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黒鎧と棺背負い姫   作者: 竜馬 光司
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第十九話 トスオ王国に巣食う悪魔 その5

「女神よ悪しき者の動きを封じたまえ」

フィッツェが唱えた奇跡。束縛の鎖がベギーアに化けていた魔族の両足を絡め取り動きを封じる。

すかさずクヴァイがメイスを頭めがけて振り下ろす。

魔族はそれを左手で防御するが、代わりに左手は潰れて使い物にならなくなる。

その間に背後に回り込んでいたガルネールがメイスで魔族の後頭部を叩き潰した。

「やった!」

フィッツェが思わず歓声をあげる中、頭を失った魔族はうつ伏せに倒れ、血と肉片が床を赤く汚す。

「やりましたね。先輩、隊長!」

フィッツェが声を掛けても二人は反応しない。

「? 二人ともどうしたんですか?」

何度声をかけようとも二人は何も喋らない。

フィッツェはだんだん不安になっていく。

今自分がいる世界が現実ではない気がしたからだ。

フィッツェは頭を下げて二人から目を背ける。

「違う! これは現実です。私たちは女王陛下に化けていた魔族を倒したんです!」

声の限りに叫び頭を上げると、二人と目が合う。

とても悲しそうな目をして、じっとフィッツェを見つめていた。

まるで謝るかのように。

「何で、何でそんな顔するんですか? 魔族は倒したのに、そんな顔おかしいですよ!」

目を閉じてそう叫んだ直後フィッツェは目を覚ました。

「あれ……今のは、夢?」

視界はぼやけていたが、ここがどこかの建物だということは分かった。

段々と視界がハッキリして見えてきたのは、女王陛下の姿をした魔族と遭遇したあの館だった。

よく見ると、複数の人が立っているように見えるが誰かはよく分からなかった。

「痛っ! えっ、なんで?」

よく見るために目を擦ろうとしたその時、痛みが走り腕が動かないことに気づく。

どうやら後ろ手に拘束されているらしく、両手が自由に動かなかった。

「どうなってるの……きゃあっ!」

辺りを見回して首を上に動かすと、二人のヒューマンがいて驚く。

男か女かは最初分からなかった。なぜなら頭が潰れていたからだ。

だがよく見ると服装と身体つきでどうやら男、それも死んだ筈の双子の執事だった。

フィッツェは彼等に拘束され両膝を床についた状態だった。

「お目覚めかしら? フィッツェ」

視界がはっきりとすると同時にベギーアの顔が覗き込んできた。

「ベギーア、女王……」

蒼色の髪と瞳を持つトスオ王国の女王が、彼女と同じ目線で話しかけてきても、フィッツェには未だに信じられなかった。

「ふふっ、まだ夢の中にいるような顔をしているわね。でも夢じゃないのよ。これは現実」

「あなたは、一体何者なの?」

「私? 私はベギーア・トスオ。トスオ王国の女王よ」

「違う!」

フィッツェは叫んで否定するが、それを見たベギーアはニコニコと笑っていた。

「あなたは女王陛下じゃない! 陛下がこんな事……」

「本当よ。私が指示して街から気に入ったヒューマンを攫っていたの」

「嘘! あなたは陛下に化けた魔族だ! 正体を現せ!」

ベギーアは口元に指を当ててう〜んと、考え込む。

「フィッツェ。貴女の考えは少し違うわ。私は本物のベギーアよ」

「そんな……じゃあ最初に会った時から私達は魔族と話していたの……」

「そうよ。まぁ私は魔族じゃないんだけどね」

ベギーアの言葉はフィッツェには届いていなかった。俯き、小声で何か呟いていた。

「あら、壊れちゃったかしら? まぁいいわ。早速貴女も私のモノにしてあげるわ」

その言葉を聞いてフィッツェは頭を上げた。

「私のモノ? 一体どういう……」

「ふふっ、こういう事よ。ほら階段の下を見て御覧なさい」

フィッツェは階段の下に目を向ける。そして気付いた。

「うそ! なんでみんな……」

そこにはフィッツェもよく知る九人の神官戦士が操り人形のように力なく立っていた。

ガルネールは心臓のある所が真っ赤に染まり、他の仲間たちも身体は傷だらけでとても生きているとは思えない。

そして一人だけ片足が無く、座り込んでいる男性を見つける。

「先輩……そんなどうして」

「そうよ。貴女の仲間達よ」

「嘘よ! だって、だってみんなあなた達に殺されたはず……」

「ええ、私達が殺したわ。そして彼等は私のモノになったの」

フィッツェにはベギーアが何を言っているのかさっぱり理解できない。

「ふふっ、彼等は一度死んで生まれ変わったのよ」

ベギーアがフィッツェの頬に両手を伸ばす。

「貴女も彼等と一緒に私のモノになるの」

「な、何でこんな事……」

「だって私はこの世界の頂点に立つ者だからよ」

ベギーアの両手がフィッツェの首に纏わりつく。

「嫌、止めて。止めてください」

「大丈夫。苦しいのは一種。目覚めたら新しい幸せな人生が待っているわ」

ベギーアは笑いながら、徐々に指に力を込めていく。

「あっ、がぁっ、あぁああ」

「ふふふっ、いい表情(かお)。ゾクゾクしてくるわ」

フィッツェの苦悶の表情を見てベギーアは愉悦を味わっているとき、玄関が外から叩かれ大きな音が響き渡る。

「誰? 私の楽しみを邪魔するのは」

ベギーアはフィッツェの首から手を離し玄関を見つめる。

何度も何度も、扉が外から叩かれる。

遂に魔力で閉じられていた扉が衝撃に耐えきれず破壊された。

「あらあら、招いた覚えはないのだけれど」

扉を破壊し表れたのは、黒の全身甲冑をきた男と、棺を背負った少女。

「ヒメ……クロ」

それはフィッツェが知る二人組だった。

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