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幕間10 姫の苦悩

「マリアッ!!」

「姫様ご無事で。アニェーゼ、ロジータ、よくやってくれました」

「「はっ」」

 親衛隊のお二人がマリアに頭を下げました。こういうところを見るとやはりマリアはすごいんだな、と思います。

 とはいえいつまでも感心していられません。

「まずは死人部隊(しびとぶたい)を全滅させますわっ!人間は極力殺さず、捕らえなさい」

「はっ、仰せのままに。親衛隊っ!!まずは正面、死人部隊(しびとぶたい)をドラゴンフレアによる炎で滅却処分します。ヴァルチェスカ城防衛隊、ヴァルシオン警備隊も続きなさいっ!!!」

「「「「「「はっ!」」」」」

 マリアが腕を上げ、振り下ろすと同時に上空に展開した兵が炎を放ちます。次々に炎に包まれる死人部隊(しびとぶたい)。1000を超えた兵はあっという間に数を減らし、200を切るまでになっています。

「ルドラ、レイナ、セシリア、そしてヴァルチェスカ城防衛隊っ!闘技場出入り口を封鎖っ!!逃走を許してはいけませんっ!!!」

 マリアの指示で上空に展開していた部隊の半数が降下していきます。

 的確に戦場全体を把握して指示を出しています。今のわたくしにはできないことです。ですがその姿をみて、勉強していつかできるようになる必要が……。

「きゃああっ!!」

「何でっ!」

「っ!?」

 闘技場の入り口から悲鳴が上がりました。予定通り人間の捕獲を開始し幾人かは捕縛したようですが……。

「アニェーゼ、状況の確認をっ!」

「はっ!」

 マリアの指示を受けてアニェーゼが地上へ、前線へ赴き何合か打ち合ったのち再び上がってきます。

「報告します。敵は武器に竜血(りゅうけつ)塗布(とふ)して使用している模様、不用意に斬られると危険かと」

「わかりました。人間の捕縛は一時中止、装備を中距離に切り替え制圧させなさい」

「はっ!」

 指示を出すために再び降りていきました。

 わたくしはそれをぼんやり眺めるしかできません。

(いけませんっ!ちょっと戦場のスピードに付いていけなくなっていますが、それでもこれくらいできなければ姉様には)

「ルイズッ!!」

「ハルトくんっ!?」

 上空で聞こえるはずの無い声が聞こえたので驚いてそちらを見ました。

「えっ、ええええ?」

 ハルトくんが飛んできました。いえ、翼で羽ばたいてという意味ではなく、こう……大砲で打ち出されたみたいに……言っている場合ではありませんね。受け止めなくては。

「どけえぇぇぇっ!!」

「ええ?」

 どういうことでしょう。ここで受け止めなければハルトくんは地上に落ちてしまうのですが。


 ぞくり

 

 嫌な感覚を首筋に覚えて振り向くと……黒い壁?視界いっぱいに広がったそれが私の方へ近づいて。

「ルイズッ!」

 わたくしの頭上を越えたハルトくんがその壁にブリューナクを突き立てました。

 ビシリとその黒い壁にヒビが入ります。しかしなかなか砕ける様子がありません。

「はっ!わたくしもっ、砕けなさいっ!!!」

 わたくしの放ったドラゴンフレアがハルトくんのつくったヒビに入り込み、そのヒビを一気に広げました。

 ギャリリリリッ

 金属が軋むような音が連続して響き、そして一際大きな音がだすると黒い壁が砕けました。

「あー、惜しいっ。もう少しで大将首取れたのに」

 地上からあの忌々しい魔族の声が聞こえました。そこで初めて自分が狙われていたことに気がついてぞっとします。

 その事に気がついて飛び込んできてくれたハルトくんはやっぱり格好いいです。だ……大好きで……。えへへ、やっぱり恥ずかしいですね。

 感謝の言葉を伝えようと視線を向けましたがそこにハルトくんはいませんでした。

「あれ?」

「ルイズッ!!ヘルプッ!!!」

「あっ、きゃああああっ!」

 そうでした。ハルトくんは人間です。飛べるわけがないのでした。先ほどのも多分エルちゃんが投げたのでしょう。

 わたしは落ちていくハルトくんに、急降下して何とか追いつきました。翼を広げて浮力を得ようとしますがうまくいきません。

「うぐぐぐっ、重い……」

「わ、悪いなルイズ」

「ハルトくんは悪くありません。わたくしの力不足が悪いんですっ!!」

 ああもう何をやっているのでしょう。このまま降下してしまえば地上に居る多くの人間達に取り囲まれてしまいます。

「ハルくーんっ!ルイーザちゃんっ!」

 横から飛んできたエルちゃんがわたくしが握っているのとは反対の腕にしがみつきました。

「一緒に行こう?」

「あっ、はい。ありがとうございます、エルちゃん」

「うんっ!」

 エルちゃんと2人でハルトくんの身体を持ち上げます。ゆっくりとですがなんとか地上からの攻撃が届かないところまでは上がることができました。

「あれは……」

「え?」

「あたし、アレ嫌い」

 2人の視線は魔族のほうへ向けられています。

「……っ!」

 いえ違いました。魔族より上、さらに向こうの上空に何か居ます。

 それはわたくし達のように翼を広げて飛んでいます。大きさもほぼ同じ。

 しかしわたくし達とは全く違うもの。

「何だ、気付いちゃった?本当はもっと近くに来てから気付いてほしかったんだけど」

 魔族がおもちゃを自慢する子供のように無邪気に笑っています。

 わたくしは正直聞きたくありません。

「そう。あれは君達竜人の死体だよ」

 ああ、やはり。

 兵の皆さんもショックは隠しきれないようで、動きを止めてしまっています。マリアや親衛隊も。

「君達も空へ上がったんだ。航空戦力を補充しないとフェアじゃないよね」

 この男はどこまで命を弄べば気が済むのでしょう。

 そして同時に人間の死人部隊(しびとぶたい)を見たときよりも、竜人の死人部隊(しびとぶたい)を見たときの方が怒りを覚えた自分に嫌気がします。

 わたくしが大好きになった人のお陰で変われたはずなのに。

「ルイズ……」

「わたくしは……」

 ハルトくんが心配そうにわたくしの顔を見ています。ずっと竜と人の間で苦しんできたのです。わたくしの気持ちなど口に出さなくても分かってしまうのでしょう。

「その気持ちは間違っていない。同族を思う気持ちを否定しちゃ駄目だ。その気持ちをあっちの死人部隊(しびとぶたい)にも少しだけ分けられるようになればいい」

「はい……。それでも言わせてください。……すいません」

 本当に、ズルい女です。わたくしは。

「さあ、第2戦の開幕だよ。命をかけた航空ショーだっ!!!あははははは……」

 魔族の宣言と同時についに竜人の死人部隊(しびとぶたい)が闘技場の上空に侵入しました。

 数は20体ほど。

 人間の死人部隊(しびとぶたい)に対してあまりに少ない。考えたくはありませんが戦場で調達するつもりなのでしょう。

 隊列を組んでいた死人たちは平面的に展開。ドラゴンフレアを放つ体勢を取ります。

(竜人でドラゴンフレアを放つということは、わたくしと同じバーカンディ?本当に、本当にもうっ!!)

 一方の地上は親衛隊の活躍で入り口付近を中心に3割ほど占有している状態です。 

「エル、ルイズ、一旦地上に降ろしてくれ。このままじゃ3人揃って的になるだけだ」

「わかりました」

「うん」

 人間の攻撃を受けないよう闘技場の入り口付近に着陸します。

「進めーっ!」

「盾の隙間を空けるなっ!空けると狙われるぞっ!!」

 地上はやはりまだ混戦状態です。アニェーゼが先頭に立って指揮をしながら善戦しています。

 上空でも戦闘がはじまったようでドラゴンフレアが時折地上へ降ってきます。

「何いじけてんだ?」

 隣に立つハルトくんがわたしを見下ろしていました。

「いじけてなんか……。いじけもしますわよ」

 うるさいな、とちょっと思いつつ。ちゃんと見てくれていることに喜びも感じます。ほんと、戦場で何を考えているんでしょう、わたくし。

「えらくあっさり認めたな」

「わたくしは本当に何もできないお姫様なんです」

「誰も初陣で活躍できるなんて思っちゃいないよ。ちゃんと見て、次にこうなった時になんとかすればいい」

「そうですけど……」

「もっと部下に誇りを持てよ。お前はこんなに格好いい連中に囲まれてるんだ」

「……はい」

 ハルトくんのほうが格好いい……なんてそんな事言えませんわ。

(だからここは戦場でっ!!)

「どうしたの?顔赤いよ?風邪?」

 顔を覗き込んだエルちゃんがこつんと額を寄せて、あれ熱くない?という顔をしています。

 ほんと、何にもできないお姫様です。わたくし。

(姉様はいったいどれだけ努力を重ねて、どんな重圧に耐えてきたのでしょう……)

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