表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第三章 王都への道

洞窟での激闘から数日後。

俺とリシアは王都を目指して歩き続けていた。

体の疲労はまだ抜けきっていないが、立ち止まるわけにはいかなかった。


「……本当に、王都へ行くの?」

リシアが俺の横顔を見つめる。


「ああ。あの鎧の騎士が王都から来たのなら、そこで何か分かるはずだ」

俺は握ったグラディアの柄を強く握り直した。


「でも……」

リシアは不安そうに唇を噛んだ。

「私は“鍵”なの。王都の連中に見つかったら、今度こそ……」


「それでも行く。お前が抱えてるものを、俺は知りたい」


リシアは驚いたように目を見開き、やがて小さく息をついた。


「……分かったわ。でも、一つだけ約束して」


「何だ?」


「私を……“道具”みたいに扱わないで。私は、隼人に守られるだけの存在じゃない」


その強い言葉に、俺は思わず微笑んだ。

「もちろんだ。お前は俺の相棒だ」


リシアの表情がわずかに緩んだが、すぐにまた沈んだ色を帯びた。


「……隼人、私の正体を知ったら、あなたは私を……」

その先の言葉は、風にかき消された。



王都へ向かう道は、深い森と切り立った崖が続く険しいルートだった。

夜の焚き火の明かりの中、俺たちは肩を寄せ合いながら休息を取っていた。


「……ねえ、隼人」

リシアが小さな声で切り出した。


「私の一族、ヴァルシュタイン家は……“世界の均衡”を守る一族なの」


「世界の均衡……?」


「そう。古代から続く封印を管理している。でも、私はその“封印の鍵”そのものとして生まれたの」


リシアは自分の胸元を押さえた。

「この身の中には、世界を滅ぼすほどの力が眠ってる……」


「世界を、滅ぼす……?」

言葉の重さに息が詰まる。


「もし私が王都に捕まれば、その力を利用されるかもしれない。

だから……私はずっと逃げていたの」


リシアの手が震えていた。

俺は彼女の肩に手を置き、まっすぐ目を見る。


「……それでも、俺はお前を見捨てない」


リシアは何か言いかけ、けれど言葉を飲み込んだ。

代わりに、焚き火の炎を見つめながら小さく微笑む。


「……ありがとう、隼人」



しかし、その安らぎの夜は長く続かなかった。


「……来るぞ」

グラディアの声が頭に響いた。


俺は飛び起きて剣を構える。

森の奥で、乾いた枝を踏む音が近づいてきた。


「……影の狩人か?」

だが現れたのは、彼とは違う影だった。


複数のフードの男たちが森の闇から現れ、俺たちを囲む。

彼らのマントには、王都の紋章ではない奇妙な印が刻まれていた。


「ヴァルシュタインの娘……やっと見つけた」


その声には、影の狩人以上の狂気があった。


フードの男たちが次々とナイフや呪符を構え、俺とリシアを取り囲む。

「ヴァルシュタインの娘……“鍵”を渡せ」


「断る!」

俺は即座にグラディアを構え、襲いかかってきた一人の剣を弾いた。


「隼人!」

背後でリシアが叫ぶ。

俺は一人目を蹴り飛ばし、そのまま二人目の胸にグラディアの切っ先を突き立てた。


「くっ……!」

だが敵の数が多い。剣を抜いた瞬間、別の男が呪符を投げつける。

俺の足元で符が爆ぜ、炎が巻き上がった。


「ぐあっ!」

体勢を崩した俺に、さらに刃が迫る。


――その時だった。


「やめて……!」


リシアの叫び声とともに、辺りの空気が一瞬で凍りついた。

フードの男たちの動きが止まる。


「な、何だ……!?」


リシアの周囲に、淡い青白い光が広がり始めていた。

その光は触れた木々や地面を凍らせ、敵の武器を粉砕していく。


「リシア!?」


「わ、分からない……勝手に……!」

リシアが苦しそうに胸を押さえる。

彼女の体の中から、制御できない膨大な魔力があふれ出していた。


「これが……“鍵”の力……!」

一人の男が震えながら後ずさる。

「こんな化け物、制御できるわけが――!」


次の瞬間、男の足元から氷の柱が噴き上がり、彼の体を貫いた。


「やめろリシア! お前まで壊れちまう!」


俺は必死に彼女の肩を抱き寄せるが、冷気が肌を裂き、指先の感覚が消えていく。

それでも俺は彼女を離さなかった。


「落ち着け、リシア! 俺がいる、だから――!」


「……隼人……!」


彼女の瞳に涙が溢れた瞬間、暴走の光が収まった。

氷に閉ざされた森に、ただ二人の荒い息だけが響いた。


「はぁ……はぁ……」

リシアの体がぐったりと力を失い、俺の腕の中に崩れ落ちる。


「大丈夫だ、リシア……もう大丈夫だから……」


敵はほとんど凍りつき、残った者も森の闇へと逃げ去っていた。


グラディアの声が低く響く。

「隼人……今のを見ただろう。リシアは、自分の力を完全に制御できていない」


「……分かってる」

俺は震える彼女の体を抱きしめ、深く息を吐いた。


「だからこそ、俺が守る。たとえこの力が世界を壊すものでも……」


リシアのまつげが震え、小さな声でつぶやいた。

「……隼人、怖くないの……? 私が、こんな……」


「怖くない。俺にとってお前は――リシアだ。それだけだ」


その言葉に、彼女の目が涙で潤む。

やがてそっと、俺の胸に顔を埋めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ