友達
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それはあまりにも痛切な告白だった。それこそ鉄の塊が衝突してきたのと同じくらい重みのある言葉だった。その意味が苦しいほど理解できる分、余計に辛かった。しかしここで屈してはいけない。僕は変わるためにここにいる。ここで逃げだしてしまったら僕はこれまでの僕を否定することになるのだ。それだけはいけない。それをやってしまったら僕はあの事故で死んだのと同じだ。いや、あるいは本当にそうなのかもしれない。本音を押し殺すことは、心臓の鼓動が止まるのと同じ。言いたいことを言えないのは息の根を止めるのと同じ。ここで逃げ出したら最後、僕の全身を駆け巡る血液は一気に黒くなって、二度と起き上がれなくなるだろう。そうなれば、ここで過ごした時間の全てはなかったのと同じだ。そんな結末は認めない。ハッピーエンド以外のエンディングはお断りだ。特にバットエンドになんてなったりしたら、僕はそのデータを消して最初からやり直すかもしれない。それでどうにかなるなら、きっと僕はそうするだろう。
しかし人生はゲームではない。
ルーレットの出た目しか進めない毎日なんてまっぴらだ。
予定調和の毎日なんか、つまらないだろう。
「ねぇ、創造主。アナタは何故私をアナタの理解者として——アナタの友人として創造しなかったのですか。その方が手っ取り早かったでしょうに。なのにアナタは何の気まぐれか、私を創造主に背くような人格に作られた。その理由を、アナタは理解しているのですか?」
「理由……?」
心の底から不可解そうに彼が言う。そんな彼を雨帝は強引に立ち上がらせた。そして、いつになく真面目な顔で彼に言った。
「私はアナタの理想の人格と友人のイメージをごちゃ混ぜに作られているのですよ。アナタの理想とは無駄に馴れ合ったりしない、いわば孤高の人格。そしてアナタは友人たちに対し、いつも自分の意見に反論してくる、対極的な存在だと思っていた。どれだけ似ていても決して合同ではない図形——そんな風に思っていたのでしょう?」
「それは違うよ、雨帝」
突然。何の前触れもなく、僕のすぐ隣から声が聞こえた。凛とした張りのある声。すぐに藍華のものだと気づいた。彼女は驚愕している雨帝をよそに反論を続ける。
「ねぇ、貴方はきっと周りの人たちを自分と同じだと思っていたんでしょ? なのに、そうじゃなくって、思ってたのと違って。思い描いていた理想と現実は、もう、天と地ぐらいかけ離れてて、嫌んなっちゃったんじゃないかな。こんなはずじゃなかったって、もっとよかったはずなんだって、言い聞かせていたかった……。だから貴方は理想も現実も——否定した」
「……」
閏は何も言わない。僕も何も言えなかった。その通りだったのだ。気持ち悪いくらいに 適確で、当たり前みたいに実感のこもった言葉だった。
藍華は構わずに続ける。
「辛かったはずだよ。逃げたかったはずだよ。なのに貴方は逃げたりしなかった。そうやって溜め込んでしまった。でも……貴方は強いよ。とても強い。でもだからこそ、強がっちゃったんだ。強かったから、ギリギリになってパンクするまで、耐えられた。綱渡りみたいに、細くて一本しかない道を、貴方は必死に歩いたんだね。すごいよ。あたしには……できない」
貴方は強いよ、と、彼女は繰り返した。気づけば僕は泣いていた。感情とは裏腹に、勝手に涙は頬を伝った。不自然な雫にそっと触れる。それは紛れもなく僕の涙で、僕の流した心だった。
一方、彼は泣き止んでいた。怒るでも悲しむでもなく、ただ呆然と藍華を見ていた。そして、なくしてしまった最後のピースを見つけたように、拳を握りしめ、藍華に言った。
「なぁ、君はさ、どうして僕と一緒にいてくれた? ただ、訳の分からない空間が怖かったからか?」
「ううん、違うよ。あたし、貴方の力になりたくって。誰かの役に、立ちたくって」
「変なやつ。誰かのために、ねぇ……。本当にそんなこと言う人いるんだ。知らなかった」
そして彼は、そっと自虐的に微笑んで言った。
「もっと早く知ってたら、こんな苦しい思いしなくて済んだのになぁ」
何で僕はこうも遅いんだろうと。
見て見ぬ振りをしてしまうのだろうと。
白状するように、言った。
「大丈夫だよ、ほら。みんないるから、貴方を一人になんてさせないから。貴方が辛い時は、あたしが支えてあげるから。だからほら、大丈夫だよ」
一番初めに、もう完全に元に戻ったような藍華が言った。その後に続いて、呆れ顔の雨帝が言う。
「そうですよ。そんなに思い詰めないで、たまには誰かに頼ればいいのです。一人でどうにかしようとするのがいけないんですよ。ねぇ?」
そう言って雨帝はあえて当事者の僕に振る。そんなの、閏に聞こうが僕に聞こうが同じことなのに。そう思ってから、僕はすぐにその意味を知る。
もう一人の僕は、陽炎のように揺らめいていった。
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