第3話・アツ苦しい奴にライバル認定されました・Bパート
ようやく、ロボットの操縦と戦闘(模擬戦ですが)です。
出張先のホテルからの投稿です。
――格納庫にずらっと並んでいるそれは、圧倒的な説得力を持っていた。全長約20m、ロボットアニメの主人公機の実物大モデル、などというものを見たこともあったが、形や大きさは似てはいても、全然違う。それはむしろ先週乗っていた戦闘機と同じような実用的な重厚さ。単なるモニュメントではなく、兵器という存在感だった。
時間が限られているということもあって、早速各自担当のスタッフと共にコクピット――訓練用の機体のためか、二人用のシートだ――に入ってレクチャーを受けていく。俺の担当はやはり奈央さんだった。
「ええと、奈央さんの苗字の神宮寺って……」
「無駄口を叩かない。さっさと手順1からやってみて下さい」
どうやら踏み込んでいい話題ではないらしいので、素直に従ってマニュアルのページをめくりながら初期設定やシミュレータモードでの操作確認を行っていく。
しかし操作に関しては本当にあのゲームにそっくりだ。もちろん、人型の機体のすべてを両腕のボタン付き操縦桿と5枚のフットペダルで操れるわけがない。パイロットに求められるのはどの標的を狙うか、どの武器を使うか、どちらに向かうか、といった”判断”で、あとはコンピュータが適切な制御をしてくれる。背中、脚、肩に取り付けられた推進機構を全て後方に向ければ最大速度で移動できるが、その分無理な急停止や方向転換はできなくなる。
あとは「こういう状況のときにはこう動いて欲しい」といったパイロットごとの好みの動作を学習させていくことによって、より意のままに操れるようになっていくのだ。
「――手順全て完了、実際に動かしてみてもいいですか?」
「早いですね。それではまずはあちらのエレベータまでゆっくり歩いて下さい。――いいですね、柔らかい、自然な動作になっています」
格納庫の奥の、ステーションの外に出るための大型エレベータの中に入る。奈央さんが通信機で発進の許可をとると、すぐに上昇を始めた。
「”フェンサー”訓練機20番、白根、いきます!」
「君もやっぱり”男の子”なんですね。そんなこと、宣言しなくてもいいんですよ」
「気持ちの問題です」
奈央さんがクスっと笑う。どうやら機嫌は回復したようだ。操縦桿をゆっくり前方にスライドさせつつ、スラスターの噴出量をペダルで加減。機体は無理のない加速をし、ステーションの上部から飛び出す。ステーションの周辺にはネットのようなものが張られた広い空間があり、その中なら落下の危険などを気にせずに動き回れるようになっていた。
とりあえず方向転換、姿勢制御、加減速といった基礎的な動きを体と頭に慣れさせていく。地上とは違い宇宙空間では上下もなにもないのだが、ステーションがある方を”下”と考えたほうが都合が良さそうだ。
「他の訓練生が、上がって来ましたね」
言われて下を見れば1台のフェンサーがステーションから発進するところだった。サブモニタにレーダーを半透明で表示させると、中央の自分を表す青い光点に黄色い光点が近づいてくるのがわかった。同時に外部通信の受信を知らせる音が鳴り、スピーカから大音量で男の声がしてきた。こういうの、適切な音量に自動調整とかできないかな。
「――基本操作をいち早く終え真っ先に宇宙に上がるとは、やはり優秀なようだな!」
「あー、ええと、黒岩さん、でしたっけ、お先に失礼します」
一通りの動作は確認できたので、あとは戻って動作の最適化・微調整をしようと思っていた。
「待てい! せっかく上がってきたのだから、模擬戦をしようではないか! 許可もとってあるぞ!」
「――わかりました、お手柔らかに、お願いします」
後ろの奈央さんの方をちらっと確認、『やってみて下さい』という感じの軽い頷きを見て返事をする。操縦桿を握り直し、深呼吸しながら肩を軽く上下させて強張りをほぐす。
「行くぞ!」
相手機が急加速して一瞬で間合いを詰めてくる。両腕にライフルを装備し、溜めのない連射。当然訓練用の擬似レーザーなので当たってもダメージはないわけだが、かといって当たってやるわけにはいかない。落ち着いて射線を見極め、中央ペダルを軽く踏み込んで半身をずらす。すれ違いざまに、こちらからは腰から抜いた近接武器である”ヒートナイフ”で相手の右肩に一撃。こちらは物理的な手応えを感じるがこれも訓練用なので本来のような装甲を溶かし切断する攻撃力はない。
「やはりやるなっ! しかし、まだまだだ!」
上に抜けた後小さなUの字を描いてこちらに向かって急降下してくる。ほとんど減速のない方向転換で、強烈なGに耐えられなければできない高度な操縦だ。今度はあちらも近接戦のつもりかライフルを背中にしまってかわりにヒートナイフとシールドを装備している。あの短時間に武装変更するのも、かなり複雑で精密な操作が必要になるはずだ。
「おおっと、とと」
思わず声が出た。ナイフをこちらのシールドで防ごうとしたところ、相手はシールドで殴りつけるように攻撃をしてきた。がつん、という強い振動を感じつつ、左手のレバーを下げて衝撃を逃がす。気を抜く暇もなく今度は右脚を使った回し蹴りが襲いかかる。これをシールドで受けるのは悪手と判断し一気にスラスターを吹かしてさらに密着状態に持っていく。蹴りは内側に入ってしまえばそれほど脅威ではない。お返しにと右手のナイフで攻撃をかけるも相手もそれをナイフで受ける。いわゆるつばぜり合いの状態になったところで、ステーションからと思われる通信が入った。
「両者、そこまで」
(つづく)
1話あたりの分量も少ないし、まだ6話(実際には3話)だというのに総PVが1万超えました。
ちょっと想定外の事態でうろたえています。
誤字・脱字・読みづらい表現などありましたら教えて下さい。少しでも読みやすくなるよう精進します。