第2話・モノはお試しインターンシップ・Aパート
「高校生だというのは予想外でしたけど、少し、場所を変えて話しませんか?」
「遠慮しておきます……と言いたい所ですが、わかりました」
「あれっ? 慎重なプレイスタイルの君にしてはずいぶん思い切りがいいような気がしますけど」
「どうせ、ここで断っても俺のこと調べてあとでアプローチかけてくるぐらいできるんですよね? だったら早いほうがいいかと」
ゲームセンターで悪徳商法やら新興宗教やらの勧誘の危険がってことも知らないわけでもないし、知らない人に付いていかないなんて子供の頃から言われていたことだ。目の前の彼女が、いやその所属する何かが俺が言ったようなことができるかどうかは正直今の時点ではわからない。でも、実際に直接自宅に来られたら面倒だな、という思いが危機感を上回ったというのが正しいところだ。だからハッタリ半分、余裕のある態度を見せてみた。
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ゲームセンターの隣の、あまり流行っているとは言いがたい喫茶店、テーブル席で会話の続行となった。「おごりですよ」と言われたので遠慮なく遅めの昼食用にカツカレーとスパゲティセットを大盛りで注文しておく。男子高校生の胃袋舐めるなよ。
「――経費、ちゃんと通るよね――」
彼女の呟きを無視して、こちらのペースを作る。
「ところで、”NAOSHIN”さんとか、ゲーム内の名前で呼ぶのって恥ずかしいので、そろそろちゃんと自己紹介しませんか?」
「君、本当に高校生? ちょっと場慣れしすぎてるっぽいんですけど……」
そう言いながら、ポーチから銀色の小さなケースを取り出し、さらにそれを開いてカードを出してこちらに提示してくる。名刺って初めてもらうかもしれない。
国際宇宙防衛機構 事務局
日本国防衛省 特務・人事局補佐官
神宮司 奈央
SHINGUUJI NAO
「ハンドル名、まんまなんですね」
「ちょっ、それ今関係ないでしょ!?」
それにしても、宇宙防衛ときたか。確かに最近は月往復程度の宇宙旅行は金次第でどうにでもなるとか、異星文明間交流とかいう話は耳にはしていたけれど……
「これ、本気ですか」
「信じられないとは思いますけど、信じてもらうしかないんですよね……」
「ハァ、じゃあ、俺も。白根 琥太郎、17歳。さっきも言ったけど、高校2年生です」
「しらね、こ……白猫で”WHITE CAT”ってことですか。そっちだってけっこう安直じゃないですか」
「いいの、思いつかなかったんですよ……」
「家族構成を、教えてもらえるかな?」
「両親は5年前に交通事故で死亡。現在は伯父夫妻の家で暮らしています」
「……っ、ええと」
「や、別に、普通ですから。気を使われるほうが嫌なんで」
「わかりました。それで、白根君は、卒業後の進路はどう考えているんですか?」
まさか気晴らしに遊びにきたゲーセンで悩んでた進路のことについて考えさせられるとは。家での伯父さんの言葉がよみがえる。
『琥太郎、何も遠慮する必要なんてないんだぞ? お前は勉強だって出来るし、大学で可能性を広げるといい』
そんな風に言ってはくれているし、両親の遺してくれたお金もあるのも知ってはいるけど……
「就職したいと思ってます。できれば寮とかあるようなところで」
「なんとなく察してくれてるんじゃないかと思うんですけど、これ、”スカウト”なんですよ」
「その、宇宙防衛機構とやらに、就職できるってことですか?」
「そちらは、まだ立ち上げ準備中。さしあたって、国内の民間軍事会社に所属してもらう形になると思います」
「PMS……ええと?」
「自衛隊が解体になって民営化されることになるのは知ってますか? まあ、実質的には防衛省の下請けみたいな状態ですけど」
「ああ、ミリタリー好きな友達に聞いたことあります。”フソウ ガーディアン”でしたっけ」
「話が早くて助かります。その会社は、現在戦闘機などのパイロット候補生を募集していまして、その採用条件の一つに、あのゲームでの好成績がある、というわけなんです」
「……たかがゲーセンのゲームと実際の操縦や戦闘って全然違うんじゃないんですか?」
「パイロット訓練のためのフライトシミュレータの技術を取り入れてるから、かなりいい出来なんですよ。それよりも大事なのは、素質や性格を判断すること、ですけどね」
「それにしたって、俺のランクなんてたかが知れてるし、上手い人はいくらでもいるでしょう」
「実際には上位ランカーにもそれぞれスカウトが接触はしているんですけどね。今日は本当にただの偶然。私も普通に休日で気晴らしにプレーしに来てただけだったんですけど。でも、前に君のプレーを観て、興味を持って声かけちゃたんです」
「――お待たせしました。サンドイッチにコーヒーとカツカレー大盛り、本日のスパゲティ大盛り、セットのサラダ、コーラになります」
と、そこに店員がトレーに載せたカップや皿をテーブルに次々に並べていく。
「とりあえず、食べましょうか? おなか、すいてますよね?」
「は、はい……いただきます」
にっこりと笑いかけてきた彼女の顔に少しだけ、ドキっとしたことに我ながら戸惑いつつ、フォークを手に取ってカレーのかかった熱々のトンカツに突き立てた。
(つづく)