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閏年計画  作者: 椎名円香
第一章 定数
7/60

計画

ご閲覧頂き誠にありがとうございます。

「ねぇねぇ、さっきのくろくてこわいのなんなの?」

 一つ目の質問の返答が終わってすぐ、藍華が早口で問いかけた。僕も気になっていたことだったが、聞かなくてもいずれ雨帝が話すことになるだろうとスルーしていた質問だ。しかし、先ほどの話を聞いた限りでは、そうもいかないらしい。この空間が僕と藍華のことのみで形成されているなら、あの黒い化け物も、僕らの何かであるのだろう。ともなれば、仕方ないとは言えない。自分で自分の身を滅ぼすようなことはしたくない。

「あぁ、アレですか……。申し訳ないのですが、アレについて語れることはほとんどないと思います。というのも、私自身この計画については必要最低限の情報しか与えられていないのです。ただ、アレがお二方の——心の闇の様なものであるとしか……申し訳ありません」

「いえ、いいんです。そういうのは、多分、当事者にしか分からないところだから」

 そう言って、僕は微笑んでみせた。雨帝がどんな表情をしていたのか僕には分からない。そして、そのまま次の質問を口にした。

「ところで、雨帝さん。僕らのこの状態——この異常は、一体なんなんですか? 僕が四年に一年分の成長しかしていないことは分かっています。これも、その計画というのに関わっているのでしょう?」

 後ろで藍華が固まっているのが分かった。これ藍華にとっても重要な問題だ。なんせ、僕たちはその当事者なのだから。計画について然るべき情報を与えられないのはおかしいし、不条理だ。

「ああ……それを真っ先に話すべきでしたね。というより、それが真っ先に質問されると思っていました。確かにそれは、少し説明が面倒なところです。情報が混雑していて……順を追って説明しますね」

 雨帝は一気に言うと、呼吸を整えてため息を吐いた。よほど説明が面倒なのか、はたまた語るのもおぞましいようなないようなのか。考えたくはないが、考えざるをえない。

「まずは私、荒井雨帝についてご説明します。代理人という立場にはありますが、私もまた閏年計画の構成員の一人です。構成員にはそれぞれある称号が与えられます。称号ごとに違った状態ステータス異常が付加されているんです。例えば、麻痺、という称号なら体が痺れる。ここまではよろしいですか?」

 雨帝の問いに、僕は小さく頷いた。後ろで藍華が首を傾げたようだったが、おそらく彼女に理解させろというのは少々無理があるだろう。三人いて二人が理解できていれば十分だ。

「……では、続けましょう。まず、私には『変数アナグラム』という称号が与えられています。この称号に付加された状態異常は『通常』。つまり、一年に一年分の成長をするということです。今が二十歳なので、二十年分の成長をしていることになります」

 通常が異常だと言った雨帝に、僕は少しだけ感心した。第一、通常とは何だろう。どれだけ普遍的であっても、個性というものは平たくなどできない。だから本来、通常、普通、正常、常識といったものはあってないようなものなのだ。それを彼女は理解しているように思えた。

「それはつまり、僕らには僕らの状態異常を引き起こす原因となる称号が与えられている……ということですね?」

「その通りです」

 小さく微笑んで頷いた雨帝に、藍華は「どういうこと?」と首を傾げた。僕は上半身だけ振り向いて「後で分かりやすく説明するよ」と声をかける。すると藍華は曇ったままの顔を少しだけ明るくして頷いた。

「幸村様には『定数フィクスト』の称号が、三浦様には『奇数オッド』の称号が与えられています。付加効果については既にご理解されている様子なので割愛させて頂きますね。以後はこちらの称号でお呼び致しますので、ご理解のほどよろしくお願い致します」

「ねぇ、潤……」

 藍華が不安そうに僕を見る。身長差はあまりないが、藍華が少しだけ高いせいで見下ろされている形だ。なんだか違和感しかない。そんな思考をどこか遠くへやって、僕は微笑んでみせる。そして、雨帝に向き直った。

「すみません。僕たちにも気持ちに整理をつける時間が必要で——一度、二人だけにしては頂けませんか?」

「ええ、もちろんよろしいですよ。私は代理人であって監視役ではありませんから」

 そう言って微笑むと、雨帝は防音室とは真逆の方に歩き出した。僕たちもなるべく防音室から離れ、近くの段差に腰掛ける。

「大丈夫。きっと大丈夫だよ藍華。……きっと」

 言い聞かせた言葉は、とっくに諦めてしまった僕への皮肉のような気がした。

お読み頂き誠にありがとうございました。

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