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出発進行


「へぇー! いいわね、その『めにゅー』だっけ? あたしにも寄越しなさいよ!」

「無茶言うな」


 謁見の間を後にして、俺とガルストさん、そして四姉妹が正門前へ集合したときのこと。

 国王に「本当に信頼できる人以外に話してはなりませんよ」と言われたとおり、実にヤバい能力だったらしい。

 俺の能力を話したアリサの反応がこれだった。


「ほわ~、リュウ様はとてもお強い方だったんですね~」

「ふむ。リュウ殿とは是非とも一手死合いたいところだな」


 十六歳(詐欺)のシェリスさんとツバキさんは、かなり肯定的な意見だ。

 約一名からバトルジャンキーっぽい匂いがするのは気のせいだ。気のせいだろう。気のせいだと思いたい。

 彼女のギラギラとした獲物を狙うような目線から反射的に逃れると、今度は魔法少女と視線が合う。


「……卑怯者」

「いや、まぁ、すいません……」


 ベルンから発せられた極低温の一言に、思わず謝ってしまう俺。

 そりゃ、長年苦労して体得したスキルを、こちらは2クリック(選択+YES)で簡単習得できるわけだ。N○VAも真っ青な短期学習である。

 真面目に頑張った側だったら、俺もキレると思う。


「いいじゃない。強い戦力が確保できたってことなんだから、喜びましょ?」

「そうですよ~」

「……ん」


 アリサとシェリスさんの言葉を受けて、ベルンがしぶしぶ頷く。

 安全度が飛躍的に向上したということは本人も分かっているらしい。


「ま、そのスキルが本当に効果があるのか、いちおう確かめておかないとね。お母さんの話だと『魔力転換エレメンタル・コンバート』があるらしいから、展開お願いね? 無理でも避けなきゃ死ぬわよ」


 そう言って、アリサが掌をこちらに向ける。

 ちょっと待て。今、物騒なこと言ってなかったか?


『炎の精霊よ。眼前を蒼薔薇あおばらの業火へ沈めるべく、我が手に集え』


 アリサが何かを唱え始めると同時に、彼女の手に赤い光が集まっていく。

 それと同時に、俺の視界の端でウィンドウが立ち上がる。

 今はウィンドウ可視化設定をオフにしているので、アリサ達には見えていない。



----------------------------------------------------------------------------


PARTY:アリサ・セルヴィ・トランディアが【ブルーローズ・エクスプロージョン[+5]】の発動準備中


----------------------------------------------------------------------------


 

 俺がそのウィンドウを見ていると、今度は別のウィンドウが立ち上がる。

 便利だなーと思った次の瞬間、俺の表情が絶望に染まった。



===========================================

【ブルーローズ・エクスプロージョン(炎熱属性)】

RANK:D

前提スキル:中級炎熱魔法師、炎熱魔法威力2%上昇[+3]

威力:40

消費魔力:120(Active)

蒼い炎を生み出し、任意の場所で起爆させる。スキルポイントを1追加するごとに、同時に発動できるブルーローズ・エクスプロージョンの数が増加する。

===========================================


 

「ちょっ、アリサ! お前完全に殺す気じゃ!?」


 スキル説明を見る限り、どう考えてもダイナマイトか何かだよな!?

 アリサの手元、なんか「キイイイィィィン」って凄い音してるし! 赤く光ってるし!


「大丈夫よ。全てのスキルが使えるのなら、この程度の魔法なんて簡単に防ぎきれるわ。できなかったら骨も残らず死んじゃうけどね」


 にっこりと笑って死刑宣告をのたまうアリサ。

 数秒後、俺の視界を爆炎が包み込んだ。









「あ、あらあら~」

「姉上、一般人なら本当に骨も残らないような威力だぞ」

「……生きてる?」

「殿下、さすがに、その、やりすぎでは……」


 王城の出口付近で突如開いたクレーターは、直系5メートルほど。

 その淵で非難の目線を向けられているアリサは、大丈夫だと言わんばかりに大穴を一瞥する。

 

「心配ないわよ。もうそろそろ出てくるわ」

「その心配ないって自信がどこから出てくるのか、俺に小一時間ほど教えて欲しいもんだがな」


 土煙の中から這い出てきながら、俺はアリサを軽く睨む。

 立ち上がって確認してみたところ、問題なく無傷のようだ。


「大丈夫って信じてたもの。信頼するのも恋人の務めでしょ?」


 ウィンクしながら頬に人差し指を当てるアリサ。

 その信頼が外れてたら、地面にクレーター作るような一撃で俺の身体は木っ端微塵だったけどな。

 攻撃魔法を無効化するスキル『魔力転換エレメンタル・コンバート』を習得していなかったらと思うと、背筋に寒気が奔る。

 このスキル自体が相当なチートで、基本五属性の魔法なら全て無効化する上に、無効にされた魔法から一定割合を吸収して回復までできるらしい。

 しかも『アリア・エリプシス』の詠唱省略効果によって、スキル名を頭に思い浮かべただけでノータイム起動してくれる。

 こいつらを実装するゲームはそうそう無いだろう。


「それじゃあ、雑談はこのくらいにして。出立前の最終確認よ」

「はいなのですよ~」

「……ん」


 アリサがパンッと手を叩くと、姉妹達が彼女に向き直る。

 雑談で片付けるアリサも大概だが、妹も妹で何事も無かったかのように振舞う辺りマイペースにもほどがあるだろう。

 唯一ツバキさんだけが小声で「すまない、姉上は元々このような性格なのだ」と言ってくれた。常識人が少ないと苦労しそうですね。

 

「ハァ……」


 もう殺人未遂については気にしないことにしてさっさと話を進めるか。特に怪我も無かったんだし。

 服についた土煙の汚れを手で払い、アリサの話に耳を傾ける。


「正門の傍には、今回のたびに出るための特別な転移魔方陣が設置されているわ。魔法陣を起動すると、トランディア王国内のどこかの都市に転送されるのよ」


 その言葉で俺が視線を逸らすと、確かに正門の隣には数人が入れそうな魔方陣がある。

 虹色の光を発しているあたり、おそらくは国王が作った陣じゃないのかな。髪が虹色だったし。


「そこからは基本的に五人で行動するんだけど、あたし達の身分は一般市民と同じ。今までと同じような暮らしがしたかったら、何らかの方法でたんまり稼ぐしかないでしょうね」

「そうだな。武力貢献なら何とでもなるだろう」

 

 ツバキさんが、うむうむと頷く。

 他の皆も同意見らしい。

 

 一応、俺たちは身分がバレないよう、いかにも駆け出し冒険者といった服装をしている。

 国王の方から持っていくように言われたもので、俺とツバキさんは麻のシャツにズボン。その他は麻のシャツとスカートだ。

 そして、全員が衣服の上から革の鎧とリュックサックをつけていた。唯一ベルンだけは、魔法使いが着るような黒いローブも羽織っている。

 

 ちなみに、唯一剣技を使用するツバキさん以外は武器を持っていないし必要なかったりする。

 弓を使用するシェリスさんは召喚魔法で呼ぶらしい。便利だな魔法って。


「お母様から一人あたり金貨二枚ずつほど預かっていますけれど、それだけでは一週間と保たないでしょうね~」

「……ん」


 弓使いシェリスさんの発言に、ベルンが首肯する。

 金貨二枚って高いんだろうか?


「俺はこの世界の貨幣価値が分からないんだが……」

「あら、そういえばそうだったわね」


 俺の疑問を受けて、アリサが反応した。

 誰かに物を教えるのが好きなのか、得意げな顔をしている。


「金貨一枚が銀貨10枚、銀貨一枚が銅貨10枚ね。そこは覚えやすいでしょ?」

「ん、まぁな」


 金貨>銀貨>銅貨の順か。


「銅貨四枚で平民の夕食一回ぶん、銀貨三枚で安い宿屋一泊ね。これで大体分かった?」


 俺は顎に手を当てて考えてみる。

 400円で飯が食える、3000円で安い宿に泊まれる、か。そう考えれば、それぞれの貨幣価値が何となく見えてくるな。

 金貨が一万円、銀貨が千円、銅貨が百円といったところだろう。

 ちなみに金貨の上には白金貨、その上には虹金貨があるらしい。


「確かに分かりやすい。アリサはいい教師になれそうだな」

「えへへっ。それほどでもないわよ。ただ、あたし達も本で読んだり事前に教えられた程度の知識しかないから、鵜呑みにはしないでね」


 アリサは褒められて嬉しそうだ。

 くねくねするアリサを尻目に、手持ちの金を計算する。

 

(つまり、俺達の持ち金は一人当たり二万で、全員を合計しても10万。宿代を考えると精々数日ってところか)


 もちろん野宿をすれば宿代を浮かせることができるが、女性四人を引き連れた状態で野宿は可能な限り避けたいところだ。異世界でモンスターと魔法がある世界というものは、往々にして治安が悪いと相場が決まっている。

 それに、リュックの中には炊事道具が入っているものの、せっかくお膳立てして都市に転送してくれるのだ。自分達で金を稼ぐ手段を見つけろという国王のサインに違いない。

 欲を言えば、もうちょっと初期資金が欲しいとは思ったけどな。


「……できれば、迷宮都市がいい」

「ですね~。近隣に迷宮都市がある場所に転移されていたら、移動するのも手ですね~」


 また分からないワードが出てきやがったな。


「質問。迷宮って何だ?」

「うむ。迷宮とは、洞窟や地下坑道に魔力が溜まって生み出された空間のことでな。モンスターの巣窟になっているのだ」


 俺の質問に、ツバキさんが解説してくれる。


「その特異性ゆえ、そこで暮らすモンスターは魔力によって強化されている。己の武芸を磨くこともできるが、奴らから剥ぎ取ることのできる素材は迷宮外の同モンスターに比べて高い性能と希少性を持っているのだ」

「……ん。売れば、お金になる」


 つまり、バフが掛かったモンスターの集まる場所。

 それが迷宮って事か。

 経験値稼ぎによし、金稼ぎにもよし、と。


「いかにも。他にも、魔力溜まりが物質に宿った最高級マジックアイテムの『宝具ほうぐ』が見つかることもある。一攫千金を夢見る冒険者にとって、迷宮は切っても切り離せない存在と言えるだろう」


 なーるへそ。

 RPGのダンジョンと大差ないって事か。


「ありがとう、ツバキさん。それと悪かったな、アリサ。話を止めてしまって」

「気にしないでってば。分からない事を分からないままにするほうが危険よ」

「そうですよ~」


 そりゃそうか。

 命が掛かっている旅だもんな。


 その後も話し合いは数分ほど続き、いよいよ出発のときが来たようだ。

 ガルストさんは「王女殿下、そしてリュウ殿。御武運を」と言ってから立ち去った。

 まぁ、彼がついてきてしまうと、お忍びの意味が無いからな。


「それじゃあ、基本的なことは話したし、あとの細かいことは現地で決めていきましょうか」

「そうですね~」

「そうだな」

「……分かった」


 それぞれがリュックサックを背負いなおしたり、腰の剣を確かめたりと装備の確認を行う。

 全てが整ったところで、アリサの号令がかけられた。


「それじゃ、楽しんでいきましょー! 国の慣例だかなんだか知らないけど、初めての外出だもん! 絶対楽しくなるはずよ!」


 その言葉を皮切りに、俺たちは魔法陣の中へと飛び込んだ。

 



 魔法陣の中で振り返ると、薄れ行く城の窓から国王の姿が見える。

 彼女は口を動かすが、遠すぎて声は聞こえない。

 しかしその意思は間違いなく俺達に伝わっていた。


『いってらっしゃい』


 その言葉は、娘の旅立ちを祝う母親としての愛情に満ち溢れている気がした。



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魔力転換エレメンタル・コンバート (無属性)】

RANK:SS

前提スキル:ロード・オブ・マジック

消費魔力:1

持続時間:3s(Active or Passive)

魔術の深奥を開きし者のみが会得できる極技。自身に対する魔法効果を任意で無効化し、魔力に還元して吸収するフィールドを展開する。還元率は70%。還元できる属性は火炎・水氷・風刃・空撃・地墜。

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