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この世界での私。




「ねえ、キキョウも遊ぼうよ!楽しいからさ!ほらほら、こっちにきて!」



まるで小さな子供のように彼女は無邪気に笑った。私は本を捲る手を止め、机に手をつき前のめりになっている彼女にやれやれと大きなため息をつく。

彼女の華奢な肩が大きく上下に揺れているところから、私がいるこのテラスまで走ってきたのだろう。


「またあなた達ったら……。遊ぶのもいいけれど、そろそろテストに向けての勉強もしなさいよ?」


私がそう言うと、彼女はあからさまに嫌な顔をした。テストと勉強という言葉に反応したに違いない。だがしかし、それは本当のことだ。テストになるといつも泣きついてくるのは彼女なのだから。



「うー、それは分かってるよ!だけど、今を楽しまなくっちゃ!そうでしょ、キキョウ!」

そういってどこか誇らしげに私に目をやる彼女。もしかして、自分がいいことをいったと思っているのだろうか、いや、そうに違いない。私はさっきよりも大きなため息をつき、立ち上がる。

ガタッと不器用に音をならすイス。立ち上がるとわかるが、彼女より私の方が背が高い。



「少しだけよ。」

私のその言葉に彼女は、やったー!っと実に嬉しそうに飛び跳ねる。そんな彼女の姿を私はどこか冷めた目で見ていた。

彼女が飛び跳ねる度に、彼女の輝く金色の髪が宙を悪戯に舞う。

彼女が喜ぶと、小鳥が唄い、木々が優しく包み込むようにざわわと揺れた。


ーーこれが乙女ゲームのヒロイン。自然に愛され、人々に愛され、必ず幸せになると決められた、一人の少女。




「よしっ!そうとなったら、キキョウ行くわよ、みんなが待ってるわ!」

彼女はそう言って、私をおいて駆け出していった。その後ろ姿が小さくなる前に、と、私も駆け出す。



彼女のあの希望に満ち溢れたような金色に輝く瞳を思い出す。

髪と同じ色の瞳は強く、たくましく、そして優しさを帯びていた。ごく稀だと言われる光の魔力をもつ彼女。

そしてそんな彼女を裏切ることになる私。

きっと私は色んな人に恨まれることになるだろう。だがしかし、今こんなことを思ったところで何も変わることはない。



もう物語は始まっているのだ、と私は気を引き締めた。





ゲームの中での私は、強い復讐心をもち、学園に入学する。

世間一般的には、闇の魔力をもつ者が邪悪とされる世界で、私は炎の魔力。

よって、何も疑われることなどなく、自らが決めた標的、ゲームのヒロインと友達になることができた。元々警戒心が少ない彼女と友達になることは実に簡単だったのだ。


そして、このゲームにはいくつかの謎がある。一つは、何故私がそこまで復讐を望んでいるのか、だ。私の復讐心はとても強かったが、その理由がゲーム中で明かされることはなかった。よって様々な憶測がプレイヤーの間でとびかったらしい。

そして二つ目は、何故私は必ず同じ方法で死ぬのか、だ。どんな方法で死んでしまうのかは、私の記憶にはない。靄がかかっているわけでもないが、なぜかわからないのだ。

わかることは、私がこの世界のこと自体を酷く嫌っていたということぐらいだろうか。



まるで何かを塗りつぶしたような真っ黒な髪は、腰までのびており、それは怪しく艶めく。目は炎の魔力を持つ者であるため紅色、そして少しつり上がった大きな目は強い意志で溢れている。だがしかし、その強い意志とその妖艶な身体は、とても儚くみえ、今でも消えそうであるが消えない、そんな根拠のない確証でももてるような、そんな不思議さがある女。





それが私だそうだ。






私はいつかゲームと同じように彼女を裏切り、自らの目的を果たすことができるのだろうか。いや、無理だろう。

世界は彼女の味方であり、彼女は必ず幸せになる運命なのだから。






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