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第10話・定着・Aパート

「あけましておめでとう、琥太郎。だいぶ寝坊したな」


「あけましておめでとう、伯父さん、伯母さん、――春香」


「……おめでと」


 年末ギリギリまで施設で検査やら事情聴取で拘束された後、俺は家に戻ってきていた。先日の事件は世間的には宇宙開発事業に反対する過激派団体による爆破テロ行為があった、などと報道されていた。もちろん実際にあった戦闘については伏せられていたし、俺自身にも厳重に口止めがされていた。

 報道の内容がまるでデタラメというわけでなく、宇宙開発の利権にあぶれたいくつかの国が合同で組織した団体が、”宇宙ステーション(アイランド1)の存在は神が許さない”といった宗教的な建て前を元に活動しているらしい。そしてその背後には――


 異星の技術が、確実にもたらされている。


 20年前に落ちてきた異星の宇宙船――その技術を解析し、宇宙ステーションや軌道エレベータ、そして”フェンサー”といったものの設計・開発に応用してきた、という話は以前聞いた。

 ただ、その宇宙船内には肝心の異星人が一人も乗っておらず、無人だったという。では、その異星人たちはどこに行ったというのか。宇宙船不時着前に脱出し、地球上のどこかに潜伏し、誰かに協力している可能性は十分にある。

 もちろん、宇宙船を解析した内容が何らかの理由で流出した可能性もある。いずれにしても、宇宙開発に反対する団体がまさにその宇宙開発の技術を利用しているというのはおかしな話だ。きっとろくでもない背景なのだろう。


 結局――施設を襲った敵機のうち、俺が先に倒したのと奈央さんが倒した方のコクピットからはパイロットがそれぞれ気絶した状態で生きて回収された。身柄を拘束され、取り調べや検査を通して身元を調べている最中だそうだ。

 そして俺が倒した2体目――爆発させた機体からは、パイロットの遺体が見つからなかったために生死不明、とのことだった。これはもしかしたら俺の気持ちを軽くするための方便というやつだったのかも知れない。でも実際、それを聞かされた時に少し気が楽になったのは事実だ。


 そして昨日の昼、俺は施設の責任者――会社(フソウ)の地上防衛局長という肩書だった――と奈央さんに送られてこの家に帰ってきた。「お預かりした琥太郎さんをこの度は危険な目に遭わせてしまい申し訳ございませんでした」と頭を下げる両名に、伯父さんも伯母さんも「顔を上げて下さい、琥太郎も頑丈な子ですから」などと穏やかな対応をしていたが、その後ろで部屋の外からもの凄い表情で部外者を睨みつけていた従姉(春香)の姿が印象的であった。


「こ、琥太郎、初詣、行くよ」


「――おう」


 久々の家族の食卓で年越しそばを食べ、除夜の鐘を聞きながらこたつでダラダラとテレビを観ていた俺に、ダウンジャケットを着て完全防備になった春香が声を掛けてきた。何となく彼女の心境の変化を感じた俺は特に何も言わず応じ、すぐ着替えて付き合うことにしたのだった。


「そういえば春香、お前髪黒く戻したんだな」


「もう進路面談とかあるし――どうかな」


「いいと思うぜ。自然な感じが、する」


「そう?」近所の小さな神社だが、それなりに人が多かった。


 入って少し並んだが階段を上がり社殿で賽銭を投げ入れて二礼二拍手一礼。境内で無料配布していた甘酒をもらって一息。やけどしそうな熱さが冷えた手と体にありがたい。


「アンタが――琥太郎が、どんどん先に行っちゃうから」


「うん?」


「まだ高校なのに、周りのみんな、普通に親に甘えてるのにさ、一人大人みたいな顔してさ!」悪かったな老け顔で。


「成績いいし、誰もアンタの悪口言わないし、マラソン大会で優勝とかしちゃうし!」マラソン大会は……まあ、張り切りすぎたかな。


「アタシが子供ぶってるの、バカみたいじゃん! もう、責任とってよ!」いや、責任って何だよ。


「――き、だったのに……いきなり弟として家族に迎えろとか、意味わかんなかったし……ッ」


 近所の目が、という考えも八割がた占めてはいたが、ともかく俺は泣きじゃくる春香の手を引いて周囲の生暖かそうな視線を避けるように帰路についたのだった。


 俺は、守秘義務という戒めを破って春香にことのあらましをほとんど話してしまっていた。最初は半信半疑だった彼女も、次第に納得していってくれた。それが昨夜の話。俺は夜更かしで――ここしばらくの生活のせいもあったが――寝坊したわけだが、春香はそうではなかったらしい。


――――


 そんな思いを抱えながら、新年を迎えた。


「父さん、アタシ、看護師になりたいと、思うんだ」


「新年早々、なんだなんだ。父さんが医療関係だからか!? なあ?」


「うん、まあ、そんなとこ」


 そして春香は俺の方を振り返り。


「アンタが無茶して、どんどん先に行くのただ見てるぐらいなら、アタシもやってみる」


 いっそ晴れ晴れとした、吹っ切れたような笑顔を浮かべて、春香がそう言った。


(つづく)


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