第4話・キビしい選択を迫られました・Aパート
カタカナ2文字で始まるサブタイトル縛りはやめようと思います。捻り出すのも限界がありそうです。
出張帰りの電車の中から投稿してみます!
帰投して格納庫の規定位置に”駐機”し、コクピットハッチを開いて外に出る。機体のそばに伸びているワイヤーのフックに足をかけて床に降り立った。目の前には俺より先に帰投していた大男と、その担当スタッフと思われる女性が待っていた。女性の顔は青白く、気分が悪そうだ。きっと先ほどの模擬戦で急制動のGにやられたのだろう。
俺の後から降りてきた奈央さんは元気だ。ずいぶん機嫌が良さそうにも見える。
「やはり琥太郎、俺が見込んだ通りのウデだ! 明日も一緒に模擬戦をやろうじゃないか!」
「――残念ながら、明日は1番機の使用は不可能です。コクピット内でコンピュータの調整だけならできますが」
「なにっ!? 何故だ!」
「各関節、機関系の損耗の可能性があります。安全のために明日は検査と整備が入りますので」
「ぐぬぬ、ではシミュレータで勝負だ!」
こちらの都合は一切無視して大声で話しかけてくる黒岩さんに、青ざめた顔でつらそうにしながらも冷静に告げる担当の女性。なんだか気の毒になってきた。
「――20番機の状況は良好、整備もほとんど不要だそうです」
格納庫の整備スタッフらしき男性から報告を受けていた奈央さんから、こう告げられる。明日も実機で訓練ができるそうだ。
「もっと動作の最適化をしたいので、シミュレータの対戦はお断りします。明後日であればお願いします」
挑発みたいになってしまったか、と言ってから少し後悔したが、俺はもっと練習したい。”フェンサー”を意のままに操れるようになりたい。そういう思いを込めて、しっかり相手の目を見る。
「む、それもそうだな! いや、互角だと思っていたが機体に負担を強いる操縦をしていた俺の完敗だな! ゲームやシミュレータでは分からない、いい経験をさせてもらった! ありがとう」
どうやら強引で豪快ではあるが、真っ直ぐな性格で悪い人ではなさそうだ。年下の俺にもきちんと頭を下げて礼をしてくるその姿に、ちょっと『この人、アニメとかだと物語終盤で主人公をかばって戦死しそうなタイプだな』と思った。
――――
「スカッとしました! やっぱり、私の見込んだ通りで、嬉しいです!」
訓練生個人に割り当てられた俺の部屋に一緒に入ってきた、奈央さんの第一声がそれだ。俺が椅子に座ろうとすると、彼女は当たり前のようにベッドに腰を下ろしたのでドキッとした。無防備すぎやしないだろうか。もちろん監視もされているであろうこの部屋でどうこうなる筈もないんだけど。
「――パイロットの適性を調べるのに、ゲームを利用するアイデア自体は、悪くなかったんです」
「実際、トップランカーの黒岩さんは、凄いテクニックでした。機体の負荷は考えていなかったようですけど」
「ただ、開発委託したゲーム運営会社が商売気を出して、余計な追課金システムやランキング制度をつけてしまったせいで、少々おかしくなってしまいまして……ゲームとしては面白くなりましたし、私も大好きなんですが」
さすが彼女自身もハイランカー、仕事抜きでも楽しんでプレーしていたようだ。
「このままでは、危険をかえりみないようなプレイスタイルの人ばかりが集まってしまうと、私は上司に訴えていたんです。『そんなことより数を集めることが大事だ』って一蹴されてしまいましたけど」
肩をすくめたポーズで、小さなため息をつく。大人の世界には、いろいろ都合があるらしい。
「そんな時、白根君、君に会えた――現役高校生をスカウトすることにも反対はありましたが、ちょっと強引な手を使ってでもこの訓練プログラムに参加して貰いたかったんです」
さっき聞けなかった彼女の苗字に関係があるような気がした。が、ここはその”強引な手”とやらについては聞き流しておく。しかしこれであえて聞かなかったものの疑問に感じていたことの大半は解消した。
「俺も、奈央さんに会えて、誘ってもらえて良かったですよ。そうじゃなかったら、こんな経験絶対できなかったと思います」
「そう言ってくれると嬉しいです。安全の確保はちゃんとしてはいましたが、それでも危険はゼロではありませんでしたし……」
「俺、今すごくワクワクしているんです。さっきの模擬戦の感触がまだ手に残ってます。もっと、もっとうまく動かしたいし、負けたくない」
その時、奈央さんの表情が少し硬くなったことに気づいた。彼女は困ったような、ぎこちない笑みを浮かべている。何か、気に障ることを言ってしまったんだろうか。
「あ、あの、なんか俺まずいこと言いましたか?」
「ううん。すごい向上心だなって。でもね、白根君、君は、何のために上手くなるんですか?」
「えっ」
(つづく)
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