第一話
数十年前、世界は大激変を迎えた。
西暦1970年代初頭、世界中で原因不明の巨大地震が発生する。
建物の被害は想像を絶するものだったが、幸か不幸か津波は一切発生しなかった。
しかし、それよりも重大な問題が起きる。
それは【ゲート】と呼ばれる異界に繋がる門が世界各地に発生したのだ。
ゲートの中にはモンスターが大量にいて、ゲート内のモンスターが一定数を超えるとモンスターがゲートから飛び出す。
更にゲートの中では重火器は通用せず、肉体で戦おうにもモンスターには一切通用しない。
世界中で毎日議論がなされたが、突如として解決策が現れた。
それも世界中で。
【プレイヤー】
まるでRPGのゲームのようなシステムが多くの、けれど選ばれた者に出現したのだ。
プレイヤーに覚醒した人を【ハンター】と呼び、そのハンターがモンスターに対抗する唯一の手段だった。
更にプレイヤーに覚醒すると様々な【職】を得る事が出来て、戦闘職、魔法職、生産職など多岐にわたる。
ゲートが発生してから数十年が経過した現在でも新たな職が見つかっている。
ゲートの管理が追い付かず、魔物の氾濫が起きることも当初は多々あった。
しかし、プレイヤーの成長やハンター管理協会の設置、ハンターが企業のようにゲート攻略を行う【ギルド】の設立などによって世界の混乱は一段落した。
そして現在はハンターを目指す子供を養成する学園も多くある。
そこの教師は全員ハンターであるが、下級ハンターも多い。
しかし、ハンターだからこそ教えられることも多く、学校とは言っているものの、法律上の学校などではない、私塾という扱いであるため、経営の観点から上級ハンターを教師に招けないというのも実情だ。
上級ハンターの年収は数百億が最低ラインであり、それを保証できる学校などない。
故に下級ハンターが教師の大半を占めるのだ。
しかし、その下級ハンターの中に特に異質なハンターがいる事を世間はまだ知らない。
『私塾・三笠ハンター養成学園』
法律によってハンター学園は『私塾』を冠に付けるように義務付けられている。
そしてこの三笠ハンター養成学園、通称【三笠学園】が新たな教師を迎える為、理事長室で理事長の三笠肇と新任教師である天道神也が木目調のテーブルを挟んで対面で座り、茶を啜っていた。
「しかし、君が話を受けてくれるとは思わなかったよ」
三笠肇の顔のしわが微笑みによって集中するほどの笑顔を浮かべる三笠は喜びを伝えるとお茶を啜る。
「まぁ、状況が状況ですからねぇ――。まさか数千年振りに帰ってきたと思ったら父親になってましたなんて――」
神也は苦笑いしながら茶を啜る。
その苦笑いを見て三笠も釣られるように苦笑いを浮かべる。
「まぁそれはそうだよねぇ。愛ちゃんだっけ? 今何歳なんだい?」
「五歳です。帰ってくるまで兄貴に娘がいたことも忘れてたのに、帰ってきたら何故か俺は入院してて、兄貴夫婦も事故で死んでて姪っ子の愛ちゃんだけが残って俺の養子になるなんて――。まぁ愛ちゃんは可愛いから良いんだけど、父親になったからにはしっかり稼がないとってことで、話を受けました」
ここまでの神也と三笠の会話に大きな違和感を持っている事だろう。
当然だ。
いくらハンターであっても『数千年間』別の空間にいたなどはあり得ない。
しかし、そのあり得ない話を前提に話をする神也と三笠。
当の二人はそれを当然のように話す。
【F級ハンター・職:総合武術家】
これが神也のハンターとしてのランクと職だ。
しかしこれはハンターに覚醒した直後の内容。
神也が『数千年間』姿を消していたのは妄想でも何でもない。
全く別の異世界に転送されていたのだ。
更にその間地球では僅か数日程度しか経っていなかったのだ。
そして神也が転送された異世界とはまさに弱肉強食の世界である【武林】だった。
総合武術の職を持っていたとしてもF級ハンターの神也には生き残ることなど不可能だった。
しかし、幸か不幸か神也が異世界に飛ばされた際に獲得したスキル【死に戻り】により、死んでもその世界で死の二十四時間前に戻るというスキルのせいで弱いながらも確実に少しづつだが、強くなっていった。
そして数千年の時を経ていつしか最強へと至り、【天魔王】と呼ばれ、畏れられた。
しかし、同時に庶民の、弱い者の味方という事もあり、力のない庶民たちからの信頼や信望は絶大な物だった。
数千年の時を経て地球の事を忘れていた神也だったが、ある日突然既視感のあるポップウィンドウが出現する。
『プレイヤー職のチュートリアルをクリアしました。隠し要素【天下泰平】をクリアしました。隠し要素:称号【天魔王】を獲得しました。隠し要素【勧善懲悪】をクリアしました。隠し要素【羽化登仙】を実行可能になりました』
このような感じで無限にも等しいポップアップが大量に溢れた。
そして自分の門派や民、弟子たちに別れを告げ、【羽化登仙】を実行した。
その瞬間、地球の自宅へ戻った。
そして理解する。全てチュートリアルだった――と。
しかし、数千年に及んだチュートリアルの成果はしっかりと神也に還元されていた。
ランクはまだF級ハンターだったが、ステータスに関しては全てカンストしていたのだ。
もちろんS級のハンターでもカンストなど起こらない。
そもそも通常はカンストなど存在しない。
しかし、神也のステータスはカンストしている。
表示で分かる。
すべての項目が【∞】となっているのだ。
つまり、これ以上上がりようもない為、カンストと神也は判断した。
ハンターランクに関してはハンター管理協会が管理している為、手続きや試験を行わないとランクアップしない。
ステータス値のカンストはいくつか思い当たることが神也にはあった。
それはチュートリアルクリア時の無限に等しいポップアップにある。
称号、クリア報酬などだ。
称号やクリア報酬には【ステータス値を〇倍】などが大量にあり、それらが合わさったことで∞という表示になったと完全に思考を放棄したのだ。
そして神也にとって一生の恩師である三笠に連絡を取った。
大至急相談したいことがある――と。
そして神也は自分に起こったことを全て話した。
最初のうちは全く信じられなかった三笠だった。
三笠もハンターだが、三笠が知っている職チュートリアルとは『クリア』など存在しないからだ。
そんなハンターでも職チュートリアルは存在する。
しかし、例えS級ハンターでもクリアなどしない。
大抵の場合死んでチュートリアルが終了するか、チュートリアルの内容を達成できずに終了する。
総じて言えるのは『チュートリアルクリア』ではなく『チュートリアル終了』だ。
よって、三笠は神也の言っている事を信用できなかった。
自分がF級という現状を受け入れられない事から来る虚言。
そう思っていた。
しかし、その考えは一瞬で吹き飛ぶ。
神也がステータスを開示したのだ。
『天道神也・二十八歳。男。【F級ハンター】【職:総合武術家】』
これは三笠が知っている範囲の情報だ。
しかし、それ以降の情報に三笠は絶句する。
神也が言った通りすべてのステータス値が∞となっていて、スキルの欄も読み終えられない程の量が書かれている。
それだけでなく称号の欄も同じだ。
しかし、冷静な三笠は神也をゲートアタックに誘い、直に神也の強さを見る事にした。
三笠のランクはB級の為、B級のゲートに入ることになった二人だったが、神也は装備などを全く準備していない。
激怒しかけた三笠だったが、目の前に現れた一つ目の巨人サイクロプスを一瞬で殺した神也に絶句する。
神也はただ武功を用いてサイクロプスを焼いただけなのだが、そのサイクロプスは死体すら残らず灰になってしまった。
そこで三笠は理解した。
神也は本当に数千年間チュートリアルをしていたのだと。
そして人外領域に至った――。
そこで三笠は提案する。
ハンター昇格を受けずに三笠の運営する学園で教師をしないかと。
神也は難色を示した。
神也にとって高ランクのハンターは大金を稼げる。
そして神也はどんなS級ハンターよりも強い。
それどころか世界中のS級が集結しても神也には勝てない。
取り合えず返事は保留として帰宅した神也だったが、そこで兄夫婦の逝去の報を受ける。
そして思い出す。
兄には娘がいたことを。その娘で神也にとっての姪を神也は溺愛していたことを。
すぐに警察署へ行き、兄夫婦の遺体と対面し、警察から相手の不注意による事故であり、既に相手方は逮捕済みである事、姪の愛が一人になった事が伝えられた。
すぐに愛と面会した神也はすぐに引き取る事を決意する。
そして同時に三笠の提案を受ける事にした。
三笠の話に当初は乗り気じゃなかったが、ハンターとして活動してしまうと嫌でも目立ってしまう。
そうなると他に家族がいない愛が一人になってしまい、狙われやすくなってしまう。
記者、悪徳業者、ファン、ギルドなど枚挙にいとまがない。
だが、三笠の話に乗ることで生活は保障され、更に愛との時間も保証される。
そして、武林では神也にも弟子は多くいた。
だから学園でも教える事は出来ると判断した。
何より、神也本人が子供好きという理由もあった。
こうして最強者に至ったF級ハンターは兄の忘れ形見である『娘』、愛を養子にし、教師生活を開始した。
色々な作品を同時並行で進めてしまう癖があり、どれも中途半端になってしまって、どうしようもないので、もう他の作品はいったん諦めて、この作品だけに絞るつもりで書きます!(多分…)
どうかよろしくお願いします!
因みに、水曜日、土曜日、日曜日に更新していく予定です!