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第7話・守るべきもの・戦う理由・Aパート

 地球上空213kmのステーションでの訓練課程、最終日。俺を含むパイロット候補生達は初日と同じように会議室――正式には作戦室らしい――に集められた。


「皆さん、第一次訓練課程、お疲れさまでした。本ステーションはこの後各国の宇宙ステーションと結合作業(ドッキング)に入り、巨大国際宇宙ステーションとして生まれ変わります。次の実地訓練は1年後、それまでは地上()でフソウ・ガーディアンの社員研修を受けて頂きます」


 局長からの言葉。閉校式のようなものだな。しかし今の話は俺以外の19名に対してのもので、俺には学校がある。目の前で喋ってる局長(神宮寺さん)からはパイロット候補生のままでいてくれって言われてるが、その娘である奈央さんはよく考えて選べって言う。

 候補生を辞退すると代わりに自分が戦うことになるってことを言わないでいるのは、俺が気にすると思っているのだろうか。いずれにしても、地上()に戻ってからも考える必要がある。

 でも、単なる好奇心とかじゃなく、また、宇宙(こちら)に上がってきたい、そう思った。


「奈央さんも、一緒の便(プレーン)で戻るんですね」


「戦闘以外のスタッフ募集とか、人事のほうのお仕事があるんですよ」


「あ、そうだ、国際宇宙ステーションになる、って言ってましたよね」


「はい、それが何か?」


「……英語、勉強しておいた方がいいですかね?」


「パイロットにならなくても、勉強は大事ですよ。選択肢を、いっぱい広げて下さいね」


 窓の外を見る。来た時と同じく青白くゆるやかな弧を描く、地球。地学の授業では太陽からの距離や大きさが絶妙だったからこそ大気と水が、生命の誕生の条件を満たした、奇跡的な星なのだ、と習った。訓練期間中でも何度も見た景色だったけど、これで暫くは見られなくなるんだな、と思うと少し寂しい気がした。


――――


「お帰り、琥太郎」「お帰りなさい」


「もう4週間経ったんだ――フン」


 伯父さんと伯母さんの暖かい出迎えに、凍り付くような従姉(春香)の一言。久々に聞くとけっこうキクな。


「男子三日会わざれば、なんて言うけど、少し、逞しくなったんじゃないか?」うん、かなりトレーニングもしたからね。


「インターンシップ先のご飯は、ちゃんと食べさせてもらえたのかい?」はい、後半2週間は1食5千円だそうです。


「――フン」なんでいちいち睨んでくるんだ。


 久しぶりの白根家での食卓。やはり冷たい態度ながら春香はきちんと席に着き黙々と食べつつたまにこちらをちらりと見てくる。伯父さん夫婦はあれこれ聞いてくるので、とりあえず最初の2週間のことを――戦闘機の訓練もまずいよな――中心に話す。実際それだけでもすごく充実していたし、そうそうできない体験だったわけで、興味深そうに聞いてくれた。


「――さっさと食器出しなさいよ、アンタ」


「ん? どういう風の吹き回しだ?」


「ただのついでよ。ホラ、さっさとよこしなさいよ――フン」


 いつもなら自分の食器だけ片付けていなくなってしまうのに、何か心境の変化でもあったんだろうか。リビングに行くと伯父さんが水割りで晩酌をしながらテレビを観ているところだった。そういえば前半の施設はともかく宇宙()にはテレビってなかったんだな。パソコンでネット――制限つきだが――は使えたけど。


「――春香のやつな――ああ、これは本人には内緒だがな――ずいぶん後悔してるみたいだな、お前への態度」


「態度もなにも、完全に嫌われてるよね」


「いや元々あの子はお前のこと嫌ってはいないんだがね。ただ、やはりタイミングやら運は悪かったな」


「入試失敗やら、同級生にからかわれたり、あの時は酷かったな」


「その時にお前にいろいろ酷いことを言ったりつらく当たったことを謝りたいと言っていたね」


「うーん、今まで一言も謝られたことない、よなあ」


「変なところで(こじ)らせちゃったんだろうね。なまじお前が文句も言わず優等生だったから、余計に、かな」


「優等生、ってわけでもないけど――ところで、ちょっと進路相談、いいかな」


「ふむ、インターンシップで、思うところがあったかい? フソウ・ガーディアンって要は軍事企業だろう?」


「うん……命の危険がある仕事って、どう思う?」


 帰ってきて早々にこんな話をするつもりもなかったのだが、春香の話をあまり続けていたくはなかった。さすがに『宇宙でロボットのパイロットってどう思う?』と切り出すわけにはいかないが、とりあえず保護者である伯父さんの意見は聞いておきたい。なんだかんだ、5年も一緒に暮らして育ててもらってるのだから、最終的には全部話して、きちんとした形で相談もしたいな。


「弟から預かったお前が、危険な仕事に就きたいと考えているなら、正直反対ではあるな」


 水割りの氷が、カランと鳴った。


(つづく)

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