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黒鎧と棺背負い姫   作者: 竜馬 光司
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第十一話 海を支配する者 その5

クロとヒメは洞窟の奥に進んでいた。

二人は奥にいる存在を感じていた。ヒトではない何かの存在を。

そしてそれは向こうも感じているだろうとクロは確信していた。

しばらく歩いてると一つの部屋の入り口が目に入る。

「ヒメ、剣をくれ。そしてそこで待っているんだ」

そう言うとクロは一人でその部屋に入っていく。

部屋は入り口からは想像できないほど広かった。天井に吊るされたランプが全体を照らし、部屋の中央には乾いた血がこびり付いたベットが、側には解体道具が置かれている。

その奥には二つの鋼鉄で出来た頑丈な檻が置いてある。一つは内側から破壊されて中には何もおらず、もう一つの檻には何かが蹲っていた。

クロが近づくと檻の中の存在が頭を上げて両眼で彼を見つめる。それはヒューマンの目だったが影で全体像は見えない。

「アナタハ誰? アイツハドウシタノ?」

「あいつとは、あの魔術師のことか?」

「ソウ、フードヲ被ッタ魔法ヲ使ウアイツノ事ヨ」

その口調には、はっきりと憎しみがこもっていた。

クロは先ほど殺したアムルだと思いこう答える。

「そいつなら俺が殺した」

「本当! 本当ニアイツハ死ンダノネ!」

檻の中の存在が鉄格子に顔をくっつけんばかりに近づいて姿がはっきりと分かるようになった。

クロが話していたのは若い女性だった。彼女は服を着ておらず、下半身は蛇のような姿でとぐろを巻いていた。

「アイツ死ンダンダ。アハ、アハハハハ……」

女性はひとしきり笑った後、両目から涙を流す。

「ネェ、貴方ニオ願イガアルノ。聞イテクレル?」

クロは何も言わずに頷く。

「私ヲ殺シテ、コノ醜イ姿ノ私ヲ殺シテ、オ願イ」

女性は涙を流しながらクロに懇願する。

「モウ元ニ戻ラナイノハ分カッテル。コンナ姿デ生キテイケナイ。デモ自分ジャ死ヌ勇気ガナイノ。ダカラオ願イ私ヲ殺シテ!」

「分かった」

クロの答えは実に簡潔だった。持っている剣の切っ先を彼女に向ける。

「アリガトウ」

目を閉じた彼女の喉に狙いをつけ一気に突いた。

その死に顔はとても安らかだった。


クロがアムルの部屋から出ると待っていたヒメが近づいてきた。

「行くぞ。ここにはいなかった」

「……うん

彼女は血の付いた剣を見て何かを察したが何も聞かなかった。

アムルの部屋を抜けたその奥にもう一つの入り口を見つけた。

そこから漂う気配は近づくたびに濃厚になっていく。

二人は部屋に躊躇うことなく足を踏み入れる。

その中もアムルの部屋以上に異様だった。

一歩中に踏み入れるとパキッパキッと何か乾いた者を踏み潰す音が響く。それは無数の人骨だった。

その部屋の主は骨で出来た玉座に座ってクロとヒメを待ち構えていた。

いつも纏っていた汚い布は今は無く、トカゲのような顔と、鱗の生えた筋骨隆々の身体が露わになっていた。

「待ッテイタゾ。俺ト同ジ臭いガスル者ヨ。マサカ二人モイルトハ驚イタゾ。一体何処カラ……」

「黙れ。そして俺の質問に答えてもらう」

クロは首領の言葉を遮ってロングソードを構える。

「コチラノ質問ニ答エル気ハナイカ。聞キタイ事ガアルナラ、俺ヲ楽シマセテクレヨ」

首領は傍らに立て掛けてある鋼鉄のクォータースタッフを掴むと頭上で回転させる。

クロは剣を構えたまま、なかなか動かない。

首領はクォータースタッフを回転させながらクロを牽制していた。

「来ナイナラ、コチラカラ行クゾ!」

回転させた勢いを乗せてクォータースタッフを振り下ろした。

それを左に避けるクロ。すると今度は逆手で兜を狙った突きを繰り出してくる。

クロが反撃する間も与えず、首領は次々と攻撃を仕掛ける。

「ドウシタ? 避ケテバカリデハ俺ヲ倒センゾ!」

首領の横薙ぎを後ろに下がって避けるが、その直後の突きを避けきれず剣で弾いた。

クォータースタッフの攻撃が更に早く重くなっていく。クロは段々避けきれず、剣で受けていくがその刃も所々欠けていく。

「ムン!」

首領の渾身の一撃がロングソードを叩き折った。それは同時にクロに守る手段がなくなったという事だ。

クォータースタッフが鎧では守れない両肘と両膝を打ち、クロは地面に膝をつく。

「サア、コレデトドメダ!」

首領は力を溜めて鋭く尖ったクォータースタッフの先端を兜の視界を確保するスリットに突き刺し後頭部まで貫通する。

「何ダ? コノ手応エハ?」

今まで鎧で身を守るヒューマンとは何人も戦い殺してきたが、いつも感じる肉を打ち、貫いた感触が得物から感じられない。

ゆっくりと頭からクォータースタッフを引き抜くと、クロの身体は背中から倒れる。しかし違和感は拭えない。殺したはずなのにまだ死んでないという感覚が付き纏う。

首領の身体を何か冷たい物が背中を流れたような気がした。

それは冷や汗だったが、既にヒューマンをやめた彼には、何なのか分からなかった。

「どうした? もう終わりか?」

死体が話しかけてきた。

首領は慌てて、倒れたクロの身体に何度も何度も、クォータースタッフで突く。

「何故死ナナイ? アノオ方ニ、作ラレタトハイエ、不死身ナド有リ得ナイ!」

止めとばかりに一際強く突き刺すのだった。


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