出会い
「あら?」
手を伸ばした先に辿り着いたのは…男の人の、手?
本に手を伸ばした気がしたのにどうして?
そう思って陰がさしている方を見上げると、頬を染め、詰襟をきっちりと着こなした彼が立っていた。
「あの…」
動かない彼にどうなさいました?と声をかけようとした瞬間
「す、すいませんっ この本どうぞ持って行ってくださいっ!」
そう言って残り一冊だった本を私に手渡して彼はがたごと色々な物に当たりながらお店を出ていった。
腕の中には出るのを楽しみにしていた恋愛小説。
少し不思議に思いながらも、譲って頂いたことに感謝しながら私はお会計を済ませた。
青い目をした人、初めて見ました。とても引き込まれそうな…。
出来ることならもう一度、お会いしたいです…
どうして私、こんなこと思うのかしら?
こんな感じは初めてです。
胸の辺りがこんなにも暖かいなんて
今、この感情に名前をつけるならどんな名前になるのかしら―?
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「はっ…はぁっ」
ガタッ!
小石に蹴躓き、土手に転がる。
右手には少し高い彼女の体温がまだ残っていた。
長い黒髪を高い位置で桜色の紐を使い一つに結っていて。大きな瞳はまだあどけなさを宿していた。けれど、裾や項から見える白い肌は大人の色香を纏っていて。なのにそれを下品と思わせないとても美しいお嬢様のような所作。
全てに目が奪われた。
あんなの反則だろ!
頭を抱え、瞼を閉じる。右手を口元に持っていく。
まるで彼女の体温がなくなるのを惜しむかのように。
「一目惚れ、なのか…?」
口に出して、彼はまた顔を赤く染めた。
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こうして小さく幕を開けたかすかな二人の恋路の物語。
数日後、新しく勤め始めた書生は見つけるのだ。
桜色の紐を使い髪を高く結っている彼女を。