3話
少女を抱えたまま人型戦車に駆け寄る。
ハンガーに支えられる様に立つ姿は、人型と言うにはやや歪だった。
広い肩幅、逞しく短めの足、首が埋まった様な頭部。
異形である。
だがそのフォルムが戦場では敵の戦意を挫き、味方の士気を高めた。
見る限り異常は無い様なので、総一郎は少女を抱え上げるとコクピットに乗り込む。
少女を膝に乗せる様に座らせると、シートベルトで固定した。
二足歩行する人型戦車は激しく揺れる。
コクピットは入念な耐震構造になっているが、それでもかなりの揺れだった。
固定しないと大変な事になる。
人型戦車を起動させるとエンジンの振動と共にモニターが起動した。
『鉄人』
そう大きく表示された後、OSとサンプリングモーションのパターン、現在の装備が表示された。
「何だ、これ」
それを見て総一郎は呻いた。
鉄人は第4世代人型戦車の代表格で、人型戦車の傑作機である。
駆動系に油圧式のみを使っていた第3世代に比べ、画期的な技術だった人工筋肉を利用したマッスルシリンダーと油圧式を併用した。
その結果、小型化と運動性が向上し、陸戦兵器として実用レベルに達したのである。
だが、人型をしているからと言って、鉄人の動きは人間程は速く動けない。
理由は簡単で、身長6mになる巨人が人間と同じ動きをすれば巨大な慣性が発生し、機体や関節が保たないからだ。
その為リミッターが掛けられ、大型重機より速い程度のスピードしか出せない。
そうなると歩兵等に肉薄されると案外脆かった。
その弱点を補う為に、通常は随伴歩兵や小型多脚戦車を伴って運用される。
それでも何らかの理由で敵の接近を許す場合があり、それに備えて脚部ハードポイントには対人兵器を装備するのがセオリーだ。
だが、この鉄人には対人兵器がまるで無い。
脚部には3連ミサイルポッドが装備されている。
通常では考えられない装備だった。
まして今の総一郎に随伴歩兵が付く筈が無い。
これはかなり不利だった。
「やるしかない、か」
言い聞かせる様に呟くと、レバーを操作し両腕にハンガーからマシンガンを取らせる。同時に腰部サブアームを動かし、予備弾倉を掴ませる。
「行くぞ」
ペダルを踏み込み、鉄人を進ませる。
重い足音を響かせながら、鉄人が歩き出す。
出口を塞ぐシャッターに向き直ると、ミサイルポッドからミサイルを一発発射した。
ミサイルは見事シャッターに命中し、跡形も無く吹き飛ばす。
爆発と、それよって火災が発生する。
その炎の中を鉄人は前進する。
外に出ると、すぐに銃撃に晒された。
が、鉄人の装甲はその程度ではビクともしない。
逆に両腕のマシンガンの射撃で薙ぎ払う。
出出しは順調の様だ。
「このまま突破する」
総一郎は鉄人を前進させた。