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黒鎧と棺背負い姫   作者: 竜馬 光司
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第十三話 海を支配する者 その6

首領の両眼は失われていたが、耳から入る音を頼りにある程度何処にいるかは特定できていた。

クロがこちらに意識を向けてない事をチャンスと思い、首領はゆっくりと両手に力を込める。

しかし深く刺さった槍が抜けないので、ある程度まで手を上に上げてから、両指に思いっきり力を込めた。

トネリコでできた柄が軽々と折れ、穂先を地面から引き抜く。

「アノオ方ノ元ニハ、行カセン!」

クロが気づくより早く、両手の甲から槍の穂先が突き刺さったままの左手で身体を支えながら右手で殴りかかる。

「ヒメ!」

首領が狙ったのはクロではなくヒメだった。右拳がヒメの胸部に直撃した。

吹き飛んだヒメをクロが受け止める。ヒメは一目見ても分かるほど胸のあたりが無残に潰れて口から血の塊が溢れる。

「死ヌマデ、何度モ殺シテヤル! アノオ方ノ元ニハ行カセナイ!」

次は右手で身体を支えて、首領は左拳を振り下ろす。ヒメを抱えて動けないクロは避けきれない。いや彼に避ける気は元から無かった。

「何ッ!」

首領は驚く。クロは首領の左拳を空いている右手で防御する。その手は潰れひしゃげてもしっかりと受け止めていた。

再生された右手が逆にしっかりと首領の左拳を掴んで、ぐしゃりと握り潰す。

「無駄だ。お前に俺たちは殺せない……」

クロはヒメを地面にそっと寝かせると立ち上がり首領と相対する。

「それに彼女を傷つけたお前に生きている価値などない」

首領の死に物狂いの一撃がクロに迫る。

クロはその右拳を払って巻き込み、抱え込んで固定する。

そして逆に自分の右拳で首領の胸を貫き、そこで脈動する心臓を掴む。

「死ね」

(申シ訳アリマセン。ア、アスタ……)

その一言と共にクロは首領の心臓を握り潰し手を引き抜く。開いた穴から大量の血を爆発するように噴き出しながら首領はうつ伏せに倒れ息絶えた。

クロは首領が死んだのを確認してからヒメの様子を見ようと振り向こうとした時、急に身体から力が抜けて片膝をつく。

「……クロ」

傷が癒えたヒメが慌てて近づいてくる。

「すまんヒメ。アレを頼む」

「……うん」

クロの目の前に立ったヒメによって視界を遮られた事によって入り口から一部始終を見ていた女性がその場を離れる事に気づかなかった。


ヒメを外で待たせたクロは、首領の死体とアムルの部屋に油をまいていた。

油を撒き終わって火をつけると、洞窟中は瞬く間に火の海に包まれていく。

後始末を終えて待っているヒメの元に戻る。

「さあ帰ろうか?」

「……うん」

「そういえばあの人はどうしてる?」

「……力を使いすぎて眠ってるみたい」

「そうか、さて船を探そう」

クロは帰りの足の探す。恐らくフィンディルは先に行ってしまったはずなので、使える小舟でもないかと探していた。

「……クロ」

「どうした?」

「……あそこ」

ヒメが指を指す。その先には見慣れた白い船体。フィンディルが停泊していた。

「おーい、兄ちゃんこっちだ!」

甲板ではゼーヴェルが手を振っていた。

「先に行ったんじゃないのか?」

「ああ、確かにあんたにそう言われて出航準備をしていたんだが、フィッツェさんが二人が来るまで待ってくれ。て言うんでな待ってたんだが、あれ何処行ったんだ?」

ゼーヴェルがフィッツェを探して周りを見渡すと、いつの間にか船員たちが集まりクロとヒメをじっと見ていた。

(あまり歓迎されていないか?)

クロはいつでも動けるように身構える。ヒメが一度死んで蘇生したのを船員たちは見ている。そんな光景を見て二人を化け物だと思っていてもおかしくはないはずだった。

「あんた達生きてたんだな。海賊達は退治したのか?」

「ああ、終わった」

「「「おおっ!」」」

船員たちから歓声が上がる。

「お嬢様も大丈夫だったんですね。てっきり死んでしまったかと思いましたよ」

「……う、うん。大丈夫、です」

「良かったお嬢様が生きていて良かった!」

「本当だよ。あの時死んでしまったんじゃないかと皆心配してたんですよ」

今はレティを演じていたあの人はいなく、ヒメはいつもの口調で話すが、それを気にする者はおらず彼女の生存を喜んでいた。

「よし、お前ら。嬉しいのは分かるが、お嬢様達は疲れているんだ。船室まで俺が案内する。出航準備は終わっているのか?」

「はい。いつでも出航できます」

「よしすぐ出航だ! こんなとこ一刻も早くオサラバするぞ!」

「「「おおっ!」」」

クロ達が船室に着いたと同時に、フィンディルは出航した。

後に聞いた話では首領に首を絞められたヒメは死ぬギリギリまで首を絞められていたと周りは信じていたようで、クロは敢えて真実を告げるようなことはしなかった。

それよりも気がかりな事が一つあった。あれからフィッツェ達の姿を見ないのだ。船にいるのは確かなのだが、全く姿が見えずまるで避けられているようだった。

ゼーヴェルによると、クヴァイの治療に専念したいとの事だったが、クロは恐らく別の理由だろうと、自分達の姿を見たからだろうと思っていた。

(俺たちも周りから見れば化け物にしか見えないか……)

そんな事を考えていると扉が開いてヒメが戻ってくる。その顔はシュンと悲しそうな顔をしていた。

「どうした?」

「……くれない」

「ん?」

「……フィッツェ会ってくれない」

「ああ、何があった? 聞かせてごらん」

クロは泣きじゃくるヒメの頭を優しく撫でながら彼女の話を黙って聞くのだった。

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