プロローグ-1
それは一人の精神異常者が放った「終わりの始まり」
2020年 春、すべてのメディアが怒声で連呼するこの状況こそ、その前人未踏の悪辣さを物語っていた。
首都圏を狙ったと見られる弾道弾が日本海上で軌道を変更。弾道弾の機嫌が悪かったのか、技術者の日頃の行いが悪かったのかは分からないが、東北地方中央部に到達との予測が流れた。そう……ここに。
(真っ直ぐ飛ばす技術も無いのかよ……)
無論、日本政府も虎の子の迎撃ミサイルで撃破を狙ったが、秒速二千五百メートルまで加速した神の鉄槌は擦れ違いの純情で星となった。
総開発費一兆円超の三つの星に。
住宅街は逃げ惑う人々で阿鼻叫喚の地獄絵図を呈しているが、着弾後の残留放射能量を考えればその恩恵を一身に浴び、一瞬で昇天した方が幸せではないだろうか?
ふと見れば、隣に住む人の良いおばさんが鬼の様な形相で駆け出している。一体どこに逃げるのだろうか?
そういえば、昔ニュースで彼の国が重水素化リチウムの生成に成功したと言っていたが、あれは本当だったらしい。本当なら原子爆弾の数千倍の威力になるはずだが……。
残りのコーヒーを飲み干しながら一人、ベランダで考える。
そう、逃げることが無駄なのだ。どう少なく見積もってもこの盆地一つが壊滅するだろう。
仮に逃げ出さずに此処に留まれば、苦痛も後悔もなく先祖の待つ彼の地へ行くことが出来る。それに住民が全滅すれば閣僚が歓喜するだろう。隔離も救済も復興も、何もする必要がないのだから。
もしかすると最小限の被害で安堵した大臣が「首都圏に落ちなくて良かった」と、国民の前でのたまうかもしれない。
そんな下らないことを考えている間に、地獄の死者が夕日に重なり姿を現す。
「これで終わりか……」
欲を言えばあの精神異常者に一矢報いたかった……。
―――――いや、報いるのは一基か?
莫大な熱量が荒れ狂い、そして辺り一面が白光に包まれる。