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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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鬱憤



 大地へと恩恵を齎していた太陽が一日の仕事を終えた宵の口、常であれば続々と宿泊客が訪れるであろうこの時間。

 この都市で最高級を自負する豪華にして巨大な宿屋のロビーでは、店主を任されているホルツデッペの老いた顔に苦渋の色が広がっていた。

 現在この宿には、突発的な宿泊キャンセルで閑古鳥が鳴いているだけでなく、突然のモンスター襲来で抑留されることとなった宿泊客達の怨嗟の声が満ちているのだ。


 ギィー……


 そんな暗く沈んだ高級宿の正面で、荘厳というにはあまりにも年季が入った彫金が豪華な両開きの扉が開かれる。

 そして一切の隙間なく扉の外を包み込んでいた暗闇の中から、二名の男女が姿を現す。時間帯から考えれば新たな客が来店したのだろう。だがその見た目は非常に幼く、この高級宿には似つかわしくないものだった。

 彼らは一体何者なのか。少なからぬ不安に襲われるホルツデッペであったが、彼はその二名が宿泊客である可能性を捨てることなく、作り笑顔とともに恭しい一礼で彼等を迎え入れた。


「いらっしゃいませ」


 ホルツデッペの挨拶に気付いていないのか、先頭を歩く真っ白なローブに身を包んだ美少年が、その後に続く黒いドレスの美少女へと問い掛ける。


「これって宿屋だよな?」


「おそらくそうでしょう」


 ホールに灯る魔法的な淡い光に照らされて、深紅の瞳を怪しく煌めかせた少女が、辺りを見回している少年へと適当な返事を返す。彼等が纏っている衣装はその辺の安価な既製品ではなく、厳選された素材が織りなすオーダーメオイド品であることは見間違いようがない。

 であれば貴族か豪商の子女だろうか。その可能性は非常に高い。だが彼等は此処がどこかも知らずに入って来たらしい。この宿屋は最高級の名を冠する宿であり、市井の者が気軽に泊まれるような場所ではないのだ。

 果たして彼等は本当に持ち合わせがあるのか? 豪華絢爛との表現しか許されないこのホールで、白い髭を奇麗に生やしたホルツデッペが優雅な所作で少年達を呼び止めた。


「お客様、少々よろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「お客様、この【欧河の微睡】へお越し下さりありがとうございます。私はこの宿の店主を任せられておりますホルツデッペと申します」


「あぁ、一晩泊めて欲しいんだが、空き部屋はあるのか?」


 礼儀正しく自己紹介する老紳士に対し、少年は横柄な態度を崩さない。

 彼はどれだけ偉いのだろうか? その素性を量り兼ねたホルツデッペは、角が立たないように質問を重ねる。


「空き部屋はございますが、その前に当宿がどのような位置にあるかご存知でしょうか?」


「ん? 一見さんはお断りか?」


「いえ、そういう意味ではありません。そうですね。率直に申しますと宿泊費が非常に高額なのです……」


 少年達をチラと伺う老紳士の視線が、彼等の両手と腰回りを捉える。

 果たして宿を求める者が手ぶらで来るだろうか? 着替えや金など何かしらを持って来て然るべきなのに、それを持つ従者どころか荷物さえも携えていないのだ。

 不審であることこの上ない彼等。宿代を踏み倒される可能性が高いことは、ホルツデッペの経験からも一目瞭然であった。


「あぁ、そういう意味か。それは気が利かなくて失礼」


 そんなホルツデッペの対応に気分を害することなく、少年は納得顔で麻の小袋を懐から取り出した。

 それは少年の纏う華麗な衣装、人間とは思えぬ整った顔立ち、そして世の年下属性を即死さかねない笑顔とは、およそ似つかわしくない小汚い小袋。

 彼がそこから取り出したのは、魔法の光を受けて一層輝きを増す一枚の白金板であった。

 

「これで足りるのか?」


「あ……はい、十分にございます」


 少年が無造作に取り出した白金板に目を見開きながらも、ホルツデッペは店主としての矜持で動揺を抑え込みながら少年を奥へと招き入れた。

 白金板とは即ち金貨百枚。カミュが元居た世界の基準に照らし合わせれば、それ一枚でエリートサラリーマンの年収に匹敵する価値だ。

 だが当然のように少年はその価値を知らない。小汚い麻袋に入れて持ち歩いているのがその証左だろう。


「随分と豪華な造りだな。やはりこの都市では名の有る宿屋なのか?」


「はい、お陰様でこの都市一番と自負させて頂いております」


「ふーん。で、あの受付に行けば良いのか?」


「はい。お手数をお掛けしますが、奥に居るあの女性にお申し付け下さい」


 ホルツデッペが優雅に一礼し、奥の女性が微笑みで少年を迎える。

 一つ大きく頷いた少年は黒いドレスを纏った少女を伴って奥へと進む。ホルツデッペはその様子を静かに見守り続けている。

 此処が最高級の宿だと知らずに宿泊を希望した少年。この都市に初めて来たかのような浅い知識。そしてモンスターの襲来でここ数日に渡り閉ざされている城門。


 (何らかの事情がありそうですが……)


 そんな怪しげな状況の中、少年が何事もないとばかりに取り出したのは、金貨百枚分の価値を持つ白金板だ。

 あの麻袋に入っていたのは一枚の白金板ではない。少なくとも数十枚は入っていただろう。

 質素な生活を続ければ一生暮らせるほどの貨幣を持ち歩く、少女以外の供も、一般的な常識さえも持ち合わせない謎の少年。


 (やはり、明日の朝一で詰め所に……いや、城に届け出た方が良さそうですね)


 どうにもキナ臭さしか感じられない少年を見つめながら、ホルツデッペは掛かる火の粉を振り払うべく明日一番での通報を心に決めた。

 彼が何者でもなければ職務質問だけで終わるだろうし、彼が何者かであれば警備隊や騎士団が対処してくれるはず。

 とにかく自分一人だけでは抱えきれない問題なのだ。そんな面倒事の早急な解決を図るべく、ホルツデッペは記憶力の乏しくなった自身の脳漿へと、少年達の背格好と特徴を必死に刻み込んでいった。



 少年と少女が向かったのは、正面の扉から続く絨毯の最奥。彼等の視線の先に居るのは、微笑みを湛えながら優雅に一礼する女性。

 優しさの中にも凛々しさを備えた彼女は、その人並以上の美しさを誇る柔面を上げながら、たった今到着した幼い宿泊客を極上の愛想笑いでもてなした。


「いらっしゃいませ。本日は当【欧河の微睡】をお選び下さりありがとうございます。ご用件はご宿泊ということでよろしかったでしょうか?」


「宿泊以外の目的で此処を利用出来るのか?」


「夕食をご提供することは可能ですが、ご夕食だけで利用されるお客様は滅多におられませんね」


「ふーん、そうか。私達の目的は宿泊だ。ちなみに部屋はグレード別になっているのか?」


 その華奢な様相に似合わぬ横柄な態度で、謎の言葉を告げながら少年は小首を傾げる。


「ぐれえど……ですか?」


「あぁ、そうか。等級と言い変えれば通じるか?」


「そういう意味であれば、最高級のお部屋が一泊金貨十枚、一般的なお部屋であればお一人様銀貨五枚でご提供させて頂いております」


「なら二人で金貨一枚だな? ではその部屋を用意してくれ」


 流れるような会話で即断する少年であったが、金貨一枚が一般的な宿と比べて妥当なのか彼は全く判っていない。

 そもそも少年は金貨一枚の価値すら判っていないのだ。しかし幼くも美しい女性を伴ったこの状況で、無知を晒して同伴者に恥を掻かせる訳にもいかないだろう。

 内心で油汗を流しまくる少年であったが、彼は自分の身体に汗腺が無いことに感謝を贈りつつ、受付の女性へと鷹揚に頷いて僅かながら口端を引き攣らせた。


「では、お一人様づつ一部屋ということでよろしいですね?」


「うむ、二部屋で頼む」


「……え?」


 少年の横に侍る少女が目を見開いて固まる。

 何か思うところがるのだろうか? この世の終わりを迎えたような表情で、彼女は横に立つ少年のローブをそっと掴んだ。


「どうした? パパイヤ」


「あの……その……あ、そう! そうです!」


 何がそうなのか。少年が小首を傾げて少女からの回答を待つ。


「お一人で就寝されるのは、とても危険なのです! ですから朝まで我が御身をお守り致します!」


「危険? レストエスとベッドを共にするより断然安全な気もするが……」


「それはそうです……あ! いえ、危険度は同じくらいでしょう!」


「そうなのか? 確かに、それはとても危険だな」


 腕組みしながら深く頷く少年を、受付の女性がジッと見つめる。彼の言うレストエスとは一体何者なのか? 名前から察するに生物と思われるが、その正体が彼女には判らない。

 一緒の部屋で危険を感じるということは、凶暴な肉食獣の可能性が高いのだろう。そして目の前の少年は力強さとは無縁の、女性のような線の細い体つきだ。そんな彼が狂暴な何かに襲われたとしたら、彼の耐久力では一溜りもないと思われた。

 狂暴な何かに少年が襲われる光景を幻視していた受付嬢は、ふと仕事中であったことを思い出して少女の言を否定する。


「お客様、お話し中に申し訳ございません。失礼を承知で述べさせて頂きますが、ご宿泊のお客様に危険など何一つございません。お客様の安全のため当館では昼夜問わずの警備に始まり――」


「あ"ぁ!?」


「ヒィッ!」


 宿の安全性をしたり顔で饒舌に語る受付嬢へと、黒い少女から凍てつく波動が放たれた。

 瞬間的な威圧だけでも人が殺せそうなその迫力に、彼女は悲鳴を上げながら思わず後退って鼻垂れる。

 辺り一面を包み込む張り詰めた空気と、不自然に漂う僅かなアンモニア臭。少女が何故それほどの殺気を放っているのか判らないまま、涙目の麗しい受付嬢は一瞬だけ緩めてしまった尿道括約筋に再び力を込めた。


「パパイヤ、その女性を怖がらせるのは止めろ」


「で、ですがカミュ……あ、シューベルト様! その者はシューベルト様と一夜を共にするという我のささやかな希望を打ち砕こうとしたのです! これが許せるでしょうか? いえ、決して許してはなりません!」


「所々で何かと問題のある発言をしていた気もするが……まぁ良い。それよりもパパイヤ、お前は大事なことを忘れているぞ?」


「わ、忘れている……? それは一体何でしょうか?」


 怯える受付嬢を放置したまま、少年は少女へと向かって真剣な眼差しを送った。

 その視線を真面に受けた少女は何故か頬を赤らめているが、おそらく少年がこれから話す内容とは全く関係の無い勘違いだろう。

 赤い少女に不信な視線を投げ掛けつつも、シューベルトと呼ばれた少年は彼女を生優しく見つめながら諭すようにその理由を語った。


「部屋は二つ必要なんだ」


「それは、先ほど決めた部屋割りが理由でしょうか?」


「確かに、二部屋に別れて宿泊すると決めたが、それだけが理由の全てではない」


「では一体……?」


 少年の勿体ぶったような説明に食い入りながら、少女は心に巣食った(わだかま)りの除去を彼へと託す。


「夜半過ぎに、プリクラ達が合流するからだ」


「あ……」


「納得して貰えたか?」


「はい、申し訳ございませんでした。浅墓な我をお許し下さい。それで、部屋割りはシューベルト様と我、プリクラとセッコクでよろしかったでしょうか?」


 先ほどの哀愁に満ちた目からは一転して、瞳を輝かせた少女が平らな胸の前で両手を組みながら、希望に満ちた眼差しを少年へと向ける。


「いや、私が一人で、お前達は三人でだ」


「そ、それでは御身をお守りする者が誰も居りません! 我は断固反対なのです!」


「そうか。では私と石斛(セッコク)、お前とプリクラだ」


「イヤァアアァァーーーーー!!」


 両頬に手を当てた少女が、ムンクのように口を縦長に開けて目を見開く。

 そんな少女の絶叫に恐怖を感じながらも、腰の引けた受付嬢は疑問に思った。城門は閉ざされているのにどうやって合流するというのか。しかも夜半過ぎに? ――と。

 だが彼女は先ほど一身に受けた少女からの怒気を思い出して、余計なその一言をグッと胸の奥へと仕舞い込む。


「随分声が大きいな。そんなに嬉しいのか?」


「嬉しくなんてありません! あんなチビと一緒の部屋なんて無理ですぅ!」


「そうか。じゃ、一人で寝るか?」


「それはもっとダメですぅ!!」


 少女の必死な抗議を受けて、少年は苦笑を浮かべる。その眼差しは子供をあやすようなとても優しいもの。

 ブンブンと手を振りながら甘えた声で主張する少女の肩へと手を置き、彼は諭すように、言い(くる)めるように淡々と語り始めた。


「七年にして男女席を同じうせず、食を共にせず、という(ことわざ)を知っているか?」


「ことわざとは何でしょうか?」


「そこからか……。そうだな判り易く言えば、観察や経験を元に、ある一面の真実を鋭くも簡潔に表現したものが(ことわざ)だ」


「仰っていることが、まったく判らないのですが……」


 眉間に皺を寄せて眉尻を下げた少女が、肩を落として縋りつく。


「まぁ、覚えておくと何か良いことがある、そんな短い文章のことだ」


「なるほど。特に覚える必要は無い、ということですね?」


 少年は苦笑を浮かべて首を傾げるが、少女からはそれを気にする様子が見られない。


「平たく言えばその通りだな。で、その(ことわざ)だが、意味は七歳を超えた男女は同じ部屋で休んではいけないというものだ」


「え!? 同じベッドで休めるのは、七歳までなのですか?」


「そういうことだ。お前はもう七歳を超えているだろ?」


「はい。残念ですが四百歳は軽く超えていたとかと……」


 項垂れる少女の言に、少年と受付嬢が言葉を失う。

 彼女が言う四百歳とは一体何の冗談なのか。というかその冗談の寒さは失笑レベルなのだが、それにも拘わらず少女はこの凍てつく空気を何とも思わないのか。

 なんという厚顔。おそろしい程まで強化された彼女の心臓に感心しながらも、少年と受付嬢は貼り付けた笑顔で項垂れる少女を生暖かく見守り続けた。


「そ、そうか。では同室での就寝は無理だな」


「で、ですが、キャラケンダも七歳、っあ! ……セッコクも七歳を遥かに超えています! 何故、あ奴は許されるのですか?」


「感情が昂っているのだろうが、もう少し落ち着いて発言をしろ」


「も、申し訳ございません……」


「で、石斛(セッコク)を部屋に招き入れる理由だったな。それは――」


 首を竦めた少女の喉がゴクリと鳴る。


「――安全だからだ」


「……安全?」


「そうだ。仮に私が真っ裸のまま部屋で寝ていたとする。私の予想ではおそらく、その光景を見ても彼女の心に迷いが生じることは無いだろう。ちなみにパパイヤ、お前ならどうするんだ?」


「速攻でムシャぶりつきます!」


 少女は自信に満ちた笑顔で無い胸を反らす。


「そうか。そうだな。では先ほど言ったように、お前と私の部屋は別にする。良いな?」


「しょ、承知しました……。ところでその(ことわざ)を作った者は、一体何処の誰なのでしょうか?」


「何処の……? うーん、名前は知らないがたぶん中国人じゃないか?」


「ちぅごくぢん? うーん……」


 類稀なる美しい顔の中心に皺を寄せながら、少女は腕組みをしてウンウンと唸り始めた。

 お腹でも痛いのだろうか? 青ざめたような表情には見えないが、女性であれば気恥ずかしさから苦しさを隠してもおかしくはないだろう。

 そんな二名の様子を伺っていた受付嬢が、少女を心配するあまり勇気を出して恐々と声を掛けた。


「体調が優れないのでしょうか? であれば――」


「黙れブタ。我の体調は夜に向けて万全なのじゃ」


 もう早く部屋に引っ込んで欲しい。受付嬢はカウンターを不穏な空気で占拠する不審者に辟易する。

 だが彼女もプロなのだ。そんな想いは胸の内へと仕舞い込んで、少女の毒舌に心を引き裂かれながらも必死に涙を堪えた。


「それは彼女に失礼だろう。暴言は止せ」


「はい……申し訳ございません」


 謝罪で頭を下げながらも、少女は横目で受付嬢を睨みつける。

 反省とは一体何なのか。少女にとっては大した意味も味さえもないもの。そんなものに価値など何一つ有りはしないのだろう。

 少女の厳しい視線に身を震わせながらも、受付嬢は自分を庇ってくれた少年へと熱い視線を向ける。


「で、中国人がどうしたんだ?」


「その余計なことわざを考え出したちぅごくぢんですが、もし見つけたらぶっ殺してもよろしいでしょうか?」


「もしも会えたら……か。ふむ、構わないぞ」


「あ、ありがとうございます!」


 夢でなら会えることだろう。

 少年は少女の一礼を見つめながら、この難局を乗り切れた礼を見たこともない謎の儒家に対して送った。


「では、各々部屋で休むとするか。プリクラには私から伝えておこう」


「あ、あのお客様! ご夕食は如何なされますか?」


「私はいらん。パパイヤ、お前はどうする?」


「我は……飲み物だけ頂こうと思います」


 そうか、と溢しながら、少年は二人分の宿泊費を払って部屋の鍵を受け取る。


「あ、そうだ。私の乗ってきた馬車を片付けておいて欲しいんだが頼めるか?」


「承知しました。後で係の者に伝えておきます」


「ありがとう。では頼んだ」


 彼はそのまま階段を上がって、目的の部屋へと姿を消した。

 残されたのは、黒い衣装に身を包む少女と、貼り付けた笑顔で口端を引き攣らせる受付嬢。


「のぉ、ブタ。折り入って話があるのじゃ」


「は、はい。なんでございましょう?」


 彼女は震えながらも、少女の機嫌を損ねないように恐々と様子を伺う。

 ブタと(なじ)られたことなど、今は気にしている場合ではないのだ。


「夜半過ぎにプリクラと名乗る頭のおかしい子供が来るじゃろう。だがそのクソガキは一銭も持たずに宿泊しようとするはずじゃ。だから奴が来たら問答無用で追い出す方が良いぞ?」


「あ、あの……そのお子様は、お客様のお連れ様ではないのでしょうか?」


「断じて違うのじゃ。安心して追い出すが良い」


「で、ですが、私にはそのお客様の容姿が判りません。何か外見的な特徴はあるのでしょうか?」


 少女の不条理な要求に困り果てながらも、受付嬢は盲目的な態度で確認する。

 万が一、別のお客様に失礼な態度を取ろうものなら、彼女の進退は即座に極まり、彼女の首も即座に締まるだろう。

 だから彼女は念には念を入れて確認する。その子供が一体どのような容姿なのかを。


「あ、そうか、忘れていたのじゃ。そのうんこガキは異常なほどに非常識な色彩の、目に優しくない派手なドレスを着ているのじゃ。語尾に「~なのよ」とか「~かしら」とか阿呆みたいな言葉を付けるから直ぐに判るはずじゃ」


「は、ハァ……」


「それに金を払わない奴は客ではない。安心して叩き出すが良いのじゃ」


「しょ、承知しました」


 あなたの語尾も相当変ですよ? そんな想いが受付嬢の豊かな胸の内を埋め尽くすが、彼女はそんな大胆な指摘を少女へ叩き込むことなど出来ない。

 少女の話に不穏かつ相当な不信感を抱きながらも、受付嬢は彼女の怒気を恐れて素直に従うことにした。


 そして夜半過ぎ、眠りについた少年の耳に、聞き覚えのある若い女性の絶叫が届く。

 わらわなのよ! 不審者じゃないかしら! 誰かとそんな問答を繰り広げているようだが、その若い女性が何故入館を拒否されているのか少年には判らなかった。

 おそらく夢でも見ているのだろう。そんな気がした少年は、何も聞こえなかったことにして更に深い眠りへと落ちていくのだった。






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