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第7話・守るべきもの・戦う理由・Bパート

「――ただ、反対といってもそれは私と母さんの意見であって、別に強制するつもりもない」


 伯父さんが氷だけになったコップを俺のほうに差し出してきたので、受け取って台所に行き、新しい氷も追加して水割りを作る。薄めにしておこう。ついでに自分用にコップに氷と麦茶を入れて持っていく。


「おお、ありがとう――ちょっと薄すぎじゃないか? まあいい。家族を失う辛さはお前には言うまでもないことだろう? 身内にわざわざ早死にして欲しいって思う奴はまあいないだろうな」


「そりゃ、そうだよ」


「ただな、私は仕事柄色んな人の生き死にに関わってるから、結局は”運命”なんじゃないかなって思うこともある。建築現場の大事故で腕が取れかかってた人が半年後にピンピンしてることもある一方で、若くて体力もありそうな人が交通事故であっさり亡くなるのも見ている――救急隊員なんてやってると、自分の身の危険はともかく、”死”を身近に感じるもんだ」


「危険がゼロの仕事なんてないってことだよね」


「でもな、例えば琥太郎、お前が戦闘機のパイロットになったとするだろう。そして最初の出撃で戦死したとしたら、なんでもっと強く反対しなかったんだろう、と絶対に後悔することになるな」


 ドキっとした。当たらずとも遠からずの内容に、もしかして事情を全て知ってるんじゃないかとすら疑ってしまう。


「――逆にお前が大活躍して世間で英雄扱いされたとする。それでも、決して誇らしい気持ちになれず、いつ危険な目に遭うんじゃないかとやきもきする、それが家族ってもんだと思うね」


 伯父さんはその後も父さん()の子供時代の話やら新人の救命隊員の愚痴やらを取りとめもなく話していたが、次第に内容もあやふやになり、いつの間にかソファでいびきをかきながら寝てしまっていた。様子を見に来た伯母さんと協力して1階の寝室に運び、風呂に入った後で自室のある2階に向かう。階段を上がったところに、従姉(春香)が立っていたので思わず身構えてしまう。


「……アタシも反対、だから」


「……何が?」


「さっきの、父さんとの話! タダでさえウザいのに、いつ死ぬかわかんない仕事とか、絶対ヤだからね!」


 そう言い放って自分の部屋に引っ込んでしまう。どこからどこまで聞かれていたかはわからないけど、俺だってそうだ。春香、お前は何かっていうといちいち絡んだり睨んだりしてくるし、いろいろ嫌なことも言われてきた。でも、苦手ではあるけど、憎いってわけじゃない。

 俺だってお前のこと――”家族”って思ってるんだぜ――そんなことを考えながら、自室のドアを開く。4週間ぶりの自分の布団は、昼間にちゃんと陽に当てて干されたんだということがわかる、ちょっと香ばしい匂いがした。


――――


「琥太郎、ちょっとノート写させてくれよ!」仕方ないな、学食のカレーで手を打ってやろう。


「白根君、学園祭の劇の照明操作、ちゃんと手順頭にいれておいてよね!」なんだこれ。腕2本で足りるのか!? マクロ機能はないのか!?


「あーっ模擬試験の志望大学と学部学科の記入欄、どうしよう!」そういえば”宇宙工学”が新設とか募集再開になってる大学が多いんだな。きっと大っぴらに教えられる内容が変わるからなんだろうな。


「マラソン大会とかだりーよな」まあ、低酸素でのトレーニングよりはましだな。


 2学期に入り、授業が始まるとそれなりに忙しい日々が始まった。俺は部活に入っていない分、今まではバイトを入れていることが多かったが、その回数は減らし――夏休み中もほとんど入れらず、残念がられた――、週に数度、パイロットとしての研修を受けていた。周囲には英会話スクールに通うことにした、などと話しておいたが、実際研修の中にはかなり実戦的なそれも含まれていた。

 そんな風にして夏から秋はあっという間に過ぎ去り、2学期も期末試験が終わろうとしている頃、国際宇宙ステーションや軌道エレベータに関する情報が解禁になった。都内からでも天気のいい日には郊外の方にうっすらと伸びるワイヤーのようなものが空高く伸びているのが見えるし、合体して巨大になった宇宙ステーションは天体望遠鏡を使えば一般人でも撮影できるほど目立つようになった。秘密のまま開発できるような状態ではなくなった、というのが大きいのだろう。

 ”アイランド1”と名付けられた人類にとっての新天地は、地球からの物資輸送を最低限に留め、太陽光発電や農耕プラントである程度の自給を可能とした新たな”都市”としてマスコミの報道やパンフレットを通して周知されていった。異星からの侵攻云々、といった話はひとつの可能性として取り扱われ、衛星軌道上での防衛準備に関しても少しずつ公開されているようだった。

 

 家族や友人と過ごす日常生活と、その空間。それが何者かに侵略されて失われることを想像すると、思っていたよりずっと胸が痛くなることに気が付いた。俺一人の選択で、それが全部守り切れるなんて思わないけど、少なくともある程度は役立てる。

 学校も通した、正式な進路相談の時期が、近づいていた。


(つづく)

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