第二十四話 トスオ王国に巣食う悪魔 その10
「お、終わったの?」
「……うん。終わったよ」
「本当? 良かった……ヒメ?」
ヒメは音も無くフィッツェに近づくと、右手を彼女に翳す。
その右手から光が溢れ、フィッツェはとても気持ちが落ち着いて目蓋が重くなっていく。
「何だろう。すごい眠いよ……ヒメ」
フィッツェは突然その場に座り込んで気絶する様に深く眠ってしまう。
この数時間、一生かけても味わえないような体験をした彼女を労わる為にヒメの中のもう一人が彼女を安らかな眠りに導いたのだった。
「少しお休みなさい。貴女はよく頑張りました」
ヒメはフィッツェの髪を優しく撫でるとクロの元に向かう。
クロはアスタロトの遺体の前に佇んでいた。
ヒツギはその傍らに落ちている。
「ヒメ……いやお前か」
「はい。これからする事は私にしか出来ない事ですから」
「そうだな……頼む」
クロは一歩下がってその場を譲る。その動きは、一歩歩くごとに激痛が走るかの様にとても苦しそうだった。
ヒメはアスタロトの遺体の前に立つ。
アスタロトが纏っていた魔法の鎧は消え去り美しかった裸身を晒している。だがその頭部は無残に潰れていた。
「アスタロト……」
ヒメは遺体に語りかける。
「貴女がそこにいるのは分かっています。ですが、その身体は貴女のではありません」
「ググッ、貴様!」
ヒメの言葉に遺体から返事が返ってくる。
「私ヲ、ドウスル気ダ?」
「貴女をここに封じ込めます。貴女の持つ力ごと」
ヒメは右手の人差し指にはめてある指輪の宝玉をアスタロトに向ける。
「何ダソレハ……?」
アスタロトはハッと気づく。自分がその指輪の宝玉に段々と吸い込まれている事に。
「嫌ダ! ソンナ所ニ閉ジ込メナイデ! 止メロ! エレニ……」
最後まで言葉を言い切れずにアスタロトの魂とその力の全ては、涙を流すヒメの指輪の宝玉に完全に吸い込まれた。
「さようなら。アスタロト」
ヒメはアスタロトを封じ込めた指輪をソッと左手で包み込む。
透明だった宝玉は熟した桃色の魂の色に変わっていた。
ヒメはアスタロトの魂が乗っ取っていた遺体の両手を組ませる。
「辛かったでしょう。貴女も安らかに眠って下さいね」
そう身体の持ち主の魂に語りかけるのだった。
「終わったか?」
「はい。終わりました」
「……そうか」
そう言ってクロの身体は、力が抜けるように仰向けに倒れた。
「……大丈夫?」
ヒメが慌ててクロの元に駆け寄る。
「大丈夫、だ」
クロはそう言って立ち上がろうとするが、再び倒れてしまう。喋るのも一苦労な様子だった。
「やはり、この身体にとっても、ミスリルの力はきついな」
「……諸刃の剣?」
「その、通りだな」
笑おうとしたが、声が出せず身体を震わせるだけだった。
クロはヒメの顔を見つめる。
「ヒメ……アレをしてくれないか?」
ヒメもまたクロを見つめていた。
「……分かった」
ヒメは辺りを探して近くに落ちていた短剣を左手に持ち、切っ先を右の掌に押し付けて薄く切る。
「んっ……」
ヒメは痛みを押し殺し短剣を捨てて掌を上に向けて少し待つ。
するとジワジワと掌の傷から血が溢れたまる。
「……いくよ?」
「ああ」
ヒメはクロの兜に狙いを付けて、自らの血を垂らす。
ポタポタとヒメの血液はクロの兜を赤く染めていくが、それも一瞬の事で兜が赤い液体を吸い込んでいくのだった。
「う〜ん」
フィッツェは目を覚ます。
「……お母さん?」
とても温かい存在に抱きしめられていた心地よい夢を見ていた様な気がするがよく覚えていなかった。
目蓋を開けて最初に飛び込んできたのは、黒い鎧と金髪の少女だった。
(クロ、ヒメ?)
フィッツェは寝ぼけ眼で二人の様子を見ていた。
(クロも疲れちゃったのかな? こんな所で寝ると風邪ひいちゃうよ。ヒメ早く起こしてあげて)
フィッツェは寝ぼけていたので、クロが寝ていて、ヒメが起こしている様に見えていた。
しばらく見ていると、寝ているクロにヒメが近づき、膝枕をして右手で兜を撫ででいた。
それはまるで母親の膝枕に顔を埋める子供の様だった。
(結局寝かしちゃうんだ。二人とも仲良くていいな)
フィッツェの目蓋が再び重くなる。
(私も、もう少し寝よう。さっきの夢の続き見れるかな……)
フィッツェはまた夢の世界に戻っていくのだった。
「助かった。ヒメ」
血を分け与えられチカラを取り戻したクロはヒメの膝から頭を上げる。
「……もういいの?」
「ああ、身体にチカラが戻ってきた……どうした?」
ヒメが何処か不満そうな顔をしていたのをクロが覗き込む。
「すまん。血を貰いすぎたか?」
「……ううん。何でもない」
「そうか。じゃあヒツギを頼むぞ」
「……うん」
「俺は……彼女に何か、かけるものを探してくる」
そう言ってクロは床の絨毯を剥がし、アスタロトが乗っ取っていた身体を隠すためにそれをかけてヒメの元に向かう。
「用意はできたか?」
「……うん。大丈夫」
ヒメはヒツギを背負いクロに近づく。
「じゃあここから離れるぞ」
「……フィッツェは?」
「俺がおぶっていく。流石にここに置いていく訳にもいかないからな」
クロはそう言って血と遺体で足の踏み場もなくなった玄関ホールを見渡す。
「……分かった。あ、彼女が話したい事があるって」
「変わってくれ」
「あの、もし時間があるのなら彼等の魂を天に導いてあげたいのですが……」
ヒメが言っているのはどうやらベギーアの指示で攫われた十代の少年少女達のことを指していた。
「…………」
「他の人は自分が死んだということを受け入れています。けど幼い魂達は自分たちの身に何が起きたのか理解していません。いえ分かりたくないのです。このままでは永遠に彷徨うことになります。
もう彼らは蘇る事は出来ません。ですから新しい人生を歩む為に天に導いて上げたいのです」
その言葉を聞いてクロは何も言わずにただ頷く。
「あ、ありがとう御座います。すぐ済みますのでお二人は外で待っていてもらっても宜しいですか?……その、近くにいると二人の魂も天に昇ってしまうので……」
「それは困る。じゃあ外にいるから早めに終わらしてくれ」
クロは寝ているフィッツェをおんぶし、玄関から外に向かう。その途中で床に落ちていた二振りのプラーミェを拾っておくのも忘れなかった。
「はい。すぐ済みますので」
ヒメはクロの背中にそう返事をして、振り返る。
ヒメの目には、殺されて身体を乗っ取られた魂達が必死に自分の身体に戻ろうとしている光景がはっきりと見えていた。
その顔は怒りや憎しみといった負の感情で醜く歪んでいた。
「皆聞きなさい!」
ヒメが両手を広げながら魂達に話しかける。
自分の身体に何とか戻ろうともがいていた彼等の目がフィッツェを捉える。
魂達はヒメに呪いの言葉をぶつけてきた。
「何故オ前ハ生キテイルンダ? 」
「僕ノバラバラノ身体ヲ元ニ戻セ!」
「オ母サンニ会イタイヨ……早ク会ワセロ!」
その死者達の必死な願いは常人ならば発狂しそうなそれを、ヒメは一身に受け止める。
「それは出来ないのです。貴方達はこれから新しい人生を歩んでいくために私が天に導きます。ここにいては駄目!」
ヒメの言葉に死者達は皆黙り、代わりに聞こえてきたのは誰かの泣きじゃくる声だった。
「僕達ハ、モウ死ンジャッタノ?」
「ええ。貴方達は……もう死んでしまったのです」
「モウ、オ母サンニハ会エナイノ?」
「いいえ。私の力で、お別れの挨拶が……出来るようにしてあげますからね」
いつの間にかヒメの目にも涙が溢れ、嗚咽を漏らしていた。
「ごめんなさい。私が泣いていては、いけませんね」
涙を拭ったヒメは光の柱を立てる。
「さあ、みんな私が立てたこの光の中においでなさい」
光の柱にヒメが魂達を誘い、少年少女達は次々とその柱の中に集まっていく。
「みんな入りましたね?」
「「「はい!」」」
魂達は元気よく返事を返す。
「いい返事です。さあ、みんなこの光をのぼりなさい。途中でお別れの挨拶も忘れないでね。そして新しい人生を迎えてください」
「ありがとう」
「嫌なことを言ってごめんなさい」
「ありがとう女神様」
「さようなら。無垢なる魂達。貴方達が来世で幸せになる事を私は祈っています」
ヒメはすべての魂が天に昇っていくのを見守るのだった。
クロがフィッツェをおんぶしたまま館の外で待っていると突如光の柱が空に伸びた。
「どうやら終わった様だな」
そう呟いた直後、ヒメが外に出てくる。
「……終わったよ」
「ご苦労様。彼女はどうしてる?」
「……疲れたから少し眠るみたい」
「そうか……」
「……まだやることがあるみたい」
そう言ってヒメは、幸せそうな寝顔のフィッツェを見つめる。
「なら、フィッツェの事は彼女に任せよう」
「……うん」
その後二人は無言で森を抜け館を目指すのだった。
「フィッツェ、フィッツェ」
フィッツェは自分を呼ぶ声に気づき目を覚ます。
「ここは……何処?」
フィッツェが辺りを見回すとそこは温かくて心地よい白い空間だった。
何処かは分からなかったが、不思議と嫌な気持ちは湧かず、安心できる場所だとは知覚できていた。
すると目の前に光が溢れそれが女性の形になる。
「貴女は……」
フィッツェは初対面だったがその女性が誰か分かっていた。
「エレニス様、貴女は女神エレニス様なのですね」
何も言わない光の女性と同じ目線になる為にフィッツェは立ち上がった。
「貴女はエレニス様ですよね。答えて下さい」
返事が返ってこないのでついフィッツェも声を荒げてしまう。
「答えて下さい!」
「はい。貴女の言うとおり、私はエレニスです」
フィッツェはエレニスを前にして、思いが溢れ出し止めることができなかった。
「今まで見ていたのなら何故助けに来てくれなかったのですか? 貴女がもっと早く私達の元に現れてくだされば、隊長や先輩達、犠牲になったみんなだって助かったかもしれないのに……」
フィッツェの溢れる思いをエレニスは黙って聞き続ける。
フィッツェもまた止まりそうになかった。
「何故あの悪魔を今まで野放しにしていたのですか? 悪魔は全て封じられたのではないのですか! エレニス様答えて下さい!」
エレニスは重い口を開き言葉を紡ぎ出す。
「今から貴女に全てを話します。私の事、封じられた悪魔達の事、そして悪魔達に復讐を誓った二人の人物の事。知りたいですか? 知れば貴女はもう戻れませんよ」
「知りたいです」
フィッツェの返事は即答だった。
「私は知りたい。いえ、知っておくべきだと思うんです」
フィッツェは知りたかった。特にあの二人、黒い鎧と棺を背負った姫の事を。
「分かりました。ではお話ししましょう。今から二百年前の事です……」
エレニスは静かにフィッツェに知っている全てを話していくのだった。
同じ頃、エレニス達がいる白い空間とは対照的な闇の空間で四つの魂が集まっていた。
「わあぁあああぁああん! アスタロトがアスタロトが死んじゃったよー!」
ドロドロに濁った泥色の魂が大声で泣き喚く。
「ちょっとは静かにせんか! それにアスタロトは死んだ訳ではない。そもそも我らは死ぬ事はないだろうが!」
血の色の魂が、泣き喚く濁った魂を叱責する。
「確かに彼女は死んでいませんが、しかしこの世界からアスタロトの反応は消えたのもまた事実。これは何処かに封印されたと見るのが正しいでしょう」
純白の魂はそう結論づける。
「…………」
その三柱をまとめる暗黒の魂は何も言わず只々黙っていたが、ゆっくりと口を開く。
「ベルゼブブ、レギオン、ルシフェルよ」
その低く威厳に満ちた口調は、三柱の口を閉じさせ、己に注目させるには十分だった。
「アスタロトを封じた者が、何処の誰かは分からないのだな?」
それに答えたのはルシフェルだった。
「申し訳ありません。一体誰が我々に対抗できる力を持っているのか、皆目見当もつきません」
「そんなの決まってるだろ!」
ベルゼブブは一際大きく自らを膨らませ怒りを表現する。
「彼奴だよ。あの女神エレニスに決まってる!」
「しかしエレニスは千年前の戦いで、力をほぼ失ったのではないのか?」
レギオンの質問に答えたのはルシフェルだった。
「ええ。彼女はこの世界に一度でも表れようとすれば、全ての力を使い切ってしまうほど消耗しているはずですが……」
「でも彼奴しか考えられない! エレニスが僕の大好きなアスタロトを殺したんだー!」
「ええい落ち着け。主の前で見苦しいぞ!」
「だが、ベルゼブブの言う事も、一理ある」
「なっ! 主よ。こ奴の言う事を信じるのですか?」
「落ち着けレギオン。力を失ったとはいえエレニスは女神。ならばヒトの中に力を貸す者がいてもおかしくないだろう」
「成る程。つまり協力者がいるということですな。それなら納得できます」
「ならば、次に女神達が向かうのは北のルノか、南のユーズ……」
「ユーズ王国に来たら僕が女神をぶっ殺してやる!」
「ベルゼブブ、少し黙らないか。我が主よ。もし私を狙いに来ればその時は返り討ちにしてやりましょう」
「うむ。ベルゼブブ、ルシフェルよそなた達の働きに期待しているぞ」
「いいのう、わしも骨のある奴と戦いたいわい」
「レギオン。お前に任している任務を疎かにするなよ」
「ははっ、分かっております。我が主よ」
「ではレギオンは引き続き、己の任務を遂行せよ。ルシフェルとベルゼブブはエレニスに協力しているヒトを見つけ次第即刻排除せよ」
「はっ。お任せ下さい」
「僕が必ず女神を殺してやる」
三柱の存在が消え、闇の空間に残った暗黒の魂はこう思っていた。
(やはりあの二人。二百年経っても私に歯向かってくるか。フフフッ、少しは彼等の退屈凌ぎになるかな?)
暗黒の魂は楽しそうに笑いながら自分の場所に戻るのだった。
「それが彼等の復讐の動機です」
「……ゲホッゲホッ……すいません。そんな事が」
フィッツェは慌てて身体に酸素を取り込む。
二百年という途方もない時間を復讐の為に生きてきた二人の話しを聞き終えた頃、フィッツェは自分が呼吸をする事すら忘れていた。
「すぅーはぁー。私も手伝います。いえ手伝わせてください!」
フィッツェは深呼吸して自分の熱い決意をエレニスに話していく。
「貴女に何ができるんですか?」
「私もクロ達の旅に同行させてください!」
「足手まといになるだけです」
「そんな事は……」
「ないと言い切れるのですか?」
フィッツェは一瞬言葉を詰まらせる。しかしそれでは女神の言葉を認める事になってしまう。
「足手まといになどなりません」
だからすぐに反論する。黙れば負けてしまうから。
「ではもし貴女が私達の足を引っ張る原因になったらどうするのですか?」
「その時は私を見捨てて下さって構いません」
その言葉を言った直後パンと乾いた音が響き渡る。
フィッツェは最初何が起きたかは分からなかったが、自分の左頬の熱い痛みを感じて、平手打ちされたのだと気づく。
「エ、エレニス様?」
「やはりヒトは愚か。何千年経っても自分を犠牲にする事しか考えられない。貴女もそうなのですね」
突如白き空間全体にヒビが入り崩壊を始める。
「こ、これは……?」
「お別れですフィッツェ。もう私達の事は忘れて、これからは貴女の道を進みなさい」
エレニスの姿が徐々に遠ざかる。いやフィッツェがエレニスからどんどん離れていく。
「待ってくださいエレニス様! まだ話しは終わっていません……」
フィッツェはあるものを見て言葉途中で言えなくなってしまう。
「さようならフィッツェ」
「待ってエレニス様! ここは……?」
その言葉を最後に白い空間は砕けフィッツェは目を覚ました。そこは見慣れた宿屋の部屋のベッドの上だった。
「ここは私の部屋? いつの間に、確かベギーア女王……いえアスタロトの館にいた筈」
フィッツェは段々と思い出してくる。
(そう、確かとても眠くなって。それで、そう女神様と話したんだ)
見ると窓からは眩しい朝日が彼女を照らしていた。
「こんな所で寝ていられない!」
フィッツェは急いで旅支度を済ませ一階の受付に向かう。
そこでは傭兵達が騒いでいて、いつも通りの光景だった。
フィッツェはその喧騒の中をギルドの受付に向かって歩いていく。
「そういえば南の森の方で光の柱が上がったんだって?」
「ああ、今何人か調査に行ってるよ。そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」
そんな朝から飲んでいる酔っ払いの会話を左から右に聞き流しながら受付に着くと見知った顔がいた。
「あらフィッツェさん。もう体調は大丈夫ですか?」
「はい。セルンさんこそ……その格好はどうしたんですか?」
いつも受付にいたセルンは今日は受付の制服ではなく、動きやすさを重視した皮の鎧に左手には金属の籠手をして、腰にはエストックを下げていた。
更に背中には背囊を背負っている。
「はい。私今日でこの街の受付をやめたんです」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、この街には私が探しているものはなかったので、それでフィッツェさんはどうしました?」
「あ、はい。私をここまで連れてきてくれたのは誰か分かりますか?」
「ああ、クロさんですよ」
「やっぱり! 今どこにいるか分かりませんか?」
「ごめんなさい。貴女をここに送ってから、二人とも忽然と消えてしまってどこにいるか分からないんです」
「そうですか……ありがとうございました。それでは!」
急いで振り返るフィッツェをセルンが止める。
「フィッツェさん。そんなに急いで何処に?」
「はい。二人の後を追うつもりだったんですが、どこに向かったか分からないので、北のルノ王国に向かいます。私が見てきたことを急いで報告したいので」
「そう、私はこれから南のユーズ王国に向かうから、ここでお別れね」
「ええ、セルンさんも、お気をつけて」
フィッツェはそう言って酒場の扉を開け北の門に向かう。
(私は私が出来ることでクロ達を手助けしよう)
すれ違いざま傭兵が走ってきて酒場に入って行ったが彼女は全く気にすることはなかった。
「大変だ光の柱が現れたところに館があってそこにたくさんの死体が!」
その傭兵の一言にギルド中がパニックになる中、また一人の女性が外に出て行く。それはセルンだった。
(さて王国中が騒がしくなる前に出て行くとしましょう。ユーズ王国には何か手がかりがあればいいけど……)
セルンはそう思いながら南門に向かうのだった。
「……あっ! 帰ってきたみたい」
「どうしたヒメ?」
「……エレニス戻ってきたよ」
「そうか、じゃあ早く行こう。川を渡る為の船を早く確保したい」
「……うん」
クロはヒメの返事の些細な変化に気づく。
「彼女に会えなくて寂しいか?」
「……うん。でも死んじゃうよりはいい」
「……行こう」
クロとヒメは森の中を歩くそこを抜け川を超えた先にある南のユーズ王国を目指し二人は黙々と歩いていくのだった。
第一巻 完
この回でこの物語の第一巻は終わりです。
勿論第一巻という事はこの物語もまだ続きがあり全五巻を予定しています。
予定していますが……。
他にも書きたい物語があります。
第二巻以降はどうしようか迷っています。
もし続きが見たいという人がいたら一言くださればそちらを優先しようと思います。
それでは第一巻を最後まで読んで頂きありがとうございます。
この物語を読んだ人がほんの少しでも楽しんで頂けたら幸いです。




