四季の国と吟遊詩人~一番欲しいもの~
雪化粧が残る山道を一人の旅人が歩いていました。旅の荷物の他に、大事に抱えている袋の中に楽器がありました。リュートと呼ばれる弦楽器です。
彼は旅する吟遊詩人です。
吟遊詩人が向かう先には大きく豊かな国があります。
春夏秋冬。四季が巡る度に美しい風景が広がり、沢山の作物が育つ土地の国です。
ですが、吟遊詩人はそれ以上その国について知りません。
「さて、どんな国なんだろう」
白い息を吐きながら、吟遊詩人は呟きました。
前にいた国では素晴らしく美しい国だから是非とも行った方が良い、と行商人が薦めていました。特に四季の女王様が大変美しいのだと力説していました。
なんでも、その国には春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王様がおり、女王様は決められた期間、交代で塔の中に住むことになっているそうです。
そうすることで塔の中にいる女王様の季節がその国に訪れるのだそうです。
吟遊詩人は女王様によって訪れた季節の風景が大変美しい、と言う話がとても楽しみでした。彼は見たり聞いたりしたことを詩にするのが大好きだからです。
「はぁ、はぁ」
ざくざく、と吟遊詩人は山の中を歩き続けます。山の季節は丁度冬から春へと移り変わる時期です。
雪が残り、まだまだ息が白くなりますが、とても歩きやすい道でした。行商人や旅人が沢山通るからでしょう。
ざくざく、ざくざく、と吟遊詩人が歩き続けて、ついに山の頂上に辿り着きました。
そこから見える景色を目にして、吟遊詩人は思わず声を上げてしまいました。
「おおっ……!」
山から見下ろすその国は銀世界でした。
大きなお城も、大きな街も、大きな湖も、地平線に連なる山々も全てが雪に染められていて、太陽の光を受けてキラキラと輝いていました。
身も凍るような寒さの中で、厳しい冬の美しさがそこにありました。
「この国に来て良かった」
吟遊詩人はこの景色を見ただけでそう言って、嬉しそうに鼻歌を歌いながら再び歩き出しました。
――――――――――――――――――――――――――――――
無事に入国出来た吟遊詩人は首を傾げてしまいました。
国の中も美しい冬の景色でしたが、おかしいな、と思ったからです。
山の中では冬から春へと移り変わり始めていたのに、山の麓にある国はまだ寒い冬なのです。山の方が季節の足は遅いのにこれではあべこべです。
それに国の人々の顔も暗い表情をしていました。何か心配事があるようなのです。
吟遊詩人が首を傾げながら歩いていると広場の真ん中に看板がありました。
看板には王様からのお触れでこう書いてありました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない』
吟遊詩人は読んだ後に首を傾げてしまいました。
そして近くを通りかかった人に尋ねました。
「すみません。私は今日この国にやって来たのですが、このお触れはどうしたんですか?」
尋ねられた男は心底困った表情で答えました。
「それが冬の女王様が交替の時期になっても塔から出て来なくなってしまったんだ」
「それは大変じゃないですか?」
「ああ、そうだよ。このままじゃ春が来ない。食べ物もいつか無くなってしまう」
そうなってしまえば、沢山の人が飢えてしまいます。
「どうして冬の女王様は塔から出て来ないのでしょうか?」
吟遊詩人がそう尋ねると、男はますます困った表情になりました。
「そんなこと分からないよ。春の女王様が言うには病気とかじゃないみたいだけど」
男の言葉に吟遊詩人は驚きました。
「春の女王様は冬の女王様とお話をされたのですか?」
「ああ、交替の日に塔に入っていった。そこでどんな話をしたのかは分からないが、結局冬の女王様と交替しないで出て来てしまったのさ」
そうして、春は訪れず、冬が続いているのだそうです。
「いよいよ困った王様がお触れを出したが、まだ誰も成功していないんだ。俺もがんばってみたけど、ダメだった」
なるほど、と吟遊詩人は肯くと丁寧に頭を下げました。
「ありがとうございました。ところで女王様の塔はどこにあるのでしょうか?」
「あそこに見える塔だよ」
男はお城とは反対方向にある塔を指差しました。そちらを見ると、お城と同じくらい高く立派な塔が聳え立っていました。
「お前さんも挑戦するのかい?」
男が尋ねると吟遊詩人は大事に抱えているリュートを袋の上から撫でて肯きました。
「ええ、私は旅をして色んな国の詩を知っているので、それを聞いて貰おうかと」
「そうか、がんばれよ」
そう言って男は歩き始めました。その背中に吟遊詩人は尋ねました。
「あなたはどんな説得をしたのですか?」
肩越しに男は振り返ると、
「……秘密だ」
恥ずかしそうに顔を赤くして逃げてしまいました。
吟遊詩人は物凄く気になりましたが、塔を目指して歩き出しました。
――――――――――――――――――――――――――――――
塔へは迷わずに行くことが出来ました。
お城と同じくらい高く立派なので街のどこからでも見付けることが出来るからです。
近くで見上げる塔はとても美しく、天辺には大きな窓がありました。塔の天辺からならば、この国の隅々まで見渡すことが出来そうです。
塔の周りには疎らに塔を見上げる人達がいました。入口では二人の兵士が見張っています。
吟遊詩人は塔に近付き、兵士に声を掛けました。
「すみません。今日この国に来たのですが、王様のお触れの褒美は旅人でも受け取れますか?」
「国民でも旅人でも冬と春が交替するならば褒美を取らせる、と王様は仰せだ。ただし――」
そこで兵士は声を低くして言いました。
「お触れの通り、季節が巡るのを妨げてはならん。冬の女王様に危害を加えたら、絶対に許さんぞ」
勿論です、と吟遊詩人は肯きました。
「ちなみに、女王様の説得はどんな方法があったのですか?」
兵士は指折り数えながら教えてくれました。
「お前さんみたいな吟遊詩人が何人か詩を歌っていたな。恋の歌、賛美歌、英雄譚や童話の弾き語りもあった」
「彼らよりも上手に歌えるように頑張らないとですね」
「頑張りな。後は神父様が聖書の説法をしたり、芸達者な男が大道芸をしたり、綺麗なお嬢さんが踊りを踊ったり、何人か集まって大声で説得したり、十日前にはサーカスが来てたな」
「ええ!?サーカスですか?」
「おう、サーカスだ。空中ブランコとか綱渡りとか凄かったぜ」
「……あの、今、そのサーカスは」
「あのサーカスも旅の一座だから、もう国を出てるな」
「そんなぁ」
肩を落として残念がる吟遊詩人に兵士は苦笑してしまいました。
「お前さんも旅の吟遊詩人だろう?縁があれば会えるだろうさ」
「そうですね」
「ああ、後、温室で育てた花を花束にして、冬の女王様の美しさを讃える詩文を作って来た男もいたな」
兵士が付け加えた例に周囲の人達もあれは凄かった、と肯きました。どう凄かったのか気になりましたが、誰も教えてくれませんでした。
「そこの場所を借りますね」
「良いぞ」
吟遊詩人は旅の荷物を塔の壁際に置くと、敷物を敷いて座り込みました。丁寧にリュートを袋から出すと、疎らな野次馬から「がんばれよー」と言う声援が掛かりました。
吟遊詩人はそれに会釈を返すと、リュートを何度か鳴らして調律をし、深く息を吸い込んで詩を歌い始めました。
その歌声は透き通るように冬空に響き、柔らかく人々の耳と胸に届きました。
――それは薔薇の妖精に恋をした庭師の青年の恋物語。
――妖精の気まぐれで姿を現し、青年は一目で恋に落ちた。
――青年は妖精の姿を探したが、見付けることは出来なかった。
――妖精と出会った時に咲いていた美しい薔薇。
――庭師の青年は薔薇の世話をしながら、いつも妖精のことを想う。
――薔薇が妖精と出会った時のように美しく咲けば、また妖精の姿を見ることが出来るかもしれない。
――そんな青年を妖精はいつも見つめていた。
――自分の化身である薔薇を、愛おしそうに世話をする青年の姿を。
――月日は流れ、青年は老人となった。
――妖精が彼の前に姿を現すことはなかった。
――妖精の王の法で、人間と心を通わせることは禁じられていたから。
――薔薇の妖精は、自分が姿を現せば、自分も彼も心を抑えられないと知っていたから。
――だが、老人となった彼の背に死神の影を見た妖精はついに姿を現してしまった。
――やっと会えたね、そう言って彼は妖精を抱きしめた。
――ずっとこうしたかった、そう言って妖精も彼を抱きしめた。
――二人はいつまでも抱きしめ合った。いつまでも、いつまでも。
詩が終わり、余韻で静寂が訪れた聴衆に吟遊詩人は丁寧に一礼しました。
――パチパチパチパチ。
いつの間にか吟遊詩人の周りに集まった人々の拍手が鳴りました。吟遊詩人が上を見上げると、塔の大きな窓から白く美しい手が拍手していました。
吟遊詩人は安堵の息を零しました。野次馬の何人かと兵士も上を見上げて感心していました。
冬の女王様が自分の詩を聞いてくれているなら、吟遊詩人は最高の声で歌うだけです。
リュートを再び奏で、吟遊詩人は二曲目を歌い始めました。
――それは巨大な魔物を退治した船乗りの冒険譚。
続けて三曲目、四曲目と旅する中で聞いた詩を歌い、或いは見た風景や事件を弾き語りました。
――それは宝物を求めた強欲な貴族が賢者に騙されるお話。
――それは夜の砂漠に一夜だけ咲き誇る花の詩。
――それは慌てん坊な騎士が走り回りながら事件を解決する喜劇。
――それは高く険しい山の頂上から眺めた日の出の詩。
聴衆はある時は手に汗を握り、ある時は感嘆の声を上げ、ある時はお腹を抱えて笑いました。
吟遊詩人は時間を忘れて歌い続け、夕闇が訪れると一息入れました。
その時、
――ぐぅ。
とリュートの代わりにお腹が鳴りました。慌ててお腹を押さえましたが、手遅れです。
最前列で聞いていた人には聞こえてしまったようでクスクスと笑っていました。
吟遊詩人が恥ずかしそうに頭をかいていると上から何かがヒラヒラと降ってきました。
「冷たっ」
慌てて受け取ると、それは氷で出来た華でした。透き通る氷の華はとても美しく、吟遊詩人は見惚れてしまいました。
「それは冬の女王様からのお礼だな」
そこに兵士が声を掛けてきました。彼が言うには挑戦者みんなに渡しているのではなく、特に素晴らしいものに配られるようです。
「ま、それだけお前さんの詩が上手かったってことだな」
「それは良かった」
吟遊詩人は嬉しそうに笑いました。
しかし、冬の女王様は塔から出てきませんでした。
――――――――――――――――――――――――――――――
次の日も吟遊詩人は同じ場所に座って、昨日と同じように詩を歌いました。
昨日と同じ場所に立っている兵士はとても感心しながら吟遊詩人の詩を聞いていました。なぜなら、吟遊詩人は同じ詩を一曲も歌わないからです。
そして、どの詩もとても上手に歌うからです。
「よくそんなにたくさんの詩を知ってるなー」
詩と詩の合間に兵士がそんな風に声を掛けました。
「旅をして色んな国を回りましたから。そこで色んな話を聞いて、色んなものを見ましたから」
「なるほど」
「おーい、次の詩はまだかー?」
うずうずした聴衆の一人がそう声を掛けると、吟遊詩人は嬉しそうにリュートを構えました。
今度はゆったりとした、優しい詩を歌おうと弦に指をかけて
「冬の女王様ぁー!!」
広場にいる全員が振り返る程の大声に驚いて止めてしまいました。
大声で叫んでいたのは鍛えられた体をした大柄な男でした。背中に大きな剣を背負った剣士です。
「北の山に恐ろしい魔物がいると聞きました!そして、その魔物が冬の女王様の力で凍えて力が出せない状態というのも!」
昨日この国に来たばかり吟遊詩人は初耳でしたが、兵士は知っていたようです。
「春になったら春の女王様のお力で眠らせてもらって、それから退治しようって軍で準備しているんだ」
と、こっそりと教えてくれました。
「冬の女王様は魔物が民を襲わないかと不安になっているとも聞きました!ご安心下さい!!」
そこで剣士は胸張って、背中の大きな剣を引き抜いて天に掲げながら大きな声で宣言しました。
「北の山の魔物は我が剣で見事に退治してみせましょう!!貴女様の不安を晴らしてみせましょう!!」
剣士はすぐに踵を返して歩き出してしまいました。宣言通りに北の山に向かうのでしょう。
周囲の人々は歓声を上げながら剣士に応援の声を掛けました。
「頑張れよ!」
「気を付けてね」
「北の山は凄く寒いから暖かくしないと大変だよ」
そんな中、吟遊詩人は慌てて立ち上がって剣士に駆け寄りました。
「待って下さい!」
剣士は振り返って駆け寄ってくる吟遊詩人を見ました。
「お願いがあります。私を一緒に連れて行って下さい」
「一緒に?手助けならばいらないが……」
「いいえ。私は吟遊詩人です。剣士さんと一緒に戦うような力はありません」
「ならば何故?王様の褒美を一緒に貰いたいからか?」
剣士は顔をしかめて言いました。
すると吟遊詩人はもう一度、いいえ、と首を振って答えました。
「私は旅をしながら色んな国に行って、色んな詩を集めています。そして、見たり聞いたりしたことを詩にしています。だから、剣士さんの活躍もこの目で見て、詩にしたいのです」
そして、吟遊詩人は塔の方を見ながら言葉を続けました。
「剣士さんの手柄を横取りなんてしません。私は『凄腕剣士の魔物退治』の詩を冬の女王様や色んな人に聞いてもらいたいだけです。もしも、私の詩を聞いて、冬の女王様が交替したなら、それは剣士さんが見事に魔物退治をしたからでしょう」
剣士が腕を組んで悩んでいると、塔の前で吟遊詩人の詩を聞いていた一人が言いました。
「旅の吟遊詩人さんの詩は本当に上手だよ。是非、魔物退治の詩も聞きたいな」
他の人々も、そうだそうだ、と肯くと剣士は、よし、と首を縦に振りました。
「ならばよろしく頼む。出来るだけ格好良く歌ってくれよ?」
「私は見た通りに歌うだけですので、格好良いかは剣士さん次第ですね」
「よーし、ならば我が剣の冴えをとくとご覧あれだ!今すぐ行くぞ!!」
「はい!」
北の山に向けて出発する二人を、周囲の人々は盛大な拍手で見送りました。
――――――――――――――――――――――――――――――
剣士と吟遊詩人は数日後の昼頃に塔の前に戻ってきました。
剣士は大きなソリを引いていて、ソリの上には巨大な魔物の亡骸が眠っています。
人々は熊の三倍以上は大きな魔物の姿にどよめきましたが、剣士は無言でソリを引いていました。
塔の前までソリを引いて来た剣士は立ち止まり、誇らし気に仁王立ちしました。しかし、無言のままで何も語ろうとはしません。
その横で吟遊詩人がリュートを構えます。語るのは彼の役目だからです。
吟遊詩人は深く冬の空気を吸い込みながら、力強くリュートを奏で始めました。
――それは剣士と魔物の死闘の詩。
――そこは北の山の中。冬の女王によって鎖された、吹雪の檻。
――魔物は決してそこから出ることは叶わない。
――厳しい吹雪を物ともせずに剣士は山の中を歩き、魔物の前に静かに立った。
――魔物は恐ろしい咆哮を上げた。
――それは歓喜の声。吹雪の中で見付けられなかった、血と肉がやって来たと悦ぶ魔物の声。
――どんな槍よりも鋭い牙を剝き出しにして、どんな剣よりも凶悪な爪を振り回しながら魔物が襲い掛かってくる。
――それは狼のように俊敏で、熊の何倍も力強く重い一撃。分厚い雪の絨毯を蹴散らし、岩をも砕く一撃。
――されど剣士は大きな剣を構えたまま、ひらり、ひらりと交わしていく。
――その顔に恐怖はない。目の前を通り過ぎる爪が掠るだけで血と肉をまき散らしてしまうのに、何も恐れる必要がないかのように。
――だが、魔物も知恵を持つ恐ろしい怪物。分厚い雪を爪で薙ぎ払い、雪煙で姿を隠し、ついに剣士へと爪の一撃をお見舞いする。
――まるで鉄と鉄を鳴らすような、恐ろしい音が北の山に轟く。剣士の鍛えられた体が木の葉のように舞う。
――止めを刺さんと魔物が走る。剣士の肉を喰らおうと牙を鳴らす。
――爪ではなく、牙で剣士の体を喰らおうと襲い掛かる。
――その時を、剣士は待っていた。
――わずかに出来た隙に、剣士が大剣による突きを放つ。
――見事、心の臓を貫かれた魔物は、一撃で討ち取られた。
「「「「「「「「ワァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」
ハラハラドキドキしながら、時折悲鳴を上げながら聞いていた人々から大きな歓声が上がりました。
皆が皆、大興奮で剣士と吟遊詩人に話し掛けました。中には魔物の亡骸を恐々と触る者もいます。
剣士は照れた様子で応え、吟遊詩人は笑顔で返しながら塔の大きな窓を見ていました。
塔の窓に冬の女王様の姿はありません。
「あっ!」
その時、誰かが空を指差して声を上げました。釣られて空を見上げるとキラキラと輝く氷の粒がゆっくりと降ってきました。
氷の粒は剣士の掌に舞い降りると、パキパキ、と音を立てて広がり、美しい氷の短剣となりました。
「そうか……」
剣士は複雑な表情で女王様の褒美を眺めて呟くと、顔を上げて口を開きました。
「冬の女王様ぁーー!!」
吟遊詩人や近くにいた人が思わず耳を塞ぐ程の大声でした。
「ありがとうございます!!お守りとして大事にさせて頂きます!!!!」
――パチパチパチパチ。
深々と頭を下げる剣士に塔の前にいる人々から拍手が送られました。
吟遊詩人も拍手を送りました。この数日間で、剣士がどれだけ真剣だったかを知っているので、慰めの言葉も詩も出てきませんでした。
頭を下げたままの剣士に、周囲の人々も何と声を掛けたら良いのか分からない様子です。
「申し訳ございません。少々宜しいでしょうか?」
そこに一人の男が近付いていきました。身形の良い男です。旅をして色んな人を見て来た吟遊詩人には彼が商人であることが何となくわかりました。
「あの人はこの国で一番の商人だよ」
それが正解だと、近くの人が教えてくれました。
商人は剣士に向かって笑顔で近付いていきます。剣士は仏頂面で商人を見ていました。
「剣士の方、どうか私めにこの魔物を売ってくださらないでしょうか?」
魔物の素材は色んな用途に使えます。
毛皮は服や鎧に。肉は美味しい料理に。骨や牙は彫り物や武器に。肝は薬に。
熊の三倍以上の大きさの魔物一匹分の素材となると、吟遊詩人が見たこともない大金が必要になります。
「別に構わないが、魔物の素材をどうするつもりだ?」
剣士がつっけんどんな態度で尋ねると、商人は笑顔で答えました。
「肉は保存食にしてお城に売ります。肝は薬師が予約をしております。毛皮と骨は……」
そこで商人は笑顔を深くして言いました。
「職人にコートやアクセサリーに仕立てて貰い、冬の女王様へ献上致します。勿論、王様からのご褒美は職人と山分けです」
「あー、そうかい。俺には金貨だけ渡してくれ」
ますます仏頂面になった剣士に商人は金貨が沢山入った袋を渡しました。剣士は袋の中身を確認せずに荷物に放り込むと、どこかへと歩き去ってしまいました。
その背中を見送った商人は、今度は吟遊詩人へと向き直って声を掛けました。
「先程は素晴らしい詩をありがとうございます」
「どうも……」
「貴方に御一つ提案があります。剣士の方の活躍を詩にしたように、職人の腕前も詩にして頂けないでしょうか?」
「なるほど」
その提案に吟遊詩人は考えました。この国一番の商人が貴重な魔物の素材を任せる職人ならば腕前も一流でしょう。
そんな職人の腕前は是非とも目で見て、詩にしたいと吟遊詩人は思いました。
そして、詩として職人のことが広まれば、職人の作品を買いたいと思う人が商人に注文するようになるかもしれません。どちらにとってもおいしい話となる訳です。
「勿論、滞在中の費用は私めが負担させて頂きます。食事はこの国の特産品をふんだんに使った料理をお楽しみ下さい」
「是非ともお願いします」
力強く首を縦に振った吟遊詩人に、周囲の野次馬は呆れた目を向けていました。
――――――――――――――――――――――――――――――
商人と吟遊詩人は数日後の昼頃に塔の前に戻ってきました。
二人の後ろには大きなソリを十人の男達が引いていて、ソリには大小様々な箱が積んであります。
塔の前に居た人々は大小様々な箱の中身が気になって、ヒソヒソと話し合っています。
商人は笑顔で立ったままです。普段は自ら語るのですが、今回ばかりは違います。
その横で吟遊詩人がリュートを構えます。
彼は詩を歌うのにお金を貰いましたが、詩を創ることではお金を貰いませんでした。詩を創ることでお金を貰ってしまえば、自分の好きなように詩を創れなくなると思っているからです。
その所為で、面倒事に遭うこともあるのですが、吟遊詩人は気にしていません。
吟遊詩人は深く冬の空気を吸い込みながら、軽快にリュートを奏で始めました。
――それは職人による魔法のような物造りの詩。
――魔物の素材、金銀の糸、種々様々な宝石、金銀のインゴット、上質な檜、等々。
――沢山の素材を前にして職人が最初にしたことは一つ。
――商人の頭に拳骨と雷を落とすこと。
――曰く、秘伝の秘を他人に見せろとはどう言う了見だ!
――商人はたんこぶを擦りながら口を開いた。
――回る回る。口が回り、言葉が流れ出て、いつの間にか職人は作業をすることに。あら不思議。
――ゴツゴツとした石ころがあら不思議。キラキラと輝く宝石に大変身。
――金塊銀塊が叩いて伸ばして捻じ曲げて、カリカリコリコリと指輪やネックレスやボタンに大変身。
――針が舞い、金の糸が踊る。チクチクチクチク。針が舞い、銀の糸が踊る。チクチクチクチク。
――大きな魔物の毛皮があっと言う間にコートに早変わり。
――太く力強い骨がカリカリキュキュっと女神様のご降臨。
――いつ眠っているのか、昼も夜もトンテンカンカン。チクチクチクチク。カリカリカリカリカリ。
――日が昇って沈んで、また昇って沈んで、昼も夜もトンテンカンカン。チクチクチクチク。カリカリカリカリカリ。
――箱まで仕上げて、職人の頑固爺さんも大満足。皺が一本無くなりました。
詩の途中で箱が一つ一つ開けられていきます。
人々は詩の内容に笑い、美しいアクセサリーにため息を零し、見事な毛皮のコートに目を輝かせ、真っ白な女神様の像に感動しました。
人々の反応に商人は笑顔で肯きました。
そして、塔の前に立つ兵士にお願いして、それらの品々を全て塔の中に運び込んでもらいました。
全ての品が塔の中に運び込まれるのを商人はじっと見ていました。顔は笑顔でしたが、数日間を一緒に過ごした吟遊詩人には緊張しているように見えました。
「あっ!」
暫くすると、冬空から氷の華が降ってきました。それも一つだけではなく、沢山降ってきました。
人々は喜んで氷の華を捕まえて、袋にしまったり、食べたりしました。
「そうですか……」
ただ一人、商人は複雑な表情で女王様の褒美を眺めて呟くと、顔を上げて口を開きました。
「それでは皆さん!何か御入用になりましたら、我が商会を是非ともよろしくお願い致します!!」
――――パチパチパチパチ。
優雅に頭を下げる商人に塔の前にいる人々から拍手が送られました。
吟遊詩人も拍手をしながら、塔の大きな窓を見つめていました。
冬の女王様は塔から出てきませんでした。
――――――――――――――――――――――――――――――
それから毎日、吟遊詩人は塔の前で詩を歌いました。
リクエストに応えながら色々な詩を歌います。
特に人気なのが剣士の魔物退治の詩です。
そうして詩を歌いながら時折塔の大きな窓を見上げることを繰り返していました。
「冬の女王様に申し上げます!」
ある時、魔法使いの格好をした男が塔の前で大きな声を上げました。
王様のお触れが出た後ではよくある光景なのですが、今回は周囲の人々は首を傾げました。
「■■■■■■、■■■■■■■■■■■」
魔法使いはとても古い言葉を使っているので、何と言っているのか誰も分からないからです。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
魔法使いの言葉が終わるとすぐに氷の粒が魔法使いの頭上に落ちてきました。
氷の粒が魔法使いの頭に落ちると、パキパキと音を立てて魔法使いの体が凍り付き、氷像へと変わってしまいました。
「■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■」
周囲の人々が声もなく驚いていると、塔の大きな窓から美しい女性の声が掛けられました。冬の女王様の声でした。
「■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■?■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■」
しかし、女王様もとても古い言葉で喋っていたので、何と言っているかやっぱり分かりませんでした。
そんな中、吟遊詩人はリュートを構えて、静かに歌い始めました。
――それは愚かな魔法使いの詩。
――魔法使いは冬の女王様へと言いました。
――私は貴女様へ清らかな乙女の心臓を生贄として捧げましょう。
――貴女様の為ならば百人でも千人でも生贄として捧げましょう。
――冬の女王様は怒って魔法使いを氷漬け。
――私は生贄なんて欲しくない。お前は頭を冷やして反省しなさい。
――嗚呼、どうして誰も私の欲しいものをくれないの?それがあれば、私はすぐにでも春と交替するのに。
吟遊詩人が歌い終わると、人々は塔の窓と魔法使いの氷像を見比べて混乱してしまいました。
どうしたものかと困っている中で、兵士が慌てて吟遊詩人に問い質しました。
「お前さんはさっき魔法使いが言っていたことが分かるのか?さっきの詩は本当か?」
その問にはい、と吟遊詩人は肯きました。
それを確認すると兵士の一人が慌ててお城に走って行きました。
そして、すぐに数人の兵士と大きなソリを一緒に連れて戻ってきました。
魔法使いは氷漬けにされたままお城に運ばれて、地下牢に入れられてしまいました。
人々は悪い魔法使いに怒っていましたが、冬の女王様の欲しいものとは何だろう、と首を傾げて考え出したのですぐに忘れられてしまいました。
ある人はとても綺麗な宝石では?と考えました。
ある人はとても美味しい料理では?と考えました。
ある人はもしかしたら心満たされる恋人かもしれない、と考えました。
色々な意見が出ましたが、結局、誰も冬の女王様が欲しいものは分かりませんでした。
――――――――――――――――――――――――――――――
その後も変わらず、吟遊詩人は毎日塔の前で詩を歌いました。
例の『冬の女王様の欲しいもの』の噂はすぐに国中に広がりました。
だから色々な物が塔へと持ち込まれています。
大きな宝石。珍しい花。美しい景色を描いた絵。暖かな料理。等々。
しかし、一向に冬の女王様は春の女王様と交替はしませんでした。
――バサバサバサバサッ。
「ん?」
そんなある時、吟遊詩人の頭上に何かが舞い降りてきました。
それは二羽の小鳥でした。ツグミです。
二羽のツグミは慌しく翼を羽ばたかせながら、一直線に吟遊詩人に襲い掛かってきました。
「お前かー!!」
「冬の女王様を泣かせたのは!?」
いきなり小さな嘴と小さな爪に攻撃されて吟遊詩人はたまらず悲鳴を上げました。
――ピーチクパーチク!
「痛い痛い止めてくれ!」
――ビシビシ!ゲシゲシ!
「目をつつかないで!痛い痛い!」
――エイエイ!コノコノ!
「リュートだけは本当に止めて下さい!お願いします!」
吟遊詩人が情けなく降伏すると、二羽は漸く攻撃を止めてくれました。
「お前か!冬の女王様を泣かせたのは!?」
「お前だな!冬の女王様が泣いていたぞ!!」
しかし、ツグミ達はとても怒ったままでした。
勿論、吟遊詩人には心当たりがありませんでした。
「それは一体、どういうことですか?」
「お前の詩を聞きながら、冬の女王様が泣いていたぞ!」
「誰も私を必要としない、もう冬が来ない方が良いんだ、と泣いていたぞ!」
ツグミ達は口々に文句を言いました。
「「お前が冬の女王様を虐めたのか!?」」
「違います。誰も冬の女王様を虐めたりなんかしていません」
「「じゃあ、どうして冬の女王様が泣いているんだ!?」」
ツグミ達の可愛らしい怒鳴り声に吟遊詩人はふむ、と考え込みました。もしかしたら、と思うことがあります。
「なあ、お前さん。大丈夫か?」
その時、顔馴染となった兵士が心配そうに声を掛けてくれました。彼はツグミ達の言葉が分かりませんでした。
なので、いきなり小鳥が襲い掛かってきて混乱しているようでした。
「いえ、誤解があったようですが、解決したので大丈夫です」
「そうか?ならいいが」
兵士は変な顔をして持ち場に戻りました。
吟遊詩人はツグミ達に向き直ると真剣な表情で一つの質問と一つのお願いをしました。
「「そんな訳あるか!!」」
ツグミ達は質問に再び激怒しました。しかし、お願いを聞くと首を傾げてしまいました。
「それで冬の女王様は泣き止むか?」
「それで冬の女王様は喜ぶのか?」
はい、と吟遊詩人が肯きました。
そして、もう一つお願いをしました。
「「よし!任せとけ!」」
ツグミ達は力強く胸を張ると、冬空に向かって羽ばたいていきました。
その姿を見送ると、吟遊詩人も立ち上がり、敷物を畳み始めました。
リュートも袋に入れると、塔を見上げました。
塔の大きな窓から冬の女王様の姿を見ることは出来ませんでした。
――――――――――――――――――――――――――――――
それから吟遊詩人はこの国に来てから知り合った人々の下を訪れて一つの質問と一つのお願いして回りました。
質問をした時の反応は様々でした。
ツグミ達のように怒る人、訳が分からないと疑問に思う人、どうして冬の女王様が出て来なくなったのか分かった人。等々。
しかし、お願いした時の反応は一つだけでした。
皆、首を縦に振って了承してくれました。
――――――――――――――――――――――――――――――
十日後、塔の前には沢山の人が集まっていました。
吟遊詩人がこの国で知り合った人達に声を掛け、その人達が家族や友人、隣人に声を掛けて沢山の人が集まったのです。
人々の一番前に来た吟遊詩人はリュートを構えました。こんなにも沢山の人達の前で詩を歌うのは初めてで、少し緊張してしまいます。
吟遊詩人は冬の空気を深く吸い込んで歌い始めました。
その歌声は透き通るように冬空に響き、柔らかく人々の耳と胸に届きました。
――それは冬の女王様へ捧げる感謝の詩。
――ありがとう。ありがとう。
――森の木々は感謝します。
――貴女が沢山雪を降らせてくれるお陰で、暑い夏に雪解け水で干乾びる心配がありません。
――ありがとう。ありがとう。
――湖の魚達は感謝します。
――貴女が湖を凍らせてくれるお陰で、冬の間は人間達の網を警戒しなくて済みます。
――ありがとう。ありがとう。
――野兎達は感謝します。
――雪が巣穴を隠してくれるお陰で、狼から隠れられます。
――ありがとう。ありがとう。
――狼達は感謝します。
――吹雪が自分達の姿を覆い隠してくれるお陰で、獲物に近付くことが出来ます。
――ありがとう。ありがとう。
――虫達が感謝します。
――大地を雪で隠してくれるお陰で、安心して蛹のまま眠ることが出来ます。
――ありがとう。ありがとう。
――ツグミ達が感謝します。
――凍てつく大地から渡って来た自分達が快適に過ごせるのは貴女のお陰です。
――ありがとう。ありがとう。
――鳥も、虫も、獣も、魚も、草木も、全ての生き物が貴女に感謝しています。
――もう一度、貴女に感謝させて下さい。
――ありがとう。
それはツグミ達が集めた感謝の言葉でした。ツグミ達は人以外の生き物に吟遊詩人の代わりに声を掛けて回ったのです。
詩が終わると同時に塔の前に集まった人達が口々に叫びました。
皆が皆、冬の女王様への感謝の言葉を口にしています。少しでも自分の言葉が届くようにと一生懸命に叫んでいます。
「厳しい冬の中で訓練したお陰で強くなれました!!ありがとうございます!!」
と、剣士が大声で叫んでいました。
「湖が凍っているお陰で、冬の間はソリを使って安く多くの物が運べます。ありがとうございます」
と、商人が丁寧に頭を下げていました。
「雪の下で寝かしたお陰で、家の野菜は甘くて美味しくなりました!是非食べてみてください!」
と、農家の男が自慢の野菜を持ち上げていました。
「冬の美しい景色が沢山あって、どれから描こうか迷ってしまいます。ありがとうございます」
と、画家の男は小さな声で言っていました。
「「「「ふゆの、じょーおーさま!ゆきが、たくさんで、いっぱい、遊べます!ソリに、スキーに、雪だるまに、雪合戦で、とても、楽しいです!」」」」
と、子供達が元気良く声をそろえていました。
その時、塔の大きな窓から一人の女性が姿を現しました。冬の女王様です。
その姿があまりにも美しいので、吟遊詩人は詩にすることも忘れて見惚れてしまいました。
冬の女王様が口を開くと、塔の前の皆は口を閉ざして聞き入りました。
「私は、冬は皆さんに嫌われていると思っていました。皆さんはいつもいつも、春はまだか、春はまだか、と言っていたから」
冬の女王様の目には涙が浮かんでいました。
「だから、私は、冬は、もう訪れない方が良いのではないかとそう思いました」
しかし、その悩みを打ち明けられた春の女王様は冬の女王様にこう言ったそうです。
『ならこうしましょう。冬と春の交替を延期するのです。そうすれば、冬の女王がどれだけ愛されているのかが分かりますわ』
そうして冬と春は交替せず、王様はお触れを出して、国中の人達が冬の女王様の為に奔走したのでした。
「最初は、早く春と交替して欲しいからこんなに一生懸命だと思いました。でも、今日のことでそうじゃないって分かりました」
そこで冬の女王様は一つ問を投げかけました。
「私は、冬は、また訪れても良いのでしょうか?」
――もちろんです!!
人々は声をそろえて答えました。
冬の女王様は本当に嬉しそうに笑いました。とても綺麗な微笑みです。
「まあ、やっと分かってくれたのね」
突然の声に驚いて吟遊詩人が振り返ると、大きくて立派な馬車が塔の前の広場に入ってきました。
馬車は塔の前で止まると、中から男性と美しい女性が一人ずつ降りてきました。
この国の王様と春の女王様です。
「それで私、春の女王は冬の女王と交替して、塔に入ってもよろしいのですか?」
「はい、長い間、ご迷惑をお掛けしました」
冬の女王が心底申し訳なさそうに頭を下げると、春の女王は笑顔で言いました。
「いいえ、貴女の気持ちもよく分かります。皆さんはとても我儘ですので、私の時も夏はまだか、夏はまだか、と言っているのですよ?勿論、夏の時も、秋の時も」
そう言って、春の女王様はぐるりと周囲の人達の顔を見回しました。皆、心当たりがあるのか気まずそうに視線を逸らしていました。
「オッホン。それでは見事、冬の女王と春の女王を交替させてくれた吟遊詩人に褒美を取らせよう。何か望みはあるかな?」
王様は春の女王様と視線を合わせないように吟遊詩人に問いかけました。
吟遊詩人は考える様子もなく答えました。
「それでは祭りを開いて頂きたいです」
「ふむ、祭りかね?」
「はい。季節が巡る時、女王様が交替する時に祭りを開いて欲しいのです。その祭りの中で詩を歌えるならば、それだけで私にとっては褒美となります」
なるほど、と肯いた王様は商人の方に視線を向けました。商人は笑顔で二人の話を聞いていました。
「まあ、今回の祭りは既に準備されとるみたいだが、よかろう」
王様は国中に宣言するような大きな声で言いました。
「年に四度!季節の廻りを感謝する祭りを開催することを決定する!我が民達よ!存分に飲んで、騒いで、楽しみ給え!」
「「「「「「「「ワァアアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」
そして祭りが始まりました。
これは吟遊詩人が商人の下を訪ねた時に、お願いを聞いた商人が思いついたことでした。
そして、商人はたった十日で祭りの準備を済ませてしまったのです。王様が見抜いた通りでした。
皆、大いに飲んで、騒いで、楽しみました。
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それから四季の国では年に四回、季節の廻りを感謝する祭りが執り行われるようになりました。
それまで塔の中にいた女王様に感謝して、新しく塔に入る女王様をお迎えする祭りです。
国中で祝う盛大な祭りになりました。
旅をしていた吟遊詩人は、冬だけでなく、春も、夏も、秋も気に入り、この国で詩を歌って暮らすことにしました。
彼が歌った感謝の詩は、いつまでも歌われることになりました。
吟遊詩人はこの国で知り合った人々に一つの質問と一つのお願いをしました。
「冬の女王様は嫌いですか?」
と言う質問と、
「好きなら、感謝の言葉を伝えて下さい」
と言うお願いを。