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ヴィットーリアが背負うモノ

「覚悟はいいか」

「は、ははは、はいいぃぃぃ……」

「当然、俺達を誰だと思ってんだ?」

「マグナ・サレンティーナ第一王女ルイーザ・ディ・サヴォイア。それと人間のハルトだろ?」

「ああ。そうだよヴィットーリア女王」

 俺が頷くとヴィットーリアは不満そうに眉を歪めてスパーダ・ディ・ヴルカニスに魔力を注ぎ込み始めた。

 俺が背中を叩くと、思い出したようにルイーザもブリューナクに魔力を注いでいく。

 立ち上る2つの炎。

 姉と妹の2つの願いが、考えが、意思が、あとほんの少しの俺の意地が、自分が正しいとその炎を燃え上がらせていく。

「行くぞ2人とも、バーカンディ女王の全力だ。覚悟はいいな」

「ね、姉様こそっ!」

「俺達2人分の想いを受け止める覚悟はできたかよ?」

 ヴィットーリアが1歩踏み出す。スパーダ・ディ・ヴルカニスとブリューナク。双方の間合いに侵入する。

「無論だっ!来いっ!!」

 2歩、3歩と進みながらスパーダ・ディ・ヴルカニスが振り下ろされていく。

 対するこちらは一歩だけ。

 俺とルイーザでは歩幅が違う。下手に動くより、この場で振り下ろした方が確実に狙いに届く。

 ブリューナクとヴィットーリアのスパーダ・ディ・ヴルカニスが交差する。

 

 しかしその軌道はお互いを捉えず軽く擦れた後、そのまま通過した。

  

「っ!」

「ぐっ!」

 そのままの軌道で振り下ろせば間違いなくヴィットーリアに一撃を叩き込むことができるだろう。しかし同時にヴィットーリアの攻撃もこちらに入る。おそらくルイーザの防御力があれば致命傷には至らない。

 ある意味で勝てる。

(でもダメだ)

 この戦いの目的を忘れてはいけない。

 ヴィットーリアを倒すのではない。

 ヴィットーリアを止めてヴィットーリアに認めてもらうこと。

 しかしヴィットーリアを止めなければこちらが戦闘不能になる可能性がある。そうなるとエルを追いかけてこの騒動を止めるができなくなる。

 いや最終的にはヴィットーリアが全てを終わらせるかもしれない。ただし人間と竜人の対立は決定的なものになるだろう。

 それは俺の、俺達の望むところではない。

 だから、

「くうううぅぅっ!」

 俺はブリューナクを振り下ろす。ヴィットーリアの右側に。一瞬でも早く、一瞬でもヴィットーリアに気付いてもらうために。

「っ!?こんのっ!」

 ヴィットーリアがその軌道の変化に気がついた。しかしスパーダ・ディ・ヴルカニスは既に俺の顔面に迫っている。ルイーザの視線がこちらに向くのが分かって、俺は視線を向けないまま頷いた。

 頼む、と。

 俺の頷きの意味を汲み取ったルイーザは手を翳し、魔力を集中する。

 エルほどの防御力は期待できないだろう。殺傷能力を強化されたスパーダ・ディ・ヴルカニスを完全に受け止めることは不可能だ。

 しかし軌道を反らすだけなら可能性がある。幸いにしてヴィットーリアもこちらの意図を汲み取って軌道を反らそうと上半身を回し始めている。

(変な感覚だな)

 未だ俺達とヴィットーリアは敵対している。

 しかしお互いにもう戦う気がないという意思は共有した。

 スパーダ・ディ・ヴルカニスの炎に隠れたヴィットーリアの表情はもう見えないが、それは確信をもって言える。

 しかし無慈悲にも炎は迫る。この位置なら俺は助からないだろうがルイーザは無事だろう。ある意味でそれはそれでいいのかもしれない。ルイーザさえ残ってくれればこの騒動は一方的に人間が糾弾されることなく収束させることができる。

「エル……」

 そうだ。俺は死ねない。

 エルを一人残して死ぬわけにはいかない。

 母親の亡骸の前で声もなく、ただ無心に涙を流す。

 喪失と絶望。

 あんな顔は二度とさせたくない。

 何より俺はエルともっと一緒に生きていたい。

 それに、ここで死ねばルイーザは引け目を感じる。ヴィットーリアとも確執が生まれるだろう。

(どうする?」

 単純に考えれば今居る位置から体を動かせばいい。

 しかし既に腕は振り下ろされその上をルイーザの身体が覆い始めている。跳ね上げて体勢を整えることができない。変にルイーザを動かせばスパーダ・ディ・ヴルカニスは受け止められずに俺に直撃する。

(!いっそブリューナクを放したら……)

 既にヴィットーリアに意志は伝わった。もう武器を手にしている必要はない。

 俺は決意をすると右足を前に踏み出す。眼前のルイーザの顔が俺の動きに強張った。ルイーザだけを助けようとしている、と思ったのだろう。

 俺はそのルイーザの身体を両手で支えると大きく身を捻った。

 その瞬間、ついにスパーダ・ディ・ヴルカニスの剣先がルイーザの魔力に接触した。支えているルイーザの身体がぶるりと震える。手に伝わった衝撃もそうだが、おそらくヴィットーリアの魔力による圧力も感じているのだろう。

「ぐぐぐっ!んんぅ~~っ!」

 ルイーザが呻きながらもしっかりと初撃を受け止める。魔力を支える両手の角度に従って炎で作られた刀身が徐々に後方へ滑っていく。

 しかしまだ俺の体はその軌道上にある。ルイーザが不安そうな視線をこちらに向けるが、こちらに意識を向け続けるわけにもいかず、すぐに正面に向き直る。

 スパーダ・ディ・ヴルカニスが剣先から中腹に向かうにしたがってその圧力も増していく。俺が感じているのは炎による熱風だけだが、ルイーザは魔力が膨れ上がっているのも感じているはずだ。腕が曲がりそうになるのを、頭を抱えて逃げ出したくなるのをこらえて踏ん張っている。

 俺はさらに左足を前に送る。ルイーザの両手の角度が変わり、スパーダ・ディ・ヴルカニスの滑る速度が増した。剣先は俺の頭の横、肩の上を抜けていく。

 しかしまだ安心することはできない。スパーダ・ディ・ヴルカニスは剣先よりも中腹のほうが幅が広い。このまま突きこまれれば肩を抉られてしまう。

「ルイズッ、全力でドラゴンブレスッ!」

「はいっ!ハルトくんと、お姉さまを護りますっ!」

 ルイーザがドラゴンブレスを放つのにあわせてさらに上半身を回す。ベクトルが横向きになり、ドラゴンブレスの反発力で二人の身体がさらに左へ流れた。

 受け止めるものがなくなったスパーダ・ディ・ヴルカニスとヴィットーリアの身体も後方へ流れていく。

 今なら俺もルイーザも側面ががら空きだ。ヴィットーリアが尻尾を振るえば簡単に戦闘不能になるだろう。

「ふんっ」

 ヴィットーリアはこちらを何か言いたげに一瞥したが、すぐに通過してしまう。

 ドッオオオオオッ

 スパーダ・ディ・ヴルカニスが地面を抉り、巻き上げられた高温の土が辺りを覆う。

「ハルトくんっ!ひゅあっ!?」

 ルイーザは空中でドラゴンブレスを放った状態で固まったままだ。その彼女に覆いかぶさるように地面に押し倒すと熱風と共に大量の高温の土が襲ってきた。

「ルイズッ!」

 怪我はないかとルイーザの様子を確認すると。

「……何やってんのお前?」

 地面と俺の間に挟まれたルイーザは何を勘違いしたのか目を閉じて手を身体の前で祈るように組み、唇を突き出している。

(最初に比べて随分デレたな……)

「いや、えっと……、あのっ!」

 目を開けたルイーザが俺の様子を見て勘違いしていることに気がついたようだ。顔から火が出そうなほど一瞬で真っ赤になる。

「うぇいっ!?」

 冗談じゃなくルイーザの顔から火が出た。正確に言えば口からだ。何とか飲み込もうとしたようだが、拳サイズの小さなドラゴンブレスが、とっさに身を反らした俺の顔の横を抜けた。

 後方へ抜けたルイーザのドラゴンブレスは迫ってくる土の壁に穴を空けたが、あっという間に後続が追い付いて盛り返す。

「んげっ!」

 ドラゴンブレスがぶつかれば普通は爆発しそうなものだが、どうも土に覆われた影響で鎮火してしまっているようだ。未だあたふたしているルイーザを抱きかかえた俺に高温の土が襲い掛かる。

 ゴッオオオオオオオ。

「いっ!?」

「何ですの何ですの?今度は何ですのっ!?」

 覆いかぶさりかけていた土がさらに高温の圧力によって吹き飛ばされた。俺の上を通過して2メートル程向こう側に土の山を作る。

「……」

 吹き飛ばしたのは言うまでもなくヴィットーリア。土で覆われていた視界が開けた先には、不機嫌そうな顔をしたヴィットーリアがスパーダ・ディ・ヴルカニスを振りぬいた状態でこちらを睨んでいる。

「えっと……」

「ふんっ!」

 不機嫌そうな表情はそのままにスパーダ・ディ・ヴルカヌスを手元に戻すとその刀身を形作る炎がみるみる消失し、もとの槍戦斧(ハルバート)が姿を現す。

 どうやらもう戦うつもりはないらしい。

「貴様、いつまでルイーザの上に跨っているつもりだ。斬り飛ばされたいか?」

 安堵して身体の力を抜いていると彼女の怒声が響く。改めて前を見れば未だ顔を真っ赤にしたままのルイーザがぷるぷる震えていた。

「まったく……」

 ルイーザの足元に一度腰を下ろしてからルイーザの手を取って一緒に立ちあがる。

「なぜ手放した?」

 戦う気がなさそうだったので二人で近づいていくと、ヴィットーリアが転がったままのブリューナクを拾い上げて投げつけてくる。

 同時に高温の圧力が再びのしかかる。

「なぜ闘うのを放棄した?あのまま振り下ろせばわたしを倒せていたはずだ」

 ヴィットーリアの怒りが増していく。

「ヴィットーリアを倒すことが目的じゃないからな」

「何だと?」

「俺は、俺達はお前を止めたかっただけだ。分かってもらいたかっただけだ。人間も竜人も関係なく守りたいだけだって事を、さ。友好を示すのに武器向けてちゃ話にならないだろ?」

「お前が、ルイーザが死ぬかもしれなかったのに、か?」

 俺に抱きついたままのルイーザがヴィットーリアの視線を受けて身体を震わす。調子に乗って啖呵を切ったものの、その顔には後悔の色がにじみ出ている。それでも俺の答えを肯定するように何とか頷くことだけはしてくれた。

 ヴィットーリアは瞳を閉じ、一呼吸おいてから再び目を開け俺の目を見つめる。


 自己犠牲?――違うな。この男はそんな無責任じゃない。わたしが絶対に止めることを確信して手放したのだろう。

 ひょっとしたらわたしが絶対にルイーザを傷つけるはずがないという打算もあったのかもしれない。

 どのみちわたしはこの男に止められてしまった。この男がこれ以上わたしに刃を向けないという意思を受け入れてしまった。

 ……やっぱりこの騒動の根本の原因はわたしか。

 お婆様がやってきたように、あるいは他国の王がしてきたように力で統治して、竜の支配を確立する。

 王族の第一義は生き残ること。

 そして国を発展させること。

 そのためには内乱を即時に止める。起こさせない。

 でもその手段は何も武力で、力で抑えつけるだけじゃないのかもしれない。

 時に力は必要だ。しかしわたしは己が強いのをいい事に武力での解決に捉われすぎたのかもしれない。もっとも安直で確実なやり方だけを選びすぎたのかもしれない。

 実際そうやって抑えつけた結果、首都が火の海になってしまっている。

 この人間の言を信じるのであればこの騒動の主犯は魔族らしいが、人間が魔族にそそのかされる原因を作ったのは間違いなくわたしだろう。

 全ての国民に目を配ることなど不可能だ。しかしこの国にも希望があると分かれば革命を起こそうとは思わないだろう。

 たった一度の戦闘で今までのわたしの努力を、やってきたことを覆すつもりはもちろんない。それほどのことを示されたとも思っていない。

 しかし、それでも――


 ヴィットーリアがゆっくりと歩を進める。まっすぐに俺の瞳を見据えて。

 俺はその真紅の瞳をまっすぐに見返した。瞳の奥は炎のように揺らめき、先ほどまでの刺すような殺気は感じない。眉は不機嫌そうに歪んでいるが、その歩を緩めることなく手の届くところまで近づいた。

 ヴィットーリアはおもむろに視線を地面に向けると、とん、と。握ったこぶしを俺の鳩尾あたりに軽く当てた。人間の俺が攻撃と認識しない弱さで。

「いいだろう。信じてやる。お前の言う『人間』というやつを」

 ヴィットーリアはそこで顔を上げきっ、と睨みあげる。

「だがいいか?……裏切るな。お前は信じてやる。だがまだ人間全てを信用したわけじゃないぞ」

「ああ、十分だ」

 俺が頷くとヴィットーリアの視線がルイーザに移る。俺の二の腕を掴んだままのルイーザが分かりやすく震える。尻尾が俺の足を這い上がって、巻きついてきた。

(尻尾の力って結構強いからやめてほしいんだけど)

 変に力を込められるとこけそうになる。

 そんなルイーザの頭にヴィットーリアの手がかかる。

「すまんな。頑固な姉で」

「い、いえ。わたくしも我を通しただけですし、その……言いたい放題言ってしまって」

「気にするな。たった2人の姉妹だろ?」

 額の辺りを優しく撫でられたルイーザが目を細める。二の腕あたりを握っていたルイーザの手から緊張が抜けていく。

「はい、姉様……」

「ところで」

 ルイーザの額を撫でていたヴィットーリアの手が急に止まる。手のひらを広げ,ルイーザのこめかみの辺りに親指と小指がスライドした。

「え?」

「誰が子供みたいで可愛いって?」

「い、痛だだだだだだだだだだっ!」

 ヴィットーリアの笑顔に凄みが増す。笑っているのに笑っていない。一見細腕のヴィットーリアが右手一本でルイーザの身体を持ち上げる。

「姉様、痛いですっ!モゲますわっ!」

「誰だ?そんなふざけた噂流すやつは?」

「だだっ、誰がって姉様の親衛隊の子たちは皆もう知ってますのよっ!」

「……」

 ヴィットーリアが固まった。

 落ち込む気持ちはよくわかる。強がって、格好つけて、頑張って。それでも得られた評価が『可愛い』じゃ報われない。

 さっきエルに『可愛い』って言われて激昂してたのは、恥ずかさだけじゃなかったのだろう。日頃から言われて続けて、敵にまで言われたら、自分の努力を否定された気分になったのかもしれない。

「姉様っ!わたくしの頭を放してから落ち込んでくださいませんっ!?」

 ヴィットーリアの手から何とか自分の頭を引き抜いたルイーザは翼を広げて舞い上がる。

 額の両側を抑えて涙を滲ませたルイーザが、距離を取りつつヴィットーリアの様子を窺った。反応がないので徐々に降下し始める。

「ふ、ふふふっ、くくっ、くくくぅ……」

「ね、姉様?」

 俯いたまま肩を震わせるヴィットーリアをルイーザが恐々と見つめる。多分ブチ切れる寸前とか思っているんだろうが、……多分違う。

「ルイズ、エルの跡、終えるか?」

「え?ええ、まだ魔力の痕跡は残ってますけど……」

 ルイーザがヴィットーリアの方に視線を向ける。勝手に離脱して後で姉にシバかれないかと不安なのだろう。

「俺とヴィットーリアは後から行くから」

「は、はい、わかりました……」

 不安そうな表情は変わらなかったが、俺が軽く頷いて促すと、翼を広げて飛んでいく。夜の闇が迫り始めた空に赤い翼と尻尾が吸い込まれるまで待ってから、ヴィットーリアへ向き直った。

「もう、泣いていいぞ」

「な、泣いてにゃっ!」

「ここには俺しかいない。お前が暴れたから竜人も人間も全部逃げて周りには誰も居なくなった。俺以外見ている人間はいない」

「だ、だからわたしはっ!」

「なんか意地っ張りっぽいし。……そのオルダーニの前でも本気で泣いたことないだろ?最近」

「なっ、う……あ……」

「ルイーザから聞いた。そのオルダーニっていうのはおまえがちっさい頃から一緒に居たんだって?てことは一番成長を認めてほしい奴だよな」

「なっ?違うっ、違う……」

「国民の前で格好つけて立派な王様を演じて、そいつの前では成長した姿を見せたいから意地を張って……。お前が気抜けるところないじゃん」

 額の辺りに手をのせて軽く撫でる。本当は頭全体を撫でてやりたかったけど王冠があるためにそれはできない。下手に外すのはなんかこう、王位の簒奪とか別の意味にとられかねない。

「……っ!っくぅ……」

 ヴィットーリアは俺の手を掴むようなそぶりをしたが結局腕を下ろした。その手は太ももの辺りできつく握られている。

「っく、うぅぅ~」

 食いしばった歯の間からは嗚咽が漏れ始め、地面に向かってきらりと光る涙が落ちていく。覗き込んだりはしないけど。

「しょうがねえやつ」

 まだ声を出すのを我慢していたので胸に抱き入れた。ルイーザよりは大きいが俺の胸くらいまでしか身長がないので腕の中にすっぽりと納まる。

「ふっえ……?」

「ほら、これで誰にも見えない」

「あ……、ああ……」

 見開かれた瞳はもう涙でいっぱいで。

「よく、頑張ったな……」

 ぎゅっと抱きしめた。顔が見えないように。外の世界が見えないように。

「あ、あああーっ!わたしっ、わたしだって、頑張ってるのにっ!」

 王冠がかかっていない後頭部を撫でる。角が揺れて腕や胸にあたるけど、今は気にせずにヴィットーリアを受け止める。

「勉強もした。帝王学とか政治とか、よくわからなかったけど必死に覚えたっ!最初は全然できなかったけど魔法も使いこなせるようになったっ!」

「ああ、ちょっと頑張ったくらいじゃできない事を、ヴィットーリアはできるよな」

「誰にも負けないくらいあたしは強くなった。それなのにっ、それなのに『可愛い』って何っ!?」

 俺の腰に回されたヴィットーリアの腕に力が入る。より一層俺の胸に顔を押しつけて、ヴィットーリアの吠えるような独白が続く。

「確かにわたしは17歳だっ!子供だと言われても仕方ないっ!でもっ!でも努力を認めてくれたっていいじゃないかっ!」

(あ、そういやもうすぐ18だとかルイーザが言ってたな。そりゃ自分より小さく感じるはずだ。……17で王様って、こいつこの小さな体でどれだけ重責負ってんだ?)

「家柄だけで国がまわせるかっ!才能だけで戦場を生き残れるかっ!?わたしが女王をやっているのは努力してるからだっ!頑張っているからだっ!だから……、だからぁ……」

 勢いに任せて叫んだものの、一度吐き出した後は言葉にならず、えぐっえぐっ、と俺の胸に顔を押しつけたまますすり泣く。俺はそんなヴィットーリアの小さな背中を、翼に気をつけながらゆっくり撫でた。

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