Episode10 - 不穏な気配を感じ取ってみよう
佐藤との話し合いから2週間。
結果から言えば、佐藤は私の要求を呑み定期的に精製液や食糧類と交換で生活用品をこちらへと輸出すると約束してくれた。
彼、そして彼の周りの異能を使える人間からすると、やはり少ない効果でも永続的に異能の力を底上げ出来るというのは魅力的だったようだ。
「ん、やっぱり質が低い核を使うとランダムに強化される精製液が出来るんだね」
『通常の人間は複数の異能を持っている事は稀ですので、十分かと。それにこれを水で薄めれば10倍以上の数が生産できますので』
「そうだね。1級の核だけなら……私だけじゃなくてリン達の日々の狩りだけで十分賄えるし。これからも核自体は増えるからほぼ無限資産って訳だ」
当然、私自身が精製液を作っていたら休む暇が無くなってしまうだろうし、流石に五十嵐や白星に隠し通す事は出来ないだろう。
故に、O.S.B、そしてA.S.Sを抽出装置とリンクさせる事によって、精製液の生産は半自動化する事にしている。
「しっかし、これ3級以下の核でも作れたんだね?」
『システムアップデートによって全体的な機能強化も行われていますので』
「そりゃ頼もしい」
話を聞くところに依れば、五十嵐と白星が交渉に行った三峰の避難所も交易には賛成的だったようで。
私達の居住エリアには食糧だけでなく、今まで足りていなかった生活用品等が徐々にではあるが集まるようにはなってきている。
だが、良い話があればその逆……悪い話も同時に発生してしまうのが世の中の悪い所だ。
……他の避難所からも打診が来るとはね。佐藤さんが漏らしたか……いや、あの会議の場に居た護衛の誰かかな。
人の口に戸は立てられない。
私が異能を強化する事が出来る道具、もしくは技術を持っているという噂は他の避難所にも広まっている様で。
最初はこの前の作戦で同じ地域を担当した火征の避難所から、それ以外にも様々な人が私を目的に居住エリアへと訪れているようだった。
「流石に全部と交渉するのは難しいけど……」
交渉出来る所とは交渉をしたい。
単純に物資が増えていくのは喜ばしい事だし、私の作る精製液があれば人類全体の力も徐々にだが上がっていく。そうなれば狭い地域だけでも、以前の様な……崩壊前の暮らしに近いモノがおくれるようになるかもしれない。
元々の目的とは違うゴールが突然生えてきたものの、まぁそれを目指すのは悪い事じゃあないだろう。
……差し当たっての問題は何個かあるけどね。
私は溜息を吐きながら抽出装置を収納し立ち上がる。
異能の感知範囲、自分でも精製液を服用する事で今では拠点内のみならず居住エリアを含めた山全体を探る事が出来るようになったそれの中に、複数の異物が入り込んできた事が分かったからだ。
「さてと、一仕事しますかっと」
―――――
「ぐっ……ぁっ!」
「ふぅー……終わりかな?」
山の中。
降雪する事が珍しい地域でありながら、今私が立つそこは局所的に雪が大量に積もっていた。
当然、私の異能によるものだ。
【液体操作】だけでなく、複数の異能を使う事で実現した疑似的な雪の創造。その全ては溶けると同時に私の武器になると共に、溶けずとも敵対者の動きを鈍らせる天然の罠と成り得る。まぁ私は体温を一定に保つ事が出来る為にその辺りは問題ないのだが。
「で、君達は何処の避難所から来た人達なのかな?素直に教えてくれると嬉しいのだけど?」
「……!」
「うん、まぁ答えないよね」
私が精製液を佐藤の避難所に輸出を開始してからこの山を訪れるようになった人間は、何も火征達のように交渉目的の人間だけではない。
時に居住エリアの住人を脅し、私の居場所や精製液を不当に得ようとする者。
精製液を生産する為の技術を何とか盗もうと、詐欺紛いの行為を働く者。
そして、今私の周囲で転がっている私の拠点を見つけ出し襲撃しようとする者達だ。
……まぁた何も言わない人達かぁ。面倒臭い。
とは言え、前者2つの者達はまだちょっと『お話』するだけで暫くは音沙汰が無くなるのだが……今私が対処した者達は少し違う。
何度も何度も、無駄だと分かっている筈なのに延々と襲撃を繰り返してきているのだ。
その全てを叩き潰している所為で、私の稼働率は今の所うなぎ登りとなってしまっているのだが。
「しっかしどこの人なんだろうなぁ……火征さん達にそれとなく聞いてみたけど、知らないって言ってたし……」
『失礼します、柊様。これまでの襲撃者、そして今回の襲撃者の持つ共通部をまとめました』
「お、本当?ありがとう」
と、ここで。
A.S.Sが私が転がしてきた襲撃者たちの特徴をまとめたリストを視界上に表示してくれる。
そこにあったのは、
「……うげ、宗教系?私の知識の中には……無いんだけど」
『私のデータの中にも存在していません。元より柊様の知識がベースとなっていますので』
「そうだよねぇ……佐藤さんとか三峰さん辺りに聞いた方が早いかぁ……?」
デフォルメされた太陽のアイコンに麻の葉柄の鳥の羽根が4枚ほど降ってきているような意匠。
人物によって場所は違うものの、全員の服や肌といった場所にそれが施されていたらしい。私は気が付かなかったが。
……モチーフが有名すぎるけど……こんな意匠付けてる宗教団体あったっけ。
太陽、麻の葉柄、そして鳥。これらが意味するのは、日本でも有名な神……天照大御神だ。
日本神話を始め、現代でも神道を語るとなれば外せないであろう神。
何かを信仰している訳ではない私でも名前や、太陽神などの一面がある事を知っている程度には知名度が高い。
「宗教系は面倒臭いんだよねぇ。道理とかじゃなくて教義とかで行動してくるし」
『巡回ドローンの数を増やしますか?ポイントには余裕がありますが』
「いや、まだ良いかな。なんかクリスタル核が増える毎にポイントも増えてってるし……まだまだ私1人で対処出来る量だしね。それに先に他の避難所に相談すれば協力してくれるかもしれないじゃん?」
『畏まりました』
手が打てるなら早いうちが良いだろう。
ただ、相手の目的が分かり切ったわけではない。本当に精製液に関する情報や実物を手に入れる為に襲撃してきているのか、それとも他に狙いがあるのか。その辺りが見えてこない事には確実な策を立てる事も出来ない。
……こういう時に読心みたいな異能があったら良かったんだけど。
ないものねだりをしても仕方がない。寧ろ、私は持っている方なのだから。これ以上を望むのは欲張り過ぎというものだろう。
だからこそ、他の人に頼る。
五十嵐や白星に頼るのも良いが、本格的に対応する為に他の……交易相手である、私達が不利益を被るのを良しとしないであろう人達に頼るのだ。
「条件は……こっちに出してもらう物資の量を減らすか、こっちが出す精製液の量の増加かな。……核、足りるかな」
『拠点周辺でゾンビが大量に存在する場所をリストアップしますか?』
「うんお願い。ついでに領地化もしちゃうから」
『畏まりました。では適した場所を複数個所リストアップしておきます』
居住エリア周りの新しい施策。
新しく始めた、精製液を使った取引ルートの確立。
そして、それに伴って発生した新たな問題。
「ゆっくりするのが目標だった筈なのに……いつの間にか自分で仕事増やしてない?私」
自嘲気味に笑い、言葉を零しつつ。
私はゆっくりと、拠点へと帰る為に足を動かし始めた。
この話をもって、契約上なろう、カクヨム、Talesに投稿していい話数上限になってしまったので、一度完結を付けさせて頂きます。
本来であれば、こちらで楽しんでいただけたら幸いだったなぁと私も思うのですが、こればかりは仕方なく……。
続きはネオページにて、よろしくお願いできたらなと思います。
とは言え、次の章からは最終章。佳境も佳境です。
正直どうにかしてこっちに載せられないか交渉してみます。
それまでは、申し訳ありませんが、こちらの方で。
https://www.neopage.com/book/31741788312523800?r=8fe663d4adecd581b8f95ad8934b8944&f=sc-1-MzA0MTA5MTkxMTA4NDk1MDA%3D




