第1話・セコいプレイスタイルが評価されました・Bパート
「――貴方が、”WHITE CAT”さん、ですよね?」
未だ賑やかな集団から離れ、店内の隅のベンチに座って休憩をしている俺の前に、先ほどの女性が立ちふさがり、声を掛けてきた。
派手な、高飛車そうな外見と違って意外にも丁寧な口調、物腰だったので俺もそれに合わせる。
「はい、そうです。”NAOSHIN”さん。貴女のようなハイランカーのプレイヤーさんが俺に何か用ですか?」
俺のランクはこの店舗で20前後、全国ではたまに3桁入りを果たすぐらいのものだ。彼女のようなトッププレイヤーが俺を気に掛けるとはとても思えなかった。
「何か言葉にトゲがあるような気がしますが……ところでさっきの私のプレイ、こいつをどう思う?」
ここでいきなりコアなネタをぶち込んできたことに意表を突かれ、飲んでいたミネラルウォーターを危うく噴き出すところだった。
「……すごく、贅沢です」
ちょっと考えてから、答える。彼女は眼を細め、さらに興味をそそられたような顔をして続きを促してくる。
「……セッション前半は密集地帯で敵機撃墜に専念、敵側に復活してくる課金プレイヤーが少ないことを察してわざと撃墜されて要塞へ戻る時間を節約、ためらわずに課金兵装を購入して特攻。観てるぶんには面白かったですけど、俺には無理なプレーですね」
「なんで無理だと思うのですか?」
「さっきのプレー、1,500円ぐらいかかってますよね。そんなお金かけられませんよ。小遣いほとんど貰ってないし、バイト代も貯めときたいですから」
「あれっ、もしかして学生さんでしたか!?」
「こう見えても、高校2年です」
そう、老け顔でよく20代、下手すると30代と勘違いされるが、俺は普通に普段は学校に通って勉学に励んでいる高校生だ。一応、真面目なほうだ。
「う~ん、君は、”プロゲーマー”って知っていますか?スポーツ選手みたいにスポンサーがついたり、大会の賞金で稼げるプレイヤーなんですけど」
「聞いたことは、ありますね」
突然話が変わったように感じだが、とりあえず応じておく。初対面なのに、外見は苦手なタイプなのに、なんだか話しやすい人だ。あと、年下だと分かったからか、呼び方が”貴方”から”君”に変わった。
「たとえば、君にスポンサーがついて、ゲーム内課金をサポートしてくれたら、どうしますか?派手なプレーでギャラリーを沸かせますよ?」
その言い方からすると、彼女にはそういったスポンサーでもついているのだろうか。
「いや、やらないと思います。まあ、こだわりってほどのことでもないですけど」
「――聞かせて?」
「ゲームだから気にする必要ないんでしょうけど、俺、自動車整備工場でバイトしてるんですよね。難しい修理はまだ任せて貰えてませんけど、壊れた車直すのって、技術もいるし、すごい大変なんですよ」
「……」
「あの要塞にも、ロボットの整備工とかいると思うんですよね。壊れまくった機体で帰ってきて、『金は出すから、すぐ直せ』とか無茶言われたらと思うと……」
「……っぷ、あはははははははは!」
思い切り笑われた。なにかおかしなこと言っただろうか。
「あはは……ふう、ご、ごめんなさいね。そんなこと言う人、初めてだったから……」
彼女はひとしきり笑ったあと、きちんとした謝罪でまっすぐに俺のほうを見つめてきた。
「や、別に気にしてないから、いいです」
どうにもやりづらい。年上の女性で外見の雰囲気が、俺の苦手な人にそっくり。それでいて言動は正反対ですごく丁寧なため調子がくるってしまう。
「君の参加した最近のセッションのリプレイ、見させてもらいました。逃げ回っているわけでもないのに、被ダメージがすごく低い。今日は敵を5機撃墜しているのに、被弾ゼロ。これはすごいことですよ」
「クールタイムが長くなるの、嫌なんで。ポイントは稼げませんけどね。地味だし」
「ううん。常に冷静に周囲の状況を把握しつつ、味方・敵の動きを予想して初めてできることだと思います。操作も的確です」
「もっと突っ込めばポイント稼げるところを、ビビッて逃げてるだけです。臆病なんですよ」
「――それ、その臆病さが、大切なんです」
目の前の彼女の声のトーンがすこし落ち、雰囲気がすっと重くなった気がした。
「高校生だというのは予想外でしたけど、少し、場所を変えて話しませんか?」
(つづく)