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終末世界でもう一度 ゾンビウイルスで世界は終わりましたが、転生した私は『収納スキル』でスローライフを目指します  作者: 柿の種
第6章

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Episode9 - 出すモノ出してみよう


 翌日。音鳴達がまとめてくれた資料を手に、その身1つですぐさま出発した。

 実際の取引材料をある程度用意して行った方が良いと言った五十嵐には曖昧な笑顔を浮かべてやり過ごし。しかしながら、白星には居住エリアで採れた野菜などを持たせた上で、だ。

 白星は私が【空間収納】を持っている事を知っている為、苦笑を浮かべながらもその行動の意図を察してくれたものの。五十嵐は終始、出発するまでの間は頭の上にハテナを浮かべているのが少しだけ申し訳なかった。


「まぁ食糧なら私の収納の中に幾らでも入ってるしね。見える形で取り出すのは……近付いてからで良いよ。嵩張るし」


 元は私1人とリン達犬だけで生活していた身。

 当然ながら、収納内にはカバンなども入れられているし……寝床さえ確保出来れば1年以上は野宿しても問題無い程度の物資も持っている。

 その上で、


「……食糧、普通は価値が高い筈なんだけどね。多分相手が悪いかもしれないなぁ……」


 改めて、佐藤の避難所の内部を思い浮かべる。

 難民となってしまった人、力の無い人達を集め、異能を持った人達と共に作り上げられた私の知る限りでは最大規模の避難所。

 人が集まれば、食糧が減る。減ってしまうのであれば、その分だけ増やさねばならない。

 そしてそれが出来ているからこそ、あの避難所は成り立っているのだ。それも……私の様な外様へ報酬として渡す事が出来る程度に懐が潤っている程度には。


「A.S.S」

『何でしょうか』

「交渉材料として使えそうな物のリストアップお願いできる?それと、それらを交渉材料とした時のこちらのデメリットも」

『畏まりました』


 これで良い。

 社会が崩壊する前のAIアシスタントの様な使い方だが、文句を言ってこないと言う事は問題無いのだろう。

……音鳴ちゃん達の要望は生活系の物資が多いけど……ちょっと半分くらいは諦めてもらった方が良いかもしれないなぁ。

 複数の異能を使い、誰にも見られないであろう高さの空を駆けながら。

 受け取った資料を流し見し、頭の中へと叩き込んでいれば。目的地が目視出来る距離にまで近づいてきているのが分かった。


「おっとっと。到着の準備だけでもしとかないと」


 一度空中で止まり、それらしい大きめの……登山用のリュックサックと、その中に大量の野菜類を詰め。

 私は空から地面にゆっくりと降りていきつつ、佐藤の避難所へと向かって足を動かした。



―――――



「その申し出は非常に有難いのだが……」

「あー……やっぱり食糧自体は足りてますか」

「そうだね。出来れば私達も生活用品や、家畜なんかが欲しい所なんだ」


 急な訪問にも、佐藤は笑顔で応じてくれた……のだが。

 流石に急すぎた為、この間の作戦では見なかった護衛らしき人が複数、彼と私の周りを囲っている中での対談となった。

……まぁここまでは予想通り。足りている物を更に受け入れるほど馬鹿じゃあないのは分かり切ってた事だしね。

 その上で、私が出せる取引材料を他に見つけねばならない……のだが。

 視界の隅に映るA.S.Sからのカンペへと目を通し、


「んぐっ!?」

「……?どうかしたかな?」

「い、いえいえ!ちょっと唾が気管支に入っただけで!」

「そうかい?まぁそれなら良いんだが……?」


 思わず、変な反応をしてしまった。

 A.S.Sが提示した交渉材料はその多くが私の【空間収納】の中から出せる物ばかり。しかしながら、その中でも1つ……ほぼ確実に佐藤が食いついてくるであろうものが存在していたのだ。

 但し、それを提示するのには私の精神的な忌避感も大きい。

……いや、でもメリットを考えると……!あぁもう!

 私は一度深く深呼吸を行って。

 対面に座る佐藤へと、ゆっくりと笑い掛けながらこう言った。


「佐藤さん、食糧が足りているなら……こういうのとかはどうですか?」

「こういうの……?それは一体?」


 問いかけると同時、私は懐から出した様に見せながら……手元に適当な精製液(・・・)を取り出した。


「伝手、というか。佐藤さんは少し離れた山の中にある秋山工業の製薬工場については知っていますか?」

「……これでも一応は総理大臣として色々な国の内情が入ってきてはいたからね」

「あぁ、勘違いしないでください。あそこの闇とかの話をするつもりは……まぁ少しだけあるんですが、それが本題ではないんで」


 ゆっくりと精製液を彼……ではなく。

 彼と私を囲っている護衛の内の1人に手渡した。

……あんまり外に出したくはない情報ではあるし、物資でもある。でも……ここにはそれ以上に恩や伝手を作っておきたい。

 精製液。私の持つ抽出装置で作る事が出来る、ゾンビのクリスタル核を原材料とする薬液。

 作り方が特殊故に、私自身は交渉材料として使う事を考えてすらいなかった物だ。


「あそこを探索した所、ちょっとした資料を手に入れる事が出来まして。その資料を基に作ったのがその薬液となります」

「成程、あの会社の成果ですか……。して、その薬効は?」

「――異能の強さを底上げします」

「……ッ!」


 私の言葉の、そのままの意味と裏の意図。その2つを感じ取ったのか、佐藤の顔色が変わる。

 当然、言葉通りに受け取るならば……それは佐藤側に所属している異能持ちの戦闘、非戦闘員どちらもが実力を上げる事となる。今まで以上に私の様な存在に頼らずともゾンビの掃討を簡単に行える様になるだろうし、避難所内で異能を使い生産している物が更に多く、質も高いものが手に入るようになる。

 だが、その裏にあるのは……私が既にこれを持っている、ここでそれを隠さずに出してきたという事の意味だ。

……当然、元総理という立場故に考えるだろうね。今、私がどれくらいの武力(・・・・・・・・)を持っているのか(・・・・・・・・)、とかさ。

 外に出せる程度には量産が出来る。

 出しても問題ない程度には戦力が整っている。

 どちらの意味にもとれるこの状態で、私はゆっくりと彼に笑い掛ける。


「これ、佐藤さんが欲しいのなら……譲りましょう」

「本当、ですか?」

「えぇ。ただ……そうですね。暴徒達の頭の中、そこにクリスタル状の生成物があったと思うんですが……あれの提供と、元々話していたこちらが欲しい物資の半分の量を提供してくれるなら……で、どうでしょう?」


 佐藤は額に皺を寄せ考え込む。

 当然だ。私が嘘を言っている可能性だってあるのだから。しかしながら、それだったらここで……ここまで築いてきた信用があるのにも関わらず、このタイミングで1人訪れてこの話をする必要性が無い。

 ある程度考える事が出来、無鉄砲な詐欺行為を行うようには見えない相手。それが今の私という存在だなのだから。


「……すぐに物資との交換は出来ません」

「そうでしょうね。流石に佐藤さん1人で決める事は出来ないでしょう」

「それに、これが本当に異能の強さを底上げするか、人体に影響がないのかを確認しなければ私も頷く事は出来ません」

「えぇ」

「ですので、非常に苦しいお願いなのですが……試用期間を設けさせて頂きたい」

「……成程、試用期間、ですか」


 笑みが零れそうになるのを必死に抑えながら。

 私は努めて真顔で、佐藤の言葉を繰り返す。


「試用期間中、こちらの人員の健康状態に何ら変化もなく、効果だけを得られたならば……見合った量の物資をお渡しすると約束しましょう」

「では、それについてはまた別の機会に書類か何かでまとめましょう。では試用期間ですが……どうしますか?こちらとしては急いでいる訳ではないので待つ事は可能ですが」

「……それでは、1週間。戦闘員と非戦闘員両方に飲ませて様子を見たいと思います。して、もう1本試用用に頂く事は可能でしょうか……?」

「問題ありませんよ。はい、これ」


 私は更にもう1本、精製液を取り出し護衛へと手渡すと共に席を立つ。

 この場での交渉は終わりだ。これ以上、ここに居た所で警戒されるだけだろう。


「では、私はこれで。良い御返事をお待ちしています」

「えぇ、良い結果をこちらも望んでいますので」


 佐藤、そして護衛達に見送られるようにして、私は避難所から拠点へと向かってゆっくりと歩き出す。

 それと同時、風を操る事で自身の周囲へと私の声が漏れないようにしながら、静かにA.S.Sへと話しかけた。


「で、書かれた通りにしたけど……本当に大丈夫そう?あれ精製液ではあるけど、水で薄めた奴だよね?」

『問題ありません。効果自体は弱まりますし、特化性も無くなりますが……その分、五十嵐様に使ったように効果量は低いものの異能自体の効力を底上げする事が可能ですので』

「まぁ、それなら良いけどさ」


 抽出装置自体はあるし、クリスタル核も私の収納内や拠点の倉庫の中に大量に入っている。

 それらを使い、精製液を作り水で薄めれば……佐藤が求めてきた時に必要な量を確保するくらいは余裕だろう。

……交渉材料として使っちゃったし……これも五十嵐達に公開しちゃうか。

 とは言え、流石に五十嵐達にも薄めたものを飲ませる必要はない。

 こちらの戦力は大幅に、向こうの戦力は少しずつ上昇していくとなれば……突然逆転される事はほぼ無いだろう。


「ま、今後次第ではあるよね。うん」


 ゆっくり進んでいこう。

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