再開
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「潤の二十歳の誕生日を祝って、かんぱーい!」
「はい、乾杯」
あれから四年、僕、幸村潤の誕生日。テーブルの上の花瓶では、彼女の持ってきた花が静かに揺れていた。
二十歳になった今、僕はクリエイター系の大学に通っていた。というのも、全ては閏年計画を出た時に決めていたことだった。これまでずっと目標もなく生きていた僕が、初めて頑張りたいと思えたのだ。どうなるか分からなくても、頑張りたかった。そういう選択を、軽率さとはき違えないくらいには、僕も成長できたと思う。
この道の先に、約束が待っている。
「なんか、すっごく久しぶりに会った感じするね。潤の眼鏡って、新鮮だなぁ」
「まぁ、あれからパソコンを使うことも増えたからね。藍華も、髪伸ばしたんだ」
今、僕の正面に座っている人物、三浦藍華は、長い黒髪を結わえてポニーテールにしていた。対する僕は、質素な黒ぶちの眼鏡で、髪型も四年前と変わらなかった。ただ、少しだけ身長が伸びたぐらいだ。それ以外、見て取れる部分に変化はなかった。
「そ、髪が伸びたら、一気にバッサリ切っちゃうのもいいかなって思ってね。なんていうのかな、爽快感? みたいなさ。そういうのもたまにはいいかなって」
「藍華らしくていいと思うよ。僕は、最近息抜きに掃除するようになったよ。前は酷かったけど、最近はまぁ、それなりに片付いてるはずだよ」
僕の言葉に、藍華は少し悪い顔をした。悪巧みをするような、誰かを思い出す笑顔だ。僕は背筋に寒気を感じながら、彼女の笑顔を見返した。
「そこまで言うなら、点検しちゃおっかなぁ」
「いいけど……なんか、改めて言われると心配になってくるな。いや、でも、昨日片付けたし、多分平気だよ」
彼女はにやりと笑って、それから、にこりと笑った。僕は自分の発言を後悔しながら、仕方なく立ち上がる。あれからいろいろなことに挑戦したが、その中でも掃除は性に合っていると感じていた。が、この前藍華が来たときには整理が行き届いていないとかしまい方が雑だとか、散々な評価に終わったのだった。僕はそのとき、藍華の収納術のすごさを味わったのだった。そして、その教訓をもとに先日、丸一日掛けて掃除をした。我ながらずいぶん片付いたと思う。
それに、見せたいものもある。
「あ、そういえばね、今日の誕生花はニチニチソウって言ってね、朝日の、日の文字を重ねて書くのよ」
僕の部屋に向かう途中、藍華が カレンダーを見て呟いた。誕生花など気にしたことはなかったが、あれから四年経った今では、なんだかとても感慨深く思えた。
「なんか、思い浮かべると不思議な字面だね。もしかして、花言葉が特殊とか?」
僕が問いかけると、藍華は誇らしげに胸を張った。あれから藍華は、より一層花に詳しくなっていた。時間の流れを感じると同時に、進歩も感じる。そのことに多少の安心を感じていた。
「ニチニチソウの花言葉は、友情。あと、楽しい追憶。潤にぴったりだね」
カレンダーを指差して、藍華は小さく笑った。楽しい追憶、というのは、僕だけのことでもないと思ったが、言葉にはしなかった。
「そう言ってもらえると、嬉しいかな。あ、ここ」
僕が扉を開けると、藍華は素早い動きで部屋に入っていった。そして、隅から隅まで見回す。僕は部屋の仲に移動して、藍華の言葉を緊張しながら待っていた。
しばらくして、藍華が僕の方にやってきた。固唾をのんで言葉を待つ。
「……びっくり。すごい片付いてるじゃない」
「ま、まぁ、頑張ったからね」
僕はなんだか照れくさくなって目をそらした。その視線の先に、パソコンが映る。実際、頭の中にはまるで別のビジョンが映っていた。
「藍華、ちょっとこっち来て」
「ん? どしたの」
二人でパソコンに寄って覗き込む。デスクトップにはいくつかのファイルがあった。その一つに、僕たちにとって、とても大きな意味を持ったものがあった。
「これ……閏年計画って……」
閏年計画。
それは四年前僕たちが二度目に侵入したそれとは、少し違っていた。しかし、本質は変わらない。そこには、あの人がいる。
「まぁ、見てて」
ダブルクリック。ログイン。ユーザー名は、定数。
幾何学模様の世界。花園の世界。何もない世界。
そのどれでもない世界の中に、誰かが見える。
見覚えのある誰か。僕の作り出した閏年計画の住人だったその人の姿。
ああ、うまくいったと、僕は安心してみたりする。
「え……嘘——」
画面の中のその人の口が動く。
声は聞こえない。ただ、小さな機械音が聞こえる。
それでも、何を言っているのか分かった。
僕にも、そして、きっと彼女にも。
「うん——。久しぶりだね」
計画は悲劇で終わらない。
新しい世界を、始めよう。
これにて完結いたします。
お読み頂き誠にありがとうございました。




