第十二話
今話は若干短めです!
武林世界から戻った神也は虚空収納からスマホ、財布、衣服を取り出し、着用していた衣服と草履を収納する。
そして時間を確認すると武林世界に滞在していた時間と同じくらいしか時間経過していなかった。
【時間同期】とはこの世界と武林世界の時間が同期したという事だった。
何故同期されるのかは不明だが、神也にとっては悪い事ではない。
これでいつでも武林世界に行けるという事だ。
スマホを確認すると、数件の着信が来ていた。
三笠肇、安藤徹、安藤翔太の三名から複数の着信があった。
まずは三笠に電話をする。
「義父さん、どうしたの?」
一コールで電話に出た三笠に神也が問う。
『まったく、どこに行っていたんだ! 今大変な事になってる!』
数時間しか地球を離れていなかったのに、何が起きたんだ? と疑問に思い、電話をしながら気を一気に広げる。
その間も三笠の小言が続く。
そして神也の気による索敵に反応があった。
太平洋上だ。
「義父さん、その大変な事ってもしかして米軍?」
神也の言葉に小言の連続が続いていた三笠だったが、ピタリと止まる。
『はぁ――。知ってたのか……』
「いや、今索敵したら太平洋上に米軍艦隊が大量に居たからさ」
『まぁ良い。その通りだ。恐らくブシドラの件で逆ギレした米軍が何かを仕掛けるつもりだろう。日本で米軍ハンターと米ハンター協会のS級ハンターに対抗できる奴はお前しかいない。だが、私個人としては何もしてほしくない』
「義父さん、俺は基本的に向こうから仕掛けられない限り何もしないよ」
『そうだな。一応連絡はしておこうと思ってな。とにかくお前は気にするな』
三笠は神也の返事を聞くことなく電話を切る。
三笠の言動に若干の『らしくなさ』を覚えながらも、神也はテレビを付ける。
義父は滅多に怒りを見せない。もちろん神也はしょっちゅう叱られるが、それは『怒り』ではなく『呆れ』や『悟らせる』ためのものであり、決して本心から憤怒の感情が沸いている訳ではない。
しかし、先ほどの電話で三笠は明らかに怒りの感情を抱いていた。
それも神也に対してではなく、第三者に対して。にも拘わらず神也への電話にもその感情を隠しきれていない事から、相当な怒りを抱いている事が分かる。
ハンター協会や政府、そして米軍との間で何かがあり、そのとばっちりを受けたのだろうか――こう推測する神也だったが、三笠は神也の関与を望んでいないようであったが、仮に神也や愛、両親に何かあればその前に元凶を殲滅すると決意する。
『本日昼過ぎ、アメリカのフレミング大統領と湯傘総理が電話会談を行ったと政府広報官が発表しました。会談の内容は明かされておりませんが、電話会談の後、緊急閣僚会議が開かれたようです』
お昼のワイドショーを見ていた神也は眉をひそめる。
そして思案する。
もし噂通りアメリカ政府がブシドラの背後に居て、本当にアメリカ政府に対抗できるようなハンターや組織を消す為の人物だった場合、ブシドラが殺された今、アメリカ政府は放っておくはずがない。
表向きは世界中で重要指名手配されているブシドラだが、どの国も本気で探したり捕まえようとはしていない。
つまりはアメリカ政府の顔色を伺っているという事だ。
大国であるアメリカ。そして軍事大国であり、S級ハンターの数が世界で最も多い。
故にどの国もアメリカに逆らえない。
三笠が怒っていた理由は『ブシドラを殺害した人物を引き渡せ』というような要求がアメリカ政府からあったのではなかろうか、と神也は思案する。
まずは日本政府に要求が伝わり、政府からハンター協会つまり安藤徹に伝わり、徹から三笠に伝わったのだろう。
恐らくは要求を断れば『開戦』とでも脅されたのだろう。
大激変以来アメリカだけでなく、ハンター大国である中国も世界の非難などは一切気にしなくなった。
アメリカに至っては同盟国であった韓国のハンター協会に無理難題を吹っかけ、それを拒否したために韓国へ宣戦布告をした。
幸い韓国は本格的に戦争が始まる前に慌ててすべての要求を聞き入れ、開戦を前にして終戦した。
そうした事件が多く起こったため、ハンター大国のアメリカや中国に逆らう国が出てこないのだ。
神也はほとほと嫌になっていた。
武林世界では【神】【英雄】【絶対者】などと呼ばれていたが、この世界ではまだ名もなきF級ハンターである。
もちろん神也が本気を出してしまえばアメリカなど灰燼に帰す。
しかし、神也は無実の人まで一纏めに【敵】としたくない。
軍だけを狙って殲滅する事も出来るが、軍の中でも侵攻に反対しているかもしれず、これまた攻撃を躊躇ってしまう。
それが神也の弱さであり、長所でもあった。
だが、そんな優しき神也でも無条件にすべてを受け入れる訳ではない。
自分の大事な人、物が傷つけられようものならそれらは全て【敵】となる。
つまりは自分からは攻撃しないが、やられたらやり返す――ではなく、徹底的に潰すのだ。
武林世界でもそれによって滅んだ国や組織は計り知れない。
しかし、神也の【本当の実力】を知っている者はこの世界にはいない。
三笠や安藤親子など、ある程度知っている者はいるが、真の実力は知らない。
そもそも神也が披露していないからだ。
神也自身別にそこまで好戦的なタイプではなく、むしろ戦闘なんて起こらない方が良いという思いを持っている。
そして神也はこの世界では自分の神の実力を披露しないまま日々を過ごせたら良いとも心から願っていた。
しかし、日本を、世界を、そして神也を取り巻く状況は一変してしまう事をまだ誰も知らない。
「パパ~!」
夕方、愛を迎えに保育園に到着したばかりの神也に愛が笑顔で駆け寄ってくる。
神也も笑顔で愛を抱っこし、愛のクラス担当保育士の女性に挨拶をする。
「ホント愛ちゃんはパパの事大好きだねぇ」
保育士は笑顔で愛を撫でながら言う。
「うん! パパ大好き!」
愛は神也を見ながら無邪気な笑顔で肯定する。
「ありがと。パパも愛ちゃん大好きだよ」
愛の笑顔のキュン死しつつも愛の笑顔に釣られて自然と笑顔になり、ふっくらした頬をプニプニしながら言う神也に愛は「やめてよ~」と嫌とは言いつつもケタケタと笑いながら神也の手を振り払う。
「では今日もありがとうございます。また来週お願いします」
神也は保育士に頭を下げ、愛は笑顔で手を振る。
「先生またね~ばいば~い」
愛の笑顔に保育士も笑顔で手を振る。
しかし、『また来週』『またね』は守られる事のない言葉となるのだが、それを知る者はまだいない……。




