Episode7 - 今の力の一端を使ってみよう
朝日が昇り、周囲に危険が無いかを確かめた後。
私達はすぐにその場から目的地へと移動を開始した。白星の精神的にも、依頼に掛ける時間的にも移動は早い方が良いだろう。
そうして、昼過ぎ辺りに差し掛かる頃。
私達は目的地へと到着した。
「ふぅん、ここかぁ……」
「何というか、あまり都会って感じではないわね」
「そうだね、地方都市って感じだ。駅、その周辺は栄えてるけど……」
その場から跳び上がる。
そうして見えるのは、今回の作戦で指定された市街地の姿だ。
駅を中心に、巨大なショッピングモールや様々な店が立ち並ぶものの、少し離れた所には山や畑などの緑豊かな場所が広がっている……間違っても都会であるとは言えない場所。
これでも首都には近い場所にある地域なのだが……まぁ、少し離れた場所なんてこんなものなのだろう。
……さてと。問題はなさそう……なんだけど。
複数の異能を使い、怪我をしないように元居た位置へと着地しつつ。
私は自分にしか見えていないウィンドウへと視線を向ける。そこには、
『デイリータスク【ゾンビを討伐せよ】の達成数が規定数を上回った事で、新規タスク【ゾンビを討伐せよ2】が解放されました。また、それに伴い新規タスク【3級ゾンビを複数討伐せよ】、【レギオンを壊滅させよ】が発行されています』
複数の新しいタスクが並んでいた。
デイリータスクに関しては別に良いだろう。以前と変わりないし、報酬も別段変わったようには見えない。
だが、他の2つは違う。
【レギオンを壊滅させよ】は、日々使うような生活用品や食糧品が報酬に。
そして、【3級ゾンビを複数討伐せよ】には……何やら『異能ガチャ』なるものが報酬に記載されていた。
……ちょっと気になるよねぇ……今でも住人達でガチャしてるようなものだけどさ。
私が【空間収納】を得た時のような単発式の報酬なのか、それとも……出力は低いものの何かしらの対価さえ払えば異能を獲得し続ける事が出来るものなのか。
どちらかは分からないが、後者だった場合……これまでとはかなり事情が変わってくるだろう。
今でも十二分に普通の人間から見ればオーバースペックな私の性能が、更にバケモノになる可能性があるのだから。
「うん、変な場所もやばそうなのも居ないかな。一応ドローンも飛ばして……白星ちゃん、操縦任せていい?」
「良いけれど……お姉さんは私を運びながら戦う訳?それだったら自律ドローンでも良いんじゃあないかしら。地図的には……大体この駅前のエリアと周辺5キロくらいは全部作戦範囲なんでしょう?」
「いやまぁ、それでも良いんだけどさ。多分今回は戦わないから」
「戦わない……?あっ」
私の言葉に何かが思い当たったのか、白星は引くような表情を浮かべて少しだけ後退った。
そう、私がこれからやろうとしているのは……戦いではない。
「どんなに作戦範囲が広かったとしても、私の異能を使えば十分すぎるくらいにはお掃除出来ると思うよ」
「それじゃあドローンは……あぁ、撮影用?」
「そうそう。一応この範囲がこんな感じになりましたよーっていうのを写真にして、佐藤さんに渡そうかなって。ここをどう使おうとしてるのかは知らないけど、使う場所がどうなってるのかは知っておきたいだろうし?」
言いながら、私は白星を抱えつつ駅前エリアの中でも一番高い施設の屋上を目指して跳躍していく。
途中、何体かのゾンビが居るのが目に見えたが……一旦、移動を優先する事にした。
どうせ、空中への攻撃手段を持っていない限り、普通のゾンビには跳びはねる私達へ攻撃する事は出来ないのだから。
「さて。この辺りで良いかな。周りには……誰も居ないっぽいし」
「ふぅ……じゃあ変わる前のエリアを撮影しておくわよ」
「はーい、終わったら言ってねー」
白星がドローンの操縦を横で始めたのを見つつ、私は【空間収納】の中から大量の水を放水すると同時。
【液体操作】を始めとした水を生成、操作する事が出来る異能を全力で発動させていく。
今はまだ白星が周囲を撮影している為、水を自身の頭上へと球体状にして集め……どんどん巨大化させて待機させる。
……んー、建物が壊れる事も考えて……勢いと水の量自体は多く強めに。後は範囲だけど……これに関しては自分達が居るここが巻き込まれないようにしないとだから……結構難しいな。
とは言え、難しいのはそれだけだ。
制御自体は複数の異能を使っている事もあって容易であり、寧ろゾンビをしっかりと駆除出来るかどうかの方が少し心配なくらいで……今回の策が失敗するとは到底思えない。
「終わったわよー」
「おっけ、じゃあ……解放!」
「うっわぁ……」
白星の声と共に、私は頭上の巨大な水球を眼下の駅前エリアへと投下した。
最初は特に制御する事なく、しかしながら地面にぶつかり周囲へと規格外な量の水が四方八方へとぶちまけられそうになった所で、しっかりと異能でその破壊の方向性を付けてやる。
波となった水は周囲の人工物やゾンビ達を巻き込みながらも、その破壊を定められた方向へと放出し……蹂躙を開始した。
……うん、津波が怖いってのはこういう事なんだろうな。本当に。
私がまだ小さかった頃、ニュースでやっていた地震の影響に依って起こった津波による被害地の映像。
当時はそれが怖く、少し年齢を重ねてからは自然の力は凄まじいものだと感じたものだ。
だが、今。それを自分の力だけで似た光景を作り出している。
生きた人が居ないのは異能でしっかりと確かめているが、それでも元は生きていた人間だったものは沢山いる。それらを駆除する為だけに、私はかつて恐れた光景を再現しているのだ。
「……悪い大人って奴だなぁ」
「あら、元からお姉さんは正義側じゃあないでしょうに」
「自分が正義だと思った事は確かに無いね。でもこうやって結構な数の建物とかを破壊してると……まぁ思う事はあるよ」
「あら、意外とこういうので感傷的になるタイプ?」
「自分でも意外だったけどそのタイプだったみたい」
とは言え、今は今だ。
眼下では今も津波が街を破壊していくのが見え……それが変に想定外の場所へと広がらないように制御して。
程なくして、私が依頼されたエリア全てが津波によって破壊され尽くした。
『【3級ゾンビを複数討伐せよ】、【レギオンを壊滅させよ】が達成されました。達成報酬は……いつも通り、【空間収納】内へと収納しておきます』
それと同時、私の脳内にA.S.Sの声が響く。
どうやら街の中には3級も居たようで。水に特別強い異能を持っていなくて良かったな、という感想しか出てこない程度には……私も強く、かつての感覚を忘れ始めてしまっているようだった。
「さて、終わりだね。白星ちゃんもう一回撮影お願い」
「はぁーい。……見事に更地になっちゃったわねぇ」
「一応、このままだと面倒だろうし、余分な水分とかは回収するけどね。流石に街を破壊し尽くすレベルの水をこのままにはしておけないし」
「瓦礫なんかはどうするの?回収?」
「いや、それも何かに使えるだろうし……1つにまとめておこうかな。ゾンビも一緒に安置する事になるけど、まぁ殺してあるし大丈夫でしょ」
全てが終わり、水の中の瓦礫を1つに集めた後。
私は今回放出した水全てを、一度【空間収納】へと仕舞いこんでいく。
流石に存在を知られているとはいえ、それがどのような……それこそ、白星の収納系異能の様な制限があるのかどうかを知られる訳にはいかないため、ある程度の分量ずつでの収納にはなるのだが。
「撮影終了っと。さぁ帰りましょうか、お姉さん」
「おっけおっけ。こっちも丁度水を仕舞い終わった所。どうせだし、帰る途中で佐藤さんの所に寄って作戦完了の報告も済ませちゃおうか」
「了解よ」
再度、白星を抱え上げ。
私は次に佐藤の避難所へと向かって移動を開始した。何事も無く作戦が終わってくれて何よりだが……今後、変に便利な駒として使われないよう佐藤には釘を刺しておく必要がありそうだ。
……出来るだけ、自由に。スローライフを目指してるんだからさ。私は。
優先するのは、私の事情。作戦への参加も……強制的ではなく、まず先払いの報酬をもらった後に検討するかを決める形で。
それくらいの傍若無人ムーブは許されても良いだろうと考えながら。
私は空を駆けていった。




