Episode8 - 物の行方を考えてみよう
佐藤からの依頼を終え、その速度や作戦地の被害などに驚かれた後。
私達はそのまま拠点へと帰還した。前回と違い、大規模な作戦でもなし。凱旋のような祭り事になっている事もなく、すんなり帰らせてもらえた事も大きいだろう。
「いやぁ、アレだけの依頼でこんなに食料貰えるとはね」
「お土産、というか帰りの道中に食べる用の軽食まで付けてくれるなんて……かなり潤ってるのねぇ、あそこ」
「まぁ、うちを除けば大分上澄みなんじゃない?食品生産技術や異能持ちの数もそれなりだろうし」
うちはそもそもとして、畑に頼らずポイントという目に見えないものから食料を生み出すことが出来る為に例外だ。
「……んー」
「なに?考え事?お姉さん」
「いや、ちょっとね。……そろそろうちも、外と交流をもった方がいいのかなって」
「あー……」
だが、それ故に……現状では物が多く取れすぎるのだ。
無論、飢えない貧しくないというのは重要ではあるのだが……それにしたって限度がある。良識がある住人は問題は無いが、最近移住してきた者達は加減が分からずに物を腐らせる事もあるらしい。
「物資を無駄にするくらいなら……他に売っちゃうか」
「それって……転売的な?」
「人聞きが悪いなぁ。貿易って言ってよ」
貰った物資は優先的に分配、消費するとして。
その間に生み出された物に関しては、他の避難所との交渉材料として使う。佐藤が既にやっているように、依頼の対価として渡しても良いし、物々交換をしたって良い。
世界の文明が崩壊する前から、物々交換というのは人間の中で有効な手段なのだから。
「ま、五十嵐や……音鳴ちゃんの意見は聞かないとね。勝手に私がやり始める訳にはいかないし」
「誰も文句は言わないと思うけれど?」
「文句を言われないのと、不満があっても吐き出せない環境ってのは……ある意味で直結しているモノなんだよ。それに、それらは最終的に内部亀裂を招くものだよ」
小さなコミュニティ内で、そんな不和が起きればどうなるかは予想し易いだろう。
故に、コミュニケーションは欠かさないようにしたいのだが……それも行き過ぎると前世の私のようになってしまう可能性もある。
当事者だからこそ、ある程度の距離を保って健全に考えていきたいモノだ。
「よし、そろそろ居住エリアに到着するし一気に行こっか!」
「えっ、ちょっ、待っ――」
とは言え、まずは。
今回得た物資などを皆に分配してから考えるべきだろう。
―――――
「私としては、別段問題ないと思いますよ。出す数に制限は掛けた方がいいとは思いますが」
「私も五十嵐さんと同意見かなぁー。出し過ぎたら変なのが寄ってきそうだし。草薙さんは?」
「僕も同じ意見かな。うちから出せるのは野菜類を中心にした食糧とはいえ……他の避難所とかとは比較にならない量が生産出来てるんだろう?」
「うん、そうだね」
「それなら、やっぱり数は絞った方が良いと思いますよ」
拠点へと帰還後。
私は白星を抱えたまま、五十嵐と共に居住エリアへと赴いた。貿易、又はそれに近い形で物々交換のシステムの相談をする為だ。
現場側の意見として、今もそれぞれの性別のリーダー的立ち位置として頑張ってくれている草薙、音鳴を呼んでいるものの……他にも話は聞いた方がいいだろう。
……概ね、物を外に出すって事には反論はない。ただやっぱり数が問題かぁ。
A.S.Sを用いる事で、拠点での食糧類の生産量は大幅に増加した。
今後も住人数が増える事を考え、その上で拡張が出来るように絞った形での運用をしていた筈ではあるが……それでも、現状居住エリアの住人に対して多すぎる量が生産されてしまっている。
その問題を知っているからこそ、彼らはこの話に乗ってきてくれたのだろうが、
「んー、じゃあ一旦佐藤さんと三峰さんの所に卸す形で考えてみようか?……五十嵐、三峰さんの避難所の場所は覚えてるよね?」
「大丈夫です。ゾンビ達が道の原型が無くなる程に暴れていなければ、ですが」
「その辺りは問題ないと思う。避難所近くでそんな事させる程、あの人達弱くはないでしょ」
だからこそ、一度交渉相手として信用出来る相手にだけ物資を流す。
こちらからは食糧類を。向こうからは……この居住エリアではどうやってもRPTを介さねば手に入らない生活用品辺りを出してもらうのが良いだろうか。
「うん、じゃあとりあえず、それぞれで話をつけに行こうか。五十嵐は白星ちゃんと一緒に三峰さんの所に。オーケー?」
「オーケーです」
「ちょ、また私ゆっくりできないわけぇ!?少しは悠々自適な生活が出来ると思ってたのだけれど!」
「そこら辺はほら。この話を早く片付ければそれだけ早く、長くゆっくりできるって事で」
話をするだけならば、白星達と共に移動するよりも私1人だけの方が速く移動が出来る。
五十嵐も五十嵐で、最近は私の動きを再現出来るようにと自身の異能を使った移動方法を考えていたようだし……丁度良い機会だろう。
「それじゃあ音鳴ちゃん、草薙さん。それぞれ居住エリアから出せる物資と、それの対価として欲しいものの他の人達へ聞き取りとリスト化をお願いしてもいい?」
「良いけど……出せる物資の話は食糧だけに限った話じゃなかったの?」
「いんや、他にも……うちには色んな異能を使える人が居るでしょ?だから、その人達が安定して供給できるようなものだったら、割と商品として出しちゃって良いと思うんだ」
そして他の2人……居住エリアの内情をよく知っている彼らには、私達では思いつかない、確認出来ていない余っている物や、需要のある物を見つけてもらう。
私や五十嵐、そして共に行動している白星が聞いては変に畏まってしまって本当に求めているものを言わない可能性だってある。それだけは避けたい。
……私は独裁者な訳じゃないからね。出来るだけ人の話は汲み取れるようにしていかないと。
とは言えど。流石に今は帰ってきたばかり。
佐藤の所に行くまでならば今日中に何とかなるだろうが、帰ってくるとなると……私と言えど日没までに事を終えられる自信はない。
「はい、じゃあ今日は解散!明日から行動開始で!」
「はーい」
「畏まりました」
私の声と共に、簡単な会議はそこで終了する。
私と五十嵐、そして白星はそのまま拠点へと帰り、
「あ、白星ちゃん。今回の作戦で手に入った物資類、仕舞っちゃおうか」
「あぁー……そう言えばあったわね……出していくからお願いしても良いかしら」
「私も手伝いますね。夕飯の方はもう仕込み終わっているので」
今回の作戦で得られた物資を倉庫や冷蔵室へと仕舞っていく。
私の【空間収納】の方にも幾らか入ってはいるが……五十嵐にはまだ持っている事を知らせていない為、一旦は白星の収納に入っている分だけだ。
……あー、そう言えばタスク報酬の奴忘れてたな……。
今回の作戦で得たのはそれだけではない。
途中、思わぬ形で達成したタスクの報酬……異能ガチャもその1つだ。だが、それを確かめるにしても1人になれる瞬間の方が望ましい。
杞憂だとは思うが、危険物の可能性は否めないし……そもそも未だ誰にもA.S.Sの存在を知られていないのだ。ならば、このまま【空間収納】とは違い、どうしようもない場面になるまでは知られないよう立ち回っても良いと考えている為だ。
「よしっ、じゃあ夕飯食べた後……私は明日からの事をちょっと考えたいから、白星ちゃんを五十嵐に預けよう」
「ふぅん?まぁ良いけれど」
白星が意味ありげな視線をこちらへと向けてきたものの、すぐに逸らされる。
どうせ、私が今回の作戦で放出した【空間収納】の物資でも回収、補充でもするのだろうと考えたかもしれない。
実際、今回出したのは……全体の1%にも満たない量ではあるのだが。




