2話
「おいっ!」
総一郎はよびかけるが、少女はピクリともしない。
「くそっ! 仕方ないか」
無線機を取り出し、本部を呼び出す。
作戦中は禁止されている行為だが、異常事態が発生してはそうも言っていられない。
「どうした?」
程なくしてノイズ混じりの声が応えた。
「緊急事態だ、稲葉先生」
「個人名を出すな、馬鹿者」
声が叱咤する。
「それどころじゃない。女の子が降ってきた」
一瞬の沈黙。
「どういう事だ?」
「だから、目標に接触したら女の子が降ってきたんだ。どうすればいい?」
再び沈黙。今回は少し長かった。
「目標から出てきたんだな?」
「そうだ」
「データの吸出しは終わったのか?」
「終わった」
「なるほど、そういう事か」
稲葉は苦々し気に呟いた。
「ならばその少女は捨て置け。直ちに脱出しろ」
「なっ! 見捨てるのかよっ!」
総一郎が怒鳴る。
「勘違いするな。その少女は大切な研究材料だ。ちゃんと保護されるよ」
対する稲葉は冷静だ。
「それに少女を連れたまま脱出出来るのか?」
総一郎は言葉に詰まった。
あの異常な警備の中を、意識の無い少女と共に突破するのは不可能だ。
「そうだ、あの熱烈な歓迎は何だ?」
「すまんな、どうやら踊らされたようだ」
あっさりと認めた稲葉に、総一郎は違和感を覚えた。
「あんたが、か?」
「そうだ。恨み言は帰還したら聞く。急いで脱出しろ。合流ポイントはわかってるな?」
「それは大丈夫だけど……」
「なら行け」
通信が唐突にきれた。
確かに時間は無いだろう。
総一郎は少女を見た。
静かに息をして眠っている。
だが、総一郎には何故か泣いている様に見えた。
「くそっ!」
見捨てるなど出来る筈が無かった。
椅子に掛かったままになっていた白衣を取ると、少女に着せた。
そして抱きかかえると出口に向けて走り出す。
指定されたルートだと通気口等2人では通れない場所がある。
ルートは自分で探さなければならない。
しかもあの警備が待っている。
「お先真っ暗だな」
総一郎は呟くが、その顔に絶望は無い。
むしろ何かを犠牲にしてまで生き延びるよりはマシだと考えていた。
研究室を飛び出し、廊下をひた走る。
どうせすぐに見付かる。ならセンサー等に構う余裕は無い。
ならば狙うは一つだけ。
頭に叩き込んである施設の地図を思い出し、その場所へ走る。
幸運が働いたのか、誰にも出会わずにその場所に着いた。
「あった……」
扉を開け、総一郎が見上げた先にそれはあった。
それは全長6mの巨人。
人型戦車である。