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ペリン王子の世直し

作者: 藻ノ かたり
掲載日:2026/03/12

これはどこか、遠い宇宙の果ての物語。



「王子、今何とおっしゃいましたか」


王子づきの執事、ポレイトンが仰天した。


「じい、ついに耳まで遠くなったか。よいか、もう一度いうぞ。私は”地球”という星を訪問する」


彼の幼いころから養育係を務めていた初老の男に向かって、異星の王子が言い放つ。


「ちょ、ちょっとお待ちください。えぇっと、地球、地球っと……」


老執事が慌てて腕時計型の端末機をいじると、空中に地球の座標と星の概略が浮かび上がった。


「……王子、ここはトンだ未開の惑星ではありませんか。王子がいらっしゃるような場所ではありません」


「いやいや、私は絶対に行くぞ」


執事の戒めの言葉も、耳に入らない様子のペリン王子。


「一体全体、その星に何があるというのですか」


一方的に反対しても無駄だとわかった執事が静かに尋ねた。


「うむ。超長距離望遠鏡で偶然見つけたんだがな。この星は知的生命体がいるにも関わらず、とても酷い星のようだ。戦争がなくなる時はないし、貧富の差もはげしい。毎年多くの子供たちが、飢餓で死んでおる。


それなのに星の指導者たちは、何の手立ても打たずにいるのだ」


この望遠鏡は、ただ見るだけではなく、様々な情報を居ながらにして得る事が可能なのである。


「まぁ、宇宙は広いですから、そういう星もあるでしょうな」


王子の意図を汲みかねた執事が、あいまいな答えを返した。


「でだな。私もそろそろ成人の年齢に達するわけであるし、ひとつ世直しをやってみようと思うのだ」


「世直し?」


嫌な予感を覚えながら、執事が問う。


「うむ、私自らがこの星へ赴き、この地獄のような星を平和な地になるよう導くのだ」


……あぁ、ついに。


王子の言葉を聞いた執事は、若き主人に気づかれぬようため息をついた。


いつかこういう日が来るとは思っていたが、いよいよその時が……。


執事は覚悟を決めたように、心の中で呟く。


この王子、御多分にもれず世間知らずであり、おまけに薄っぺらい正義感がとても強いのであった。子供の頃からその手の英雄譚を読み漁り、いつかは自分の手で世直しをと考えていたのである。


「王子様、それは成人したのちに、お父上である王に相談してからでも遅くないのでは? そもそも辺境の惑星などを助ける前に、我が星の領土にも問題のある場所は幾つもあります」


温室育ちの王子に、かのような能力はないし、過保護な王がそんな所業を許すはずがない。


執事はそう思ったが、なにせ下手に純粋な分、一度思い立ったらテコでも考えを変えぬのがこの王子である。今までも王と何べん対立したかわからない。その責任は執事の教育不足として、彼の立場を危うくしていた。


「わかりました。王子の正義感には、本当に感服致します。ただ、こういった話は用意が肝心。準備万端、このポレイトンにお任せ下さい」


気のはやる王子を何とか説得し、老執事は何とか対応策を講じる時間を得た。


それから三カ月。王子から度々催促を受けていた地球遠征の日がついにやって来る。ただし王子の希望により、あくまでお忍びでという話になった。世直しには、定番の設定である。


王子は父親に挨拶をし、老執事、親衛隊長といった面々と、実行部隊であるロボット兵士1000名あまりを乗せた宇宙船で母星を後にした。


ワープをくり返し、地球へ到着した王子の行動は早かった。事前に超長距離望遠鏡で情報を仕入れていたおかげもあり、やるべき事は既に決まっていたからだ。


王子は引き連れて来たスタッフと兵士を縦横無尽に活用し、地球の劣悪な環境を次々と解決していった。そしてなんと、半年後には平和な惑星への道筋をつけてしまったのであった。


「うむ、予は満足じゃ」


素晴らしい成果を残して、王子は意気揚々と帰路に就く。その後ろには、ホッと胸をなでおろす執事や親衛隊長がいた。


「よかったですなぁ、ポレイトン様。全てが無事に終わって」


「あぁ、親衛隊長。正しくそうだな。お前の活躍にも目を見張るものがあった。ご苦労だった」


二人は”大役”を果たした安堵の笑みを互いに浮かべた。


母星に帰った王子は、父親に細々とした話まで、顔を紅潮させながら熱く語る。王は只々、ウンウンと笑顔で息子の自慢話を聞くばかりであった。


「ポレイトン、それに親衛隊長。本当に良くやってくれた」


その夜、王の自室に呼び出された家臣二人に、彼は礼を述べた。


「今回の遠征の事は、ワシとおぬしらを含め、ごく僅かな者しか知らん。王子が忍びで行きたいと言ったのが幸いじゃったな」


二人は王の意見に頷いた。もしも大々的に、王子の遠征が国民に知らされていたならば、今回の”計画”は、おぼつかないものとなったであろう。


「わかっておるじゃろうが、この度の秘密は墓場まで持って行ってもらうぞ」


「おおせのままに」


二人の臣下が、そろって答えた。


”秘密”とは何か?


お忍びでの行動だったから”秘密”なのか。


いいや、それは違う。


真相は、概ね次のようなものであった。


もとより王子を、地球のような野蛮な星に行かせるわけにはいかない。科学力の差は神と虫けらくらい違うので、王子の身に不測の事態が起こる心配はないものの、彼の”世直し”が上手くいくはずはないからだ。


知的生命体とはいえ、星の民のレベルは余りに低かったし、統治の経験など微塵もない王子には土台無理な話であった。


しかし、それでは王子が納得すまい。ほとほと弱った執事は、とある計画を王に提案し了承を得た。


その計画とは、こうである。


王子は確かに母星を飛び立った。しかし到着したのは、地球ではない。事前に見つけておいた、自然環境が地球によく似た母星からさして離れていない無人の惑星であった。


だが王子は、その事実を知らない。宇宙船のモニター類ほか、全てがあたかも地球に到着したように偽装されたのである。また念のいった事に、王子の食事には睡眠剤が混ぜられて、彼は正しい時間経過の感覚を失っていた。


そして実際よりはるかに早く偽の地球に到着した後、王子が降り立った場所にはこれまた事前に用意してあったビル群が林立していた。さすがに全てが本物ではなく、遠くのものは立体映像である。


王子は地球人に似せて作られたロボットを星の住人だと思い込み、自らの熱い意欲を語って聞かせた。そして世直しのため、地球各地を秘密裏に歴訪する。実際には狭い地域を行ったり来たりしているだけであったが、完璧なカモフラージュに王子が気づく事はなかった。


そして全てはシナリオ通りに進み、王子は目出度く半年後のご帰還と相成ったわけである。


主君に誓いを立てさせられた二人の臣下が、王宮を後にする。


「しかし、ポレイトン様。もしも再び王子が地球に興味を持ったら……、その後の成り行きをお気になされたらどうするのです。また同じ事を繰り返すのですか?」


平民から腕一本で親衛隊長にまで上り詰めた男が尋ねた。


「まぁ、安心せい。王子は気まぐれじゃ。今度の一件でも、単に自分が物語の英雄になったつもりでいるだけじゃよ。もう、二度とあの星に興味を持つ事はあるまいて。


もっとも念の為、王子の望遠鏡には仕掛けをしておいた。王子に取って、都合のよい状況が映るようにな」


老執事が、白い髭を撫でつけながら言う。


「それでも万が一、再び地球へ行きたいという話にでもなったら、事前に惑星破壊爆弾で地球を壊してしまうまでじゃよ。王子には、巨大な隕石がぶつかって、惑星は粉々になってしまったとでも言えばよい。


星の者たちには気の毒じゃが、あんな野蛮極まりない世界など、滅んでもどうという事はあるまいて」


老執事は思い通りに進んだ計画の後処理を、自画自賛するように語った。


「はぁ~、それにしてもなぁ……」


老執事と別れた親衛隊長が、ひとりため息をつく。


「確かに、全ては丸く収まった。王子は満足し、その身に危険は微塵も及んではいない。息子かわいさの王の気持も、わからんではないしな」


親衛隊長は、ふと自分の育った貧民街を思い出す。


「今度の計画に使った費用は、小さな星の国家予算半分程には匹敵する。それを、もっと別の事に使えていたらなぁ……」


王子の世間知らずと、その父の親バカぶりに飽きれながら、親衛隊長は夜空を見上げる。


そこには同じく、呆れ顔の月がポッカリと浮かんでいた。



【終わり】


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