を見開いて大声を上げる。何か変なことを言っただろうか?


「い、いや。聞いてみただけだ」


「そ、そうか……。ま、そうじゃろうな。大声を出して悪かったの。お主の身長くらいなら金貨三千枚は下らんじゃろう」


 (さ、三千枚!?)予想外の金額に驚くカミュがサーシャを凝視する。冗談には聞こえなかったが、表情から冗談かは読み取れない。何故なら顔が狸だから。

 本当に価値がわかるまで持っておく方が無難だろう。カミュは今すぐの売却を取り止め、魔石の価値を第三者に確認することにする。




 (さて、少年への支払いだが……)目の前の少年は鞄を持っていないようだが、荷物はどうしたのだろう?


「支払いは白金板で良いかのぉ? 流石に金貨を一万枚も持ち歩いておらんのじゃ」


「すまんが教えてくれ。白金板ってなんだ?」


「……はぁ!?」


 あまりの非常識さに驚きを隠せないサーシャが、何の羞恥も感じていない少年を凝視する。


「じょ、冗談ではないようじゃ。金貨は知っているのじゃな? なら銀貨や銅貨は知っているか?」


 何事もなく「うむ」と頷く少年を、サーシャは珍獣でも見るかのように観察する。銅貨、銀貨、金貨を知っているのに白金板は知らない。知識の偏りがあまりにもおかしいのだ。


「銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚、白金貨十枚で白金板一枚じゃ」


「あぁ、なるほど。じゃ、白金板で百枚だな」


 何事もなく暗算で答える少年を、サーシャは宇宙人でも見るかのように観察する。白金板も知らないのに一瞬にして計算を終える。知能が低い訳ではなく、知識だけが無いことは明らかだ。

 それにサーシャですら扱えない甲級魔獣のフェンリルをあれほどまでに手懐けているのは驚愕に値する。更にはコボルトを殲滅したあの初級魔法。あの霞むほどの異常な速度で一矢のミスもなく正確に、遠距離から叩きこむなど人の技ではない。普通に考えれば手間暇かけてまで初級魔法を地道に撃つなど、阿呆でも考えつかない無駄な作業だ。何故なら上空から上級魔法か上位魔法を一発叩き込めば済む話なのだから。

 サーシャは目の前の少年を改めて観察する。あの膨大な魔力を保有しているのだ。上級魔法くらい楽に使えるはず、では何故使わないのか? 知らない……? いや、あり得ない。

 大物なのか阿呆なのか。少年の判断とその結果に、まったく比例しない知能と知識に、未だ実力の片鱗すら見せない慎重過ぎる行動にサーシャは困惑を隠しきれなかった。


 その後も少年からの不思議な質問が間断なく続く。質問のほぼ全てが一般常識であり、今の暇を持て余したサーシャでなければ答えようとも思わない内容だ。

 (何者かは知らんが、あまり深入りしないほうが良さそうじゃ……)

 魔石を回収した後にどう別れを切り出そうか悶々とするサーシャの耳に、やや遠くから轟音が届く。魔石を取りに行った二人が何かしたのだろう。だが目の前の少年は気にする様子もない。

 あの二人やサーシャの事より質問の方が大事なのだろう。少年が話題を変えて質問する。


「ところで、サーシャはドワーフだったな? 鍛冶が得意だと思うが、剣とか作れるのか?」


「ん? あぁ、大抵のモノなら問題なく作れるぞぃ」


 興味津々の少年が好奇心を惜しみも無く前面に出し「へぇ~」と感心する。

 珍しい職業ではないはずだが、何が面白いのだろうか? 訝しむサーシャに少年が質問を重ねる。


「剣の材質は何を使ってるんだ?」


 小首を傾げて目を輝かせる少年に、サーシャは思わず苦笑する。興味があることに悪い気はしないのだが、質問の内容があまりにも幼いのだ。


「大量に作るなら鋼を叩くのじゃが、強い剣を作るなら真鋼じゃな」


「鋼……? ミスリルとかオリハルコンじゃないのか?」


「みすりる……? なんじゃそれは?」


 サーシャの思わぬ答えに、先ほどまで輝いていたはずの少年の目が半眼となり、死んだ魚のように沈む。

 何が気に入らなかったのか? それより”みすりる”とは何だろうか? 知らない素材名を聞き戸惑うサーシャに少年が溜息をつく。


「はぁ……ま、そうだよな。悪かった、気にしないでくれ」


 少年の不躾な物言いにムッとするサーシャだったが、少年が背負う剣に目を向けると爽やかな笑顔で諦観する。


「まぁ、お主が持つ剣に比べれば確かに物足りないじゃろうな」


「この剣がどうかしたのか? 確かに強そうには見えるが……」


「まったく……お主は何も知らんのじゃな」


 サーシャは一つ溜息をつくと「その剣の銘を見てやる」と短い手を差し出した。普通なら知らない相手へ簡単に手渡せるような価値の物ではないのだが……


「銘? あぁ、この記号みたいなヤツは文字なのか」


 何の躊躇いもなく背負った剣を外す少年が、読めないことを恥とも思わずに剣の柄を向ける。もう驚くことすらバカらしい。サーシャは剣の柄を受け取ると、柄に刻まれた銘を読み上げる。


「アメノムラクモ……か。変わった銘じゃな」


 聞いたこともない銘だ。両刃の直剣だが柄頭は独特な形状をしている。だが内包する力は触らずともわかるほどに強大であり、この世界を代表する剣であることは疑いようがない。

 サーシャは剣の鞘を持って少年に柄を向ける。柄を受け取る少年が不思議そうな顔つきで小首を傾げるが、サーシャはこれ以上少年について考える気はなかった。


「スケベイとカクノシンが帰って来たようじゃな」


 サーシャの声で振り向いた少年が、帰ってくる仲間に手を上げる。

 純白のローブの裾から覗く少年の足首に淡い薄紫の枷を見つけ、遥か昔に聞いた神器をサーシャは思い出す。だが少年と枷の繋がりを見つけられないまま、気のせいだと割り切った。

 (それにしても……見た目は幼いのに、口調は正におっさん。本当に訳がわからんな)

 聞こえぬように溜息をつくと、背嚢を降ろして白金板の準備を始める。

 集合したゴインキョ、スケベイ、カクノシンに苦笑を向けると、サーシャは清々しい心持ちで歩み寄った。





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