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悪戯は怖い?前編

今回も長くなるため分けさせて頂きます。

エリーゼ・アルカナは、イラついていた。そのイライラに、彼女の専属侍女である水色の髪をした少女ーーサリー・マディはビクビクする。



「もう!なんなのよ!」



今も、いつエリーゼが座っているソファが飛んでくるかと、内心ひやひやしている。イラつくのは構わないが、それを物にあたるのは勘弁してもらいたい。しかも、エリーゼがあたるのは大きな家具ばかり。サリーは常に生命の危機を感じていた。


特にこの数日。命の危機に合う頻度が、飛躍的上昇した。それはサリーのせいではなく、ある人物のせいである。



「あの教育係!いつか絶対に追い出してやるわ!!」



エリーゼの言う教育係とは、先日エリーゼに付くことになった新しい教育係の女性だ。美しい外見とは裏腹に、王族のエリーゼにため口で話すわ、神経を坂撫でるような言い方をするわで、エリーゼの怒りのゲージを上げる人物なのだ。


その代わり、年上の使用人たちには敬語を使う。初対面のサリーにも敬語で話しかけてきた。助手を勤めているケイトにも、たまにため口にはなるが基本は敬語で話す。

それが、余計にエリーゼを怒らせる。



「なんで王族である私にはため口なのに、たかが使用人には敬語で話すのよ!!おかしいじゃない!!」



バンバンソファにあったクッションを叩きつける。まだクッションなら、当たっても死にはしないし。サリーは少しだけ緊張を解く。


が、



「おかしい?たかが使用人と言ってるあんたの方がおかしいと思うけど」


「きゃあぁぁぁぁ!?」



突然、サリーが先程思い浮かべていた人物が、エリーゼが座るソファの背もたれの後ろから現れた。急に後ろから現れた女性ーールナに、エリーゼは驚きの声をあげる。



「あ、ああああなた!何処から入って・・・!」



扉の前にはサリーがいる。誰かが入ってくればサリーがわかるものだが、当然誰も入ってきてなどいない。



「何処からって、そこから」



ルナは何でもないように窓を指差した。開いた窓からは、心地よい風が入ってきている。



「ま、窓って!地上からここまで十メートル以上あるのよ!?」


「そんなもん、飛べばいいじゃない」



サラッと言うルナ。

そういえば、彼女が魔術師だというのをエリーゼはすっかり忘れていた。ルナの言動に頭にきていて、そんなことはすでに頭から抜けていた。


そんな自分が悪いのにも関わらず、エリーゼの怒りは専属侍女であるサリーに向けられた。



「サリー!どうして窓のカギ閉めなかったのよっ!!」


「も、申し訳ございません!で、でも、確かに閉めたんですが・・・」


「大丈夫です、サリーさん。カギはちゃんと閉まってましたよ」



エリーゼはその言葉に、サリーからルナに視線を移した。



「はぁ!?じゃあどうやってカギを!?」


「んなもん、外からちょちょっと・・・」



人差し指をくるくる回しながら言うルナ。エリーゼはあんぐりと口を開けた。



「や、やってる事が泥棒と一緒じゃない!!」


「失敬ね、そこらの泥棒と一緒にしないでくれる?あのカギ、ロイス特製の魔法がかかってるからそう簡単に開けられないんだから。どうだ、すごいだろ」


「すごくないっ!!」



何故かドヤ顔のルナに、エリーゼの怒りは上がる。いつも通り顔をまっ赤にさせるエリーゼを、ルナは愉快そうに眺めている。


サリーからしたら、ルナは楽しんでるようにしか見えない。やめてもらいたい、こちらの胃が限界を越えてしまう。

サリーはため息をつきながら、胃がある辺りをさすった。



「あぁ、遊んでる場合じゃない」



ルナは懐から数枚の紙を取り出し、エリーゼの隣に立った。そして何やら書かれている紙を、エリーゼの前にある机に置く。



「ほら、楽しい楽しい勉強の時間だぞ」


「嫌!」



プイッと机から顔を反らすエリーゼに、ルナは鼻でため息をついた。



「たくっ、毎回毎回懲りないやつ」



その時、エリーゼはすぐさま立ち上がって、ルナから距離をとり戦闘態勢にはいった。



「今日こそ!縛られてなるものですか!!」


「と言いつつ、毎回縛られてるけどね」



ポンッと軽快な音を出して、ルナの手にロープが現れる。しかし、何かを考えた後にそのロープを消してしまった。



「あら?今日は諦めたのかしら?」


「いや、毎回同じだと芸がないから、今日はちょっとやり方を変える」



そう言って、ルナは俯いた。

なんだ?とエリーゼは首を傾げた。しばらくして、ルナは顔を上げるとエリーゼとサリーは驚いた。


ルナが泣いていたのだ


金の瞳から大量の涙が流れ落ち、床にシミを作っている。訳が分からず、呆然としているエリーゼに近付いて、ルナはエリーゼの右手を掴んだ。



「え、エリーゼ様、申し訳ありません。わ、私、どうかしてました」


「は、はぁ?」



なんとか正気を取り戻したエリーゼに、ルナは謝罪の言葉を述べる。



「王族であるエリーゼ様にあのような無礼な働き・・・私深く反省しました」


「な、なんなのよ、突然」


「たった今、私は目が覚めたのです。どうか、今までの無礼をお許し下さい」



頭を下げるルナに、エリーゼは更に呆然としたが、フンッと鼻をならすと胸をはった。



「やっと気付いたのね。まぁ私は寛大だから、許してあげるわ」


「さすがエリーゼ様、器が大きい」


「当然でしょ。オーホッホッホッホ」



典型的な高笑いをするエリーゼ。ルナはニコッと涙目で笑った。



「では、エリーゼ様。お詫びの印に私がお茶を入れさせて頂きます。どうぞこちらへ」


「あらそう?」



手を引かれるまま、エリーゼは再びソファに腰をおろした。


その時、ビチャッという音が聞こえた。



「・・・え?」



座った瞬間、お尻に違和感を感じて目を見開く。確認しようと腰を浮かせようとするけど、まるでくっついたかのように離れない。



「な、なに?どういう事?」


「特製の接着剤。アレンの部屋で見付けた」



答えた方を見れば、ルナがハンカチで涙を拭いていた。



「せ、接着剤!?」


「うん、超強力なやつで一度付いたら離れない」


「あなた・・・!」


「あ、でも、これがあれば離れるよ」



ルナは、手に持っている液体の入った小瓶を降る。

エリーゼが手を伸ばすが、当然届かない。



「寄越しなさい!!」


「勉強したらね?」



笑顔で言うルナ。エリーゼは、わなわなと震えた。サリーは完全にフリーズしている。



「あなた先程の謝罪は何だったの!?」


「え?あー、芝居に決まってんじゃない。だいたい、無礼なんか働いた覚えはないし」


「働いてるじゃない!今現在進行形で!!」



話ながらも必死に離れようともがくが、一向に離れる気配がない。ギロリッとルナを睨み付けるが、本人は気にすることなくニコニコしている。



「さて、勉強する?それともドレスを破いてでも離れる?」


「うー・・・」



結局、エリーゼはペンを握るのだった。









「あ・の・教・育・係・めー!!」



クッションをサンドバックのように殴るエリーゼに、サリーはオロオロとする。

クッションから羽毛が舞い上がって、部屋を散らかしていた。エリーゼも羽毛だらけだが、気にすることなく殴り続ける。



「私を!どれだけ!馬鹿に!すれば!気が!すむのよ!!」


「ひ、姫様落ち着いて下さい」


「五月蝿いわね!!私に意見する気!?」


「そんな滅相な・・・」


「ムキー!!」



ついに、エリーゼはビリッとクッションを引き裂いた。

気がすんだのか、エリーゼは肩で息をしながら体に付いた羽毛を手ではらう。



「お父様に交渉しても無駄だったし・・・」



エリーゼは一生懸命説得したが、父である国王は頑として首を縦に降らなかった。それがより、エリーゼを苛立たせる。



「きっとお父様に色仕掛けでもしたんだわ!そうに違いない!」


「姫様・・・流石にそれはちょっと」


「あなたは黙ってなさい!」


「は、はい!」



ギリッと爪を噛むと、エリーゼは腰に手をおく。



「こうなったら、何がなんでも追い出してやるわ」


「ど、どうやってですか?」


「決まってるでしょ?」



エリーゼはニヤリッと笑って見せた。



「精神的に追い詰めて・・・泣かせてやるわ」



アレン特製の接着剤はなんでもくっつきます。

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