第4話・キビしい選択を迫られました・Bパート
暑い日が続きますね。皆さま、適宜水分補給をして体調に気を付けてお過ごし下さいね。
甘いジュースやカフェインの入ったものは控えて、あとキンキンに冷えた飲み物もほどほどに。
あったかい麦茶って、美味しいですよね?
奈央さんに言われて、ハッとした。短い期間で戦闘機に乗ったり、宇宙に来たり、そして”フェンサー”を操縦できたり、と立て続けに非日常的な経験をしたことでずいぶん舞い上がっていたようだ。この会社は、民間軍事会社。主な客は国防省で、防衛を主とした戦闘が仕事。パイロットはその中でも最前線で命のやり取りをする必要がある。
黙り込んだ俺を見て、奈央さんはちょっと表情を緩めて、ことさら優しい口調で話し始めた。
「白根君は、疑問に思ってるんじゃないですか? 国際条約で中立地帯と決められてる宇宙空間に、こんな軍事施設があることに」
「はい。それに、このステーション内の設備、人工重力、そして”フェンサー”の動力源……世間で知られているより科学技術がずっと進歩していたとしても、不自然だと思いますね」
「察しのいい君なら、たぶん予想ぐらいはしているんじゃないんですか。これらの技術は、異星文明によってもたらされたものなんです」
20年ほど前に、国内の山奥に宇宙船――公式には人工衛星だと発表されたらしい――が墜落した。地球上では製造不可能な技術の塊であったそれは、秘密裏に国防省の研究施設に持ち込まれ、徹底的な解析が行われた。内部構造やまだ動作していたコンピュータらしき端末、宇宙服などから人類と似た背格好をした二足歩行の知的生命体が搭乗していた可能性があることもわかった。しかし、肝心のその乗組員たちは死体含めてどこにも見当たらなかった。おそらく墜落前に脱出したのだろう、と推測された。
奈央さんの説明は、だいたいこのような内容だった。
「しばらくは日本だけでその技術を独占しようとする動きもありました。しかし、宇宙船の持ち主たちが、何をしにこの地球の近くまで来ていたのかがわからないままだったものですから、有事に備えるためには、他国とも共有し、対応に当たったほうが良い、ということになりました」
「それが奈央さんの名刺にもあった、”国際宇宙防衛機構”ってわけなんですね」
「そういうことです。まだ主要各国の防衛や研究機関の連絡協議会といった段階ですが、異星からの侵攻に備え、急ピッチで防衛体制の整備やパイロットの確保・育成を進めている、というのが現状です」
「世間に公表していないのは混乱を避けるためだとして、今それを俺に話してしまって良かったんですか?」
「一年後には軌道エレベータが完成し、より大勢の人が宇宙にあがって来れるようになります。その頃には各国のステーションが連結して、宇宙都市として機能し始めます。移民者の募集を含め、もうすぐ公開される情報になったからです」
奈央さんはしっかり正面から俺の目を見てくる。真剣に聞かなければ、と俺も姿勢を正す。
「――それで、白根君。他の候補生は皆成人で、こういった情報も踏まえて契約済みなんですが、君はあくまで高校生のインターンシップとしてここにいるんです。才能もあって、後の整備のことまで考えられるパイロットは欲しいけど、それは一つの可能性でしかないと思うんです」
「ここまで来て、今更大学行ったり他の就職を考えるってことですか?」
「よく考えて。その時が来たら、君は相手を殺せる? 宇宙からの侵攻以外でも、人間同士の争いにも動員されるかもしれませんよ? もちろん自分が理不尽に殺される可能性もあるんですよ」
「……わかりません。先月まで、普通の高校生やってたんですよ? そんなこと、考えたこともなかったです」
そう答える俺に、奈央さんは優しく、にっこりと笑いかけてくれた。
「わからなくて当たり前です。でもすぐに決断しなければというわけでもありません。誰にでも相談できる内容でもないですが、よければ私も力になります。あと、この期間中にほかの候補生とも交流してみてください」
私じゃ頼りないかもしれませんけどね、と言いながら奈央さんは俺の部屋を後にした。
――――
「――白根君、だったか。これまでの研修の成績も良好、初めて搭乗した”フェンサー”での模擬戦でも候補生筆頭の黒岩君を余力をもって下したと聞いている。期待しているよ」
「は、はい、いやあれは引き分けですし、それほどのものではありません」
あの後すぐに、ステーションの責任者――会社の宇宙開発局長という立場らしい――である神宮司さんに一人で呼び出された。
「若いのに謙虚なことだ。奈央からの報告にあった通りだな――ああ、お察しの通り私は彼女の上司であり、父親でもある」
やはりそうだったか。俺が黙っていると、彼はさらに続ける。
「奈央にも困ったものだ。女だてらにパイロットに志願しおってからに……よりによって適正も高く、20番目の候補生になっていたのだよ。私がいくら反対しても聞かなくてな」
初めて耳にする話だ。奈央さんはそんなことは一言も言っていなかったと思う。
「先月の頭だったか、突然君の話をしてきてな。この訓練プログラムに参加させて、20番目の候補生として受け入れるなら自分は辞退する、とこう言ってきたのだ。宇宙開発事業も公開間近であるし、適性がなくとも広報材料にもなるか、と条件をのんだわけだな」
「そんなことまで、俺に言っていいんですか」
「結果オーライ、実際君のパイロット適正は素晴らしかった。君には頼みがあるからね、事情もきちんと説明をしておきたいんだ」
「頼み、ですか?」
「この期間が終わったあとも、パイロット候補生を辞退しないでくれ、ということだ。高校卒業後に正規の採用となるまでに君が辞退すると、奈央が再び候補になってしまうのだ」
「はぁ、それは、上司じゃなくて、親としての頼みってことなんでしょうか」
「そうだ。それから、もう一つ」
「なんでしょうか?」
「奈央はずいぶん君に気を許しているようだが、滅多なことは、してくれるんじゃないぞ!」
あ、これ絶対さっきの部屋の様子、モニタリングされてたな。
(つづく)
今回はちょっと話の切れ目に苦労して、2,600字ぐらいになってしまいました。
ブックマーク登録数もどんどん増えていてプレッシャーも感じますが、やる気にも繋がります!
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21:08追記:
寝苦しい熱帯夜に、ほんのちょっとの涼感を。昔に書いたホラーショートも投稿しましたので、お暇でしたらお立ち寄りください。
http://ncode.syosetu.com/s1803d/