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惨劇の館 ~異世界転生した私~

作者: 8D
掲載日:2016/12/04

 ふと思いつき、書いてみた話です。

 私は異世界転生した日本人(♀)である。


 会社からの帰り道、ビルから落ちてきた鉄骨の下敷きになって死んでしまった哀れなアラサー一歩手前の乙女だ。


 そして異世界の転生先であるが、ある貴族の令嬢だった。

 ただし、それは生前の事だ。


 何を言っているのかわからないかもしれないが、私は今の所、事実しか話していない。


 どういう事か簡単に説明すれば――


 転生先の貴族令嬢の父親は政敵に負け、あらぬ汚名を着せられてしまった。

 没落の憂き目に合う事を恐れた父親は、家族全員と無理心中を図った。

 私を含めた家人、母も使用人達も全員を切り殺し、父も自殺した。

 そんな家人達の恨みつらみが私に集まり、私は悪霊化した。

 悪霊になった私は何十年もの間、館に訪れる者を襲って生気を吸って餌食にしていた。

 ハッと唐突に前世の記憶を思い出した。←今ここ。


 せっかくならば生前に思い出せよ。

 と思わずにはいられない。


 死んで生まれ変わって、気付いたら死んでたとか意味がわからんのですが。


 せめて生きていれば、父の政敵やらを相手に現代知識などを駆使して八面六臂の大活躍で死を免れる事もできたのに。

 死んだ後に思い出したら何もできんじゃないですか。


 なら人外転生という事で人間以上の力で世界を舞台に大活躍してやろう。


 なんて意気込んでみても、どうやら私は自縛霊らしい。

 この館から外へ出て行けない。

 今の私は館最強の生物でしかないのである。


 生物じゃないけどね……。


 なので私は、たまに迷い込んでくる人間をびびらせる事を生き甲斐にして今日も館をうろうろしているわけである。


 ちなみにここへ訪れた人間は、死なない程度に生気を吸って玄関に捨てている。


 幽霊とはいえ、生気をいただかなければいずれ死ぬ。

 吸わねば生きていけないのだ。

 けれど流石に殺すのは可哀相なので、死なない程度なのだ。


 生気なんて人間一人から半分ほど吸えば、二、三年は何も食べなくても生きていける。

 切羽詰れば、館に巣を作ったネズミから吸ってやればいい。

 ただ、美味しくないからできれば人間がいい。


 ちなみに最近の私の趣味は、いかにして人間を恐がらせるかという事だったりする。


 そんなある日の事だ。


 五人組の男女が館に訪れた。


 みんな体が濡れていた。

 外は雨だ。

 雨宿りに入り込んだのだろう。


 美少女一人とイケメン男性四人だ。

 逆ハーレムパーティである。


 女性は前世で言う所のシスターみたいな格好をしている。


 他四人の男性はといえば――


 洋風の法衣を着た優男。

 軽装の鎧に身を包んだ精悍な顔つきの男。

 ガラの悪そうなヤンキーみたいな男。

 ショタ男子。


 という内訳となっている。


 ふふふ。

 これが私の今日の獲物か。

 腕が鳴る。


 はぐれた奴から一人ずつ脅かしてやろう。


 などと思っていたら、おあつらえ向きにそれぞれ別れて館を探索し始めた。


 しめしめ、一人ずつ私の絶叫ホラーテクニックで恐怖のどん底へ叩き落してやるぜ。




 まず狙うのは、法衣を着た優男からだ。

 一人きりになった優男をこっそりとつけ狙う。


 あいつは見るからに神職者だ。

 となれば、悪霊を払う力を持っているに違いない。


 この館に訪れた人間達の中には、あれ同じ法衣を着た神職者もいた。

 そういった人間は、みんな悪霊を払う法力を持っていた。


 し・か・し、私には通用しない。

 この館で死んだみんなの怨念おもいを託された私にとって、神職者の法力など屁でもないのだ。


 そして、神職者らしきこの優男はあの連中の中で一番悪霊へ対抗する力が強いはずだ。

 ならば、一番頼りになるはずであろうこの男を真っ先に倒してしまう事で、仲間達の不安を煽る事が期待できる。


 他の連中を恐怖へ陥れやすくなるのだ!


 さぁ、襲い掛かってやろう。


 そう思った時だ。


 館に住み着いた低級霊が私よりも先に優男へ襲い掛かった。


 低級霊は私の力におびき寄せられて集った、意識の無い霊体の事である。


「これは、邪気!」


 優男が低級霊に気付き、手をかざした。


 そして……。


 かざされた両手から法力の光が発射された。


 その光を受け、低級霊が蒸発した。

 そう、蒸発したのである。


 光が途切れると、そこには何も残らなかった。


 どうやらこの男は、私が今まで相手をしてきた神職者とは比べ物にならないくらい、桁外れに強い法力を持っているようだった。


 今までの神職者の法力が水鉄砲だとするならば、この優男の法力はもはやメガ粒子砲である。

 光学兵器だ。


 これはやめよう。

 私は別の相手を襲う事にした。




 次に選んだのは、鎧を着た男である。


 男は見るからに武闘派だ。

 身長も高く、肉体的にかなり強そうだ。

 他の男達と比べても、頼もしさが違う。

 顔つきも真面目そうで、頼りがいの塊みたいな男だ。

 きっと連中の中でも支柱となる人間に違いない。


 そんな人間がやられれば、奴らもきっと不安になってパニックに陥る事受けあいだ。


 私は彼に襲いかかろうとした。


 その時である。


「むっ!」


 彼の胸から剣の柄らしき物が飛び出した。


 何か出たっ!


 彼はその柄を手に取り、抜き出した。


「私の中の聖剣が反応している?」


 聖剣?


「私は幼少期の頃。この聖剣に選ばれて以来、邪悪な存在が近付くと体に収まった聖剣が飛び出すようになった」


 なんか語りだした。


「これが飛び出したという事は、きっとそばに邪悪な存在がいるに違いない。さぁ来い! 邪悪なものよ! この聖剣には、邪悪な存在を打ち消す力が宿っているのだ」


 誰が行くか。

 それ聞いて飛び出す奴っているの?


 私は彼も諦める事にした。




 私が次に選んだのは、ヤンキーみたいな奴だ。


 選んだ理由?

 何か頭悪そうだからこいつでいいやと思った。

 ホラー映画でも、だいたいヤンキーとかガラの悪いのが真っ先にやられるし。


 こいつならなんとかなるでしょう。


 私はヤンキーに襲いかかろうとする。


 すると、ヤンキーは何かに気付いてこちらへ向いた。

 私は咄嗟に身を隠す。


「ちっ、気のせいか」


 勘が鋭いな。

 頭使うの苦手そうだから、その分野生の勘が鋭いのかな?


「悪霊だと思ったんだけどな」


 当たりです。

 野生ヤンキーの勘、パネェす。


「ま、何が来ようが俺の聖拳術の相手じゃねぇか」


 聖拳術?


「聖拳術は教会の法師達が編み出した拳法だ」


 何か語りだした。

 お前もか。


「武器を持つ事を許されない法師達の自衛の手段でありながら、法力を込めた拳で打つ事により法力の少ない人間でも強力な悪霊を払う事ができる技術だ」


 へぇ。


「どんな相手が来ても、タコ殴りにしてやるぜ!」


 何か今までの中で一番相手したくない。


 ビームや剣なら一撃で消滅しそうだが、これは消滅するまでぐっちゃぐっちゃと何度も殴られそうで嫌だ。


 私はこの男も諦める事にした。




 次に私が狙ったのは、ショタっ子である。


 この子は玄関ホールにいた時、ずっと怯えていた。

 シスターの女の子にべったりで、最後まで離れたがらなかった。

 それをあのヤンキーが引き離したのである。


 この子なら絶対に恐がってくれるだろう。


 正直に言えば、この子は最後に狙いたかった。

 何故って?

 ショタっ子がたった一人残されて、恐怖で涙目になりヒィヒィ言う所が見たかったからだよ。


 もうこの際、この子が泣き喚く姿さえ見られればいいや。

 それで満足しよう。


 そう思い、げへへと内心で笑いながら、少年に近付こうとした。


 その時である。

 再び、低級霊が私よりも先にショタっ子へ襲い掛かる。


 ショタっ子が低級霊に気付いたのか、そちらに振り返った。

 ショタっ子が低級霊を睨みつける。


 もしや、この子も悪霊に対して何か対抗手段を持っているのだろうか?


 でなければ、こうして一人で行動させるような事はしないか。


 物語でも、一件して一番役に立たなさそうな奴が最後に活躍したりするのだ。

 この人畜無害そうなショタっ子にも潜在能力があるに違いない。


 実は神職者の候補生で、法力が並よりも強い体質だ、とか。


 さぁ、何をするんだ?


 そう思って見ていると、ショタっ子の両目から赤い光線が放たれた。


 意外!

 眼からビーム!


「ふん、雑魚が」


 見た目の可愛らしさにあるまじき台詞を履く。


「本当は、あいつのそばにいてやりたかったんだがな。俺はあいつを守るために、こんな姿でいるっていうのに……」


 言うと、ショタっ子の背中から黒い蝙蝠みたいな羽が生える。


「俺は幼い頃、あいつに命を助けられた悪魔だ」


 例によって語りだす。

 もう慣れた。


「その時の恩を返すために、子供の姿であいつのそばにいる。俺はあいつをどんなものからも守ってやるつもりだ。たとえ、あいつが悪魔の天敵である神職者だったとしても……」


 へぇ。

 さっきからみんな私に優しいな。

 生まれた疑問が軒並み解けていくよ。


「だから悪霊がいるんなら、さっさとぶっ殺して合流したいもんだぜ。そばにいなきゃ、守れねぇからな」


 流石に、悪魔には勝てないな。

 悪魔とか、潜在能力高過ぎぃ。


 私はショタっ子悪魔を諦めた。




 最後に残ったのは、シスターのみ。


 さぁ、こいつはどんな力を持っているんだ?

 法力か?

 聖剣か?

 聖剣術か?

 実は天使とか?


 そんな事を考えながら、一人でいるシスターの様子を見る。


「おっかしいなぁ」


 シスターが独り言を口にし始める。


「本当だったら、もうそろそろ悪霊に襲われるはずなんだけどなぁ……」


 なんですと?

 私に襲われるの待ってる?


「乙女ゲームと同じ展開なら、悪霊が出てきて主人公である私を襲うはずなのに……」


 んー……。

 その口ぶりからすると、このシスターは乙女ゲームの世界に主人公として転生してきちゃった系の人かな?


 そうなんだ。

 この世界、乙女ゲームだったのか。

 今まで知らなかった。


「で、その時に一番好感度の高い相手が助けに来てくれるはずなんだけどなぁ……」


 ……つまり、この子を襲うとあの四人の誰かが駆けつけて、私は当て馬にされる、という事か……。


 ふぅん。

 そうなんだ……。




 私はその日、何もせずに帰る事にした。

 主人公のフラグのために死ぬとかまっぴらである。


 住処で不貞寝していると、雨が上がって連中は帰っていった。

 奴らには二度と来ないでほしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 館最強の悪霊……でもなんでもなかったよ…… [一言] このイベントで浄化されなかったらあとは永遠に放置プレイじゃないスか
[良い点] 立場と視点が変われば価値観も189度くらい変わるというためになるお話ですね [一言] どうも作者様のキャラは性的指向は大凡マトモで性癖がアレな主人公がお好きなようでw。 こっそりこの独り言…
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