魔界の爪痕
「えっと……ありがとう」
「んふふ~。いえいえ」
ルイーザは母親のような包容力のある笑顔で頷いた。
「なんていうか……ルイズも女なんだな」
「ようやく気が付きました?少しはレディとして扱って頂けます?」
普段はビクビクしている癖に、生意気なことを言い出したので素直に答えてやる気が無くなった。
「それはねえ」
「がーん」
ルイーザは待ったく感情のこもっていない声で言う。見透かされているようで居心地が悪い。
「……まあ、それはそれとして。ハルトくんがエルちゃんの事を好きなのはわかりましたが、わたくしだって負けませんわよ」
「何だ、お前もエルが好きなのか?」
「違いますわよっ!……いや違いませんけど。それは女性としてではなく友達として……」
「わかってるよ。ま、とにかくありがとう。この国に来て、ルイズに会えて良かったよ」
「い、いいえ、こちらこそ……(むしろ今も助けてもらってますし、これくらい……といいますか、今にして思えばかなりはしたない……)」
「ん?」
怒っているのか照れているのか微妙な表情のルイーザが俺を見つめていたが、すぐに何か満足したような顔になって見下ろしてくる。
「何でもありませんわ」
ルイーザはくすりと小さく笑って膝から降りた。俺の手をとって立ち上がらせる。
「行きましょう。エルちゃんが待ってますわ」
「ああ」
牢屋から出た俺たちは侵入してきた方向とは逆の突き当たりに向かった。そこにも扉があったが鍵はついていなかった。
「不用心な……」
慎重に扉を開けた先はまた通路。分岐はなく左側に向かって続き、5メートルほどで階段になっている。
「やっぱりここ、変ですわよね」
「ルイズも感じてたか」
「ええ、ここお風呂ないんですのよっ!」
「そこかよっ!」
「お風呂入りたいですのっ!お風呂~っ!せめて水浴び~っ!!」
「一応ここ敵地なんだけど……」
戦闘要員は見当たらなし、戦場特有のピリピリした緊張感も感じない。ちょっと騒ぎすぎな気もするが、多少敵にも動いてもらわないとエルやマリアを探しようがない。
「はいはい、俺は気にしてないから我慢しろ~」
「汗臭いって言ったじゃありませんのっ!」
「……じゃあルイズの汗の臭い好きとか言おうか?」
「それはそれで嫌ですの」
恨めしそうに腕に絡みついてるルイーザをあやしながら階段下を窺う。
少し人の気配を感じた。
身振りでルイーザに待っているように告げて一人で降りる。
「っ!……っ!っ!」
ザッジャッザッザッ
フュッ……ヒュッ……トゥッ………ヒュッ
人の声、何かが削れる音と風切音。
注意しながら通路を覗く。構造は上の階と同じく、真っすぐ伸びる通路と3枚の扉。一番奥の扉が半分開いており、そこから一番大きな物音と人の声が聞こえている。
残りの扉からも物音が聞こえるが、とりあえず中が窺えそうな奥の扉に向かうことにする。
また見つかって捕えられても厄介なので、上に残したルイーザも呼ぶ。二人で前後を警戒しながら半開きの扉に近づいた。
そこに見慣れた背中があった。
(何やってんだエルのやつ)
エルが1人、部屋の中でアップテンポの曲に合わせて足を振り上げている。やはりルイーザと同じ黒いインナーを着て。
これがここの囚人服なのだろうか。
「ふっ!んっ!!」
「いいぞっ!!あと少しだっ!体力の限りを出しつくせっ!!」
エルのほうに注目していたので気がつかなかったが、右手……入口に近い場所に人間が立っていた。
そう、人間だ。尻尾も角も見当たらない。
むしろ気になるのはその肉体。
「(筋肉すっげー……)」
「(怖いでしょう?怖いでしょう?)」
しばらく見ているうちに曲が終わった。へたり込むエルに駆け寄りたくなったが、今入ったら見つかって戦闘状態になる。
一人だけなら問題ないが仲間を呼ばれると厄介だ。どう考えたって向こうに地の利がある。
「よく最後まで頑張ったっ!このタオルで体を拭いたら、そこの穴に入れておけ」
「んー……」
億劫そうに体を拭いたエルが部屋の奥のほうに向かっていく。
「お菓子は好きなだけ食べていいぞっ!!」
「お~、うん。ありがとう」
毎度のことながら簡単に餌付けされている。
(っ!出てきますわよ)
ルイーザと共に一度階段まで引き上げる。しばらくすると男が通路に出てくる音がして、すぐに足跡が遠ざかって行った。
こちらに来る可能性もあったのだが、ルイーザが落ち着いているのを見てあちらが人間たちの待機場所なんだろう、と勝手に納得する。
「……捕虜置いて行っちゃったんだけど?」
「鍵も……空いてますわね」
扉に近づいてノブを回すと抵抗もなく回る。俺たちは音を立てないように部屋に滑り込んで元通りドアを閉めた。
「なんか室温高くないか?」
「ここはどこもこんな感じですのよ」
他に人間が居ないか部屋の中を見回したが、殺風景な部屋には誰も居なかった。エルの姿を求めて部屋の奥へ進む。
「んぐっ……んぐっ……、ぷはっ……」
カーテンで仕切られた場所はテーブルと椅子が設置されており、そこには山盛りのお菓子とジュース類が置いてある。
「何してんだお前は……」
「んっ!?ハルくんだっ!!ハルくーん!」
白銀の尻尾に声をかけたらほぼノータイムで飛びついてきた。
「……汗臭い、むごっ!?」
「あひゃはっ、くすぐったいよぉっ、ハルくんっ!」
ルイーザにやったように手を伸ばして抑えようとしたら、くるりと縦に回転したエルが腹から俺の顔面に張り付いた。俺が咽て吐き出した息が腹を撫でたのがくすぐったいようで、頭に張り付いたまま笑っている。
「だーっ!もう離れろっ!!」
「おほほほおぉっ!」
俺の吐き出した息で大爆笑するエルの身体を回して肩に載せる。
「あはははははっ!!」
「とにかく元気そうで何より。楽しそうだな、エル」
「うん、ハルくんと居るととっても楽しいよ」
「ああ、俺もだ」
エルを下ろして身体を確認する。特に目立った傷は見当たらない。
「大丈夫そうだな。……じゃあマリアを探しに行くぞ」
「はい」
「うん」
「2人とも見かけてはいないんだよな?行ってない場所とかあるか?」
「やっぱりさっきの人間が向かった方向、ですわよね?」
「うん、ここと上の階しか入ってないと思う」
「じゃあとにかく下に向かうしかないか……」
「そこまでだよ、侵入者くん?」
「誰だっ!?」
ブリューナクを構えて、エルとルイーザを背中に庇う。
入り口から入ってきたのは白衣を纏った男だった。レンズの狭い眼鏡をかけ、白髪が混じり始めた髪をオールバックにしている。それだけだと神経質そうだが、顔には人の良さそうな笑顔が張り付いている。
「誰だ……ですか。侵入する施設のことぐらい把握しておくべきですよ。……私は……」
「所長、一人で入られては危ないです」
「興味があるのはわかりますが、侵入者の排除は我々に任せて……」
ぞろぞろと扉から人間が入ってきた。全ての人間が白衣を纏っている。背格好はまちまちで子供かと言いたくなるくらい背の低い者から、先ほどエルと一緒にこの部屋に居た大柄なマッチョ――180㎝くらいだろうか――まで。
全部で8名。
「てめえらか、エルとルイズを攫ったのはっ!?」
「はい?攫った?……いいえ」
所長とか呼ばれた男が心外だ、というように首を傾げる。
「ふざけんなっ!実際にエルは俺の目の前で攫われて、ここに居るんだぞっ!!」
「はて?彼女らは奴隷でしょう?我々は対価として彼女たちを差し出されただけですが?」
話が噛み合わない。
認識がズレている。
「あ、あのっ!ここにマリアは居りませんか?」
話が進まないことに焦ったルイーザが横から声をかける。
「『マリア』?」
「あ、あの、わたくしと同じバーカンディで、背がこのくらいでっ……」
がんばって説明しようとしているが、焦ってぴょんぴょん跳ねてしまっているので、どのくらいの背か伝わっていない。
「すいませんっ、ちょっと、通して……、姫様?」
人間の間をかき分けて出てきた女性は……。
「マリアッ!マリアーーッ!!」
見覚えのある女性にルイーザが駆け寄って抱き着いた。
「知り合いですか?」
「ええ、まあ」
所長がマリア……さんかな。彼女に親しげに問いかける。
「てめえっ!!」
「おっと……」
「その人まで居るってことは確定じゃねえかっ!」
攫われた全員がここに居た。てことはやはりこいつらが攫った張本人だろう。
「ハルくん、ちょっと……」
エルが背中に張り付いて肩まで登ってきた。何か言いたいことがあるようだが後にしてほしい。
「エルは黙ってろ。マリアはもう見つけたんだ。さっさと気絶させて……」
「もう、ハルくんっ。んちゅっ」
「むぐっ!?」
突然二の腕にしがみついたと思ったら、そのまま顔に手を回してきてキスされた。おまけにどこで覚えたのか舌まで入れてくる。
「むごぉっ?」
唾液と一緒になんかざらざらして甘ったるいものが流れ込んできて、思いっきり咽た拍子に倒れ込んだ。
「な、何だ?このざらざらしたの?」
「あー、さっきのお菓子かも……」
エルがさすがに恥ずかしかったのか頬を染めて呟いた。いやエルだし、単にキスで興奮しているだけかもしれない。
「なんかいろいろ台無しだ」
ようやくエルと共に生きる覚悟をした後、初のキスだったのに。
「仲良いですね~。我々もしますか?」
「「「「「えっ!!?」」」」」
所長が自分の仲間に視線を送りながらぽつりと呟く。シェー、みたいなポーズで一気に壁際まで距離を取る白衣の男たち。
……シェーってなんだ?
「冗談ですよ」
「「「「「ほっ」」」」」
ノリいいな、コイツら。
なんか冷静に考えると悪人には見えない。マッチョの男はともかく他の人間は俺を長時間追いかけたり、エルやルイーザを攫ったりといった荒事ができそうには見えない。どう見てもインドア派だ。
「さて、侵入者くんも落ち着いたようなので情報交換といきましょうか?」
「ああ……、悪かった」
「いえいえ。ではまず……、そちらの御嬢さん方は奴隷ではない、ということでよろしいですか?」
「ああ。ルイズなんかはバーカンディ家の第一王女だぞ」
「おや……。それは大変失礼いたしました。姫殿下」
所長が頭を下げるとルイーザがやたらと嬉しそうな顔をした。そういえば姫様扱いしてあげていなかった気がする。
「まずは質問だ。竜人を誘拐して人身売買する苦労と等価……あるいはそれ以上のモノをお前らは持ってるんだよな。……それはいったいなんだ?」
莫大な金なんてそれこそ盗むだけでいい。誘拐となると攫う時に騒がれたり、攫った後も逃亡に気を付けたりと面倒事が多い。
「これです」
所長が手に掲げたのはガラス製の小瓶。中には薄ピンク色の砂が入っている。
「何だそれ?」
「ここより東……マグナ・サレンティーナの国境付近に広がっている大渓谷をご存知ですか?」
「えっと……」
記憶を探ったがこれといって思いあたる節がない。
「姉様が討伐に向かった場所ですの」
そういえば昨日の昼間そんなことを言って、マリアに首を絞められていた気がする。後半の方が印象的過ぎて忘れていた。
「その大渓谷に繁殖している竜血草から精製したのがこの粉末です。我々はとりあえず『竜血』と呼んでいます」
「『竜血草』?」
「ええ、元は魔界の植物かもしれないのですが、その赤い樹液が魔力を奪うという事に気が付きましてね」
「魔界の植物……」
可能性はゼロではないだろう。この世界は一時的にその大部分を魔界側に制圧されている。魔族も数体残ったという事だから、魔界の植物がしぶとく残り繁殖したとしてもおかしくはない。
それよりも問題なのは魔力侵奪能力を持つアイテムが横流しされている事。
「じゃあ、昨日の夜の現象は、お前らが原因か」
「昨日?」
「ええ、軽食屋でよろしかったですか?……その周辺だけのようでしたが、お店にいらしていた方には気絶される者もおりまして……」
「その後、ゆーかいされたんだよ?」
俺の後をルイーザとエルが続けた。
ついでにだいたいの流れを俺が説明する。
「何に使うのかと思っていましたが……。妙ですね」
「だよな」
「どーいうこと(ですの)?」
エルとルイーザが同じように首を傾げた。それを見たマリアさんが母親のように微笑む。
気持ちはよくわかります。
「本末転倒というか……」
「『竜血』を得るために『竜血』を使って竜人を捉える。そして捉えた竜人は次の『竜血』を仕入れるために差し出す。それだと彼らには何も残らないでしょう?」
「あ~、そういう事ですの」
「?」
ルイーザはわかったようだが、エルにはわからなかったようだ。
「つまりエルを攫った奴の目的は竜血を得る事ではなく、もちろん竜人を捉える事でもないってことだよ」
まだよくわからなそうな顔をしていたのでとりあえず頭を撫でておく。
「そういえばマリアはなぜ逃げなかったんですの?」
確かに。
彼女からエルやルイーザような汗臭さは感じない。エルたちのように強制労働させられていたわけではなさそうだ。さっき人間たちを掻き分けてきたことからも、行動を制限されていなかったことが分かる。
「はい。『竜血』の存在が我々竜人にとって脅威になるのは早々にわかりましたし、逆に我が国の戦力になり得るとも思いまして。勝手ながら」
攫われた立場にも関わらず、内偵に切り替えるとは、どんだけ有能なんだこの人。
「わかったんですの?精製方法とか……」
「いえ、まったく」
「フフフ。我々の貴重な収入源ですからね。最重要機密です」
簡単にはわかりませんよ、と所長が笑う。
「内偵されていると分かって、よく自由に歩かせてるな」
つくづくのんきな連中だ。
「彼女の入れる紅茶、美味しいんですよ。頭が冴えわたります」
所長の言葉に後ろの人間たちもその味や香りを思い出すように頷いている。
……このマッチョに味の違いとかわかるのだろうか。俺もわからんが。
「当然ですの」
「なんでルイズが誇らしげなんだ」
話を進めよう。
「そういやお前らの目的はなんだ?竜人の労働力を利用していたっていうには、無駄が多い気がするんだが」
この施設は竜血の影響で竜人たちは全力を出せない。
実際に見たのはエルがさせられている事だけだが、何をさせられているのかもわからなかった。
「労働力?いえいえそんなもの必要ありませんよ。……コレの材料がほしいだけですから」
所長が改めてガラスの瓶を出してきた。ただし今回は赤くない。やや黄色がかった液体が入っている。
「何だこりゃ?」
なんとなく手の甲につけてにおいを嗅いでみる。
「よくわかりましたね。香水なんですよ、ソレ」
「そうなのか」
改めて嗅いでみればいい匂い……だと思う。なんかどっかで嗅いだ事あるにおいのような気がするんだが。俺の肩に腹を預けたまま上半身を伸ばしたエルも匂いを嗅いで、くるりと後ろを振り返る。
「ちなみに姫様の汗が入ってます」
「なっ!?」
ルイーザがすんごく嫌そうな顔をした。一方でエルは最初に嗅いだ時から気付いていたのだろう。あ~やっぱり、という顔をしている。
「ふ~ん」
「ちょっとっ!なんでもう一回嗅ぐんですのッ!」
ルイーザが結構な勢いで俺の手を持ち上げた。
「いやなんとなく」
「マリアまでっ!」
「これは失礼いたしました」
ルイーザの背後に接近していたマリアさんが持ち上げられた俺の手に鼻を寄せていた。ルイーザが慌てて俺の手を懐に抱え込んで、胸のあたりの服でぐしぐしと拭っている。
(服にもルイズの汗がしみ込んでいるから、むしろ塗り広げているだけなんだけど)
おまけにおっぱいにがんがん当たっているんだが。マリアさんと目が合ったら意味深な生温かい笑顔を向けられた。
「つまり運動させて汗を出させるのが目的だから、わざと魔力を制限していた、と?」
重りをつけてトレーニングするようなものだろうか。
「いいえ。少し前の事故でこの施設の配管に『竜血』が流れてしまいまして、丁度いいのでそのままにしてあるだけですよ」
ちなみに魔力を侵奪する力があるのはその時に気が付きました、と所長は続ける。
「こういうのって売れるものなのか?」
一応竜人はこの世界の支配階層だ。彼らに知られればあっという間に撲滅されそうだが。
「裏ルートはいくらでもありますし、強い竜人のモノだからこそ欲しがる好事家はたくさんいます。それにいい匂いでしょう?」
「ああ、それは認める」
「同じく」
「だから、なんでマリアまでっ!!」
ルイーザの顔は真っ赤だが口元は緩んでいた。
「今後は動物避けとして冒険者向けの開発も考えています」
「なるほど……」
繰り返すが竜人はこの世界の支配階層。それも魔力と腕力に支えられた武力支配だ。
当然強い。
その匂いを漂わせておけば近づいてこなくなる可能性は高いだろう。
……あれ?エルと一緒に居るとむしろトラブルに巻き込まれるんだけど?
「あー、ちなみにそちらのお嬢さんの分もこちらに」
パリーン
ほとんど条件反射でブリューナクを振り抜いた俺は、所長の指でつままれたガラス瓶をたたき割った。
「おや?」
「よーし、そのまま動くな。次はてめえだ」
所長の顔にブリューナクをつきつける。
「ハルトくん、わたくしの時と反応違いすぎませんかっ!?」
「いってぇっ!」
ルイーザに思いっきり足を踏まれた。
「ハルトくんっ……」
「泣くなよ」
「だって、だってぇ……」
服の裾を掴んだルイーザは寂しそうな顔で涙を流す。それでも泣き崩れたりはせず、視線だけは外さずに俺の答えを待っている。
「悪かったよルイズ。でもエルを見てみろ。何が?って顔してるぞ。誰かが怒ってやらなきゃ、さ。……まだ子供だから」
背中に移動したエルが心配そうな顔でルイーザを見下ろしている。そしてやはり香水のほうは何とも思っていなかったようだ。床に零れた香水には目もくれない。
非常に危なっかしい。
「すいません……」
納得はできないが理解はした、というところか。俺の脇腹に顔をうずめて涙をこらえている。そんなルイーザの頭をぽんぽん、と撫でる。
「モテモテですね~侵入者くんは」
「やかましい。……レーゲンハルトだ」
「え?ああ、名前ですか。私は所長のままでいいですよ。仲間にもそう呼ばれていますし。……レーゲンハルトくん」
所長の笑みが深くなった。
なんか嫌だな。
「あーもういいや」
なんか話が進むたびに脱線している気がする。人が集まりすぎなんだよ。
「そもそも誘拐してきたのは――こいつらを奴隷としてここに売り込んだのは一体誰だ?」
「残念ですが詳細はわかりません。ただ最初にここに来た男は自分の事を『魔族』だと言っていましたね」
「『魔族』?それは魔族そのものではなく、悪魔的な男という意味か?」
「私たちもそういう捉え方をしています。この世界における魔族は遥か昔に討伐されているはずですから」
しかし懸念はある。
ひとつは魔獣。数十年単位ではあるが時折目撃されては被害を広げている。
そしてもうひとつは目の前にある。「竜血」の材料となった「竜血草」だ。
竜人、そして人間が認識していないだけで、侵攻された傷跡は確実にこの世界に残っている。討伐を免れて生き残っている可能性はゼロではない。
「魔族ってことは魔力を帯びてるってことだよな。ここ数日異常な魔力とかって感じたか?」
エル、ルイーザ、マリアさんへ視線を向けるが返ってくる答えは「No」だ。
エルはともかく王家側の二人は見回りをしていたようだし、彼女たちが何も感じなかったという事は今回の件に魔族が関わっている可能性は低いとみるべきだろうか。
「所長大変ですぅっ!街がっ!!」
突然一人の子供が転がり込んできた。




