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あっけない幕切れ

 後方はヴィットーリアたちが抑えておいてくれるようだ。

 初撃は返されたようだがすぐに応戦している。問題ないだろう。

 俺はとにかく目の前の魔族を倒す事に集中すればいい。

「これでもたかが人間と言うか、下っ端魔族」

ヴィットーリアの魔力を吸って赤く燃え上がるブリューナクを振り上げて俺は宣言する。

「くっ、それをそのまま振り下ろせばこの娘も無事じゃすまないぞ」

「おいおい、うちのエルフリーデ・カルラゥ・ヴォルテンスドラッセを舐めんなよ。おいエル、このぐらい大丈夫だよな」

 バーカンディの女王とその妹の魔力による攻撃は、いくら最硬の防御力を誇るシルバードラゴンとはいえ無事ではすまないだろう。

「うん、ちょっと痛いとは思うけど、すぐに回復すると思う」

 エルは少し不安そうにしながらも、しっかりと頷く。

「ふ~ん、この娘も巻き込むつもりかい?それとも服だけ焼くとか?」

 魔族が嘲るように問いかける。確かに不安だ。やったことはない。多分エルは血を流すだろう。それでも、俺は止めるつもりはない。

「それがどうした?俺はエルを傷つけてでも絶対に守る」

「うん、あたしはどんなに痛くてもハルくんのそばに居るよ」

 痛みくらいで俺達の絆が切れるものか。

「世界でエルを傷つけていいのは俺だけだ」

「うん、ハルくん以外には絶対に傷つけられない」

 傷つけ、傷つけられてそれでも好きだから一緒に居る。人間だとか竜だとか、そんなもの俺達には関係ない。

 それを教えてくれた竜のモットーは。

「そしてやるときは……」

「全力で」

 俺達の中で生き続けている。

 ドオオオオオオオオッ!!

 俺は躊躇うことなくブリューナクを振り下ろした。

「エルッ!!」

 俺は魔族が死んだかどうかも確認せずに走り出した。

「あはははあっ!!!」

「ぐっ!!」

 突如土煙から少女の腕が突き出された。咄嗟にヴィットーリアの魔力を纏ったブリューナクで受け止める。

 本来なら斬り落されるはずのその腕はブリューナクと拮抗した。

「なるほど、なるほど~。魔力で防御してしまえば、受け止められるようだね」

 衝撃波が土煙を弾き飛ばす。突き出された腕とは反対側……左脇にエルが抱えられていた。俺がブリューナクを振りぬく力も利用して距離を取る。

「どうした人間?この娘を傷つけてでも守るんじゃなかったのかい?もたもたしていると僕が傷つけちゃうよ……こんな風にさっ!!」

 ビリイィ……

 エルの胸元に差し込まれた腕が思いっきり下に引かれた。

 お腹の辺りまで服が破ける。

「あれ?まだ中に1枚着ていたのかい?面白くないな~」

「てんめぇええっ!!!」

「あはははっ!彼氏はお怒りのようだけど、君は相変わらず無反応だね~」

 魔族の視線が腕の中のエルに向く。

「魔族さん……もう止めようよ」

「君は本当にっ!!」

「よそ見してんじゃねえぇぇっ!!」

 俺は低い軌道でブリューナクを振る。エルが注意を逸らしてくれていたお陰で、俺の姿を一瞬見失った魔族の両足を一気に凪ぐ。

「エルッ!!」

「ハルくんっ!!」

 ブリューナクを放り投げ、縛られたまま空中に投げ出されたエルを床すれすれでキャッチして、石の上を転がる。

「いってぇぇ……」

 1回転では止まらずに壁にぶつかってようやく止まった。

「ハルくん……」

「大丈夫か?」

「うん、やっぱりハルくんは助けに来てくれたね~」

 エルはにへら~、といつもの笑みを向けた。

「今回は本当に心配したんだぞ」

「うん……ごめん、ありがとう」

 未だ縛られたままのエルは俺の胸に顔を預けた。角がちくちく刺さるが気にせずに抱きしめる。


「戦場で気ぃ抜きすぎだよ」


「っ!!」

 足を切り飛ばしたから動けるはずが無い。その思い込みが魔族への警戒心をなくしていた。

 視界の端には黒い光に下半身を支えられた魔族の姿が。その手には俺が放してしまったブリューナク。

 両腕を縛られたエルは起き上がる事ができず。

「お前……」

 座り込んだ俺は顔を向ける事ぐらいしかできない。

「あはははっ!これで……」

「貴様の負けだっ!!!」

 勝ち誇ったようにブリューナクを振り上げる魔族に、横からスパーダ・ディ・ヴルカニスが突き刺さる。辛うじて残っていた上半身は一気に燃え上がり、笑みをはりつけたままブリューナクを残して跡形も無く消えた。

「トリア……助かったよ」

 炎の大剣の主が舞い降りる。

「全く、さっき言ったことをもう忘れたのか。勝手に死ぬんじゃない」

「あはは……」

 笑ってごまかそうとしたが、ヴィットーリアはいつまで経っても不満顔。

 しかし怒っているというよりはどこか焦れているような雰囲気で、じーっと俺の顔を見つめている。

 頭を撫でようとした手を伸ばしたが、軽くたたき落とされた。

「王の頭に気安く触れるな」

 拒否されたので手を引込めたら、物足りないというような顔をする。

「素直じゃないんだから……」

「誰がだっ!?」

 否定しつつも視線は行ったり来たり。

「ん?……ああ、エルか」

 何で維持張ってるのかと思ったが、腕の中でエルが身じろぎしたので思い至った。

「っ~///」

 ヴィットーリアの顔が紅潮した。

「かわい~?」

 エルが俺とヴィットーリアの顔を見上げた後、不思議そうに呟いた。

「黙れ、ちっちゃいのっ!!」

 そういえばエルと別れたときはヴィットーリアと闘っている最中だった。普通に話している俺たちが不思議なのかもしれない。

「姉様ーっ」

 ルイーザとオルダーニが合流する。所長は……ああ居た。いつの間にか部屋の最奥部、最初に魔族が座っていた椅子のあたりを調べている。変な装置とか押さなきゃいいけど。

「突然居なくならないでください。死ぬかと思いましたの」

 死竜相手にヴィットーリアが抜けては確かに厳しい。ルイーザとオルダーニが居てようやく負けない、くらいの戦力差はあっただろう。

「すまん、レーゲンハルトがあまりに不甲斐なかったんでな」

「ルイズは怪我してないか?」

「もちろんです。わたくしを誰だと思っていますの、です」

 ルイーザがヴィットーリアの言い方を真似るように言う。いや、初めて会った時も似たようなこと言ってたっけ?

「ちょっとルイズの短剣貸してもらっていいか?エルの縄を……」

「あ、はい……」

 ルイーザの手を借りてエルの縄をほどく。

「ふぅ~、えいっ!!」

「おわっ、おいエルッ!?」

 縄を解かれたエルが背伸びした後、俺のお腹に抱き着く。

「えへへ~、ハルくん、ハルくん、ハルくん~」

 一応角の事は気にしてくれているようで、頬を擦るようにしている。

「あ~ずるいですの~。わたくしも~!!」

 ルイーザがエルを左に押し退けて抱き着いた。さすがに2人分は支えられずに床に転がる。

「お前ら、ちょっ、重いって……」

「レディに思いとは失礼ですのよ」

「ほんと?少しはあたしも大きくなったかな?」

 二人のリアクションは対照的だった。

 あれ?と顔を見合わせると、こっちを見つめる。

(俺にどうしろと……?)

 その俺の頭に影が差す。ヴィットーリアだ。スカートを膝裏に挟むようにしてしゃがんでいる。

「トリア……」

「ま、なんだ。頑張れ、頑張れ~」

 手を伸ばして何をするのかと思ったら額の辺りを撫でられた。

 ヴィットーリアは今まで見たことないくらい優しい表情をしている。

 やっぱりお姉さんなんだな、とぼんやりと思う。

「……なんで赤くなるんだよ」

 うん、自分でもわかった。頬が熱い。

「いや、撫でられると思いのほか恥ずかしいんだな、と」

「ようやくわかりましたか、ハルトくん?」

 胸の上に乗っているルイーザが今までの仕返しだ、とばかりに俺の髪を掻き混ぜはじめた。

「え~?気持ちいいよ?ハルくん、あたしも撫でる~」

 エルも便乗して耳のあたりの髪を撫ではじめる。

「うおっ!?あははっ!エル、そこっくすぐったっ……、ルイズは痛ぇ、髪引っ張ってるって……」

 ヴィットーリアは途中で手を引いたようだが、止める様子もない。しばらく二人にもみくちゃにされた俺の髪はあっという間にぼさぼさに。

「あーあ……」

 さすがに悪いと思ったのか3人で俺の髪を直そうと撫でつけていくが、3人それぞれの考えで整えようとするものだから結局ぐちゃぐちゃのままだ。

「あー、もういいよ」

 俺は諦めて脱力する。二人分の重さが今更ながらに心地良い。ヴィットーリアはともかくこの二人の重さは今回俺が守ろうと思ったものの重さ、とか考えるのは少し格好つけ過ぎだろうか。

「モテモテですね~、レーゲンハルト君」

「姫様、そろそろ降りられた方がよろしいかと……」

 所長は満足するまで調べたのかオルダーニを連れて戻ってきた。ルイーザが慌てて飛び降り、ヴィットーリアが立ち上がる。

 エルは俺の上に寝そべったままだ。

「ほら、帰るぞ」

「エルちゃんも」

 ヴィットーリアとルイーザが差し出した手を取り、俺たちは立ち上がった。

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