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黒鎧と棺背負い姫   作者: 竜馬 光司
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第十話 海を支配する者 その4

ヒメ達が捕まっていた頃、ある人物が救出の為に動き出していた。

今日の収穫に海賊たちが宴を開き、戦利品を首領に見せるために集められていた同じ頃、全員が狂騒の宴に入れるわけではなかった。

「はぁ〜」

彼はため息をつきながら海を見ていた。

正確には彼は見張りという貧乏くじを引いたせいだった

「はぁ〜。やってられね〜」

早く見張りを交代して、暖かい洞窟の中に入って久々の酒を浴びるほど飲みたかった。

「う〜寒い」

夜の海は予想以上に冷える。彼の中には酒であったまるか、それとも捕まえた女であったまろうかと、それだけしか頭の中になかった。

「ん?」

そんな事を考えていると、視界の端に何かが映る。

気になってそちらに近づくが、何もいない。彼が見ていた方向で動くものといえば波しぶきだけだった。

「魚か?」

海だから魚がいるのは当たり前かと思って戻ろうと振り返った時、彼の首に何かが強く巻き付いた。

「ぐあっ」

彼は首に巻きついたものから逃れようと指で引き剥がそうとするが、全く剥がせない。

首に巻きついたそれがロープだとわかった頃には、彼の喉は強く締め付けられ息ができず脳に酸素がいかなくなっていた。

ロープを取ろうと、爪で皮膚を引っ掻いて血が出るのも構わず指を必死に動かすが無駄な努力だった。

「がっ、ぐっ、げえっ」

必死に酸素を取り込もうと口を動かすが、無様な呻き声しか出ない。

ロープが一気に後ろに引かれ、喉が完全に潰れると見張りは数秒痙攣してから人形のように力無く崩れ落ちる。

その後ろにいたのはパイクで串刺しにされフィンディルから海に落ちた筈のクロであった。

彼は明かりが漏れる洞窟を見ながら、ここまでは作戦通りだなと思っていた。


クロが立てた作戦はこうだ。

まずフィンディルの武器をある一箇所に集め船員達が抵抗しないようにし、海賊が襲撃してきたらワザとクロが暴れて死んだように見せかける。

もし船員達が武器を持ち抵抗しても勝ち目はないが、海賊達にも被害が出る。そうなれば激昂した奴らはフィンディルの船員達を皆殺しにしてしまい結局アジトの場所がわからない。その為に武器は回収する事に決めていた。

そして用意したロープでフィンディルに海中で身体を固定して海賊のアジトまで辿り着く。

クロならばたとえ丸一日息が出来なくても問題ないからだ。

これがクロが立てた作戦であり彼にしか出来ないことであった。

海水が鎧の隙間から流れ落ち足元に水溜りが出来る。

しばらく水を抜いてから、砂浜を闇に紛れて歩き出し洞窟に少しずつ近づいていく。途中で外にいる見張りを一人ずつロープを使って殺していく。敵は少なければ少ないほどこちらが有利になる。

一つ問題があるとすれば洞窟に入る前に見張りに見つかったり、殺す時に大きな音を立てたらすぐさま敵にこちらの存在がバレてしまう。

それだけは避けなければならなかった。

だからこそ慎重にかつ素早く、相手の首にロープをかけていく。

首領が戦利品であるヒメ達を確認していた頃、クロは洞窟の入り口まで来ていた。

外にいた見張りはすべて殺していた。見逃していないか何度か辺りを見回して確認も済ましている。

洞窟の入り口付近には人の姿はなく、奥から明かりがクロの所まで漏れ、喧騒の音もはっきりと聞こえる。

クロは人がいないのをいい事に堂々と入っていく。

今の武器は左手にトマホーク、右手にはファルシオンを持っていた。

トマホークは接近戦はもちろん投擲武器としても優秀な斧だ。見張りの持っていたトマホークは回収し腰のベルトに数本手挟めてあった。

クロは出会い頭に敵と出会わないように角を慎重に通過し、いないと分かればできる限り早く駆ける。

勿論ヒメを一刻も早くここから解放するためだった。

しばらく進むと、広間のような場所にたどり着く。そこから大声が聞こえ大勢の人の気配がしていた。

できる限り姿を晒さずに中を見るとそこでは海賊達が宴を開いていた。

彼等は中央の焚き火を囲むように、久しぶりの酒を浴びるように飲み、どこで捕らえてきたのか、鎖がついた首輪を嵌められた女性達が、男達に酌をしている。

中には数人の男達に襲われている女性もいた。

クロは冷静に狙いをつけ左手のトマホークを投げた。

狙い違わず刃が女性に襲いかかろうとしていた男の一人の頭に突き刺さる。

それを見た海賊達は酔っていた事もあり、一瞬何が起きたのか分からず誰も動けない。

「えっ……きゃあああっ、嫌ぁあああ」

斧が刺さった死体が覆いかぶさるように女性に倒れ悲鳴があがる。

それを聞いて海賊達が動き出すが、彼らの運命は既に決まっていた。

クロは次々とトマホークを投げる。斧は一人の頭を割り、一人は焚き火に倒れこみ燃え上がる。

咄嗟に腕で防ごうとした者もいたが斧は腕を裂いてそのまま顔面に直撃した。

焚き火は消えずに死体を焼き続け、肉が焼ける嫌な臭いが洞窟中に広がる。

何人かは耐えきれず胃の中の物を吐き出していた。

クロはそういう戦闘不能の人間を放っておき、こちらを迎え撃とうとしている敵に一直線に向かう。

「くそっ……ぐぁあっ!」

斧を持って立ち上がろうとした一人の頭をトマホークで叩き割り、蹴飛ばして刃を引き抜く。

右からの体当たりを避けて背中をファルシオンで切りつける。致命傷にならなかったが、動きが止まったのでそのまま首を引き裂く

吐いていた海賊達も体制を整えて襲いかかってくる。

しかしどの攻撃もクロには子供の遊びにしか見えなかった。

振り下ろされた斧はドワーフの一撃よりも軽いし遅く、迫るファルシオンはエルフの流麗な剣捌きの足元にも及ばなかった。

「……遅い」

斧を避けファルシオンを弾いて、逆にこちらの攻撃を叩き込む。

左手のトマホークが一人の肩の骨を割ってそのまま心臓に達する。

右手のファルシオンが腕を切り裂き、返す刃で首を飛ばした。


海賊達は恐れ戦く。こちらの方が数で勝っているのにたった一人のヒューマンに勝てないのだ。

だがそんな事を考えている間にも次々と仲間達は血を流し臓物をこぼしながら倒れていく。辺り一面は血の海で焚き火もいつの間にか消えランタンの頼りない光が宴会場を弱く照らす。

真っ赤に照らされるそこを血に染まった鎧が近づいてくる。

いつの間にか、立っているのは三人しかいなかった。後は全て死んでいた。

「あっ、ああっ、あああっ」

誰かが声にならない叫びを上げる。何か硬いものがぶつかる音が聞こえてくる。それは恐怖で震えて歯の根が合わなくなった音だった。

そしてこちらに近づく鎧の足音。

「「「わぁああああ」」」

三人は吠えた。少しでも相手がひるんでくれると期待し、それ以上に自分達の恐怖を紛らわすために。


クロは向かってくる三人のうち一番左の男にトマホークを投げつけて殺し、次に右の男が一番近いので、次はそちらを狙う。

男の剣の攻撃を剣身を左手で掴むハーフソードで受け止め、巻き込むようにファルシオンを動かして相手の剣を地面に落とし、無防備な喉を切っ先で突いた。

最後の一人が叫びながら剣を振ってきたので、それを避け、わざと相手の攻撃を誘って振り下ろされた隙だらけの一撃を剣で受け流し頭上に上げたこちらの刃を振り下ろす。

宴をしていた海賊を全員殺し、クロはその奥にいるであろうヒメ達がいる場所に向かうのだった。


クロが更に奥に行くとそこには捕まった人質達。そしてアムルと手下達が待ち構えていた。

「貴様が侵入者だな。たった一人で来るとは余程自信があるようだな」

(こんな早く来るとは! 首領達はまだ来ないのか!)

クロはアムルの焦りを必死に隠す口調で話しかけてくるのを無視して自分が一番大切な人の姿を探し、そしてヒメを見つける。

「無事か」

「……うん」

「こちらを無視するとはいい度胸だな」

アムルが右手を上げて合図すると、海賊達がクロを取り囲む。

「先ほどは奇襲で油断した者しかいなかっただろうが、今回はそう簡単にはいかんぞ」

アムルは海賊達が勝てるとは思っていなかった。いくら酔っていたとはいえ、宴会していた人間は数十人いた筈だ。そこを一人で突破した奴を只のヒューマン如きが止めれるとは思っていなかった。

だから先ほど呼んだ実験動物が来るまでの時間稼ぎの為に手下には命を張って頑張って貰わなければならなかった。


「ヒメ、ヒツギを開けろ」

それを聞いてヒメが素早くヒツギの傍らに立ってスイッチを押し込む。

するとヒツギの蓋が観音開きで開いた。

「みんな棺まで走って!」

フィッツェの一言で船員達がヒツギに向かう。そこには様々な武器が所狭しと納められていた。

剣はもちろん、様々な槍や斧の他によく見るとフィンディルにあったはずの護身用の武器まで入っていた。

「早く剣を取れ!」

ゼーヴェルに囃し立てられて船員達は次々と武器を取る。

「外なる魔力よ矢となりて我が敵を討て」

「女神よそのお力で我らをお護りください」

アムルが魔法を唱えた直後にクヴァイが前に出て女神に祈りを捧げた。

アムルの右手から放たれた魔法の矢がクヴァイの祈りの盾によって防がれる。

「エレニスの神官め、邪魔をするな!」

「それは無理な話ですね」

「先輩!」

「フィッツェ! 早く武器を取るんだ!」

「は、はい」

クヴァイに促されてフィッツェもヒツギの中にある自分とクヴァイのメイスを取るとそのメイスを投げる。

クヴァイは奇跡を使用しているために両手を防がれていて取ることができなかったので投げられたメイスは足元に落ちても取ることが出来なかった。


クロは包囲している海賊の中に、フィンディルを襲撃してきたリーダーの片目の男を見つけた。

「こいつまさか生きていたとはな。お前ら今度は生き返らないように徹底的に切り刻め!」

「け、けどよ〜」

手下達は中々動かない。宴会場にいた人間を全員殺してきた目の前の男に恐怖を抱いていたからだ。

「馬鹿野郎どもが! 全員で一気に襲え!」

リーダーの命令で手下達が一気に襲いかかる。

クロはその攻撃を次々と避けて逆に致命傷を与えていく。

左にいた手下にトマホークを投げつけ、右からきた手下にはファルシオンで断ち切る。

空いた左手に死体から斧を奪ってそれでまた一人また一人と殺していく。

瞬く間に九人が死んで残ったのはリーダーのみだった。

「やるじゃねえか、俺の本気を見せてやるよ!」

片目の男は右手の斧と腰に差した斧を左手で抜いて二刀流ならぬ二斧流になった。

「死ね!」

二つの斧を振り回しながらクロに迫る。その疾さは、並の人間なら目にも留まらぬ疾さだが。

「遅い」

クロにとっては止まって見えていた。二つの斧の攻撃を姿勢を低くして避けてから、左手に持ち替えたファルシオンを横薙ぎに振るう。

その刃はリーダーの両膝を真っ二つに両断した。

「ぐぁああああああっ!」

膝から下を切り飛ばされ、声にならない悲鳴を上げるリーダーの頭を掴み固定する。切断面からは大量の血が滝のように流れ洞窟の床を赤く染める。

「た、助けて、助けて、ください」

「駄目だ。お前はヒメに剣を突きつけた」

命乞いを無視して、クロはファルシオンをリーダーの残った目の前に突きつける。その刃は無理な力で刃が欠け曲がっていた。

「ひっ、ひっ、ひいいいっ!」

クロは悲鳴を上げるリーダーの目にその刃をゆっくりゆっくりと突き刺していく。

「がっ! がががっ! がぁ! 」

刃が脳に達するまでは叫んでいたが、それ以降はずっと痙攣し続けていた。

後頭部まで貫通させるとその刃をそのまま地面に突き立てた。


包囲していた十人を殺したクロが斧を拾いながら辺りを見回すと、アムルが魔法で攻撃し、クヴァイがそれを防いでいた。

クロが魔法を止めさせようと近づいた時、洞窟の天井から人が落ちてくる。

「おお、やっと来たな! ツケよ、そいつを殺せ!」

「ツケ? それって脱獄したあの……」

フィッツェはトスオ王国の城下町で子供達やレティを誘拐しクロによって捕まり脱獄した男を思い出していた。

「やっぱり生きていたのね」

しかしよく見ると様子がおかしい。その目は白目を向き、クロの攻撃を避けることもなく、右腕を翳す。

斧は頭を守る腕に深々と食い込む。

「?」

クロは違和感を感じて引き抜こうとするが抜けない。その間にツケの右腕が変化していく。

腕の皮が剥がれ落ち中から現れたのは、一回りも二回りも太い筋肉の塊。先端には毛に包まれた長大な黒い爪が生えた、赤黒い蜘蛛のような足が肩から生える。

「ゲヘッ、ゲヘヘヘヘッ!」

自分の腕が醜い化け物になっているのにツケは笑い出した。

変化した右腕でクロを斧ごと振り払い、その爪を突き立てる。

クロはそれを避けると、反撃しようと態勢を整える。その間にもツケの身体は変化していく。

右手だけではなく、左手、両足からも蜘蛛の足が生える。

「ゲヘヘヘヘッ!」

笑いながらツケはその四本足を不気味に動かしながらクロに迫る。振り下ろされた右腕を右に動いて避け、次に迫り来る左腕の横薙ぎを後ろに下がって避けると、背中が壁につき退路が失われた。

「ゲヘゲヘゲヘッ!」

ツケは勝利を確信したのか一際笑うと、口を大きく開けた。

そこから触手がクロの顔を貫こうと伸びる。

クロはそれを避けると、その汚い触手を掴むと思い切り引っ張り引き抜く。

「ゲヘェエエエッ」

根元から千切れた触手を捨ててクロが左手を横に伸ばす。先にはヒツギのそばにいるヒメの姿があった。

「ヒメ、ハルバード」

クロがそう言うとヒメは迷うことなくヒツギからハルバードを取り出しそれを軽々と両手で放る。

投げられた斧槍はクロの左手にすっぽりと収まった。

振り下ろされた左腕を避けてそれを足掛かりに思いっきり跳躍する。

上をとったクロは穂先を下にしてツケの背中を貫く。

そのままハルバード胴体を貫通して身体を地面に縫い付ける。

ツケは逃げ出そうと手足をばたつかせるが、却って斧が身体を抉り傷を広げ、紫色の体液を撒き散らすだけだった。

「醜いな。俺と同じだ」

クロの呟きはツケには理解できず、周りにも聞こえなかった。

「ヒメ、メイス」

ヒメから投げられた槌を左手で受け取り、両手で構えて頭上に構えて頭めがけて振り下ろした。

肉が潰れ骨が砕ける音が響く。

「ゲヘッ!ゲヘッ!」

ツケの頭部は明らかにへこんでいるのだが、致命傷にはなっていないようだった。

クロも一回じゃ終わらないのは分かっていたのだろう。何度も何度もメイスを振り下ろしていく。

ブォンとメイスが風を切りながら、ツケの頭をどんどん潰していく。

「ゲヘッ!ゲベッ!グェベッ!」

ツケの口から紫色の血が吐き出され、笑い声にも濁った音が混ざる。

それでもクロはメイスを振り下ろし続け笑い声が完全に止むまで頭を潰し続けた。

メイスを三十回振るったところで手を止める。

見るとツケの頭部は完全に原型を無くし血と肉と骨の塊になり、身体は手足を伸ばして小刻みに震えていたがそれ以上は動く気配がなかった。

一部始終を見ていたフィッツェ達はクロが一人で化け物を殺したことに驚いていたが、それ以上に驚愕していたのはツケを改造したアムル本人だった。

(な、何だ彼奴は! 私が作った作品がいとも容易く壊されるとは!)

アムルにとってはツケはもはやヒトではなく自分の玩具だった。

その玩具を破壊した張本人がこちらに迫ってくる。

(チッ、首領が来るまで持たせるには、クロ(彼奴)が一番厄介だ。だがまず先にこいつからだ)

「外なる魔力よ複数の矢となりて我が敵を討て」

右手を頭上に翳すと、大気中の魔力が渦を巻きながら集まり五つの塊が生まれる。

その一つ一つが魔法の矢なのは間違いなかった。

(まずいですね)

それを見て一番焦ったのはクヴァイだ。船員達の脱出の時間稼ぎの為に祈りの盾の奇跡を唱えたが勿論欠点もある。

広範囲を守れる分両手が塞がって攻撃ができない。動こうとしてもさっきの化け物のせいで脱出が遅れてまだ動くに動けなかった。

更に何度も魔法の矢を防いでいたので盾のそこかしこにヒビが入り、耐えれてもあと一、二発。どう考えても五発は防げそうにない。

「ヒメ、ジャベリン二本」

クロは全力疾走しながらヒメに指示を出した。

「させるか! 斉射!」

アムルが右手をクヴァイに向けると五つの魔法の矢が一斉に放たれる。

クロは受け取ったジャベリンを間髪入れずに投げる。

二つの魔法の矢はジャベリン二本を消滅させ残り三つ。

「二つは頼むぞ」

クロはそう言うと魔法の矢の一つの前に立ち塞がりそれを掴むように右手を突き出す。

「何を!」

クヴァイがそう言った直後、二人に魔法の矢が直撃した。

二つの魔法の矢は祈りの盾を砕き、クヴァイは吹き飛ばされる。

「先輩!」

避難を完了し戻ってきたフィッツェは吹き飛ばされ動かないクヴァイと仁王立ちのクロの姿が見えた。

「クロ、 大丈夫で……あっ!」

よく見るとクロの右肘から先が無くなっていた。

「運のいいやつめ! だがもうその腕では何もできないだろう。死ね!」

アムルが追撃の魔法を唱えようとしたその時、異変に気付く。

右腕を失った筈のヒューマンとは思えないほどクロは冷静だった。最初はショックで何も言えないのかと思ったが、どうやら違うようだった。

クロは右腕がないままアムルに歩いて近づいていく。

「ふん、狂ったか……何だアレは?」

正面から見ていたアムルが一番初めに気付く。右腕からは血が流れていないのだ。代わりに黒い影のようなものが傷口から溢れ出す。

その影が腕を形作られる。更に破壊された金属の籠手さえも再生し、完全に元に戻っていた。

「ならば、これをくらえ! 『外なる魔力よ槍となりて我が敵を討て』」

右手に魔力が集まり放たれたそれはまさしく槍だった。それを頭上に掲げて投げる。

クロはそれを避ける。魔法の槍は地面に着弾し大穴を開けたがそれだけだった。

「くっ、まだ……」

「遅い」

クロは一気に距離を詰め魔法を唱えようとするアムルの首を右手で掴み一気に締める。

「ぐぁっ!」

「お前には聞きたいことが……」

クロの質問はアムルには届いていない。彼は一つの事しか考えてなかったからだ。

(私では勝てん。せめて死ぬ前にこいつの事をあのお方に知らせなければ!)

「外……よ……魂を……の元に……」

アムルが口を必死に口を動かし何かを言っていたが、クロには聞こえなかったしどうでもよかった。

「何も知らないようだな。なら奥にいる奴に話してもらう……お前は死ね」

クロは右手に思いっきり力を込めて首を潰す。その直前にアムルの魂が魔法で身体から離れていたことには気づかなかった。

「貴方達はヒトなの?」

アムルを地面に落としたクロの背中に向かってフィッツェが問いかける。

「ヒメ行くぞ」

「答えて! 貴方は……」

「悪いが答えることはない。俺たちはこの奥にいる奴を殺しに行く。お前達は先に船で王国に戻っていろ」

いつもとは違うクロの強い口調でフィッツェはそれ以上何も言えなくなる。

フィッツェは洞窟の奥に消えていくクロとヒツギを背負ったヒメを見送ることしかできなかった。

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