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第9話・不格好な反撃・Aパート

 外側の出撃準備をして貰っている間に、コクピット内でコンピュータを起動し、ポケットに入れっぱなしだったIDカードから動作データを読み込ませる。前の機体とはクセが違うだろうが、何も学習させていない状態よりははるかにマシなはずだ。

 施設のレーダー・データベースとコンピュータが接続され、ウィンドウに次々に情報が表示され始める。地図に重ねて”敵”を表す赤い光点が3つと、味方を表す青い光点1つが表示される……が、それがたまに点滅している。宇宙でやった訓練の時と同じだとしたら、これは味方が攻撃されダメージを受けていることを意味するはずだ。

 さらに別のサブウィンドウが開き、施設内のカメラによる映像が映る。いくつかは壊されたのか砂嵐状態だが、タッチして選んでいくと、交戦中の様子を映したものを表示させることができた。


「何だ、こいつら……」


 奈央さんが乗っていると思われるフェンサー試作機はまだ健在で、建物が崩れた瓦礫を盾にしつつライフルで応戦している。敵のほうも同じような実弾兵器を使っているようだが、さっき施設を破壊していたミサイルのような爆撃兵器も持っているはず。

 その敵の姿に、俺は思わず顔をしかめた。フェンサーと同じぐらいの大きさの人型ではあるが、機体のあちこちのパーツに統一感がなく、まるでつぎはぎだらけの化け物、フランケンシュタインだ。

 その時準備中を表すランプが消え、通信が入る。


「既に神宮司特務官が向かっているが、軌道エレベータの基部の防衛を最優先にしてくれ! 頼んだぞ!」


「はい! ――出ます!」


 安全装置が外されたのを確認し、ペダルを踏みこむ。推進器(スラスター)のビリビリとした振動を感じながら、機体の膝を使って大きくジャンプ。激しい加速()を感じながら、一気に格納庫の上空に飛び出した。

 地図を見るまでもなく、左前方に文字通り天まで届く軌道エレベータのシャフトがそびえ立っている。すぐにでもそちらに直行したいが、敵からもこちらの存在は把握されたと考えるべきだ。焦る気持ちを抑え、真横へスラスターへ移動しつつ、着地。

 しかし高機動実験型というだけのことはあって、少しの加速のつもりでもいきなり動いてしまい、姿勢制御にも手こずる。フィードバックをしている時間もないので、操作の加減で調整するしかない。


「うう、気持ち悪い……」


 目まぐるしく変わるモニタからも目をそらすわけにもいかない。ホバーモードで施設内の建物の陰に隠れながら目標地点へ接近しているが、複雑なので表示されている地図頼みだ。この通りを抜ければ、軌道エレベータの脇に出られる。敵を表す赤い点のうち2つは、こちらを迎え討つような動きを見せているが、あとはその場で判断するしかない。ホバーで横滑りするように飛び出す。


「奈央さん! 無事ですか!?」「――白根君!?」


 返事はしてくれたものの、先ほどのカメラ映像より状況は悪そうで、彼女の機体は既に相当被弾して中破状態のようだ。しかし目の前の敵2体を無視して助けにいくこともできない。待ち構えていたようにそれぞれが両腕の機銃のような装置から弾を連射してくる。タイミングのずれた射線が4本――避けようとしてペダルを踏み込み過ぎた(・・・・・・・)

 ――しまった――と思った時には浮き上がるようなGとともにモニタの景色がぐるりと反転し、直後にものすごい衝撃を受けて思わずうめく。後頭部がジンジンとしびれたような感覚、すっぱいものが胃からこみ上げてきたが、吐いている場合ではない。どうやら敵の弾を避けるのには成功したものの、スラスターの勢いが強すぎて転倒してしまったらしい。

 当然敵が立ち上がるまで待ってくれるわけもなく、銃口がこちらに向けられる。


 ――――死ぬ――――のは嫌だっ!


 頭の中が一瞬真っ白になったが、体は動いてくれた。腕を使って今度は自ら転がって、放たれた弾をかわしつつ体制を立て直すことに成功した。距離を取ろうと後退の操作をしたもののまたもペダルを踏みすぎ、機体は吹っ飛ぶように後方へジャンプする。結果的に敵からは離れられたが、再び強い衝撃。後ろにあった建物に突っ込み、半分めり込むようにして停止した。ガンガン揺れるコクピット内部に、とうとう胃の中身をぶちまけてしまう。


「くそっ、なんて暴れ馬だ……うぷっ」


 気分は最悪だが、距離が取れたのもあり頭の方は少しだけ冴えてきた。2体の敵は俺の機体の挙動があまりにもデタラメなせいで警戒でもしているのか、ゆっくりと近づいてきている。

 落ち着いてモニタ上の敵をタッチして標的(ターゲット)の指定をしつつ、ライフル――もちろんペイント弾でなく実弾だ――を装備する。よく見ろ、相対速度なら、宇宙空間でやった模擬戦のほうがずっと速かったはずだ。


「――やってやる!」


 自分自身に気合を入れて、しかしペダルにかける力は控えめにして突っ込む。左、右、と不規則に揺らしながら、敵から向けられる射線をかいくぐる。ターゲットを示すモニタ上の三角マークが赤になった瞬間に、トリガーを押し込む。


 ババババババババッ


 ライフルの銃口が瞬き、次の瞬間には敵機の装甲がズタズタになる。ホバーで駆け抜け、振り返った時には、その敵機は地面に倒れ伏していた。


「ハァ、ハァ、まず、1体(ひとつ)――」


(つづく)

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