幕間4 女王の従者たち
「――姫様。まもなく夜明けでございます」
初老の男がカーテンを引いて現れる。ヴィットーリアの執事オルダーニである。ベッドの横に設置されたティーセットに紅茶を注ぎ、未だベッドの潜ったままのヴィットーリアを起こそうと手を向ける。
「むっ!?」
違和感を感じて掛布団をまくり上げるとそこにヴィットーリアの姿はなかった。空の布団に手を当ててみたが既に冷たくなっている。
(抜け出してから相当の時間が経っている……。いつもより寝つきが良かったことに疑問を持つべきでしたな)
そのままくるりと身を翻してテントを出る。近くを歩いていた親衛隊の娘に、女王が親衛隊長を呼んでいる旨を告げてテントを振り返った。女王がテントの中に居ることを示す旗が暁の空を背景に翻っているのを確認した後、再び中へ。
「失礼します」
乱れたベッドを整え簡単にテントの解体準備をしているうちに親衛隊長がやってきた。人間の見た目で言えば30代半ばといったところか。実は既に200近いのだが竜人の感覚からすれば若手のホープという認識で間違いない。
「おや?オルダーニ殿、女王様はいずこに」
「うむ……」
ある意味でオルダーニとは幼馴染だ。共にヴィットーリアが生まれる前からサヴォイア家に仕えている。いつまで経っても見た目が変わらない彼女に少し嫉妬したりしているだが、それはまた別の話。
「女王様は既に発たれた。おそらく御独りで大渓谷を渡りヴァルシオンに向かっている」
「なっ!?いくら真祖とはいえ姫様御独りではっ!」
彼女も興奮すると昔の癖でヴィットーリアの事を姫と呼んでしまう癖がある。彼女の場合は天然の方。
「ああ、故に私は姫様を追う。君には部隊を任せたい」
「いや、しかしオルダーニ殿だけでは」
「この大渓谷に於いて満足に動けるのは人間である私だけだと思うが?」
「う……」
彼女も竜人であるためこの大渓谷に入ると力を発揮できなくなる。
「それに部隊を欠かすことなくカーメリ砦まで戻すのは姫様のご命令。少なくとも第二方面軍だけはそこまで連れて行かねばなりません」
「ぐ…いいだろう。姫様の事は任せる。我々親衛隊は第二方面軍を送り届けたのちヴァルシオンに向け最大速度で帰還する」
「ありがとう」
オルダーニはテントの端から愛用の武器を取り出すと腰に帯びて、テントを出た。
「達する!出発が早まったっ!!準備ができ次第の出発であるっ!女王様は既に御者に乗られているっ!皆迅速に……」
親衛隊長の声に反応して集まる視線の裏を通るように、オルダーニは部隊を離れ大渓谷へと向かった。
「女王陛下……っ!」




