第1話・セコいプレイスタイルが評価されました・Aパート
―ガガガガガガガッ-
筐体の小刻みな振動のあと、周囲を取り囲んでいたモニタの明かりが消え、一気に暗くなる。
「お疲れさまでした」
合成音声のアナウンスが響き、プシュッという音とともに筐体の上半分が持ち上がるように開き、外の光が飛び込んできた。
同時に、電子音や人々のざわめき、周囲のにぎやかな音が耳に入ってくる。
「なんつーか、地味?」
「いや、でも何気に上手いんじゃない?」
といった感想ともヤジともつかない声も聞こえてくる。とりあえず筐体内のシートから立ち上がり、並んでいた次の人に席を明け渡す。
少し離れてカバンからミネラルウォーターのペットボトルを出して、一息つく。
視線の先には小型車両ほどの筐体が4つ並び、その上には大型モニタが設置されており、新たな”セッション”が始まった様子が表示されている。
現在全国のゲームセンターで稼働している人気オンライン対戦ゲーム、”ヴァナリアス オベリスク”。
宇宙戦争を題材としたアクションゲームで、プレイヤーは”フェンサー”と呼ばれるロボット兵器のパイロットとして赤、青どちらかの陣営に所属し、要塞の攻防戦を行うものだ。
1セッション200円でプレイ時間は15分、その間にビーム兵器やミサイル、近接戦闘を駆使して敵機を撃墜したり、敵要塞にダメージを与える。
筐体内は”フェンサー”のコクピットという設定で、360度モニタで滑らかに動く臨場感たっぷりな戦闘描写が人気を博している。
全国のゲームセンターに設置された筐体が連動しており、多い時には千機以上の機体が入り乱れての戦闘になる。
そしてセッション終了後に付与されるポイントの累計ランキングが店舗別・地区別・全国で更新され、プレイヤーたちは日々競い合っている。
ところで当然自機がダメージを受けたり、撃墜されることもあるわけで、その際は修理するための”クールタイム”が設定される。
撃墜された場合はまる1日ちかくプレイできなくなる。
しかしここにこのゲームのいやらしいシステムがあり、プレイ料金とは別に課金してチャージしたクレジットを使用してクールタイムを短縮したり、キャンセルすることができるのだ。
金に糸目をつけなければセッション中にやられても直ちに復活して戦闘を継続できるので、捨て身戦法で特攻して撃墜数や敵要塞へのダメージを荒稼ぎすることもできる。
もちろん操作のウデも必要ではあるが、トップランカーのほとんどはそうした”廃”課金プレイヤーで占められているのが現状であったりする。
俺はそんなモヤモヤした想いを抱きながら、大型モニタで展開されている現在のセッションを観戦していた。
実際、今画面狭しとフェンサーを駆っているプレイヤー”NAOSHIN”はこの店でのトップランカーで、全国でも2桁台に入っていたはずだ。
そんな彼(彼女かも知れないが)のプレースタイルは”かなり課金の特攻型”、現在も残り時間はまだ十分にあるのに耐久ゲージは半分を下回っている。
被弾をものともせず、しかしすれ違いざまに鮮やかに敵機にトドメを刺すサマは確かに派手で、華がある。
あ、撃墜された。しかし数秒後には要塞から再び飛び出し、今度は敵要塞に向けて猛スピードで特攻をかけている。
フェンサーの装備は要塞攻撃用の巨大なランチャーに換装されいてる。あれも課金クレジットによる特殊兵装だったはずだ。
要塞防衛にあたっていた敵プレイヤーたちのフェンサーが立ちふさがったが、ギリギリの挙動で最小限の被弾に抑えながら防衛ラインを突破。
背中に搭載したランチャーから多数のミサイルが発射され、要塞の機関部に鮮やかな着弾エフェクトが連続して瞬く。
今回のセッションは接続数がそれほど多くなく、100対100程度の小規模戦だったためか、要塞の耐久力も低めに設定されていたようであっさり陥落。
小規模とは言え時間内に決着が完全に付く”要塞落とし”は珍しく、周囲のギャラリーからは歓声と拍手が沸く。
やがて先ほどと同じように筐体の上半分がパカッと開き、セッションに参加していたプレイヤーたちが出てくる。
いまだ拍手をしているギャラリーたちに手を振っているのが、どうやら”NAOSHIN”らしい。
真っ赤なTシャツに太ももも露わなホットパンツ、長い茶髪をまとめてアップにし、キャップを目深にかぶった20代前半ぐらいの――女性。
ランキングで名前はいつも目にしていたが、本人は初めて見た。化粧っ気は薄いものの整った顔立ちをしているが、気の強そうな――俺が苦手なタイプの――美人だった。
(づづく)