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大戦の悪夢再び

「ハルトくんっ!!」

 警備隊を引っ張るルイーザの元までたどり着くとルイーザの嬉しそうな声がかかる。

「おうっ!そっちも無事だな。いや~2人のお蔭で助かった。アニェーゼ、ロジータ、さんきゅーな」

「姫様のためです」

「んっ!」

 相変わらずの事務的な返しとサムズアップが返ってきた。

「これからどうします?」

 アニェーゼがルイーザに聞きつつも、こちらへ視線を送ってくる。姫であるルイーザを優先しつつも、彼女に実戦の経験がないから知恵を出せというところだろう。

 だけど俺にだって軍隊を動かした経験なんてない。せいぜいジルバン・シュニスタッドで聞きかじった程度だ。それも航空部隊の混じった山岳戦。お国柄だという奴だ。市街戦などそもそも想定していない。

 少なくとも後方の憂いは3人でなんとかしてきたから、今率いている部隊は遊撃隊として使える、ということぐらいはわかる。

「えっと……」

 ルイーザは露骨にこちらに視線を送ってきた。兵士が居る手前姫としての威厳は保っているようだが、頭の中はもう真っ白だろう。

「城の連中が持ちこたえているのを信じて横撃をかける」

 今の道を真っ直ぐ北上すれば城の西端に出る。そこで90度曲がって城壁沿いに城門に向けて進めばうまい具合に戦場に出るはずだ。

「『おーげき』?」

 ルイーザがエルみたいな顔で首を傾げた。

 もう少し姫様やっててくれ頼むから。

「敵が城門に向かって武器を向けてるだろ。その横から攻撃を加える事を横撃っていうんだよ。一人一人ならともかく部隊全体を方向転換するには時間がかかるんだ。軍隊はともかく寄せ集めの部隊ならなおのこと、さ」

「じゃ、じゃあその『横撃』というので行きますわっ!!」

 俺の長い説明に混乱し始めてというより、アニェーゼや後ろからの無言のプレッシャーに応えるように声を上げる。

「はっ!皆の者っ!姫様のご指示通り、これより城門を突破しようとしている人間に横撃をかける。あともう少しだっ!最後まで気を抜くなっ!!!」

「「「はっ!!」」」

 そうこうしているうちに俺たちは城の西端まで到達した。速度を緩めずに曲がりこむ。

 すぐ先に城門へと続く大通りが視界に入る。

「姫様っ!」

 先行したロジータが声を上げる。

 オオオオオオオオオッ!!

「引けっ!引けーっ!!」

 彼女が指差す先へ視線を向けると今まさに城門が破られるところだった。城の防衛部隊は総崩れとなり、人間の物量に押されて城内へと退却を始めている。

 城壁の上から矢が放たれているがあまり効果を上げていない。

 慣れていないからだろう。正面からぶつかって叩き潰すのが普段の戦闘スタイルだ。竜人クラスのドラゴンフレアでは何の意味も無い。特に竜血(りゅうけつ)の影響下にある今の状況では。

「ハルトくんっ!」

 どうしようというルイーザの視線が横から来る。もう後ろの竜人たちも俺を軍師という立ち位置で認識しているらしく、普通に視線を向けてきた。

「下手に横撃をかけたら囲まれる可能性があるな」

「鶴翼……ですか」

 アニェーゼが確認するように呟く。

「ああ」

 鶴翼とは鶴の翼のように羽を広げた布陣だ。その交わるところに敵を誘い込み、広げた翼の両端を敵の後方へ伸ばすことで退路絶って包囲、一網打尽にする陣形である。

 敵の横から攻撃を仕掛けた場合、敵の陣を破ろうとするこちらの突撃が敵の陣形を中折れのように分断することによって、鶴翼へ変わりやすくなってしまう。

「敵の戦列が途絶えました」

「っ!?」

 悩んでいる間に人間の集団が城内へなだれ込んだ。

(おかしい。この少ない人数の人間に竜人が負けたのか?)

 多く見積もっても1000人程度。軍人として訓練されている兵士300が素人1000に負けるなどありえない。まして城門という限られた戦場だ。1対1で戦える可能性が高い上に、城門の上からの援護射撃もあった。

「ハルトくんっ!?」

「俺達もこのまま城へ入って、追撃をかける。城の部隊と共に挟み撃ちにするんだっ!」

 程なくして城の正面大通りに到達する。一応待ち伏せを警戒して町のほうへ視線を向けたが、戦いの跡……壊れた武器や汚れた壁があるくらい。

 座り込む負傷兵やなんとか生き延びて脱力する人間を尻目に俺達はヴァルチェスカ城へ突入した。

 一度S字に曲がった後、部隊を展開させたり、模擬訓練を行ったりする場所……闘技場へ侵入する。


「いや~遅かったね。待ちかねたよ」


 あの男だ。

 闘技場における上座。

 本来であれば王族が座るべき場所にその男は座っている。

「あなたっ!!そこから立ち退きなさいっ!そこは姉様の座る場所ですっ!!」

 ルイーザが激昂する。姉を恐れながらも、目標として憧れている彼女にとってヤツがそこに居座っているのは許しがたいのだろう。

「そう。ここはこの国の支配者が座る場所。そしてこの遊戯のマスターが座る場所だ」

 だから座っている、と。

「遊戯……?」

「そうさ。いや~苦労したよ。君たちをここに誘い込むのは。特に君……そう人間の君だ。君には見破られるんじゃないかとひやひやした」

 俺のほうをみて楽しげに呟く。

「誘い込む?追い詰められたのはお前らだろっ!?」

「なら周りをよく見てみるといい」

 今俺達がいるのは闘技場の入り口付近。ルイーザ、親衛隊の二人と俺を先頭に方円陣を組んで待機している。その左右には城の防衛部隊。先に侵入した人間を相手に構えをとっている。

 そして正面。上座に座る男と俺達の間にも部隊が一つ。両側は人間。だけど……。

(なんだあれは、正規兵でも市民でもない……盗賊?)

 あのような風体の人間は市中で戦ったときには居なかった。おそらく別ルートから城内へ進入したのだろう。

 だから城の防衛部隊はあっという間に突破されたのか。門の内側からも攻撃を受けたから耐え切れずに、人間の進入を許した。

「なんですの……アレ?」

 ルイーザが呟く。盗賊の間に挟まれるように展開するモノたち。最大規模を誇っていながら、全くといっていいほど覇気を感じない。

「おおお……おおおお」

「うがああ……」

 既に死んでいる。にもかかわらず動き続ける亡者の群れ。

「お前、本物の魔族なのか」

「あれ?言わなかったけ?」

 ジルバン・シュニスタッドに居るときに読んだ蔵書の中に記してあった。かつて魔王に攻められた時に人間が苦戦した理由は直接的な魔法の技術以外にもあった。

 死人使い、死霊使い(ネクロマンシー)

 殺しても殺しても、倒しても倒しても。魔力が尽きない限り、肉体が物理的に崩壊しない限り起き上がって戦う集団だ。

 さらに味方の戦死者まで容赦なく取り込まれ、対峙しなければならない。

 戦場で敵を殲滅できるだけの魔力を保有しておらず、昨日まで共に戦友として戦った仲間に敵として刃を向けなければならない精神的苦痛。

 その2つの悪循環が人間を追い詰めていった。

 今その災厄が再びここに存在している。数は未だ2000と言ったところ。しかし戦闘が長引けばどんどん増えていくだろう。

(ここまで死体がなかったのはコイツが全部回収したからか)

 下手に攻撃できない。完全に肉体を焼却、あるいは滅却しなければ倒したことにはならない。

「改めて名乗っておくよ。僕は魔族ドゥルジ。この国を落とし、やがてこの世界の魔王になる存在だ。……さあ踊れ、新たな世界の王を楽しませておくれ」

 オオオオオオオオッ。

 ドゥルジの号令で動き出す。人間、そして亡者。

「狂っている……」

「キモい……」

「ああ、どうかしてるぜコイツら……」

 死んだらあの亡者の仲間入り。それが分かっていながらなぜあの男に従うのか。

「それでもわたくし達は戦わねばなりません。魔族などにこの国を渡すわけにはいかないのですっ!!」

 ルイーザがまっすぐに前を見据えて宣言する。

「直に竜血(りゅうけつ)の効果も薄まります。姉様も……ヴィットーリア女王も帰ってきます。だから……」

 足の装飾具から十字の物を握って取り外す。

 それを短剣のように構えて魔族へまっすぐに向ける。

「国民を守りますっ!!進めええぇぇぇぇっっっ!!!!!」

「「「おおおおおおおおおっ!!!」」」

 城の防衛隊が生きている人間に突撃をかける。

 警備隊が正面、盗賊に向かって剣を突き出す。

 そして親衛隊、俺とルイーザが死人部隊(しびとぶたい)に向かって刃を向ける。

「国民を弄ばないでっ!!!!」

 ルイーザの放ったドラゴンフレアが死人部隊(しびとぶたい)の先鋒を焼く。運よくその被害を逃れた死人の頭を俺と親衛隊が撥ねていく。

 幸いにして死人の動きはのろく、ブリューナクの治癒の効果が死人には効果的なのか、あるいは魔族の魔力を中和しているからか、大きな苦労は無い。

 しかしそれも1対1であればという話。

「数が多いっ!」

 そして減らない。首を撥ねたとしても動きが止まるのはものの数分。どうやっているのかはわからないが、撥ねた首がひとりでに動き元の身体に戻ると再び動き出している。

 結局無力化しているのはルイーザのドラゴンフレアで完全に焼却された死人のみ。

「ルイズ、擬態を解けないかっ!?」

「こんな混戦状態で本来の姿に戻ったら、味方も踏み潰してしまいますわっ!!」

 竜の力は絶大だ。その炎は敵味方問わず焼き尽くすだろう。死人だけを狙えればいいが、生きている人間まで殺してしまっては意味が無い。

 竜と人の対立が深まるだけ。

 それでは今までと何も変わらない。それはルイーザにとって意味が無い。

 悩んでいる間にも敵は迫る。

 完全に劣勢だ。俺達本隊が前に出てしまったがために、敵の両翼に後ろに回りこまれ包囲されている。

「つまらないね~。こんなものかい竜人様の力ってのは」

 さも退屈だと言わんばかりの魔族の声が聞こえる。この状態でなぜ奴の声がはっきり聞こえるのかと一瞬思ったが、気を散らしている余裕も無い。

「ガアアアアアッ!!!」

「なっん?」

 突如死人の向こう側から黒い影が飛び込んできた。

「人間じゃないのまで居るのかっ!?」

 形状として犬だろう。だが大きい。俺のブリューナクに噛み付いたまま首を振り回し、強引にもぎ取ろうとしてくる。

「ハルトくんに何するんですのっ!!!」

 それに気がついたルイーザがドラゴンフレアを放って、ゾンビ犬の横っ腹に穴を空ける。しかし生来の運動神経ゆえだろう。生臭い体液を撒き散らしながらも直撃は回避。完全焼却を免れ、再び死人の向こう側へ。

 直後にバキ、ボキ、グシャリという硬いものを砕く音と、粘着音が聞こえて死人部隊(しびとぶたい)の後方の一角が崩れた。

「おい……アレ……」

「食べてますわ……多分」

 焼かれた肉体の補填か、失った魔力の補充か。多分後者だろう。前者であれば生きている人間の方を狙うはずだ。

「きゃああっ!!」

「援護をっ!援護をーっ!!」

「どうしたっ!?」

 後方から悲鳴が上がった。

「右翼、崩れます」

 ロジータの無機質な声が聞こえた。人間の相手をしていた城の防衛隊が崩されて陣形が大きく歪む。

「……っ!……アニェーゼ、頼みますっ!」

「はっ!」

 ルイーザが苦肉の表情で命じる。下手に動かせば正面が手薄になるし、そもそも向かうアニェーゼが無事ですむとは思えない。

 それでもこのまま突き崩されるわけにはいかない。このまま押し込まれれば全滅する。

「ごめんなさい……」

「ルイズは間違ってねえよ。あれでいい。それでも申し訳ないと思うんなら、正面は絶対守るんだ」

「はいっ!」

 気合を入れたもののアニェーゼが抜けたのは苦しい。普通の死人だけなら問題ない。

「ガアアアアアッ!」

「来たっ!」

 再びゾンビ犬が飛びかかる。

「同じ軌道でくらうかよっ!?」

 俺に向かってきたゾンビ犬は途中で失速。いや直接俺に向かわず、一度地面に降り立つ。

「っ!?まずっ……」

 視線の先に居るのは……。

「ルイズっ!!」

「え?」

 俺が抑えている間にドラゴンフレアを放とうとしたのだろう。仁王立ちで息を吸おうとしたまま固まっている。

「ガアアアアッ!!」

「きゃっ!」

「きゃっ、んぐっ、あああああああああああああああっ!?」

 バキ、ボキ、メキ、グシャリ、ブジュジュジュジュ……。

 骨が折れて、皮が破けて引きちぎられて、血が噴出す音がした。

「こんのっ!!」

 ゾンビ犬の背後から首を落とす。復活しないよう脳天を割り、さらに十文字に切り裂く。

「ルイズッ!!」

「あ、ああ……」

 腰を抜かして座り込みつつもルイーザは無事だった。代わりにルイーザの膝の上で、右腕から先を引き千切られて呻いていたのは。

「ロジータッ!?」

「ご、無事…ですか。姫様……」

 警備隊が状況を察して俺達の正面、死人部隊(しびとぶたい)との間に回る。

「すいません、わたくしが……」

「わたしたちの姫様を、こんな……腐った連中に傷つけさせるわけには……いきません」

 腕を失っても気丈に振る舞い、いつもの悪態は消さず。涙は滲んでも、嗚咽は漏らさず。泣き言など言わず。

 そんな英雄に俺は近づいた。

「何て……顔を。レーゲンハルト様……はぁ、はぁ、姫様を……守って。絶対に……」

 俺が頷くのを確認したロジータは、これ以上痛みを我慢できないとルイーザの膝に顔をうずめる。

「ああ、わたしは……幸せ。大好きな……姫様を、守って……その 温もりを……感じて死ねる」

 見れば引き千切られたロジータの腕が黒く変色している。魔力の侵食?あるいは何かの毒か。

 その黒い呪いは腕を這い、胸に至り、首元まで上っていく。

「くう……。もう、意識が……」

 俺は最後の時を迎えそうなロジータ目掛けて、これ以上苦しませまいとブリューナクを振り下ろした。

 割と強めに。


 ドゴッ


「いったあああぁぁぁぁっ!?」

 殴られたロジータが痛みに耐えかねてルイーザの膝の上から転げ落ちた。両手で頭を押さえて転げまわる。

(一応ここ戦場なんだけど)

 壁になってくれている警備隊の皆さんに申し訳ないと視線を送る。

 俺が視線をはずした隙に起き上がったロジータが俺の首を両手で掴んでがくがくと揺さぶった。

「レーゲンハルト様ぁぁぁぁ……あれ?腕、治ってる?」

「けほっ、けほっ、ったく」

 ルイーザがこうなると思ってました、と言いたげな顔で見上げてきた。いや意地悪なんだから、かな。

「ロジータは知らなかったけ?ブリューナクの能力。魔力をそそぎこんだ存在の能力の一部を強化する。今はエルの魔力が入っているから治癒の力があるんだ」

「はあ……」

 ロジータは不思議そうな顔でブリューナクと己の腕を見ている。

「身体の一部を再生しようとするとかなりの魔力がいるから強めに叩いたんだよ。見ろこれ、もうゲージが4分の1しかねえ」

 死人との戦闘でも少しずつ消費しているし、城に到達するまでの間にも治療で使ってるから今回のことだけで消費したわけじゃないが、それでも半分弱くらいは一度になくなった。

「それって、エルフリーデ様が帰ってきたら、我々は無敵ってこと?」

「ところが本人は治癒魔法が下手でさ。いつも魔力を暴走させて爆発させんだよ」

「はあ……」

 ロジータが分かったんだが分かってないのか、元の無表情な顔に戻って剣を振り出した。

「動作に問題は無いな?」

「ん」

 ロジータの首肯を確認した俺達は正面に向き直る。ルイーザも助け起こして仕切りなおしだ。

「警備隊の皆さんありがとうございます。正面は再びわたくしたちが担いますのでっ!!」

 ルイーザの声で再び正面が空く。

 開けた視界の先には。

「なっ……」

「まだいるのですか」

「厄介……」

 さきほどのゾンビ犬が3体。

 復活したのかとも思ったが先ほど倒した1体はまだそこに転がっている。

「っく、くふふ、あははははははは。い~ねえ、その表情。希望が絶望に変わる瞬間、もう最高だよ。無事そこの娘を復活させたみたいだけど、さすがに3体同時に相手するのは不可能じゃないのかな」

 魔族の哄笑が響き渡る。

「んっ、左翼が崩れます」

 さらにロジータの呟きが絶望を加速させる。何とか持ちこたえていた左翼が押し切られようとしている。アニェーゼの活躍で右翼は持ち直し始めたとはいえ、まだ離れられる状況じゃない。

「ロジータ、行ってください」

「お断りします」

「なっ、え?」

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。ルイーザが驚いた表情でロジータを見る。

「先ほどとは状況が変わりました。ここでわたしが離れれば姫様がお亡くなりになる可能性は極めて高い」

「ですがっ!」

「レーゲンハルト様。聞くけど、一人で守れる?」

「無理だな。そのつもりではいるけど」

「んっ。確証が得られない以上、離れるわけには参りません。私どもはルイーザ第一王女親衛隊。王女の生命を守ることが最優先事項です」

「ですが、このままでは……」

 確かにこのまま放っておけば前線の背後を取られる。陣形を分断されれば各個撃破に持ち込まれて終わりだろう。数ではあちらの方が圧倒的に多い。

「グアアアアアアッ」

「くうっ」

 そしてゾンビ犬もいつまでも待っていない。ついに痺れを切らして飛び掛ってきた。幸い俺、ルイーザ、ロジータの3人で応戦できているが、その背後には無数の死人。

「きゃあああっ!」

「持ちこたえろっ!!」

「行けーーーっ!!」

 後方は崩壊寸前。このままでは。

「ふふふっ……」

 魔族が笑みを浮かべて見下す戦場で。

「くっそ……」


ぞわんっ


「っ!」

 最初に気がついたのはルイーザか、あるいはロジータか。

 いやここに存在する魔力を感知できる全ての者が認識する。

「もう、手加減無しですわっ!!」

 今まで抑えるのに精一杯だったゾンピ犬を中空へ放り上げるとドラゴンフレアを直撃させて焼き払う。

 さらに翼を広げ地上を滑るように移動すると俺が相手していたゾンビ犬を焼き払う。

「ロジータッ!」

「平気、もう終わった」

 彼女の背後ではゾンビ犬が炎に巻かれ今まさに灰に変わっていくところだった。

 竜血による魔力侵奪が止まった。

「総員、翼を広げ空へ飛翔っ!上空で隊を組み直しますっ!!続けっ!!」

 アニェーゼの号令で全ての竜人が翼を広げ空へ舞い上がる。それは鳥が一斉に飛び立つように美しく、それ以上に力強く希望に満ちていて、地上から見上げる俺にはまるで……。

「……あれ?全員に飛び上がられたら」

 俺は見事に地上に取り残されていた。

「え、ちょっ、ハルトくん!?」

 事態に気付いたルイーザが上空で慌てた声を上げる。

「あ……」

 ロジータが忘れてた、とでもいいたげな仕草で見下ろした後、なぜかサムズアップ。

「どういう意味だっ!?一人で受け持てってのかこの数をっ!?」

 先ほどまでの戦闘で減っているとはいえ、未だ敵勢は2000をくだらない。

「ちょちょちょちょっと、ロジータっ!?」

 ルイーザが怒ってるんだか泣いてるんだかよくわからない顔でロジータに掴みかかっている。どうでもいいから降りてきてくれないだろうか。

「大丈夫ですよ。ルイーザ様。レーゲンハルト様は言っていました。1人でもルイーザ様を守るつもりでいると。彼なら一騎当千の戦いをしてくれるはずです」

 アイツ絶対俺なら大丈夫とか言っているよ。降りるのが面倒くさいだけなのに。

 降参したら止まってくれるだろうか、と正面を……もうどっちが正面か分からんな。少なくとも死人部隊(しびとぶたい)は止まってくれないだろう。

「ふう……、結局一人じゃ何にもできないのは俺も同じだな……」

 俺はあきらめたようにブリューナクを降ろし、右手を上に上げる。

「だけど、だからこそ俺は。俺達は一緒に歩いていけるんだ。いや、絶対に一緒に歩いてやるよ。そうだろ、エルフリーデ」

「ハルくーーーーんっ!!!」

 城の尖塔、一際高く中央に位置する当の影から現れた白い影が急速に戦場に近づく。

 自分の正面に魔力障壁を展開したエルがさながら砲弾のごとく盗賊部隊の後方に着弾。盗賊たちをを吹き飛ばしながら戦陣を突破すると俺の手を掴み一度空中に放り上げる。

「おわっ!!」

「ハルくん、ハルくん、ハルくんっ!!」

 回転する俺の正面に抱きついて胸に顔を押し付ける。

「おおエル、良くやったなっ!!」

「うん、あたし頑張ったよっ!!えへへ~~」

 軽く撫でてやると直に俺の背後に回り、腰に手をまわして翼を広げた。さすがに滞空し続けることはできないので闘技場の端まで運んでくれる。

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