第六章 守るための代償
カイが魔法陣に短剣を突き立てた瞬間、地下全体が激しく揺れた。
「やめろカイ! 何をしている!?」
カイは顔を上げ、俺を睨むように叫んだ。
「このままじゃリシアは器として取り込まれる!
俺が“儀式の核”を壊す……だが、そのためには――」
「そのためには?」
カイの目が一瞬揺れた。
「……リシアの“封印された力”を一度、俺の体に移すしかない」
「なっ……!?」
「一時的にでも俺の中に移せば、彼女は助かる。だが――」
カイは短剣を握る手に力を込める。
「……成功すればいいが、失敗すれば俺もリシアも消える可能性がある」
「そんな危険なことを……!」
『隼人、こいつの言うことは理にかなっている』
グラディアの声が冷静に響いた。
『だがそれは同時に、カイがリシアの力を完全に奪い取ることもできるということだ』
「……!」
俺はカイを睨む。
「信じろとは言わない……でも俺は、もう二度と仲間を失いたくないんだ」
カイの声には本気の覚悟が宿っていた。
リシアが微かに目を開け、震える声で言った。
「……隼人……私は……」
俺は唇を噛みしめた。
失敗すればリシアもカイも失う。
成功しても、カイがその力を悪用する可能性はある……。
「隼人、決めろ」
カイが短剣を構え、俺の目を見据えた。
俺は剣を構えたまま、カイを睨みつけた。
「……カイ、裏切ったらお前を斬る」
カイはわずかに微笑む。
「いい覚悟だ……隼人。だが安心しろ、俺は本気で彼女を救う」
リシアが弱々しく俺を見上げる。
「……信じるの?」
「信じるしかないんだ」
俺は膝をつき、彼女の手を強く握った。
「リシア、必ず助ける。だから耐えてくれ」
「……うん……」
カイが短剣を魔法陣の核へ突き立てる。
「いくぞ……力を、俺に寄こせえええっ!!」
――眩い閃光が地下全体を包み込んだ。
リシアの体から青白い光が抜け出し、カイの胸に吸い込まれていく。
「ぐっ……お、おおおおおおっ!!」
カイが絶叫を上げ、膝をついた。
リシアの体が鎖から解放され、俺の腕に崩れ落ちる。
「リシア!」
「……隼人……生きてる……」
小さな笑みが浮かんだのを見て、胸が熱くなった。
だが次の瞬間、カイが立ち上がる。
その瞳は赤く光り、体から黒と青の混ざり合ったオーラが噴き出していた。
「カイ……お前、無事なのか?」
「……ああ、まだ意識はある」
だが声は低く震え、いつ制御を失ってもおかしくない状態だった。
『隼人、このままではカイの体が持たん。彼を止める方法を探せ』
グラディアの声が焦る。
その時、廃墟全体が再び揺れ始めた。
魔法陣が暴走し、地下が崩れ始めたのだ。
「……隼人、早くリシアを連れて脱出しろ」
カイが俺に背を向ける。
「この魔法陣は俺が抑える……お前たちは逃げろ」
「何を言ってるんだ!? 一緒に来い!」
「来れないんだよ……この力を抑えるには、俺がここに残るしかない」
「そんな勝手な――!」
カイが振り返った。
その目には、かすかな微笑みがあった。
「……お前は仲間を失いたくないんだろ? ならリシアを守れ」