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子供たちの鎮魂歌③  作者: さき太
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第二章 夢を巡る冒険

 「隊長。」

 一馬はそう呟いていた。

 「どうした、一馬?」

 そう声がして、そこに沙依がいた。女性らしい柔らかい色合いのワンピースを着て、薄く化粧をして、髪をアップにして髪飾りをつけている。やけに女らしくしているその姿に一馬は少しどぎまぎした。神官として神事を執り行うときは正装をして化粧もしているが、沙依は普段はこんな女らしい恰好なんてめったにしない。そのめったには春李に無理やり連れ出されて着せ替え人形にされている時だけだった。なのに今一馬の目の前にいる沙依は、春李もいないのに女らしい恰好をしていた。

 「隊長?」

 一馬は信じられなくて変な声を出してしまった。沙依に笑われる。

 「急に懐かしい呼び方で呼ぶし、どうしたの?なんか変だよ。」

 懐かしい呼び方?そう思って、だんだん一馬の記憶が鮮明になってきた。そうだった、美咲に無理やり沙依の所に連れていかされ、そこで本当に沙依に再会したのだった。沙依は龍籠に戻ってきたが、軍には戻らず一般市民になった。そしてもう隊長ではないのだからと、隊長と呼ぶのを禁止されたのだった。あれからだいぶたつのに本当に急にどうしたのだろう。今日は自分が非番だったから、久しぶりにゆっくり話でもしようと沙依を誘ったのではなかったか。一馬は自分が可笑しくなって苦笑した。

 「沙依が珍しく女らしい恰好をしてるから、驚いてさ。」

 そう言われて沙依はなんかおかしかったかなと自分の恰好を見回した。

 「ほらシュンちゃんがさ、たまには女の子らしくしなきゃダメだっていつも言ってたから。軍人じゃなくなったし、ちょっと女の子らしくを頑張ってみようかと思ったんだけど。自分で選んでこうゆう格好したことなかったから。変かな?」

 そう言って上目遣いで見上げてくる姿に顔が熱くなるのを感じて一馬は目をそらした。

 「なんで目をそらすのさ。やっぱり変なの?似合ってないの?やっぱ、一回帰っていつも通りの恰好に着替えてくる。」

 下を向いて小走りで帰ろうとする沙依を一馬は止めた。

 「似合ってるから。着替えなくていいから。そのままでいろよ。」

 本当?と言って泣きそうな顔で振り返る姿に、一馬は思わず噴き出した。

 「なんかお前、普通の女みたいだな。」

 そう言うと沙依は憮然とした顔をした。

 「いや、沙依がこんな風に普通の女みたいになるなんて想像できなくてさ。」

 そう昔の沙依からは想像できなかった。沙依が第二部特殊部隊に入隊した時、彼女はまだ子供だった。ガキが来るところじゃない。まして女が来るところじゃない。一馬はそう思って腹が立った。第二部特殊部隊は最も死傷率が高く危険なところだった。それに隊員たちの気性も荒く、階級よりなにより強い奴が偉い、そんなことがまかり通っていた場所だった。沙依の素質は認めるところではあったが、それでもこんな場所にいないで普通の生活をしてろと思っていた。こんなところにいて年頃になれば、そのうち誰かに手籠めにされて泣くことになるぞ。そんなことを思って腹が立った。いくら辞めろと言っても、出てけと言ってもきかない沙依に腹が立って、どれだけ怒鳴り散らしたか解らない。何度暴力をふるって重傷を負わせたか解らない。第二部特殊部隊はこういうところなんだと、さっさと逃げ出せよと、そう思っていたが沙依は逃げなかった。結局、隊長にまでなってしまった。沙依が隊長になった時、一馬は反発して沙依に従わなかった。その結果、ある作戦で小隊は壊滅。その時出陣した者で生還したのは一馬と沙依だけだった。

 沙依はあの作戦での失態がトラウマになって一馬を縛っているのだと思っているようだったが、本当は違う。沙依はことあるごとに一馬が自分を特別扱いするのはあの時のトラウマのせいだと言っていたが、違うのだ。沙依と二人残った時、沙依が自分を囮にして一馬を逃がそうとした時、一馬は諦めただけなのだ。沙依に軍人を辞めさせるのを諦めた。そして、沙依が意思を貫くというのなら自分が全力で彼女を守ると決めただけなのだ。初めて会った時から一馬はずっと沙依を心配していた。危険なことはしてほしくなかった。危険なところにいてほしくなかった。それだけだった。そのために彼女にひどいことをし続けた。自分が率先してそうすることでそれ以上を他の誰もが出来ないように。容赦なく打ちのめすことで彼女が諦めてさっさと逃げ出すように。ちゃんと死なないように、後遺症が残るようなことにならないように調整して、骨を折る場所も折り方も気をつけていた。初めて会った時から沙依のことを守らなくてはいけないと思っていた。その守り方を変えた。一馬にとってあの時の出来事は、たただ自分の在り方を変えるきっかけにすぎなかった。

 一度認めてしまえばあとは単純だった。沙依は軍人として優秀だった。ただ守るべき存在だった彼女を隊長として認め、敬愛し、信頼するようになるのにそんなに時間はかからなかった。自分の上に立つのは彼女以外いない。彼女にはずっと自分たちの隊長でいてほしい。でも、彼女が軍を辞めて普通の生活を送ることを選んだならそれは喜ばしいことだった。軍人で居続けるより、その方が嬉しかった。

 「ほら機嫌直せよ。沙依、あそこの甘味好きだったろ?奢ってやるからさ。」

 一馬のその言葉に沙依は瞳を輝かせた。

 「本当?でも、一馬って甘味平気だっけ?食べてる印象ないんだけど。」

 そう首を傾げる沙依に一馬は笑いかけた。

 「好きでもないが、嫌いでもない。」

 「なら大丈夫か。ありがとう。」

 そう言って笑う沙依の顔が一馬には眩しく見えた。それは一馬がずっと望んでいた光景だった。ずっと沙依が軍人を辞めて普通の生活を送ることを望んでいた。普通の女みたいに、それなりにめかし込んで、そのうち男でも作って、家庭を持ってくれればいいと思っていた。所帯を持たないやつの方が多い龍籠で所帯を持って家庭に入れなんてそれは普通じゃないのかもしれないが、一馬は沙依にそれを望んでいた。それに近いものが今目の前にあって、それが一馬には不思議な気分だった。

 「早く行こう。」

 そう言って沙依が一馬の手を引っ張って連れていく。一馬はなんだかひどく懐かしい気持ちになって、目を細めた。沙依が自分にこんなことをしたことはないと思う。なのにずっと昔にこうやって手を引かれたことがあるような気がして仕方がなかった。こんなことがあったとしたらいったいいつの事だろう。ぼんやりとしたイメージが頭を過り、一馬は何かを思い出せそうな気がしたが、掴もうとするとそれはまた遠くに行ってしまった。

 

                  ○             ○


 「一馬はわたしにこんな格好をさせたかったのか?」

 一馬の夢の中に入った沙依は姿見に写った自分の恰好を見て思わず口に出していた。沙依はひらひらした白いワンピースを着て、化粧もして、髪まで結って髪飾りをつけていた。凄く落ち着かない。沙依は姿見に写る自分が自分でないような気がして仕方がなかった。

 ここは一馬の夢の中。かつて沙依が父を封じるために使った術式と同じ、夢封じで見せている幻の世界。ここには夢を見ている者の望んだ世界がある。つまり一馬の夢の中の沙依がこんな恰好をしているのは、一馬がそれを望んでいるという事なのだ。

 いったいこれはどういうことなのだろう。ここは沙依がかつて高英と暮らしていた懐かしい家だった。だから一馬が龍籠の夢を見ているのは解る。でも自分のこの格好はいったい何なんだ。沙依は困惑していた。とりあえず他の物に着替えようと自分のタンスを開けるが、どれもこれも見覚えのないかわいらしいものばかりだった。それを見て沙依は頭を抱えた。一馬にこんな少女趣味があったとは知らなかった。というか一馬はいったいわたしをどうしたいんだ。一馬の中のわたしっていったいどんな奴なんだ。そう思って沙依はパニック状態になった。

 「沙依いるか?」

 声がして一馬が入ってくる。

 「返事を聞く前に人の家に入ってくるな。」

 思わす沙依は返していた。一馬はさして申し訳なさそうな様子も見せず、悪いと言った。

 「すっかりそういう格好が板についてきたな。軍人じゃない生活にももう慣れたか?」

 どうやらここでは自分は軍人じゃないらしい。それは理解したが、だからと言ってこの格好はないだろ、と沙依は心の中で悪態をついた。足がすーすーして落ち着かないし、こんな格好を見られるのはなんだか凄く恥ずかしい。

 「大丈夫か?なんか様子がおかしいぞ。」

 怪訝そうに眉根を寄せながらそう言う一馬を、沙依は凄く殴りたかった。殴りたかったが、我慢した。ここには一馬と話をしに来たのだ。まずは夢を壊さないように、夢の中の一馬に寄り添わないと。一馬が何を望んでいるのかちゃんとくみ取って、一馬の心と折り合いをつけて、それから夢を自覚させて目覚めさせなければいけない。そう考えて沙依は我慢した。

 「最初見たときは沙依が普通に女に見えて落ち着かなかったけど、見慣れると悪くないな。」

 そう言うお前がわたしにこれを着せてるんだけどな、と心の中で悪態をついて、沙依はため息をついた。

 「わざわざ非番の日に家に来るとか、なんかようなの?」

 一馬の恰好を見れば彼が非番なのは一目瞭然だった。そして龍籠で暮らしていた頃、沙依は一馬と休日を共にしたことなんてはなかった。一馬とはあくまで仕事上の関係しかなかった。一体、一馬の夢の中ではどんな設定になっているのか沙依には全く想像ができなかった。

 「特に用はないが、どうしてるかと思ってな。司令官も危篤状態だし、長官も帰ってきてないし、一人暮らしは淋しいんじゃないかと思ってさ。それにヒマだろ?」

 そう言って一馬は沙依を外に連れ出した。

 甘味処で一馬と机を挟んでいると沙依は凄く不思議な気分だった。

 昔ここにはよく隆生と来ていた。お互いの非番が合うと公共の訓練場で模擬戦をして、負けた方が相手に奢る。そんなことをいつもしていた。沙依はいつも隆生にここの甘味を奢らせていた。こうやっていつも二人で机を挟んでたわいもない話をしていた。そんなことを思い出して沙依はひどく懐かしい気持ちになった。

 今はいつも隆生がいたところに一馬がいる。そしてそこから甘味を食べてる自分を一馬がずっと見ていて沙依は落ち着かなかった。

 「お前は何がしたいんだ?わざわざ非番の日にわたしを連れ回して、こんなもの奢って、意味が解らないよ。」

 そう言う沙依に一馬は優しく笑いかけた。それを見てまた沙依は落ち着かなくなった。一馬がこんな風に笑うところなんて見たことがなかった。沙依には夢の中の一馬は一馬じゃないように思えてひどく落ち着かなかった。

 「別に何がしたい訳じゃないんだけどな。お前がこうやって普通に過ごしてるのを見ると、感慨深くて何度も確認したくなるんだ。本当に軍人辞めて、普通の暮らししてんだなって思うとほっとする。」

 そう言って一馬は沙依の目を見つめた。

 「ずっと軍人を辞めてほしかった。お前に危険なところにいてほしくなかった。危険なことをしてほしくなかった。だからさ、そうゆう女らしい恰好して、普通にしてるの見るのが嬉しくてな。夢じゃないかと思って、非番になるとつい確かめに来たくなるんだよ。」

 本当に嬉しそうに目を細める一馬を見て沙依は心の中で、夢だけどねと呟いて、目を逸らした。

 「後は男でも作って、所帯でももってくれりゃ安心なんだけどな。」

 そう言う一馬は本当にそう思っている様子だった。

 夢の中の一馬は世話焼きでとても優しかった。自分を見る目がとても穏やかで温かくて沙依は落ち着かなかった。人ごみにまぎれると手を引かれた。高いところの物が取りたくて、よじ登ってとろうとすると、抱き上げられて下ろされ、代わりにとって渡された。

 「そんなことして落ちて怪我でもしたらどうするんだ。高いところの物をとる時は台に乗るか、人を呼ぶかしないとダメだろ。お前は本当に昔からお転婆なんだから。」

 そう優しく諭され、沙依はうつむいた。こんなの一馬じゃない。一馬は確かに根はやさしいけど、もっと粗暴でぶっきらぼうで、こんな穏やかな目をして優しく笑ったりしない。これじゃまるで(よん)(にい)(さま)じゃないか。沙依はそう思って唇を噛んだ。

 地上の神の子供たち。ターチェの祖先となった、最初の兄弟。自分が龍籠にいたあの頃、六人全員が揃っていた。

 一番上が行徳。昔の名前は太郎(たろう)(あね)(さま)(あに)(さま)と呼んでいたから、沙依も兄様と呼んでいた。厳格で真面目な人だった。

 二番目が春李。昔の名前は一姫(いちひめ)。たった一人の姉で、沙依は姉様と呼んでいた。勝ち気で男勝りな人だった。

 三番目が成得。昔の名前は次郎(じろう)。沙依は次兄(つぐにい)(さま)と呼んでいた。ものぐさで呑気な人だった。

 四番目が陽陰。昔の名前は三郎(さぶろう)。沙依は(さん)(にい)(さま)と呼んでいた。兄様に似て真面目だけれど兄様ほど厳しい人ではなかった。

 五番目が一馬。昔の名前は四郎(しろう)。沙依は四兄様と呼んでいた。とても優しくて穏やかな人だった。

 六番目が沙依。昔の名前は(すえ)(ひめ)。兄妹で唯一母様と同じ目と髪の色をした末っ子。母様の面影を残す末っ子は兄姉達に大切にされ甘やかされて育った。

 一馬は一番元の兄様に似ていないと沙依は思っていた。根っこは同じなんだと思う。能力を感情のままに使わない自制心や、面倒見が良くて優しいところは似てると思う。でも一馬は四兄様と違って、血の気が多くて、喧嘩っ早くて、すぐ怒鳴るし、人の扱いも乱暴で、こんな風に優しく頭を撫でたりなんかしない。こんな穏やかで優しい声で話したりしない。こんな柔らかいあたたかな目をして笑いかけたりなんかしない。これじゃあ本当に四兄様じゃないか。姿だけ一馬のままで、まるっきり四兄様じゃないか。

 優しかった兄を思い出して沙依は胸が苦しくなった。長兄に記憶を奪われ、沙依達兄弟のことも、家族のことだって何一つ覚えていないはずなのに。夢の中の一馬はなんでこんなにも四兄様に似てるんだろう。昔みたいに優しい兄に甘えたくなる自分がいて、沙依はどうしようもない気持ちに襲われた。

 その昔、沙依はずっと帰りたかった。家族で過ごしたあの時に、皆のいるあの場所に還りたかった。そう思っていたのは過去の話で、自分が求めているのはもう違うのだと、自分は新しい帰る場所を見つけたから大丈夫だと沙依は思っていた。でもやっぱり今でも家族が恋しいかったのだと、それを実感して沙依は涙が溢れてきた。

 「四兄様。」

 沙依はそう呟いていた。一馬は違う。そう思うのに、そう思うから、涙が止まらなかった。

 「沙依?」

 一馬がしゃがみ込んで沙依の顔を覗き込む。

 「どうした?大丈夫か?」

 優しく涙を拭われて、縋り付きたくなって、沙依はぐっと拳を握った。我慢しようとしても涙が抑えられなくてぽろぽろ零れた。

 一馬は一馬で、四兄様じゃない。同じ魂を持っていても四兄様じゃない。どんなに似てたって、四兄様じゃない。今はもう兄妹じゃない。懐かしく思ったって、なんだって、一馬が四兄様に戻ることなんてない。だって、兄様が皆の記憶を奪ってしまったんだから。どんなに願ったって最初から帰れるわけはなかったんだ。そう思いいたって沙依はもう我慢できなかった。兄様。どうして皆の記憶を奪ってしまったの?どうして全部忘れさせてしまったの?どうして・・・。沙依は声を立てて泣いていた。

 「お前は本当に泣き虫だな。何があったか話してみろよ、聞いてやるから。」

 自分を安心させるように優しく微笑む顔が、その声が、どうしようもなく懐かしくて、もう我慢できなくて、沙依は一馬に縋り付いた。縋り付いて泣いた。どうにもならない気持ちを全部吐き出すように、大きな声をたてて泣いていた。そんな沙依の背中を一馬は優しく擦った。沙依が落ち着くまで一馬はずっとそうしていた。

 「あぁ、そうか。お前は俺の妹だったんだな。」

 一馬の呟きに沙依は驚いて顔をあげた。

 「ずっと疑問だった。お前を初めて見た時から、ずっとお前の心配しっぱなしだった。お前はずっと冷めてて、ガキの頃から何があったって泣きもしなけりゃ逃げ出しもしねぇし、人を頼りにもしねぇで、偉そうだった。なのに俺にはお前が泣き虫で甘ったれで淋しがりに思えた。お前に手を引かれて笑いかけられたことがある気がした。」

 遠くを見ながらそう語る一馬を沙依は目を見開いて見た。

 「思い出したの?」

 そう訊かれ一馬は曖昧に笑った。

 「いや、思い出せない。思い出せないけど、解る。お前が末っ子の妹で、兄貴たちがいた。俺は五番目だ。そう、一番上の兄貴がなんか言ってた。あれは・・・。」

 そう言って一馬は頭を押さえた。

 「あと少し、あと少しで思い出せそうなんだ。ぼやけてるけど、見える。母さんが死んで、親父と兄妹で暮らしてた。俺たちは仲がいい兄妹だった。まだ小さかった末っ子のお前をみんなかわいがってた。姉貴の真似して剣を振るおうとするお前を、危ないからって皆が止めて、ふてくされるお前に姉貴が自分はいいけどお前はダメだっていつも言って、更にお前はふてくされて。姉様がひどいって泣きついてきてた。」

 頭を押さえて苦しそうに顔を歪めながら、一馬はぽつりぽつりとぼやけた記憶を言葉にしていった。ひどく曖昧で、よく思い出せない。でも確かに自分の中に残っている。大切だった。失いたくなかった。本来、失われるはずじゃなかったその記憶。

 一馬の夢が崩れ始め、世界が失われていった。全てが色を失くし白い靄に包まれていく。形を失った夢は再び形作ることができず霧散していった。その夢は思い出せない過去を強く願う一馬のその願いに応じそこに現れた闇に呑まれていった。

 「ダメだ、一馬。夢を深く求めすぎちゃいけない。これは夢なんだ。気をしっかり持って、夢に呑まれちゃダメだ。起きられなくなっちゃうよ。」

 沙依の叫びは一馬に届いていない様子だった。

 本来夢封じとはそういう術式だ。本人が望む夢を見せ、より深く夢の世界に沈め込み、永遠に夢の世界に魂を封じ込めてしまう。沙依は少し眠っていてもらうだけつもりだった。だから表層意識にしか働きかけず、精神の深いところまで術式を巡らせたりはしなかった。でも一馬自身が夢を強く求めてしまったことで夢はより深い眠りに一馬を誘おうとしていた。一馬の意識は自分がかけた術式のせいで、自分が刺激してしまったせいで、戻れない夢に呑まれそうになっている。そんな光景を眼前にして沙依は叫んでいた。

 「ダメだよ。行かないで、四兄様‼」

 ハッとした顔をして一馬が顔をあげた。沙依と一馬の目が合って、そして、世界は闇に包まれた。


                ○             ○


 ここはどこだろう。美咲はぼんやりした頭で考えた。

 誰かの温もりを感じる。誰かに抱きかかえられている。それは解るけど、身体がひどく重くて、視界もぼやけていた。ぼやけた視界の中に誰かがいた。その誰かを自分がすごく愛おしく想っていることが解った。その誰かは泣いている様だった。その誰かが悲しむことが辛くて、泣かないでほしくて、手を伸ばした。その誰かの頬に手が触れて、自分が笑ったことが分かった。泣かないで。愛してる。ありがとう。幸せだった。そんな思いが溢れてきて、美咲は不思議な気分だった。自分の事なのに、自分の事ではない気がした。

 こんな気持ちを今まで美咲は感じたことはなかった。自分の身体のはずなのに、自分の心のはずなのに、自分のものではない気がしてとても不思議な気分だった。

 この想いは誰のもの?

 これはいったいなんなのだろう?

 美咲には全く理解することができなかった。


 「春李。大丈夫か?無理しなくていいぞ。ゆっくりでいいから。」

 磁生の声がして、気が付くと目の前に彼がいた。美咲は磁生と肌を重ねていた。耳元で響く声が優しくて、痛みはどうでもよかった。彼に触れられたところが熱くて、重ねた唇が熱くて、荒い息遣いも、鼓動の速さも、彼を感じられる全てが愛おしかった。こうやって彼と一つになれたことが嬉しかった。彼は何度も名前を呼んで、好きだと言った。それは自分の名前ではなかったが、美咲にはそれが自分の事だと解った。幸せだった。自分も好きだと返したかったけれど、恥ずかしくて口に出すことができなかった。

 ああ、そうか。これは誰かの記憶なんだ。見えてる光景も、感じる想いも、全部誰かが体験した事なんだ。美咲はひどく冷静にそう考えていた。

 実感を伴ってそれは美咲の中にあった。確かに自分が体験した事だった。そう思うけれど、これが自分のものだとは美咲には思えなかった。自分じゃない。自分はまだこんな経験をしたことはない。こんな想いを抱いたことなんてない。なのに確かに自分の中に存在しているこの記憶をどう扱えばいいのか美咲には解らなかった。


 「なんでもいいからさ。結婚して。俺、お前がいないとダメなんだ。ずっと、傍にいてほしい。」

 耳元で磁生の声がして美咲は頭が真っ白になるくらい顔が熱くなるのを感じた。

 磁生に急に結婚を申し込まれて驚いた。彼が自分をそういう相手に見てるなんて思ってもいなかった。そもそも誰か特定の人を作るような人だと思っていなかった。だから最初に言われた時、何も返事ができなくて、からかわれてるんじゃないかと思って、混乱したままひたすら彼の想いを信じられないと否定し続けた。散々言い合いをして、抱き締められてそう言われ、痛いほど本当に彼が自分を必要としてくれていることが解って諦めるしかなかった。自分だって彼が好きなのだ。こんなに求められたら受け入れるしかないじゃないか。そうして彼の申し出に了承した。

 彼が本気なのを理解して、嬉しくて、恥ずかしくて、そんな自分をからかう彼を振り払って逃げようとして捕まった。

 「わたしも、傍にいたいと思ったから。磁生なら嫌じゃないかなって。」

 そう言うのが精一杯だった。本当はずっと前から好きだった。磁生が自分を嫌っていると思っていた頃から好きだった。どこまでも優しい彼が好きだった。優しいからこそ、自分のしてることに耐えられなくて壊れかけていた彼の支えにずっとなりたかった。ずっと前から傍にいたかったのは自分の方だったのに、それを上手く伝えることができなかった。


 「いいかげんにしろよ。そんなにつらいなら、出てけよ。もう関わるな。」

 磁生はとても苦しそうな顔をして泣いている美咲を怒鳴りつけた。そんな彼を見て、やっぱりこの人は優しいなと思って心が温かくなった。

 彼の家に居座って久しく、何も言わずに居座らせてくれる彼が自分のことを快く思っていないことは解っていた。美咲が仕事を手伝うことを良く思っていないことも知っていた。自分が傷付くより誰かが傷付く方が痛いから、人から距離を置いて、仲間からも距離を置いて、一人でいたい人なのだと知っていた。だから美咲が傍にいるのが、一緒に戦うのが、手を汚して心を痛めることが、彼には辛くて仕方がないのだと解っていた。でも彼の傍にいたかった。彼を独りにしたくなかった。不器用でどうしようもなく優しい彼が好きだった。彼を好きになっていた。

 磁生がいつも行きずりの関係で仮初の安寧を手に入れて心を紛らわしているのを知っていた。仮初の安寧を与えてくれる女性たちにも、彼は優しかった。彼が彼女たちの身体の不調を治してあげているのを知っていた。美咲がいても家に連れ込むから、行為に及んでいるのが聞こえてきて、胸が苦しくなった。行きずりの関係でも、ほんの少しの間でも、彼を癒すことができる彼女たちがうらやましかった。

 「辛いのは確か。でも、あなた達と会ってほっとしたの。すごく楽になった。この涙はわたしの弱さなだけ。わたしはここにいたい。いつかあなたに殺されることになってもいい。わたしの心はあなたの手でもうとっくに救われてるから。もうなにも心残りはないの。」

 美咲はそう言って磁生の目を見つめた。

 「ねぇ磁生。わたしを初めて見た時から、わたしが鬼と同じものだって解ってたよね。(かく)(けん)(じん)も。でもなんでわたしを殺さなかったの?なんでわたしを助けたの?」

 堰を切ったように言葉が溢れだした。

 「わたしのこと軍人に向いてないって言ったよね。磁生も人殺しに向いてないと思うよ。だってあなたの手は人の命を助けたがってるもん。あなたの心はずっと、殺したくないって言ってるもん。」

 美咲が精一杯思いのたけをぶつけると磁生の目から涙が溢れてきた。彼はしばらく呆然とした顔で涙を流し続けていた。そして顔を歪ませると美咲に抱き着いて、小さな子供の様に声を立てて泣いた。彼は美咲に縋り付いて泣き続けた。そんな磁生の背中を美咲は優しく撫でた。彼のことがとても愛おしくて、彼の弱さも痛みも全て受け止めたかった。

 「一緒に殺さないですむ方法を考えようよ。見つかるまでは仕方がないから、今まで通り生きよう。でも、あなた達だけに背負わせたりしない。わたしは逃げたくない。本当にわたしは感謝してる。だから、わたしも同じ気持ちだってことを解って。わたしにも一緒に背負わせて。」

 磁生が好き。でも彼の特別になれなくてもいいと思った。彼は弱いから、きっと特別な人は欲しくないんだと思っていた。それに背も低くて子供みたいな見た目の自分じゃ、彼の目にはそういう対象に写らないんだと思っていた。だから自分が彼の事を好きだってことを彼は知らないままでいいと思った。ただ今まで通り、彼の傍にいて一緒に戦うことができればそれでよかった。


 目を開けて、ぼやけた視界の先に磁生がいた。

 「目を覚ましたか。ならこれ食っとけ。」

 そう言って磁生は美咲の口に丸薬を突っ込んだ。とても苦かった。

 目を覚ました時、美咲を支配していたのは絶望だった。死にたかった。死ねなかった。どうして死なせてくれなかったの。どうして助けたりなんかしたの。そんな気持ちでいっぱいだった。磁生からは血の匂いが濃く漂っていた。それは美咲と同じものの血の匂いだった。だからこそどうして殺してくれなかったのか解らなかった。

 「怪我が治ったら出てけよ。」

 磁生はそれだけ言った。彼の目は暗くよどんで、ひどく荒んでいた。彼は何も聞かなかった。彼は何も話さなかった。ただ美咲を治療し、世話を焼いた。

 ひどく殺伐とした雰囲気を漂わせているのに、それとは裏腹に治療する彼の手はとても優しかった。できるだけ痛まないようにそっと触れて、とても丁寧に治療する。この人はすごく優しい人なんだな、そう思って美咲の心は温かくなった。だからこそ何故彼がこんな雰囲気を纏い、濃く血の匂いを漂わせているのか気になった。とても似合わないと思った。だから彼の元を去った後、彼の行動をつけていた。

 磁生は人殺しだった。毎日のように沢山殺していた。鬼となった美咲と同じ者達も、そうじゃない人たちも。何かを殺さない日の方が少なかった。

 戦っている時の磁生の目は死んでいた。覚悟を持って殺しているわけじゃない。何かの為に殺しているわけじゃない。強制され殺さなくてはいけないから、作業の様にただ淡々とこなすことで何も考えないようにしている、そんな目だった。その姿があまりにも痛々しくて、美咲は前に出た。

 死にたかった。生きていたくなかった。だから仲間を助けるためと言い訳そして、戦いに身を投じ、無茶な戦い方をし続けていた。やっと死ねると思ったのに、磁生に命を拾われた。自分の命を拾った彼は、ひどく優しくて痛々しい人だった。だから少しでも彼の心が軽くなる様に、彼の傷が少なくて済む様に、彼の隣にいて共に戦おうと思った。軍人の自分に、かつて戦いの申し子と称された自分に出来ることはそれくらいだと思った。一緒に戦って、彼の罪を少しでも肩代わり出来たらと思った。自分が彼の敵であることは自覚していた。いつか彼の手で、彼の近しい者の手で殺されることになっても構わないと思った。救われた自分の命は、救った彼の為に捧げると決意して、再び彼の前に姿を現した。

 自分の姿を見た彼の目に後ろめたさと動揺を感じ取って、美咲はやはり彼は優しい人だと思った。そしてかつて自分の仲間だったであろうものを手に掛けた。後悔はなかった。ずっとそうしてきた。鬼になったら戻れないから、殺すしか彼らを救う方法はないのだから。だから美咲はそれを彼に伝えた。仲間を助けてくれてありがとうと伝えた。彼の罪悪感が少しでも薄れればいいと思って、精一杯の笑顔を彼に向けた。


 美咲は荒野に一人だった。一人で養父の名を呼んでいた。父の名を呼びながら、ずっと泣いていた。育ててくれた父なのに、一度だってちゃんとお父さんと呼んだことはなかった。ずっと陽陰と名前で呼んでいた。

 「俺の事父親だって思える様になったら、ちゃんとお父さんって呼べよ。」

 そう言った陽陰の顔が思い出された。陽陰はずっと自分がお父さんって呼ぶのを望んでいたのに、父親になろうと努力してくれていたのに、美咲はお父さんと呼ぶのが恥ずかしくて呼べなかった。最後まで呼ぶことができなかった。父親だと思っていた。本当の父だと思っていた。父親として尊敬し、慕っていた。いつか陽陰のような立派な軍人になりたいと憧れていたのに。ちゃんと何も伝えることができなかった。

 「お父さん。」

 呟いて、身が張り裂けるような思いがして美咲は叫んだ。それが怒りなのか、悲しみなのか、それとも違う何かなのか、解らなかった。痛かった。身体のあちこちにできた傷ではなくて、心が、どうしようもなく痛かった。


 そこは火の海だった。美咲が率いていた部隊は壊滅。生存者がいるかどうかも解らなかった。この戦いに赴く前からこうなることは解っていた。勝ち目のない戦いでも戦わなくてはいけない時がある。軍人として命ある限り国を守るために戦い続けるのは当然で、逃げ出すという選択肢はなかった。それに自分は第一主要部隊の部隊長なのだ、指針となるべき自分は部下に恥じない姿を見せ続けなくてはいけない。自分が弱気になれば士気が下がる。どんなに勝ち目がなくても、絶望的でも、自分だけは顔をあげ、前を向き果敢であり続けなければいけない。たとえその姿を見せるべき相手がそこにいなくても、ここが戦場である限り、自分は膝を折るわけにはいかない。

 美咲は咆哮し、敵をなぎ倒し続けた。四肢は重く、視界は霞んでいた。気が付くと美咲は一人だった。敵も味方も、見えるのは死体だけだった。戦争はどうなったのだろう。国は?皆は?何も解らなかった。

 「春李、ここにいたか。」

 陽陰の声がした。現れた彼は深手を負っていた。駆け寄る美咲に彼は、治療はいいと言った。今すぐ死に至るような傷ではなかったが、応急処置でどうにかなるような傷でもなかった。

 「国は落ちた。お前は逃げろ。あいつらはまだ残ってる。こんな見晴らしのいい場所にいたら、すぐ見つかっちまうぞ。」

 「陽陰は?」

 「傷が深い。沙依か正蔵の誰かと合流できれば助かる見込みもあるが、多分俺はここまでだな。」

 「じゃあ沙依か正蔵家の誰かと合流しようよ。わたし探すよ。」

 この状況でそれが不可能に近いことは解っていた。合流の前に、無事でいるかどうかも解らないのに。無事でいる可能性の方が少ないのに。でも美咲は諦められなかった。まだ生きている。まだ助かる可能性がある。なら、どんなに絶望的でも諦めたくなかった。陽陰に生きていてほしかった。そんな美咲を見て彼は笑った。

 「軍人としてじゃなく、父親として言うけどな。やっぱり娘には生き残って、出来ることなら幸せになってほしい。だから、お前はちゃんと生きろよ。」

 そう言って陽陰は美咲の頭を撫でた。そして陽陰の姿が消えた。陽陰が力を使って自分を戦場から遠いどこかへ転移させたのが理解できた。理解はできたけど、美咲は納得することはできなかった。どうしてわたし一人を転送したの。どうして。美咲を耐えがたい苦痛が襲った。胸がひどく痛かった。


 「動きにくいし、こんな格好はずかしいよ。」

 困った様な顔をして沙依が言った。

 「女の子なんだから、非番の時ぐらいおめかししないとダメだよ。沙依は美人だし、こんな綺麗な髪と 目をしてるんだからもったいないよ。」

 美咲がそう言うと沙依は居心地が悪そうに目を伏せた。

 「そんなこと言うのシュンちゃんぐらいだよ。わたしの髪と目は忌み色なんだから、嫌がる人の方が多いよ。」

 確かに沙依の髪と目はターチェにとって忌み色の黒だった。でも美咲はそれに不吉さなんて感じたことはなかった。本当に綺麗だと思っていた。その目の色が、髪の色が、無性に懐かしく思って、美咲はとても恋しくなった。

 沙依の髪を梳いて、綺麗に結い上げ、櫛をさす。美咲はこの同い年の友達を着飾らせて遊ぶのが好きだった。自分が辛い時は彼女に甘えているくせに、普段は彼女の世話を焼きたくて仕方がなかった。

 綺麗な着物を着せて、綺麗に髪を結って、薄く化粧を施す。沙依は居心地悪そうにしていたが、完成した姿を見て美咲は満足していた。そのまま外に連れ出そうとすると沙依は嫌がった。嫌がる沙依を美咲は無理やり連れ出した。

 「今日は春李と非番が被ったのか、災難だな。」

 巡回中の隆生と遭遇して沙依は本当に嫌そうな顔をしていた。

 「そんな顔すんなよ。せっかくの綺麗な格好が台無しだぞ。」

 半分からかうような調子で隆生はそう言った。

 「どうせ最初からこんな格好わたしには似合わないよ。こんな姿知り合いには見られたくないのに、何でこんなところほっつき歩いてんのさ、バカ。」

 「ひどいな。見回りの巡回ルートだろ。今日はこの区画担当なの。真面目に仕事してる俺に当たるんじゃなくて自分の運のなさを恨めよ。」

 やいのやいの言い合いをする二人が楽しそうで美咲は見ているだけで嬉しかった。

 「だから外出たくなかったんだ。いつもお店で着せ替えさせられるだけなのに、今日は家にきて色々されるし、嫌な予感はしてたんだ。もう帰りたい。」

 半分泣きそうになりながらそう言う沙依が美咲には可愛くてしかたがなかった。自分の自信作を見せびらかしたくて連れ出しているのだから、帰すつもりもなければ、どんどん知り合いに遭遇したいと美咲は思っていた。

 「お前、ガキの頃から仕事か訓練かばっかだったから、ちったぁ女らしくすんのもいいじゃねぇか。それに一馬にぼこぼこにされたって涙一つ見せないどころか、感情一つ動かさないようなお前が、こんなことで取り乱して半泣きとか、本当笑えるわ。」

 からかわれて言い返そうとする沙依に隆生は真面目な目を向けた。

 「いつもみたいに堂々としてろよ、似合ってんだから。案外お前がそうゆう格好して街中歩いてるの見たら喜ぶ奴多いと思うぞ。」

 そう言って隆生は美咲を見た。

 「春李、お前もな。本当、お前等ガキの頃から軍人して男ばっかの中で育ったせいか、年頃になっても女らしさの欠片もねぇ。お前も沙依で遊んでばっかいないで、少しは自分も着飾れよ。お前も女だろ。」

 「そうだよ。いつもわたしばっかこんな格好させてさ。髪の毛だって、わたしが自分で適当に切ったら怒るくせに、自分は伸びてくると邪魔だからって掴んでバッサリじゃん。ずるいよ。わたしにさせるなら、シュンちゃんもちゃんとしてよ。」

 標的が自分に向いて美咲は笑ってごまかした。


 龍籠全体が見渡せる場所に美咲はいた。美咲は泣いていた。今日も沢山殺した。今日も誰かが殺された。殺すことが怖かった。殺されることが怖かった。なのに自分はどうしようもなく戦うことに向いていた。戦術が見える、戦略が解る、戦場に立てば身体は勝手に動いて自分を勝利へと導いていく。そんな自分が美咲は嫌で嫌で仕方がなかった。自分にこんな才能が無ければ良かったのに、そう心から思っていた。

 「戦いたくないなら戦わなくてもいいのに。」

 沙依はそう言った。

 「シュンちゃんが戦いたくないってこと、みんな解ってるよ。シュンちゃんは確かに強いけど、シュンちゃんがいなくちゃどうにもならないくらい皆は弱くない。シュンちゃんが戦いたくないなら、戦わなくてもいいと思う。」

 戦いたくなければ戦わなくていい。その言葉は美咲にとって衝撃的だった。

 出陣して帰ってくると美咲はいつも泣いていた。戦うことが嫌いだった。誰かを殺すなんてしたくなかった。でも戦い続けていた。それが自分の義務だと思い込んでいたから。自分が戦い続けなくてはいけないのは、戦争が無くならないからで、だから戦争が大っ嫌いだった。そんな美咲に沙依は軍人を辞めることが全然大したことじゃないようにそう言った。

 そういえば陽陰も美咲に軍人にならなくてもいいと言っていたことを思い出した。でも美咲は自分で選んで軍人になった。それはどうしてだっただろう。そう考えて、美咲は陽陰の様に自分もこの国を守る人になりたかったからだと思い出した。皆を守る人になりたい、皆を守れる人になりたい、そう思って軍人になったのだった。それを思い出して美咲は軍人を続ける決心がついた。

 それからも美咲は人を殺めることに慣れることはできなかった。相変わらず戦場から帰ると泣いていた。でも泣き言は言わなくなった。自分で決めたことなのだから、泣き言は言ってはいけないと思った。戦場から戻って泣いていると、よく沙依が付き添ってくれた。沙依は美咲が泣き止むまで傍にいてくれた。ひどくつらい時は肩を貸してくれた。そんな同い年の友達の存在に美咲はとても救われた。自分を支えてくれる彼女の中に美咲は母親のような暖かさを感じていた。


 「春李、あとちょっとだよ、あとちょっとで龍籠に着くから、だから頑張って。」

 ハルキの声がした。美咲たちは歩いていた。二人ともボロボロだった。

 七歳になった時美咲はコーリャンと認定された。コーリャン、地上の神(父親)殺しの罪を背負った子供たち。本当に自分がそんなことをしたのかもわからないのに、そう認定されれば殺されるのが定めだった。自分が殺されなくてはいけないと解った時美咲は生まれた場所を逃げ出した。

 怖かった。心細かった。息を潜め、隠れ、ただひたすらにコーリャンが生きていていい場所を目指して逃げていた。でもその場所はあまりにも遠くて、美咲は途方に暮れた。子供がたった一人でたどり着くにはそこはあまりにも遠く絶望的で、でも追いかけてくる恐怖の方が強くて、美咲は生を諦めることはできなかった。いつ見つかるか解らない恐怖。いつ捕まるか解らない恐怖。逃げても逃げてもどこまでも追いかけてくる恐怖に耐えられなくて、美咲はハルキを造った。ハルキは美咲が自身の能力で初めて造り出したモノだった。

 二人で支え合い、助け合いながら必死で逃げた。見つかっては隠れ、追い詰められては戦った。そうやってボロボロになりながらようやく龍籠の近くまでたどり着いた。その時、再び追っ手に見つかってしまった。あと少し、あと少しで助かるのに。そのあと少しが絶望的だった。ハルキが刃に倒れ、美咲はハルキを背負って走った。ただひたすらに必死に、無我夢中で走って、行く手を阻むものは全て薙ぎ払い、壊して突き進んだ。そして気が付くと、武器を持った大人たちに囲まれていて、美咲は頭が真っ白になった。ハルキを守らなくちゃ。美咲はそれだけしか考えることができなかった。これ以上ハルキを傷つけさせたりはしない。その一心で美咲は生成した武器を振り回していた。迫りくる全てをなぎ倒していた。

そんな中声が聞こえた。

 「お前はもう龍籠に着いてるんだから安心しろよ。二人とももう大丈夫だ。」

 優しい声だった。美咲の目の前に、武器も防具もない無防備な姿で自分に暖かな眼差しを向ける陽陰がいた。そこには敵意も害意も何もなく、ただ美咲を思いやる気持ちだけを読み取れた。

 「よく頑張ってここまで来たな、疲れただろ。傷の手当てもしてやるから家に来いよ。」

 そう言って陽陰は美咲を抱きあげた。

 「ハルキは?」

 そう訊くと陽陰は少し困った様な顔をして美咲を見つめた。そしてハルキの所へ連れて行ってくれた。ハルキはもう動かなかった。美咲はハルキの手を取った。目の前の光景の意味を理解することを、心が拒否していた。ハルキの手はひどく冷たく感じて、その手がひどく重く感じて、目から涙が溢れた。

 「とりあえず今はゆっくり休め。」

 そう言って美咲の頭を撫でる手はとても暖かかった。


 美咲は何度も殺され、何度も生まれた。大抵は子供のうちに死が訪れ、大人になることはかなわなかった。この記憶の流れが逆流していることを美咲は理解していた。時間が巻き戻っている。それならば、この死の繰り返しの先はどこへたどり着くのだろう。美咲には解らなかった。解らないまま永遠に続くのではないかと思うほどの死と生を繰り返していた。


 忘れるものか。忘れてたまるか。絶対に、忘れてなるものか。

 強い感情が美咲の中で爆発した。

 それは怒りだった。自分自身に向けたのか、他の誰かに向けたものなのか、美咲には理解することができなかった。その怒りの中には、深い悲しみと、切望、そして愛があった。

 家族を愛していた。父を、母を、兄を、三人の弟達、そして末っ子の妹、皆を愛していた。

 愛していたからこそ、許せなかった。

 愛していたからこそ、理解したかった。

 愛していたからこそ、頼ってほしかった。

 愛していたからこそ、守りたかった。

 今までに感じたことのない激情が美咲の中を駆け巡り、声が聞こえた。

 「全て忘れるんだ。」

 その声がひどく悲しそうに聞こえて美咲はどうしようもない気持ちが溢れてきた。

 どうして兄様。そんな顔をするなら、そんな声を出すくらいなら、何でこんなことをしたの?兄様はいったい何をしようとしているの?たとえ兄様ともあろう人でも一人じゃ限界があるのに、どうしてわたし達を頼ってくれなかったの。わたし達兄弟がそろえば、なんだって出来るはずなのに。そんな心の叫びが美咲を支配した。

 全てなかったことにしろなんて、そんなこと許さない。何もできなかった後悔を、この怒りを忘れろなんて、勝手に人の記憶を消すなんて許さない。兄様の力には抗えないことは解っていたが美咲は強く思った。


 兄と三番目の弟が立っていた。弟に身体はゆっくりと崩れ落ち、そこは兄だけになっていた。

 兄は涙を流していた。手に血塗られた刀を持って。涙を流しながら兄は美咲の方を見た。兄と目が合った瞬間。美咲は兄に躍りかかっていた。手には生成した槌をもって。全力をもって兄に戦いを挑んでいた。無謀なことだとは解っていた。兄には勝てないと解っていたが、美咲にはそうするほかなかった。

 兄は弟を手に掛けた。兄は守るべきものを手に掛けた。兄妹の指針となり統べていくべき人が。美咲は戸惑っていた。でも兄が自分たち兄妹を皆殺しにしようとしている事だけは理解できた。そして美咲は、母に言われた言葉の意味を見失った。兄も自分と同じで兄弟を大切に想っているのだと、助け、守ろうとしているのだと思っていたのに。母様、こんな時わたしはどうしたらいいのですか?聞きたくてももう母はこの世にいなくて、美咲は途方に暮れた。途方に暮れたまま兄と戦っていた。

 兄のその行動の意味も知らず。兄のその涙の訳も知らず。そこにあったはずの自分たちの家が、そこにいたはずの父が、一番下の妹が、どこに行ったのかもわからないまま、美咲は戦っていた。

 ただ兄の蛮行を止めるため。ただ残った弟達を守るため。兄を殺してでも兄を止める。その想いだけで美咲は武器をとっていた。

 美咲は怒っていた。どんな理由があるにせよ、こんなことをした兄に。何も話してくれなかった兄に。そして、何も気付けず、何もできなかった自分自身に。

 父の異変に美咲は気が付いていた。そして、どうすることもできないまま父は狂ってしまった。そして一番下の妹を人身御供にしてしまい、助けられなかった。その中で兄はきっと何かに悩み、こんなに思い詰めていたのだ。それに気が付かず弟を守れなかった。そんな自分自身が美咲は許せなかった。

 家族を愛していた。愛してる。だから兄が何も言わずにその道を行くというのなら、わたしが皆を守る。兄を殺してでも、弟達を守ってみせる。兄に勝てないことは解っていた、でもこうやって全力で抗うことで時間を稼ぐことで、兄が思いとどまってくれたらいいと美咲は思った。

 美咲と戦う兄の顔はあまりにも痛々しくて、本当はこんなことをしたくないのだと言っている様に思えた。

 ならしなければいいのに。美咲は単純にそう思ってしまう。でもそれでも兄は止まらなかった。どうして、そうまでして家族を葬らなくてはいけないのか美咲は解らなかった。兄は厳格で真面目な人だから、きっとよほどの理由があるのだろうけど、そんなもの理解したくはなかった。どんな理由があれ、やはりこれは間違っていると美咲は思った。

 本来なら兄の力の前に美咲は手も足も出ないはずだった。なのに戦い続けることができたのはどうしてなのか美咲には解らなかった。兄の躊躇が精神支配を弱めたのか、美咲の想いがそれを超えたのか、理由なんてどうでもよかった。身体の自由が利くのなら、兄を殺してでも絶対に止める。そう思っていたけれど、結局美咲は兄に追い詰められてしまった。

 自分の最後を悟った時、美咲の頬を一筋の涙がこぼれた。


 「あなたは長女だから、お兄ちゃんをしっかり支えて、下の子たちを慈しむのよ。」

 母はそう言った。美咲の肩に置かれた手は暖かかった。美咲を見つめる目も暖かかった。母の言っている意味はよく解らなかったが、兄と協力して弟達を守れと言われたのだと美咲は思って頷いた。大好きな母との約束を絶対に守ろうと思った。

 大好きな母のお腹には弟か妹がいた。美咲は、今度は妹がいいと思った。自分以外は皆が男の兄弟だった。妹ができたら色々したいことがあった。

 美咲は幸せな気持ちに包まれて、気が付くと庭に立っていた。振り向くと家があった。さっきまで誰かの記憶で見ていた家だった。懐かしい家だった。実際の家を見て、ひどく懐かしいと思っている自分がいて、美咲は戸惑った。自分は知らない。こんな家は知らない。こんな所は知らないはずなのに、どうして涙が溢れてくるんだろう。

 「おかえり。よく来たね、我が愛しい娘よ。」

 誰かの声がして、美咲は自分が誰なのかを見失った。


                ○             ○


 気付くと沙依は子供の姿になっていた。沙依は父の膝の上に乗っていた。目の前には四兄様の姿をした一馬がいた。一馬は状況が理解できず、戸惑っている様子だった。

 「愛しい我が子供たちよ。よく来たね。」

 そう言って父は笑った。ここは一馬の夢ではなかった。ここは父の夢の中だった。父である地上の神が望んだ世界。家族がそろった懐かしい家だった。

 「父様、なんで?」

 沙依の問い、父は優しく微笑んだ。

 「言っただろう。私の夢はいつだってお前たちと繋がっている。お前たちが望むのならいつだってここに来ることができる。会いに来てくれて嬉しいよ。」

 そう言う父は本当に嬉しそうだった。

 懐かしい庭。懐かしい家。幸せだったあの時間で止まったままの世界。沙依がここに来るのは数千年ぶりの事だった。以前、死にかけてみた走馬燈の果てで沙依はここにたどり着いた。その時父は、帰ってきていいと言った。ここに留まってまた父と暮らしてもいいのだと。沙依はその誘惑に心が惹かれながらも、現実に還ることを望んだ。自分を想う道徳の温もりに触れて、自分が求める彼の元に帰りたかったから。それにどんなに自分も望んだ世界だったとしても、ここの全ては幻。郷愁にかられ幻影を追うのは虚しいだけに思えた。

 かつては父と沙依以外は全て幻だった。幻だったはずの世界に、今は確かなものが他にも存在していた。四兄様ともう一人。もう一人、魂がここにある者がいた。

 「姉様?」

 沙依は姉に駆け寄った。駆け寄ってきた沙依を姉は呆けた顔で見つめていた。姉は沙依の頬に手を伸ばすと、その存在を確かめる様になぞった。そして姉は沙依を強く抱きしめた。

 「そっか、わたしがお姉ちゃんだったんだね。」

 そう言う声の響きがひどく懐かしかった。

 「シュンちゃん?」

 大昔に死んだはずの友の名を沙依は呟いた。

 「あなたは本当に母様に似てる。だから、わたしはあんなにあなたが恋しかったんだ。」

そう言う目がひどく切なく見えて、沙依は気持ちが落ち着かなくなった。目の前の人物が、姉にも春李にも見えて、そのどちらでもないように思えた。

 「姉様なの?シュンちゃんなの?あなたは誰?」

 そう問われて姉の姿をした誰かは曖昧に微笑んだ。本人も自分が誰なのか解らなくて戸惑っている様に見えた。

 一馬も目の前のこの人も、自分の記憶と感情についていけず戸惑っているのだと沙依は思った。

 沙依は全部覚えている。今の身体に生まれる前のことも覚えている。だから自分はずっと自分で自分以外の誰かではなかった。長兄も同じ。だから沙依には長兄が長兄にしか見えなかった。見た目がどれだけ変わっても、何度生まれ変わっても、長兄は長兄で他の誰かではなかった。でも他の兄弟は違った。似てるとは思う、懐かしさは感じる。でも一馬と四兄様は違うし、春李と姉様も違う人だと見えていた。それが今まぜこぜになっている。沙依は混乱した。一馬なのか四兄様なのか、春李なのか姉様なのか、ここにいるのはいったい誰なのか解らなくなって、どうなっているのか、どうしたらいいのか、全く理解できなかった。

 「どうして皆、記憶が戻っているの?あの時、兄様が全部奪ってしまったのに。記憶を残さないように魂を縛ってしまったのに。」

 沙依の問いに答えたのは父だった。

 「たとえ大いなる神の力でも人の心までは縛ることはできないからだよ。人には心がある。気持ちがある。感情がある。強い想いは魂に刻まれる。記憶を奪われようと、魂を縛られようと、刻まれた想いは心を動かし形作る。長兄に譲った力は人の表面は縛れても、心の底までは縛れない。思い出せないようにはできても思い出を奪う事なんてできない。それはお前が人の感情までは定められないのと同じだよ。」

 父の言っている言葉の意味が沙依には理解できなかった。疑問符を浮かべ自分を見上げる娘に父は優しく笑いかけた。

 「お前は自分の力の意味を知らないのだね。では話をしようか。私がかつて大いなる神より与えられた力。お前たち兄妹に譲った力の意味を。」

 そう言って父は語り始めた。昔よく娘にそうしていた様に、娘を膝に乗せ本を読み聞かせる様に語って聞かせた。

 「地上は天上とは違い生き物の生は短くせわしない場所だ。そんな地上を育み、慈しむために、大いなる神は私に力を与えた。それは、創り、見守り、助け、そして無に還すという循環と、全てを知り、試練を与える力だった。それを私は子供たちに譲った。お前は自分の力はどんなものだと思っていた?」

 そう問われ沙依は答えた。

 「確定してしまった未来が視える力だと思っていました。兄様はわたしを天啓を授ける者だと言っていました。それは望んだ未来に人を導く力ということだと思います。自分も含め自分の力に導かれているそう感じることが今まで何度もありました。」

 それを聞いて父は相槌を打った。

 「確定した未来が視えるのはお前の力の副産物でしかない。視ようと思えばお前は全ての分岐を視ることができる。全ての未来を把握することができる。お前は無意識に視るモノを選び視ていたのだよ。」

 そう言って父は沙依の頭を撫でた。

 「成長を促すための試練を与えることがお前の本来の力だ。窮地に立たされたとき人は成長する。人でなくてもそれは同じだ。必要な時、必要な厄災を起こすこと、即ち厄災が起こる未来を確定させることがお前の力だ。だからお前が望んだように未来は導かれる。数多の分岐の中からそこへ向かう道が定められる。ただ厄災とは違い、人の心は移ろいやすいものだ。本来その移ろいやすいものを成長させるためのその力は、人の感情や行動まで定めることはできない。それは本人たちが考え、選び、動くものなのだから。」

 父の話を聞いて沙依は納得した。望めばすぐ確定する未来と、どんなに望んでも確定できなかった未来があった。確定できなかった時も運命はいつだって沙依の方を向いていた。いつだってそう思えた。それはこういう事だったのだ。

 「父様。想いが魂に刻まれていたとして、記憶がただ思い出せないようにされていただけだとして、どうして今になって兄様の支配が解かれるの?確かにきっかけはあったかもしれない。わたしが一馬の魂を刺激して一馬は記憶を取り戻した。でもその前から一馬は四兄様と同化しかけてた。」

 沙依は疑問を口にした。そうすると父は悲しそうに目を細めた。

 「太郎の魂が壊れかけているからだよ。」

 父の言葉に沙依は衝撃を受けた。

 「あの子の自我と共にその力の影響は失われようとしている。力で縛り続けなければ子供たちの想いを抑え続けることなんてできない。お前たちが私の夢と繋がっているのは、お前たちが皆今でも強く家族を想っているからだよ。太郎の力が弱まれば想いに引きずられて記憶を取り戻すのは当たり前なんだよ。」

 沙依は父の言葉を受け止めることができずただ茫然とした。

 長兄は生きていた。生きていることは知っていた。でもどこにいるのかも、何をしているのかも、どんな状態なのかも沙依は知らなかった。いつだって長兄は太上老君の身体を通して沙依と話をしていた。本人がどこで何をしているのか聞いてもいつもはぐらかされた。

 「太郎を助けたいかい?」

 父はそう訊いた。沙依はもちろんだと即答していた。

 「なら望みなさい。強く太郎が助かる未来を描きなさい。確定はできなくとも、そこへお前がたどり着けるように道は開かれるのだから。」

 父のその言葉を耳にして沙依は父の夢を後にした。



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