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黒鎧と棺背負い姫   作者: 竜馬 光司
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第二十話 トスオ王国に巣食う悪魔 その6

クロが封じられた両開きの玄関を破壊し中に入ると、そこには複数の男女と見知った顔がいた。

「……フィッツェ」

「あらあら、まさかここに来れるヒューマンがいたなんて、一体どうやったのかしら?」

クロは無言で右手に剣を持って無言で近づいていく。

「無口なのね。まあいいわ。相手してあげなさい」

ベギーアの命を受け双子が飛び出し、目にも留まらぬ速さの突きを交互に繰り出す。

クロはそれを全て剣で受け止め弾く。

双子が突進しながら鋭い突きを同時に繰り出した。

クロはそれを避けようともせず、ドワーフのブロードソードの頑丈さを活かして、下から振り上げふた振りのレイピアの刃を叩き折る。

突進の勢いを殺され、動きの止めた双子の胸と腹に剣を突き立てる。

「あらっ?」

力なく倒れた双子を見て驚いたのはベギーアだった。

(偶然かしら? それともアレの場所が分かっている? まさかね)

「貴方強いのね」

クロは切っ先をベギーアにピタリと向ける。

「女という事は、お前はアスタロトだな」

その一言でベギーアの雰囲気が変わる。

「……何のことかしら? お前達、生まれ変わってからの最初の命令よ。あいつを殺しなさい!」

女王の命令を受けて九人の神官戦士が一斉にクロの方を向いた。

「お前達は……」

クロはそこで気づく。彼等はフィッツェと一緒にいた神官戦士だった。

「既に奴の奴隷にされていたか……」

「まぁ、奴隷なんて酷い。彼等は私のオモチャよ」

「クロ、逃げてください! 隊長、先輩やめてください」

フィッツェは叫んだ。しかし彼等はどちらも耳を傾けなかった。

神官戦士達はクロに向かってメイスを構えながら立ち塞がるように近づく。

クロは一人で目の前に立ち塞がる壁を破壊するために駈け出す。

一人目の全身穴だらけの男のメイスを避け、左肩から腹まで鎖帷子毎一気に切り裂く。

その死体を二人目にぶつけて、動きを止まった頭を剣で貫く。

三人目のメイスがクロの背中を打つが、振り向いてそのメイスを持つ右手を切って奪い、頭を叩き潰した。

四人目、五人目の頭に穴が空いた二人がメイスを振り回す。

避けきれず、肩や足にメイスが食い込むがそれを意に介さず、四人目の腹を切り裂き五人目の足をメイスで打ってうつ伏せに転んだその背中に何度何度もメイスを振り下ろした。

近づいてくる六人目の首に剣を投擲し、持っていた槌を奪って七人目と対峙する。

振り下ろされたメイスを両手の槌で防いで弾き、がら空きの両脇腹を槌で打ちくの字になって下がった後頭部に両手の槌を振り下ろして七人目を床に口付けさせた。

クロの前に八人目が立ち塞がった。

左腕は半ばから切断され、残った右手にメイスを持っているのは隊長のガルネールだった

クロは左手の槌を捨てて、六人目の首に刺さっている剣を抜き構える。

「嫌、二人共やめて! お願い……」

フィッツェは涙を流しながら、叫ぶがそれは二人の耳には入らない。

ガルネールが頭上ででメイスを振り回しながら迫る。

その遠心力を活かして思いっきり振り下ろす。とっさに避けたその一撃は床に大きくめり込んだ。

クロはその隙に近づこうとしたが、それ以上に早くメイスを引き抜いたガルネールが更に追撃する。

ブォンと風切り音を鳴らしながら迫るメイスをクロはかわしていく。

(どうする無理にでも攻めるか?)

クロはどう攻めるか考える。チカラを使えば傷は再生できるが、後々の為に取っておきたかった。

メイスを剣で受ける度に火花が散り、刃が欠けていく。

クロは、ガルネールの中にいるモノの場所を見つけ、そこに狙いをつける。

横薙ぎのメイスを剣で受け止め、左拳を穴が空いた胸部に突き入れ、その中のモノを握りつぶした。

ガクンとクロにもたれかかる様にガルネールは倒れた。

クロはそれを押し退けて最後の一人に近づく。

九人目は片足がなく床を這いずりながら右手に持ったメイスを振り回す。

クロはメイスを避けて、無造作に左足を頭に狙いをつけて踏み潰した。

クヴァイは何度か痙攣して動かなくなる。

「先輩……」

一度死んだ先輩達がクロに殺されていくのを見てフィッツェは怒りと悲しみがごっちゃ混ぜの複雑な気持ちだった。

九人全員をもう一度殺したクロは階段を登ろうと足をかける。そこにベギーアが声をかける。

「やるわね。貴方も私のモノになる?」

「遠慮しておく。それに俺はもうヒトではない」

「あらそう? でもこの人数だったらどうかしら?」

ベギーアが指を鳴らすと、階段脇の扉の鍵が開き中にいた少年少女達が現れる。

「さあ、みんなあそこにいる()と遊んであげなさい」

ベギーアが指をさしたのはクロではなくヒメだった。

先程、神官戦士達と殺しあった彼等が今度はヒメに殺到する。

「ヒメ、ウェルシュフックを」

「……うん」

ヒメはヒツギからウェルシュフックを取り出してクロに投げる。

クロは刃が欠け曲がったブロードソードを床に突き刺し、投げられた得物をキャッチする。

クロが受け取ったそれは、全長二百センチ程。棒の先に斬撃用の鎌状の刃がつき、その反対側には直角に引っ掛けるためのフックが伸び、その上に更に刺突用のスパイクがついて二又の形状をしている。

クロはそれを持ってヒメを守る為に少年少女達に突っ込んでいく。

鎌で喉を切り裂き、フックで足を引っ掛けて倒し、スパイクで心臓を突く。

一人の右腕を切り落とし短剣を奪って目に突き刺す。

刃が根元から折れた短剣を捨て次の敵と対峙する。

ウェルシュフックの二又で腕を抑えて滑らせながら、顔を突くが何かに引っ掛かって抜けない。

素早くウェルシュフックから手を離し、近くに落ちていたメイスを拾って文字通り縦横無尽に振るう。

彼等が離れた隙に血塗れのメイスを捨て顔に刺さったままのウェルシュフックを引き抜き、振り回すのだった。


少女の首が切りとばされ、血を吹き出しながら倒れる。

それと同時にウェルシュフックの柄が真っ二つに折れる。

二つに折れたそれを捨て周りに動く者がいない事を確認した直後、玄関ホールに拍手が響き渡った。

「お見事! よく百人殺せました。でもね……」

ベギーアから怒りの気配が滲み出る。

「ひっ」

一番近くにいたフィッツェはその気配をもろに浴びて悲鳴をあげる。

クロはそれを気にせず走り出すと、突き刺していたブロードソードを手に取り、階段を一気に登り突きを繰り出す。

「死ね」

その一言と共に放たれた突きを、ベギーアは避けようとせず、右手の剣の切っ先でブロードソードの切っ先を受け止めていた。

「その剣……ドワーフが鍛えた物ね」

「おまえの剣もカーミニで出来ているのか」

クロが力一杯押してもブロードソードはそれ以上進まず、切っ先にヒビが入る。

「そうよ。あの髭面は嫌いだけど。この剣は特別なの。見たい?」

ベギーアの剣の鍔の中心に埋め込まれた赤い宝玉がギラリと光る。

クロは慌てて飛び退いた。

「あん、逃げちゃうの。いいもの見せてあげようとしたのに……」

「遠慮……する!」

下がって距離を取ったクロは力を込めて、オーバースローで、石のような金属カーミニで出来たブロードソード を投擲した。

放たれた剣はベギーアの眉間に深々と突き刺さる。

「あら……油断……したわ」

眉間から剣を生やしたままトスオ王国を統べた女王は仰向けに倒れるのだった。

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